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森で泣く小さな子供を拾いました
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背の高い木々が生い茂るこの森は豊な恵みで満ちている。温暖な気候は木の実や果物等が自生するのに適しているようで、少し歩くだけですぐに重くなった籠を背負った。
明日はこれを天日に干そう。そう思いながら歩をすすめると何か聞こえた。
―――!―――――!
耳を澄ますと、遠くから声のようなものが聞こえる。
……叫んでいる?まさか、この森に誰か迷い込んだのか?
この森は大陸屈指の面積を誇るユノスの森。小さな国ひとつ分に匹敵するほど広く、大型の魔物の巣もあり危険なため、基本的に各国で不可侵条約が結ばれており、各国に隣接する場所以外に入り込む者はいない。
人間でこの森に住んでいるのはきっと、僕だけだろう。
夕暮れのこの時間、間もなく日は落ちて気温も下がる。日中はまだ平和と言えなくもない深い森の中で、もし土地勘の無い誰かが迷い込んでいるなら命に関わるかもしれない。
僕は声のした方向に足を向けた。
声は随分遠くから聞こえたらしい。薄闇が辺りを覆い始めている。これは僕も急いで帰らなけばいけないと声の方へ進む足を速めるが、背負った籠の重みが酷く肩に食い込む。
それでも少しずつ耳に入る声が大きくなるのだから、痛みなど振り切ってもう走るしかなかった。日暮れは僕を待ってはくれないのだから。
そしてようやくはっきりと聞こえた声は、酷く幼かった。
「よかった……いた……」
普段通らない道なき道を通って、ようやくその姿を見つけた。
巨木の洞に体を隠すようにして座り込んでいるその人物は、小さな子供だった。
見たこともない程とても緻密な柄の服を着ているが、上等であろう絹織物は泥にまみれて擦り切れてしまっている。
敵か味方か判別しきれていないようなその視線は鋭く、幼い子どもに不釣り合いなほど殺気立っているが怪我をしているのだろうか、足首を抑えて座り込んでいる姿が痛々しい。 だがあんな大きな声を出していた位だ、体力があるんだろうと少しほっとした。
彼と視線を合わせるようにしゃがみこむ。
僕は少しだけ後ずさる彼を落ち着かせるように意識して微笑んだ。
「こんにちは、僕はスイ。きみ、大丈夫?足怪我してるのかな。親御さんはいない?一人?
……ちょっと見せてくれる?」
「……」
触れようと手を伸ばすものの、その小さな脚に避けられてしまう。
警戒心の強い獣のようで痛々しい。
「うーん、困ったな……。名前は?えっと、家は何処にあるの?」
「……」
返事はやはり、ない。
よく見れば、綺麗な顔立ちの子供だ。深い赤色の髪の毛と同じ色の瞳は、泣きもせずジッと僕を見つめてくる。人間なら6歳位だろうか、だが種族によって成長度合いが違い、外見上では年齢は判別できない事を僕は知っている。人間とよく似た彼らであれば、人間より幼いか年嵩な場合なのか両方あり得るのだ。
辺りを見渡してもこの子ども意外に他に人の気配はない。代わりに夜の生き物たちが動き出す、僕のような力のない人間にとっては不穏な時間の始まりを感じた。
さて……はぐれたか?こんな森の奥で?
もしくは……僕のように捨てられたか。
大人だって慣れてなければ、一人でこんな森の奥まで入り込むのは至難の業だ。どちらにせよこんな子供がこの森の奥にいる事には不自然さしか感じない。
だが周りを見れば刻々と夜の時間が迫っている。いくらこの辺りに慣れている僕でも、夜の森を彷徨く訳にはいかない。
今はとりあえず保護することが先決だ。
「ごめんねっ、と……」
「!」
僕はその子供をおんぶすると、家への道程を急いだ。肩に背負っていた籠は代わりにそこに置いておこう。
僕は身長も足りなければ筋力も足りない。情けないけどそれは事実だ。
背中の小さな体は固く緊張していたけれど、暫く走るにつれて僕にしがみついてきた。背中に感じるぬくもりを保護するべく、僕は迫る闇を振り払うように必死で家へと走った。
明日はこれを天日に干そう。そう思いながら歩をすすめると何か聞こえた。
―――!―――――!
耳を澄ますと、遠くから声のようなものが聞こえる。
……叫んでいる?まさか、この森に誰か迷い込んだのか?
この森は大陸屈指の面積を誇るユノスの森。小さな国ひとつ分に匹敵するほど広く、大型の魔物の巣もあり危険なため、基本的に各国で不可侵条約が結ばれており、各国に隣接する場所以外に入り込む者はいない。
人間でこの森に住んでいるのはきっと、僕だけだろう。
夕暮れのこの時間、間もなく日は落ちて気温も下がる。日中はまだ平和と言えなくもない深い森の中で、もし土地勘の無い誰かが迷い込んでいるなら命に関わるかもしれない。
僕は声のした方向に足を向けた。
声は随分遠くから聞こえたらしい。薄闇が辺りを覆い始めている。これは僕も急いで帰らなけばいけないと声の方へ進む足を速めるが、背負った籠の重みが酷く肩に食い込む。
それでも少しずつ耳に入る声が大きくなるのだから、痛みなど振り切ってもう走るしかなかった。日暮れは僕を待ってはくれないのだから。
そしてようやくはっきりと聞こえた声は、酷く幼かった。
「よかった……いた……」
普段通らない道なき道を通って、ようやくその姿を見つけた。
巨木の洞に体を隠すようにして座り込んでいるその人物は、小さな子供だった。
見たこともない程とても緻密な柄の服を着ているが、上等であろう絹織物は泥にまみれて擦り切れてしまっている。
敵か味方か判別しきれていないようなその視線は鋭く、幼い子どもに不釣り合いなほど殺気立っているが怪我をしているのだろうか、足首を抑えて座り込んでいる姿が痛々しい。 だがあんな大きな声を出していた位だ、体力があるんだろうと少しほっとした。
彼と視線を合わせるようにしゃがみこむ。
僕は少しだけ後ずさる彼を落ち着かせるように意識して微笑んだ。
「こんにちは、僕はスイ。きみ、大丈夫?足怪我してるのかな。親御さんはいない?一人?
……ちょっと見せてくれる?」
「……」
触れようと手を伸ばすものの、その小さな脚に避けられてしまう。
警戒心の強い獣のようで痛々しい。
「うーん、困ったな……。名前は?えっと、家は何処にあるの?」
「……」
返事はやはり、ない。
よく見れば、綺麗な顔立ちの子供だ。深い赤色の髪の毛と同じ色の瞳は、泣きもせずジッと僕を見つめてくる。人間なら6歳位だろうか、だが種族によって成長度合いが違い、外見上では年齢は判別できない事を僕は知っている。人間とよく似た彼らであれば、人間より幼いか年嵩な場合なのか両方あり得るのだ。
辺りを見渡してもこの子ども意外に他に人の気配はない。代わりに夜の生き物たちが動き出す、僕のような力のない人間にとっては不穏な時間の始まりを感じた。
さて……はぐれたか?こんな森の奥で?
もしくは……僕のように捨てられたか。
大人だって慣れてなければ、一人でこんな森の奥まで入り込むのは至難の業だ。どちらにせよこんな子供がこの森の奥にいる事には不自然さしか感じない。
だが周りを見れば刻々と夜の時間が迫っている。いくらこの辺りに慣れている僕でも、夜の森を彷徨く訳にはいかない。
今はとりあえず保護することが先決だ。
「ごめんねっ、と……」
「!」
僕はその子供をおんぶすると、家への道程を急いだ。肩に背負っていた籠は代わりにそこに置いておこう。
僕は身長も足りなければ筋力も足りない。情けないけどそれは事実だ。
背中の小さな体は固く緊張していたけれど、暫く走るにつれて僕にしがみついてきた。背中に感じるぬくもりを保護するべく、僕は迫る闇を振り払うように必死で家へと走った。
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