追放された赤毛の従者と 愛が重い赤龍陛下の 幸せな離婚

てんつぶ

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二章 過去と現在

僕はホンスァの夫だよ

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 ジーウが姿を現したおかげで「影」ではない通常警護の侍衛たちも集まってきた。

「ホンスァ様、その者は」

 侍衛たちは剣を携えているものの、ジーウのただならぬ佇まいから普通の賊とは違うとすぐに見抜いたようだった。
 それはそれで嫌になるなと思いながらも、俺は小さく溜息をつく。

「落ち着いてくれ。こちらの方はジーウ……。おい、お前の姓は?」

 さすがに名だけでは都合が悪い。
 以前のジーウには氏はなかったが、さすがに今はあるだろう。
 問いかけると男はにんまりと口角を上げる。

「チィロウ。ジーウ・チィロウだよ、ホンスァ」

 カッと腹の奥が熱くなる。
 だがそれも一瞬だ。
 俺が腹を立てる道理などない。

「……悪趣味な男だな」

 隠すことなく大きな溜息をついても、ジーウはニコニコと笑みを浮かべるばかりだ。

「……こちらの方はジーウ・チィロウ赤龍陛下だ。礼を」

 俺の言葉で侍衛たちは一斉に床に膝をつく。
 この城で働く者たちの最敬礼は黒龍陛下にのみ与えられるが、各色龍王たちはそれに準じる立場だ。
 赤龍領は人間たちの国でいうならば、大国と呼ばれる国が二つすっぽりと入るほど大きな領地である。
 その赤龍領の頂点に立つ男が、突然現われたこのジーウなのだ。

 そんな人物に剣を向けてしまった侍衛たちの冷や汗たるや、哀れにすら思う。

「赤龍が好き勝手に乗り込んで来てもらっちゃ困る場所なんだがな。定例議会だって、もう少し先だろう」

 少なくとも黒龍であるタイラン様とジーウはさほど交流がない。
 ピィインと違い、ホイホイと現われてもらっては困るのだ。
 それなのにジーウは、まるで自分は悪くないとばかりにぽつりと呟く。

「だってホンスァ、定例議会の度に僕を避けていなくなるじゃない。せっかく赤龍になったのに全然会えない」

 拗ねたような物言いに、俺はカッとなって思わず叫ぶ。

「お前が勝手に――ッ」

 言いかけて途中で口をつぐむ。
 侍衛たちがまだいる中で、現赤龍とのいざこざを見せるのはよろしくないに決まっている。
 俺が元・赤龍だったことは黒龍城で働く者ならば誰でも知っているが、なぜ代替わりしたのかを正しく知る人物は恐らく、タイランだけだろう。

「……ともかく、悪いがうちのやつらの手当をしてくれ。ジーウ、他の子たちはどこにいる?」

「面倒だから縛って転がしてる。西の門裏。もちろん殺してない。偉い?」

 褒めて褒めてと尻尾を振る、まさに犬のようだ。
 龍人の中でも最強の部類に入る、赤龍だというのに。

「偉い……」

「うれしー」

 心にもない世辞を伝えただけで、冷たい容貌がふにゃりと崩れる。
 十数年ぶりだというのに、ジーウは全く変わらない。
 俺だけがあの時に取り残されたまま、まだ怒りを、悲しみを忘れられないでいる。

「なんの騒ぎかと思ったら」

 涼やかな声が周囲に響く。

 威圧感など感じないはずの穏やかな声音だというのに、その圧倒的な圧力は龍人の本能に訴えかけ、自然と動きが止まる。

「赤龍じゃないか。どうしたのかな? 定例議会にはまだ早いよ」

 ゆるく結んだ黒髪を流しながら、左右に割れる侍衛たちの間を悠然と歩いてくるのはこの城の主、そして俺たち龍人の主である黒龍陛下、タイランだ。
 よく見れば、後ろには伴侶であるイル様が、不安そうな顔でこちらを見つめていた。

「すいません、騒がせてしまって」

「あれ、黒龍陛下。こんにちは」

 軽く頭を下げる俺をよそに、ジーウはけろりとした顔で適当な挨拶をする。

「こんにちは、じゃねーだろうが! 嘘でも拝謁至極くらい言え!」

 頭を抱え、グリグリと拳をねじりこむ。
 こいつは昔から、礼儀に疎すぎる。

「ううー」

 呻き声が聞こえるが、こういう馬鹿には言っても聞かないのだから、叩き込むしかない。

「ええっと、ホンスァ……その方って。赤龍……だよね? ホンスァの友達?」

 おずおずとしたイル様の声に、俺は慌ててジーウを突き飛ばした。

「イル様! 違います! こんなやつ――」

「僕はホンスァの夫だよ」

 弁明しようとする俺の言葉に被せて、ジーウがさらりと言い放つ。

 いい天気ですね、とでも言うかのような当然のニュアンスで言うんじゃない。
 ああほら、イル様が大きく目を見開いてしまっている。

「え、ええ? ホンスァ、結婚してたの……!? えええ!?」

「してません!!」

 俺はそう大声で叫ぶしかできなかった。

 腰を抱こうとするジーウの顎に、掌底をひとつ、叩き込んで。

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