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リィアとドゥア
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「ふむ……エダール、いいかな。神殿の成り立ちは獣人族としての記憶があるかい? あるのなら教えて欲しい。我が国の神殿が祀る神は獣の姿をしている。つまり獣人族に非常に近いと言えよう。あの司教の制服からも、獣人族への敬愛があるように思えたが」
ヴィーの質問は神殿の矛盾そのものだ。大司教の言葉を借りるなら、彼らは少なくとも獣人族を祀っていたはずだ。
「それは分からない。死んだ獣人族を哀れに思った者が始めたのか、それとも人間と混じった子孫を憂いたのか。俺が知っているのは、耳と尻尾を付けて生まれた同胞は神子と呼ばれ、神殿で瘴気を吸わせられて殺されるという事だけだ」
エダール自身も幼い頃に神殿に追われ、そして抵抗する母親を神殿に殺され、その場から逃げた。短くない逃亡生活の中で、ヨウスケが召喚されエダールが取り込むべきだった瘴気を封印することに成功したのだ。
「瘴気のタイミングと神子――先祖返りが現われる理由も分からない……って事かな。だけど今回はエダールが瘴気を取り込む前にヨウスケが封印したって事か。じゃあひょっとして、神子って呼ばれる獣人族も、教えたら瘴気を封印できるのかな? 最盛期のヨウスケ程の魔力は、この国にいる魔法使いを全員集めても及ばなんだよね」
ヴィーの言葉で目を見開いたのは、彼の後ろにいる双子だった。貴族として生き、瘴気の影響も少ない生活だったリィアとドゥアにとって、平民である異世界の「元」大魔法使いがそれだけの力を持っていたとは思ってもいなかったのだ。
魔法使いは殆どが貴族だ。選民意識の高い魔法使いの中で、素性の知れないヨウスケを悪く言う者も多い。貴族の中で、さらに選ばれた者――魔法使いのリィアとドゥアが傲慢なのは、そういった環境の影響が大きかった。
ドゥアが叫ぶ。
「あのっ……エダール、様! リィアの魔力は増やす事が出来ないんでしょうか!」
「ドゥア、きみ――」
「申し訳ありませんヴィー様、厚かましいのは十分理解しています! ですが、リィア……リィアが……っ」
枯渇した魔力は戻らない。それは魔法使いの常識だ。優秀な魔法使いである双子、しかも魔力の合算ができる特殊な双子は、その希少性から価値が高い。
「嫌なんです……ずっと一緒だったのに……。それにリィアの方が賢いって、ヴィー様もご存じでしょう? 私なんていつもリィアに助けて貰ってばかりなんです。私の魔力をリィアに渡せるなら、渡したい……ずっと一緒にいたいんです。お願いします……お願いします」
「ドゥア……」
その場に崩れるように懇願するドゥアの姿に、リィアは口を真一文字に結んだ。そうしなければ泣いてしまいそうだったからだ。よく似た双子だが、全く違う人間だという事を、双子の自分たちが一番分かっている。だけどそれでも片割れを求めて、プライドの高い男が這いつくばっているのだ。
その性根を理解している主もまた、複雑な心境でそれを見つめていた。確かに双子の能力は有益で失うわけにはいかない。だがそれをエダールに申し出られるほど、厚顔でもいられなかった。
「無理」
無慈悲にそう断じるのは、エダールではなくヨウスケだ。
「つーか、エダールと俺だけだから! DomとSubだから出来ることだから! つーかエダールをお前らに貸すの無理だから!」
「ヨウスケ、嫉妬? プレイしていいのは自分だけだって、こと?」
「あ、当たり前だろ! 嫌だからな! つーかこいつらにプレイしても意味ないだろ! 駄目、絶対!」
顔を赤くしてそう叫ぶヨウスケと、その隣で顔を両手で覆い隠すエダール。
ヴィーたちは、自分たちは何を見せられているんだろうという気持ちになった。
「とりあえず、俺の方でも研究してみるからさ。俺の魔力、今結構回復してっから」
だからといってヨウスケも、目の前で困っている旧友とその部下の頼みを無下にしたい訳ではない。
ぶっきらぼうなその言い方に、ヴィーは口元を緩めた。
「本当に君はさぁ……。ううん、ありがとうヨウスケ。そしてごめんね。君のその特殊な体質を、ただの趣味のように言ってしまって。僕は随分きみに嫌な事をしたよね」
ヴィーの謝罪に、ヨウスケは笑った。
「別に。いいよ。日本……俺の母国でもさ、昔はぜんっぜんダイナミクスに理解が無かったし、知らねぇならしょうがねーって」
「うん。ありがとう」
口は悪いがさっぱりとしている。異世界から瘴気の封印だけを目的に呼び寄せた、そんな男を友人として大切にしているのは、結局ヨウスケのこの人柄が王族として生きるヴィーにとって好ましいからだ。
そしてきっとその感情は、特権階級として生きる双子の魔法使いにも伝わっているのだろう。誰にでも分け隔て無いヨウスケから、きっと学べることも多いのだ。
室内は、そんな柔らかな空気に包まれる。
「帰っていいか。早くヨウスケを抱きたいんだが」
「エダ、は、お前、はぁ!?」
そんな空気をぶち壊して、とんでもないことを言い出したエダールにヨウスケは慌てた。顔が夕焼けのように赤く染まる友人に、ヴィーは吹き出した。
「ふふ、ふ。そうだよね、ごめんね長々引き留めちゃって。後の調査はこっちで進めるよ。話してくれてありがとうエダール。また愛の巣に遊びに行くね」
「暫く来なくて良い。蜜月だ」
「エダー……! おま、はぁ!?」
立ち上がったエダールは、軽々とヨウスケを抱き上げた。そしてそのままあっさりと転移し姿を消した。
「ヴィー様、無詠唱かつ無魔法陣の転移……しかもあんなに早い展開は私たちには無理かもしれません」
「ヴィー様、魔力の使用量を減らした魔法陣の研究をしたいと思います。お時間をいただけませんか」
後ろに控える双子は、すっかりあの二人に影響されたらしい。ヴィーはひっくり返るであろうこれからの内政について、ほんの少し楽しくなったのだった。
ヴィーの質問は神殿の矛盾そのものだ。大司教の言葉を借りるなら、彼らは少なくとも獣人族を祀っていたはずだ。
「それは分からない。死んだ獣人族を哀れに思った者が始めたのか、それとも人間と混じった子孫を憂いたのか。俺が知っているのは、耳と尻尾を付けて生まれた同胞は神子と呼ばれ、神殿で瘴気を吸わせられて殺されるという事だけだ」
エダール自身も幼い頃に神殿に追われ、そして抵抗する母親を神殿に殺され、その場から逃げた。短くない逃亡生活の中で、ヨウスケが召喚されエダールが取り込むべきだった瘴気を封印することに成功したのだ。
「瘴気のタイミングと神子――先祖返りが現われる理由も分からない……って事かな。だけど今回はエダールが瘴気を取り込む前にヨウスケが封印したって事か。じゃあひょっとして、神子って呼ばれる獣人族も、教えたら瘴気を封印できるのかな? 最盛期のヨウスケ程の魔力は、この国にいる魔法使いを全員集めても及ばなんだよね」
ヴィーの言葉で目を見開いたのは、彼の後ろにいる双子だった。貴族として生き、瘴気の影響も少ない生活だったリィアとドゥアにとって、平民である異世界の「元」大魔法使いがそれだけの力を持っていたとは思ってもいなかったのだ。
魔法使いは殆どが貴族だ。選民意識の高い魔法使いの中で、素性の知れないヨウスケを悪く言う者も多い。貴族の中で、さらに選ばれた者――魔法使いのリィアとドゥアが傲慢なのは、そういった環境の影響が大きかった。
ドゥアが叫ぶ。
「あのっ……エダール、様! リィアの魔力は増やす事が出来ないんでしょうか!」
「ドゥア、きみ――」
「申し訳ありませんヴィー様、厚かましいのは十分理解しています! ですが、リィア……リィアが……っ」
枯渇した魔力は戻らない。それは魔法使いの常識だ。優秀な魔法使いである双子、しかも魔力の合算ができる特殊な双子は、その希少性から価値が高い。
「嫌なんです……ずっと一緒だったのに……。それにリィアの方が賢いって、ヴィー様もご存じでしょう? 私なんていつもリィアに助けて貰ってばかりなんです。私の魔力をリィアに渡せるなら、渡したい……ずっと一緒にいたいんです。お願いします……お願いします」
「ドゥア……」
その場に崩れるように懇願するドゥアの姿に、リィアは口を真一文字に結んだ。そうしなければ泣いてしまいそうだったからだ。よく似た双子だが、全く違う人間だという事を、双子の自分たちが一番分かっている。だけどそれでも片割れを求めて、プライドの高い男が這いつくばっているのだ。
その性根を理解している主もまた、複雑な心境でそれを見つめていた。確かに双子の能力は有益で失うわけにはいかない。だがそれをエダールに申し出られるほど、厚顔でもいられなかった。
「無理」
無慈悲にそう断じるのは、エダールではなくヨウスケだ。
「つーか、エダールと俺だけだから! DomとSubだから出来ることだから! つーかエダールをお前らに貸すの無理だから!」
「ヨウスケ、嫉妬? プレイしていいのは自分だけだって、こと?」
「あ、当たり前だろ! 嫌だからな! つーかこいつらにプレイしても意味ないだろ! 駄目、絶対!」
顔を赤くしてそう叫ぶヨウスケと、その隣で顔を両手で覆い隠すエダール。
ヴィーたちは、自分たちは何を見せられているんだろうという気持ちになった。
「とりあえず、俺の方でも研究してみるからさ。俺の魔力、今結構回復してっから」
だからといってヨウスケも、目の前で困っている旧友とその部下の頼みを無下にしたい訳ではない。
ぶっきらぼうなその言い方に、ヴィーは口元を緩めた。
「本当に君はさぁ……。ううん、ありがとうヨウスケ。そしてごめんね。君のその特殊な体質を、ただの趣味のように言ってしまって。僕は随分きみに嫌な事をしたよね」
ヴィーの謝罪に、ヨウスケは笑った。
「別に。いいよ。日本……俺の母国でもさ、昔はぜんっぜんダイナミクスに理解が無かったし、知らねぇならしょうがねーって」
「うん。ありがとう」
口は悪いがさっぱりとしている。異世界から瘴気の封印だけを目的に呼び寄せた、そんな男を友人として大切にしているのは、結局ヨウスケのこの人柄が王族として生きるヴィーにとって好ましいからだ。
そしてきっとその感情は、特権階級として生きる双子の魔法使いにも伝わっているのだろう。誰にでも分け隔て無いヨウスケから、きっと学べることも多いのだ。
室内は、そんな柔らかな空気に包まれる。
「帰っていいか。早くヨウスケを抱きたいんだが」
「エダ、は、お前、はぁ!?」
そんな空気をぶち壊して、とんでもないことを言い出したエダールにヨウスケは慌てた。顔が夕焼けのように赤く染まる友人に、ヴィーは吹き出した。
「ふふ、ふ。そうだよね、ごめんね長々引き留めちゃって。後の調査はこっちで進めるよ。話してくれてありがとうエダール。また愛の巣に遊びに行くね」
「暫く来なくて良い。蜜月だ」
「エダー……! おま、はぁ!?」
立ち上がったエダールは、軽々とヨウスケを抱き上げた。そしてそのままあっさりと転移し姿を消した。
「ヴィー様、無詠唱かつ無魔法陣の転移……しかもあんなに早い展開は私たちには無理かもしれません」
「ヴィー様、魔力の使用量を減らした魔法陣の研究をしたいと思います。お時間をいただけませんか」
後ろに控える双子は、すっかりあの二人に影響されたらしい。ヴィーはひっくり返るであろうこれからの内政について、ほんの少し楽しくなったのだった。
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