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廃村で出会った少年①
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「んー、今日はあっちの方に行くか」
この森に住んで二年、まだおぼつかないながらもヨウスケはこの暮らしに馴染んでいた。小動物の楽園とされるこの森の中で、自分が生きるだけの命を頂き、そして森の恵みを集めて生活をしている。
ヨウスケが足を向ける先は森の端だ。かつては人が住んでいた村の跡地もある場所は、小さな獣が住居にしている。そこに張った罠に、かかったであろう獲物を捕りに行くのだ。
そして血抜きをしている間に朝食兼昼食を食べよう、ヨウスケはそう段取りを立てる。自由な一人暮らしだというのに、自分で自分を管理する。大雑把そうに見えて人より少し神経質なのだ。
まだ家の形をしっかりと残したままの、廃村の中へと足を踏み入れる。
もうここに戻る人はいない事をしっているので、ヨウスケはたまにここから物資を拝借していた。調理器具やよく乾いた薪、布なども伝手を辿れば新品を手配して貰えるかもしれないが、できるだけ頼りたくはない。
時折住み着いた動物が、ヨウスケの気配を察してチョロチョロと逃げていく。
「ええっと……?」
いつもと同じ村の中、人間は自分一人しかいないはずなのに、ヨウスケはそれに言いようもない違和感を感じた。表現しにくい、何か別の空気だ。
かつての仲間と共に戦った、あの時のような肌がひりつく危機感は感じない。
自分を害する敵ではないだろう事にやや安堵し、ヨウスケはゆっくりと足を踏み出す。
かつて広場だっただろう開けたそこに、その違和感はあった。
「は……? 子供?」
もう誰も腰掛けないと思っていたベンチに、少年が座っていた。
年の頃は十五、六だろうか。スンと澄ましたような、達観したような表情をしている。ボサボサとした銀色の髪の毛と同じ色の瞳は、髪の毛に阻まれながらもまるで宝石のように輝いていた。
寝間着のような薄い服を着て、足元はこの寒空で裸足だ。
ヨウスケは一昨日来たときにはいなかった、この少年の登場に酷く慌てて駆け寄った。
この土地は人々から捨てられた村であり、一番近い町でも馬車で二日はかかるような所だ。まだ保護者が必要そうな子供が一人、いていい場所じゃない。
しかも少年が異質だったのは、それだけではなかった。
「なん……、え? しかも、耳? けも耳ってやつ?」
傍に近寄り、座る少年の視線に合わせて屈む。少年は何も言わず、驚きもせず、ただじっとヨウスケの黒い瞳を見つめ返した。銀の宝石が艶やかに煌めいている。
櫛が通りにくいだろう絡まった銀髪からは、三角の耳がピンと立っていた。日本と違い、そんなコスチュームは売ってない、はずだ。装飾品にしては汚れているし、仮に本物なら大問題だ。
「獣人なんて……いないはずだし」
この世界には、ファンタジーの世界でよく聞く架空の生き物は存在しない。エルフやドワーフなんて概念すらなく、魔法も一部の研究職として存在しているだけで、人々にとって身近ではないのだ。
召喚してたたき込まれたこのヴィアンシュ国の常識では、知的生命体は人間しかいない。そう聞いていたのだが。
「……お前、俺の言ってる事、聞こえてる? おーい! 聞こえてますかあああ!」
視線を逸らすことなくヨウスケを見つめる、この銀色の瞳からは何の感情も感じない。あまりにも落ち着きすぎていて、その服装も相まってヨウスケは警戒を少し強めた。
見たとおりの年齢じゃないかもしれない、幻覚や、何か魔法が発動している可能性もある。
だけどそんな疑いの心も、少年の口から零れた言葉ひとつで全てがどうでもよくなった。
「……『静かに』して」
変声期を終えたばかりの、少し低めの若い声が、平坦な口調でそう告げる。
ヨウスケの身体は、ブルリと大きく震えた。声を上げていた唇はきゅっと閉じ、少年の言葉通りに静かにしてしまう。
そう、ヨウスケの身体は勝手にこの少年に従ってしまったのだ。
だけど少年は、自分のその希有さに気付いた様子も無い。ただじっと、歓喜に震えるヨウスケを静かに見つめるだけだった。観察。その単語が良く似合う少年だ。
「……っ、う、そ……? お前、Domか……っ」
彼の命令に逆らわないように、ヨウスケは小さな声でそう零す。
この森に住んで二年、まだおぼつかないながらもヨウスケはこの暮らしに馴染んでいた。小動物の楽園とされるこの森の中で、自分が生きるだけの命を頂き、そして森の恵みを集めて生活をしている。
ヨウスケが足を向ける先は森の端だ。かつては人が住んでいた村の跡地もある場所は、小さな獣が住居にしている。そこに張った罠に、かかったであろう獲物を捕りに行くのだ。
そして血抜きをしている間に朝食兼昼食を食べよう、ヨウスケはそう段取りを立てる。自由な一人暮らしだというのに、自分で自分を管理する。大雑把そうに見えて人より少し神経質なのだ。
まだ家の形をしっかりと残したままの、廃村の中へと足を踏み入れる。
もうここに戻る人はいない事をしっているので、ヨウスケはたまにここから物資を拝借していた。調理器具やよく乾いた薪、布なども伝手を辿れば新品を手配して貰えるかもしれないが、できるだけ頼りたくはない。
時折住み着いた動物が、ヨウスケの気配を察してチョロチョロと逃げていく。
「ええっと……?」
いつもと同じ村の中、人間は自分一人しかいないはずなのに、ヨウスケはそれに言いようもない違和感を感じた。表現しにくい、何か別の空気だ。
かつての仲間と共に戦った、あの時のような肌がひりつく危機感は感じない。
自分を害する敵ではないだろう事にやや安堵し、ヨウスケはゆっくりと足を踏み出す。
かつて広場だっただろう開けたそこに、その違和感はあった。
「は……? 子供?」
もう誰も腰掛けないと思っていたベンチに、少年が座っていた。
年の頃は十五、六だろうか。スンと澄ましたような、達観したような表情をしている。ボサボサとした銀色の髪の毛と同じ色の瞳は、髪の毛に阻まれながらもまるで宝石のように輝いていた。
寝間着のような薄い服を着て、足元はこの寒空で裸足だ。
ヨウスケは一昨日来たときにはいなかった、この少年の登場に酷く慌てて駆け寄った。
この土地は人々から捨てられた村であり、一番近い町でも馬車で二日はかかるような所だ。まだ保護者が必要そうな子供が一人、いていい場所じゃない。
しかも少年が異質だったのは、それだけではなかった。
「なん……、え? しかも、耳? けも耳ってやつ?」
傍に近寄り、座る少年の視線に合わせて屈む。少年は何も言わず、驚きもせず、ただじっとヨウスケの黒い瞳を見つめ返した。銀の宝石が艶やかに煌めいている。
櫛が通りにくいだろう絡まった銀髪からは、三角の耳がピンと立っていた。日本と違い、そんなコスチュームは売ってない、はずだ。装飾品にしては汚れているし、仮に本物なら大問題だ。
「獣人なんて……いないはずだし」
この世界には、ファンタジーの世界でよく聞く架空の生き物は存在しない。エルフやドワーフなんて概念すらなく、魔法も一部の研究職として存在しているだけで、人々にとって身近ではないのだ。
召喚してたたき込まれたこのヴィアンシュ国の常識では、知的生命体は人間しかいない。そう聞いていたのだが。
「……お前、俺の言ってる事、聞こえてる? おーい! 聞こえてますかあああ!」
視線を逸らすことなくヨウスケを見つめる、この銀色の瞳からは何の感情も感じない。あまりにも落ち着きすぎていて、その服装も相まってヨウスケは警戒を少し強めた。
見たとおりの年齢じゃないかもしれない、幻覚や、何か魔法が発動している可能性もある。
だけどそんな疑いの心も、少年の口から零れた言葉ひとつで全てがどうでもよくなった。
「……『静かに』して」
変声期を終えたばかりの、少し低めの若い声が、平坦な口調でそう告げる。
ヨウスケの身体は、ブルリと大きく震えた。声を上げていた唇はきゅっと閉じ、少年の言葉通りに静かにしてしまう。
そう、ヨウスケの身体は勝手にこの少年に従ってしまったのだ。
だけど少年は、自分のその希有さに気付いた様子も無い。ただじっと、歓喜に震えるヨウスケを静かに見つめるだけだった。観察。その単語が良く似合う少年だ。
「……っ、う、そ……? お前、Domか……っ」
彼の命令に逆らわないように、ヨウスケは小さな声でそう零す。
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