異世界でひとりぼっちのSub ~拾ったDomを育てたら執着されてしまいました~

てんつぶ

文字の大きさ
19 / 24

神殿

しおりを挟む
 前回ヴィーと瘴気を封じた旅で、ヴィーはあくまでヨウスケの護衛だった。身分の低い王子であった彼は、その能力の高さと王位継承権を狙う兄弟の陰謀により旅へと追いやられていた。
 だから瘴気は実際ヨウスケただ一人で封じたし、長旅に比べれば膨大な魔力を要した以外は難のない事であった。
「ここ、か……。うっわ、マジで瘴気の中心部って感じがするな」
 真っ白なのであろう高い天井は渦巻く黒いモヤに覆われている。見渡した室内はエダールに与えられた寝室のようだ。ヴィーの目があったせいだろう、神殿の中でエダールの悪く無かったであろう待遇にヨウスケは安堵した。
 瘴気のせいで見えない広い室内を、ヨウスケは慎重に歩いた。見えた天蓋はエダールの眠るベッドなのだろう、そう思った瞬間そこから大きな声が発せられた。
「誰だ! ここには儂以外誰も来させるなと言っただろう!」
 お前こそ誰だ、そうヨウスケは言いかけて、その聞き覚えのある声の主を思い出した。
「大司教……? っ、おい、お前ここで何をしてる!」
 駆け寄ると、そこには先日のにやついた表情から一変した、人を見下す事に慣れた態度の男が一人、立っていた。
 ヴィーが直々に神殿を牽制してくれている、そう聞いてはいたがなぜこの男がここにいるのか。
「ん? 貴様は……ああ、そうか神子様の傍にいた魔法使いじゃな。陛下に何を吹き込まれたのか、まったくどいつもこいつも使えん」
 大司教はそう呟くと、いかにもつまらなさそうに胸元の真っ赤な飾りを弄った。銀色のその服は、良く見れば飾りによく似た赤い色が付着していて――
「っ! エダール……っ、おい、どけ!!!」
 ヨウスケはそのでっぷりとした身体を押しやって、天蓋の布を開いた。
 そこには穏やかに眠るエダールの姿があった。だがその身体の中心には、深々と刃物がひとつ埋まっている。幾度か刺したのか、周囲に切り傷が広がり、それはシーツまで流れ落ちる。苦悶の表情を浮かべていないのが不思議なほど、おびただしい出血だ。
「エダール……! エダール、くそ、まだ……まだ生きてるな! おいエダール、死ぬなよ!」
 刃物は急に引き抜いてはいけない。ヨウスケは魔力を練って、慎重にエダールの体内を保護していった。そもそも治癒魔法など無いのだ。とにかく止血と傷を合わせる事が出来れば。ヨウスケは泣きそうになりながらも、目の前の男に集中した。
 だがそんなヨウスケの耳に、不愉快な雑音が滑り込む。
「瘴気を取り込むどころか、その身から放つような獣人族なぞ不要でしかない。さっさと死んで、その身を神へ捧げたら良いんじゃ。大地の瘴気を吸ってないんじゃからな、瘴気の量もたかがしれてる。死ねば瘴気も収まるじゃろ」
「お前……っ! そもそもなんなんだ、お前らの目的は! その目と服からして、獣人族を祀ってるんじゃねえのかよ! なのに殺すとか……意味がわかんねえ」
 ヴィーから神殿の意図と瘴気の成り立ちを聞いたときに、一番に感じた違和感はそこだった。瘴気は獣人族の呪いで、その呪いを獣人族に吸わせた後、殺す。
 それなのに大司教は獣人族の髪色の服を身に纏い、その瞳を思わせる真っ赤な飾りを胸元に付けている。獣人族を神子だと集め崇める事も、不思議でしかない。
 そのチグハグさが、ヨウスケは気になった。
「おかしな事を。そもそもこの国は、元は獣人族が住んでいたものを人間が奪い取った。獣人族は二足歩行をするまこと獣の姿であり、今のこのような中途半端な姿では無かった。だからのぉ、当時の人間は食っていたんじゃよ。魔力に浸った肉は大層美味く、それは神のごとき力を感じられたと聞く。この神殿は、その建国当時の獣人族を祀っておるのだよ。瘴気は神の怒り、それをお慰めし、神へと近づくのが我々の使命」
「な……っ」
 とんでもない事を聞かされて、ヨウスケは背筋を凍らせた。
 殺した獣人族を食べている? それが神に近づく行為? うっとりと語る大司教の、言葉の意味が分からない。
「我々が祀っているのは当時の獣人族のみ。このような半端者ではない。まあ瘴気を封じてくれる存在は有り難い上、味は悪くないからのぅ」
「――っ!」
 狂っている。ヨウスケは生理的な嫌悪で身を震わせた。自分の知っている常識とは、全く違う価値観で生きている。
 思わず後ずさりしかけたところで、小さな声がエダールの唇から漏れてハッと振り返った。
「ヨウ、スケ」
 うわごとのように呟くその声に、ヨウスケは駆け寄りその手を握った。ぬるりと濡れたそれは赤く染まって、ヨウスケの袖を汚す。
「……っ、エダール! エダール大丈夫かお前、っ血が」
「ヨウ、スケ……置いていかないで……くれ。ヨウスケ、悪かった、すまない……」
「~~っ、俺が悪いんだ、俺が! 全部、俺が自分勝手にお前をないがしろにした……っ」
「すまない……ヨウスケ……」
 意識が無いらしいエダールが、そんな謝罪を繰り返す。ヨウスケは自分のしでかした事がどれだけエダールを傷つけたのかを思い知った。そして自分の事ばかりを考えていた自分を恥じた。
「俺が! 俺だけが我慢すればいいと思ってたんだ……。お前は幸せになれるって……」
 握り締めた手に、熱い雫が落ちた。大粒のそれはポタポタと不規則に落ち、赤い血を流してエダールの腕へと伝い落ちる。
 奥歯を食いしばり、泣くまいと唇を噛むのに、それは一向に静まる気配がない。自分勝手に泣くなんて、どれだけ自分は卑怯なのだろうと、ヨウスケは自嘲した。
「エダール……エダー……ッル……!」
 ヨウスケは、背中に小さな衝撃を感じて声を震わせた。
 一瞬何が起こったのか分からなかったそれは、ジワリと熱さが広がり背中を濡らす。続いて走る激痛に、ヨウスケは叫び思わずそのままベッドに上体を倒した。
「あ、ぐああああ……っ!!」
 熱せられた火かき棒を押し込まれたような、熱い痛み。叫ぶヨウスケの背後には、汚れたナイフを持つ大司教の姿があった。
「ふん……その出来損ないと共に死ぬが良い。まったく、出来損ないは生き汚いものよ。あの時さっさと母親もろとも死んでいた方が幸せだっただろうになぁ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

処理中です...