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子どもの名前を知りました
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僕の家は森の中にある小さな家だ。こじんまりとしているけれどキッチンともあり、奥にはひとつ寝室もある。
家の周りには森を切り開いた広めの畑も作ってあるから見晴らしもいい。
そして育ての親であるおじいちゃんが残した守りの結界石があるため、家の中に入ってしまえば夜でも安全に過ごせるのだ。この稀少な石が無ければ、この家はあっという間に魔物に襲われているだろう。
室内に入ると僕はいつものように蝋燭に火を灯した。テーブルの上にそれを置きふと扉を見ると、子供は静かに僕を見ていた。ゆらゆらと小さく揺れる蝋燭の炎が、彼の赤い髪の毛を更に色を深くしていてとても綺麗だ。
じっと動かない彼はこの場所を、僕を警戒しているのだろうか?
だがそれも当然だ、見知らぬ相手に有無を言わせず連れてこられたのだ。
ひとまず腰かけてもらおうと小さな手を引き椅子に案内すると、意外にも素直に座ってくれた。沸かしていたお湯でお茶を入れて彼の前に置き、僕も対面に腰かけた。
「どうぞ。僕の名前はスイだよ。君は?」
まずは自己紹介から始めようとするが、子供は何の反応も示さない。
手元に置いたお茶に手を添えるものの、ただその匂いを嗅いでいた。
言葉が通じないのだろうか?
この大陸、セリシアには共通言語がある。辺境では独自の言語が発達していると聞くけど、まさか共通言語を知らない所から迷い込んだのだろうか?獣人や竜人だって、基本的に話す言葉は同じはずなんだけれど。
「うーん、困ったなぁ?言葉、わかる?わからない?」
子供は何も言わず、ただ分からない事だけを示すように、コテンと首を傾げた。戸惑ったようなその顔つきが、先ほどまでの警戒した表情と打って変わって年相応に幼く見える。
わ……可愛い――じゃない!
やっぱりこの子は言葉が通じないようだ。通じないのか、そもそも喋れないのか。
「スイ、スイ。ス、イ!」
僕は自分を指差して、名前を伝えた。僕の名前はスイ。分かるかな?
紅い瞳が僕をジッと見つめる。
「しゅ、い?」
喋った!やっぱり言葉が通じないだけで話は出来るようだ。良かった。僕は嬉しくなって思わず身を乗り出した。
「そうだよ。ス、イ。スイだよ」
「しゅい――xxxx、クレナイxxxx」
「ん?」
「クレナイ、クレナイ。クレナイ。」
彼は僕と同じように自分を指して言葉を重ねた。
「くりぇなひ?クリェナヒって名前?珍しい名前だね?」
音の響きが独特だ。聞いたことのない組み合わせに、やはり辺境から来たように思える。
「xxxxxxx!クレナイ!ク、レ、ナ、イ!」
「くりぇ……くれない?それが君の名前なの?」
子供はコクコクと頷いた。
「く~かわいいっ」
思わず子供をギュッと抱きしめる。腕の中にすっぽりと入るサイズ感。おじいちゃんもいなくなった今、こんな人との親密な距離感に、どこか癒される自分がいた事に驚いた。
大人だってこんな奥まで来ない森の中に、ひとりでいたクレナイ。恐らく捨てられたのだろう。何歳かは分からないが、恐らく人族。獣人にしては特徴的な耳が見当たらないし、尻尾を隠している様子もなかった。
人族だとすれば10歳にも満たないこの子供を放り出す事はできない。
それに僕だっておじいちゃんに拾ってもらったから今がある。
僕は少しだけ考えて、そしてこの子供を育てる事に決めた。返しきれない受けた恩は、巡り巡ってこの子に返そう。
僕に、子育てできるだろうか。
不安はあったけど、なんとかなる。そう、僕はあまり細かい事は考えないのだ。
そうして子供――クレナイと僕の共同生活が始まった。
家の周りには森を切り開いた広めの畑も作ってあるから見晴らしもいい。
そして育ての親であるおじいちゃんが残した守りの結界石があるため、家の中に入ってしまえば夜でも安全に過ごせるのだ。この稀少な石が無ければ、この家はあっという間に魔物に襲われているだろう。
室内に入ると僕はいつものように蝋燭に火を灯した。テーブルの上にそれを置きふと扉を見ると、子供は静かに僕を見ていた。ゆらゆらと小さく揺れる蝋燭の炎が、彼の赤い髪の毛を更に色を深くしていてとても綺麗だ。
じっと動かない彼はこの場所を、僕を警戒しているのだろうか?
だがそれも当然だ、見知らぬ相手に有無を言わせず連れてこられたのだ。
ひとまず腰かけてもらおうと小さな手を引き椅子に案内すると、意外にも素直に座ってくれた。沸かしていたお湯でお茶を入れて彼の前に置き、僕も対面に腰かけた。
「どうぞ。僕の名前はスイだよ。君は?」
まずは自己紹介から始めようとするが、子供は何の反応も示さない。
手元に置いたお茶に手を添えるものの、ただその匂いを嗅いでいた。
言葉が通じないのだろうか?
この大陸、セリシアには共通言語がある。辺境では独自の言語が発達していると聞くけど、まさか共通言語を知らない所から迷い込んだのだろうか?獣人や竜人だって、基本的に話す言葉は同じはずなんだけれど。
「うーん、困ったなぁ?言葉、わかる?わからない?」
子供は何も言わず、ただ分からない事だけを示すように、コテンと首を傾げた。戸惑ったようなその顔つきが、先ほどまでの警戒した表情と打って変わって年相応に幼く見える。
わ……可愛い――じゃない!
やっぱりこの子は言葉が通じないようだ。通じないのか、そもそも喋れないのか。
「スイ、スイ。ス、イ!」
僕は自分を指差して、名前を伝えた。僕の名前はスイ。分かるかな?
紅い瞳が僕をジッと見つめる。
「しゅ、い?」
喋った!やっぱり言葉が通じないだけで話は出来るようだ。良かった。僕は嬉しくなって思わず身を乗り出した。
「そうだよ。ス、イ。スイだよ」
「しゅい――xxxx、クレナイxxxx」
「ん?」
「クレナイ、クレナイ。クレナイ。」
彼は僕と同じように自分を指して言葉を重ねた。
「くりぇなひ?クリェナヒって名前?珍しい名前だね?」
音の響きが独特だ。聞いたことのない組み合わせに、やはり辺境から来たように思える。
「xxxxxxx!クレナイ!ク、レ、ナ、イ!」
「くりぇ……くれない?それが君の名前なの?」
子供はコクコクと頷いた。
「く~かわいいっ」
思わず子供をギュッと抱きしめる。腕の中にすっぽりと入るサイズ感。おじいちゃんもいなくなった今、こんな人との親密な距離感に、どこか癒される自分がいた事に驚いた。
大人だってこんな奥まで来ない森の中に、ひとりでいたクレナイ。恐らく捨てられたのだろう。何歳かは分からないが、恐らく人族。獣人にしては特徴的な耳が見当たらないし、尻尾を隠している様子もなかった。
人族だとすれば10歳にも満たないこの子供を放り出す事はできない。
それに僕だっておじいちゃんに拾ってもらったから今がある。
僕は少しだけ考えて、そしてこの子供を育てる事に決めた。返しきれない受けた恩は、巡り巡ってこの子に返そう。
僕に、子育てできるだろうか。
不安はあったけど、なんとかなる。そう、僕はあまり細かい事は考えないのだ。
そうして子供――クレナイと僕の共同生活が始まった。
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