20 / 24
クレナイの過去
しおりを挟む
おじいちゃんが言っていた、クレナイが異界から来たという話が事実として本人の口から語られる。
幼い彼に1度だけ「どこから来たのか覚えていないか」と聞いた時にはなにも答えてくれなかったから、言い難いか覚えていないのかと思っていたけれども。
「乱世だった。xxx――……部族……種族とでも言おうか、とにかくオレが生まれた時には既に世は理由のない戦にのまれていた。中立を保っていた我々xxxの里も結託した他種族の襲撃を受け……オレは子供故に……必死に闘う同胞の手により逃がされたが、多分残った皆死んだだろう」
里で仲間と一緒に暮らしていた話は聞いた。でもそれがまさか……そんな壮絶な過去があったとは。
出会った時のクレナイを思い出す。
美しい絹の織物の服、凝った柄は彼が大切にされていた存在だったのだろう。でもそれを纏ったクレナイは泥だらけで……服も破れて煤や土で汚れていた。
言葉も通じずどんな辺境から来たのかと思った。それが、まさか世界すら違う場所から来たなんて想像出来ただろうか。
僕はなにも言葉に出来なくて、ただ耳元で話す彼の言葉を静かに聞くしか無かった。
普段よく喋るおじいちゃんも、幼いクレナイの身に起こったいたましい話に眉を下げて黙っている。
「オレは他の子供たちと、少しの女たちに引かれて山へ逃げた。寒い雪道で死に物狂い走り、追っ手を撒いている間に、オレだけ雪で足を滑らせ谷底へ落ちた。その後は――」
太くたくましい男の腕が、僕の身体に優しく巻きついた。
「そこから気がついたらこの森の中、そしてスイと出会った。だからオレはここに来れて幸せだ。お前がいるから、スイ」
目頭が熱くなる。幼いクレナイの辛かったであろう過去、そしてそれを知らずに過ごしてしまった自分、それでも僕と出会えて嬉しいと言ってくれる彼の言葉に、堪えようとしてるのに視界が膜で覆われる。
辛いのは僕じゃない、悲しいのは彼なのに。それなのに自分勝手に零れようとする涙を、僕は唇を噛んで堪える。
「ふむ……番いであるクレナイの危機に、スイの何かしらの能力が発動して呼び寄せたのかの?苦労もしただろうが……スイの爺としてはお前に感謝する事を許しておくれ。この子の所に番いとして現われてくれた事にな」
「礼には及ばない。この身、魂も全てもはやスイのものだ。その番いとやらの在り様は分からないが、スイはオレの半身。何があろうと側にいる」
堪えようと努力したはずなのに、2人は僕の涙腺をあっさり崩壊させる。悲しみだけじゃない、これは喜びの涙だ。
大の大人が情けないはずなのに、僕は親代わりと番いの前で堰を切ったように泣き、2人はそんな僕を静かに見守ってくれていた。
幼い彼に1度だけ「どこから来たのか覚えていないか」と聞いた時にはなにも答えてくれなかったから、言い難いか覚えていないのかと思っていたけれども。
「乱世だった。xxx――……部族……種族とでも言おうか、とにかくオレが生まれた時には既に世は理由のない戦にのまれていた。中立を保っていた我々xxxの里も結託した他種族の襲撃を受け……オレは子供故に……必死に闘う同胞の手により逃がされたが、多分残った皆死んだだろう」
里で仲間と一緒に暮らしていた話は聞いた。でもそれがまさか……そんな壮絶な過去があったとは。
出会った時のクレナイを思い出す。
美しい絹の織物の服、凝った柄は彼が大切にされていた存在だったのだろう。でもそれを纏ったクレナイは泥だらけで……服も破れて煤や土で汚れていた。
言葉も通じずどんな辺境から来たのかと思った。それが、まさか世界すら違う場所から来たなんて想像出来ただろうか。
僕はなにも言葉に出来なくて、ただ耳元で話す彼の言葉を静かに聞くしか無かった。
普段よく喋るおじいちゃんも、幼いクレナイの身に起こったいたましい話に眉を下げて黙っている。
「オレは他の子供たちと、少しの女たちに引かれて山へ逃げた。寒い雪道で死に物狂い走り、追っ手を撒いている間に、オレだけ雪で足を滑らせ谷底へ落ちた。その後は――」
太くたくましい男の腕が、僕の身体に優しく巻きついた。
「そこから気がついたらこの森の中、そしてスイと出会った。だからオレはここに来れて幸せだ。お前がいるから、スイ」
目頭が熱くなる。幼いクレナイの辛かったであろう過去、そしてそれを知らずに過ごしてしまった自分、それでも僕と出会えて嬉しいと言ってくれる彼の言葉に、堪えようとしてるのに視界が膜で覆われる。
辛いのは僕じゃない、悲しいのは彼なのに。それなのに自分勝手に零れようとする涙を、僕は唇を噛んで堪える。
「ふむ……番いであるクレナイの危機に、スイの何かしらの能力が発動して呼び寄せたのかの?苦労もしただろうが……スイの爺としてはお前に感謝する事を許しておくれ。この子の所に番いとして現われてくれた事にな」
「礼には及ばない。この身、魂も全てもはやスイのものだ。その番いとやらの在り様は分からないが、スイはオレの半身。何があろうと側にいる」
堪えようと努力したはずなのに、2人は僕の涙腺をあっさり崩壊させる。悲しみだけじゃない、これは喜びの涙だ。
大の大人が情けないはずなのに、僕は親代わりと番いの前で堰を切ったように泣き、2人はそんな僕を静かに見守ってくれていた。
173
あなたにおすすめの小説
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています
ミヅハ
BL
主人公の陽向(ひなた)には現在、アイドルとして活躍している二つ年上の幼馴染みがいる。
生まれた時から一緒にいる彼―真那(まな)はまるで王子様のような見た目をしているが、その実無気力無表情で陽向以外のほとんどの人は彼の笑顔を見た事がない。
デビューして一気に人気が出た真那といきなり疎遠になり、寂しさを感じた陽向は思わずその気持ちを吐露してしまったのだが、優しい真那は陽向の為に時間さえあれば会いに来てくれるようになった。
そんなある日、いつものように家に来てくれた真那からキスをされ「俺だけのヒナでいてよ」と言われてしまい───。
ダウナー系美形アイドル幼馴染み(攻)×しっかり者の一般人(受)
基本受視点でたまに攻や他キャラ視点あり。
※印は性的描写ありです。
転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
待て、妊活より婚活が先だ!
檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。
両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ!
……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ!
**ムーンライトノベルにも掲載しております**
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
■執筆過程の一部にchatGPT、Claude、Grok BateなどのAIを使用しています。
使用後には、加筆・修正を加えています。
利用規約、出力した文章の著作権に関しては以下のURLをご参照ください。
■GPT
https://openai.com/policies/terms-of-use
■Claude
https://www.anthropic.com/legal/archive/18e81a24-b05e-4bb5-98cc-f96bb54e558b
■Grok Bate
https://grok-ai.app/jp/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%A6%8F%E7%B4%84/
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる