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コスプレ
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「だからぁ、この等速運動をしている点Pはとっても寂しがり屋なんです。過去に恋人に裏切られたというトラウマがあって、心に深い傷を負っているんです。ところが点Iとの運命的な出会いが——」
「——点Pの過去はいいから、答えの求め方教えてもらえるかなァ?!」
僕は生徒会室で美咲ちゃんに数学を教わっていた。教わっていたはずだ。それがいつ点Pの恋物語になった……。
後輩に勉強を教わるなんて、と思う向きもあるかもしれない。だが、美咲ちゃんはマジもんの天才なのだ。本人が言うには高3までの数学など余裕らしい。
簡単過ぎて謎のストーリーを設定してしまう程だ。
「僕が求めているのは、点Pの座標であって、点P物語ではないんだけど」
「はぁ……。でも、そこからお話ししないと答えでないですよ?」
「点P物語がただ一つの解き方だった?!」
美咲ちゃんがつらつらと点Pの心情の変化を語っている横で、桃山が呟く。
「慎ちゃんにそんなに求められるなんて……点Pの座標が羨ましい」
数学の解に嫉妬するやつ初めて見たよ。僕は危険を感じたので、桃山の呟きは聞かなかったことにした。
「そこで、ですね。点Pは言ったんですよ。『3時に築地で乱交だ』って」
美咲ちゃんが止まらない。というか、3時に築地で乱交ってどういう状況だよ。
その時、薫先輩が重い口を開いた。聞くに耐えなかったのかもしれない。厳しい口調で美咲ちゃんを咎める。
「美咲。それはちょっと違うんじゃないか?」
「そうだそうだ! 言っちゃってくださいよ薫先輩っ!」と僕は薫先輩を煽る。
薫先輩は神妙に一つ頷くと、美咲ちゃんに膝を向けて、真っ直ぐと彼女を見据えた。後輩に真正面から向き合って指導する。上級生の鏡である。僕は薫先輩のこういう熱いところが好きだ。
「美咲」と薫先輩が言う。美咲ちゃんは少し俯きがちに薫先輩に目を向けた。ちょっと可哀想だが、たまにはガツンと言われた方が美咲ちゃんのためである。
「美咲。お前はちゃんと点Pの性癖まで設定したのか? ディテールまで拘らなければ物語に深みはでんぞ! ここは一つ、点PをドMという設定にしよう。点Mだ」
「違います、薫先輩。僕が言いたいのはそういうことじゃありません」
何言ってんの、この先輩?! 点Mてなんだよ! 全然上級生の鏡じゃねーわ! 変態だわ!
美咲ちゃんは「なるほど」と顎に指を添え、ノートに何かをメモした。
お前はお前で、学び取ってんじゃねーよ。「勉強になります」じゃないんだよ。感心する要素皆無だろうが。
その時、唐突にノックもなく生徒会室のドアが勢いよく開いた。
ゆっくりと会長が入室して来たと思えば唐突に止まってポージングを決めた。
それからまた2、3歩、歩いてポージング。また2、3歩、歩いてポージング。
相変わらずウザさと可愛さが拮抗していて反応しづれぇ。
誰もツッコまないので、仕方なく僕が言う。
「…………会長。なんですか、その衣装」
紺色の帽子とネクタイ。腕章付きの青いシャツ。短くタイトな紺色のスカート。手に握られた黄緑色の水鉄砲。
会長は何故か警官コスをしていた。
全体的にキッザ◯アの子供のような可愛らしいコスプレだが一部分だけ毛色のちがう箇所があった。
青シャツの第三ボタン辺りを大きく盛り上げる神秘の双丘——いや、もはや比喩も不要だ。この際だから言ってしまおう。要するに——
——おっぱい、でけぇ!
会長は童顔で小学生みたいな見た目のくせにおっぱいだけはグラビアモデルみたいに発育が良い! 素晴らしい! ブラボー!
僕が会長に無言で拍手を贈ると、何を勘違いしたのか、会長は僕にウィンクをして投げキッスを飛ばして来た。
あ、いや。それは結構です。
「今日は広報用の写真を撮るよっ!」と会長が元気よく言った。
「それで警官コスなんですか。なるほどォ」と美咲ちゃんが早速理解を示した。
いや、待って。流石に理解が早過ぎないか? 生徒会と警官、何の関係もないじゃん。何が『それで』なんだ? 何が『なるほど』なんだ? 絶対テキトーに相槌打ってるだろ、美咲ちゃん。
僕が内心で美咲ちゃんを馬鹿にしていると、美咲ちゃんが会長に代わって説明し出した。
「コミカルでファンシーな感じのイメージが望ましいから、演劇部で色々借りてきたんですね! みんなでコスプレして写真を撮ろう、と」
「いかにも」
完璧に理解しとるゥゥウ!
おかしくない?! そのレベルで意思疎通できてんの、おかしくない?!
脳内ツッコミに励んでいた僕を置いて、皆思い思いの衣装を手に取って、着替えに行った。
【10分後】
「じゃーん! どうかな? 慎ちゃん?」と桃山がくるりと回った。
桃山が選んだのは、純白のナース衣装だった。例によって、『そんなナースいません』というほどスカートの丈が短い。手には注射器を持ち、優しげに微笑む。
優しさを体現した桃山のタレ目が、ナースという職業にマッチしていて、よく似合っていた。
是非看病してもらいたい。
「ちょっと露出が多くないか?」と薫先輩が身体を捩って背面をチェックしていた。
薫先輩は切れ込みから覗く太ももが眩しい赤いチャイナドレスだ。ドレスの丈は足首辺りまで、と長いのだが、深い切れ込みが入っており、薫先輩のスラッとした足が映える。究極のチラリズムと言えよう。
基本的にキュート系が多い生徒会メンバーの中で唯一セクシー系の薫先輩だからこそ着こなせる衣装だ。
「ただいま戻りましたっ。ご主人様ァ」とメイド服に身を包んだ美咲ちゃんがスカートの裾を少し持ち上げて、にっこり笑った。
可愛い、の一言に尽きる。アキバのドスケベメイド服ではなく、クラシカルなロングスカートのメイド服だ。
色っぽさはやや他に譲るものの、美咲ちゃんの彫りの深い顔がリアルメイド感を醸し出し、よく似合っている。愛想が良いのもポイントが高い。こんなメイド僕も欲しい。
「慎ちゃん、何ぶつぶつ言ってるの? 慎ちゃんのも用意してあるよっ! 着替えてきてね」
会長に促されるまま、僕は演劇部の部室に向かった。
【10分後】
「……………………」
「うわぁあ~! 可愛い! 慎ちゃん」
「うん。よく似合っているな」
「慎ちゃんこっち向いて~!」
「パシャっ……パシャパシャっ」
焚かれたフラッシュに目を細めた。
生徒会メンバーが僕を褒める。次々と出てくる褒め言葉に、よくそんなにポンポン言葉が出てくるな、と半ば呆れていた。
というか、美咲ちゃん。無言で写真撮りまくるの止めようか。どこから出してきた、その一眼レフ。
褒めてくれるのは良いが、僕はこの衣装に疑問を感じざるを得なかった。
会長がうっとりとした顔で改めて言う。
「慎ちゃん、本当似合ってるよォ! そのデスギドラ!」
そう。デスギドラなのだ。
僕だけデスギドラなのだ。
デスギドラとは、ジゴラという怪獣映画に出てくる敵役の三つ首の恐竜のような怪獣だ。
会長が僕に見繕ったのは、そのデスギドラの着ぐるみであった。
「なんで僕だけコスプレではなく着ぐるみ?!」
僕に似合うのがデスギドラって普段僕のことどう思ってんだよ!
デスギドラが似合うって、僕はそれをどう受け止めたら良いの?!
訳が分からなくて、最早バカにされているような気さえする。
「ぇえ? ちょー可愛いじゃん! 慎ちゃんデスギドラ!」
会長の感性が分からん。
ギラギラの目にギラギラの鱗。そして胸のあたりからカポっと顔だけ出して、頭の上から3本の首が伸びている。若干頭が重い。
これに可愛い要素があるとは到底思えない。間抜けなだけだ。
とは言え、僕の抗議が通る訳もなく、そのまま広報写真の撮影会は始まった。
しばらくは、皆でワイワイと写真撮影を楽しんだが、素人のコスプレに素人の撮影だ。30分もすれば、飽きが来た。
「ちょっと寸劇でもやってみない?」と会長が提案したのは、ちょうどそんな頃だった。
「いいですね! 寸劇!」
「面白そうだな」
「やりましょ、やりましょ♪」
嫌に乗り気だな。
僕は生徒会メンバーを順番に見やった。
警官。中国人。ナース。メイド。そしてデスギドラ。
これでどうやって物語を作るんだ?
あきらかにデスギドラ場違いだろ。
僕の心配を他所に会長が「はいはーい」と挙手し、設定を提案した。
「じゃあこうしようよ。美人刑事の西条 智美は、相棒のデスギドラと共に、犯罪組織『ナース メイド イン チャイナ』を追う!」
「相棒がデスギドラって世界観おかし過ぎでしょ!」
思わず手の甲をバシッとちびっ子刑事に当て、ツッコんでしまうデスギドラたる僕。
手の甲にむにっとおっぱいの弾力が返り、デスギドラは幸せに包まれた。
「待ってください! 会長!」と美咲ちゃんが異議を唱える。
そうだよね。流石におかしいよね、この設定は。
流石は美咲ちゃん。言う時は言う子なのだ、この子は。
美咲ちゃんは唾が飛ぶ勢いで語気鋭く言い放った。
「そのメイドは"made"、つまり作るって意味のメイドに聞こえるじゃないですか! 中国で作られた看護師って意味になっちゃいます! 私は"maid"の方です! 女中の方です!」
美咲ちゃんが、無駄に英語だけ発音良く発声して、抗議した。
え、抗議するとこ、そこ? なんでそんなことで若干怒ってんだよキミ。
今度は桃山が誰に許可を取るでもなく、勝手に設定の続きを語り出す。
「しかし、デスギドラは刑事でありながら、敵幹部のナース 桃山 遥香に恋をしてしまう。そして、なんやかんやあってクライマックス! 2人は甘い口付けをかわす」
桃山はデスギドラの三つ首の一つを抱き寄せ、本当にキスをした。デスギドラの首が曲がってはいけない方向に曲がっている。僕の目の前で、首の折れた右デスギドラと桃山のベロチューが敢行された。
いったい僕は何を見せられているのだろうか。ドン引きしていると、薫先輩が感嘆の声をあげた。
「そうか! 慎一とお手軽にキスできるようにこの衣装を選んだのか! 考えたな智美!」
薫先輩が解説しつつ会長を褒める。
本当にそんな理由で選んでいるとした、とんでもないアホである。絶対に違うと断言できないのが、この生徒会長の恐ろしいところだ。基本的に、底知れぬアホなのだ。
薫先輩と美咲ちゃんも左デスギドラと中デスギドラをそれぞれ1本ずつ抱き寄せ、ちゅーちゅーする。
大迫力の美少女のキス顔が目の前にある。
引き攣り顔で佇むデスギドラと、それを貪る中国人、ナース、そしてメイド。
どういう状況だコレ。
僕が途方にくれていると、会長刑事がガラガラと椅子を持ってきて、おもむろに僕の前に置いた。
そして、上履きのまま椅子に乗っかると、
「じゃあ私はこっちぃ~ 」
え。嘘。うそうそうそ?! まじ?!
僕はギューっと強く目を閉じて、生身のキスに備えた。
——が、キスは来なかった。
代わりにパイオツがきた。
会長のおっぱいに顔が挟まれ、そのまま頭をぎゅ~っと抱えられた。
めっちゃいい匂いがするぅ~。
柔らけぇ~。
僕はここぞとばかりにスーハー深呼吸を繰り返した。
僕の吐息が胸の谷間に当たってか、会長が「んっ」と小さくうめいた。
警察官コスプレの青いシャツの上からでも確かに感じるこの弾力、この温かみ。そして、微かに香る甘い柑橘系の匂い。
デスギドラの子ギドラがスタンドアップした。
「はぁ?! ちょ! 何やってんですか! 慎ちゃん先輩から離れてください!」と美咲ちゃんがデスギドラの頭を会長に放り投げた。おい、もっと大切に扱え。ベロチュー相手だろ。
「智美! お前! 抜け駆けは許さんぞ!」と薫先輩がデスギドラの頭に拳を叩き込んだ。暴力はやめてください。ベロチュー相手でしょ。
「会長! レッドカード! 退場です! 一発退場です! 次の試合も出場停止です!」と桃山がデスギドラの首を絞った。やめろ、首がねじりパンになってるから。べろちゅ——以下略。
そこからは速かった。特殊な訓練でも受けているのか、ベロチューズが手際良く会長を担ぐと、例の如く、ドナドナである。
「いやァァァアアアア! 助けてデスギドラぁぁぁあああああ!」
会長の断末魔が響く。
デスギドラに助けを求められても困る。
そうして、生徒会室に静寂が訪れた。
やっぱり僕は一人ぼっちになるんだな。
「…………帰るか」
例の如く、僕は帰路についた。
この日の僕の最大の失敗は、着替えるのを忘れて帰ってしまったことだろう。何か頭が重いな、とは思ったのだが、家に帰るまで気が付かなかった。
家では母と姉に、可愛い可愛いと写真を撮られまくり、おまけに翌日の学校新聞に『可愛すぎるデスギドラ現る』と、一面を飾る事態になってしまうのであった。
デスギドラの人気はヤバイ。
——————————
【あとがき】
いいぞ、もっとやれ!と思った方は是非感想、お気に入り登録をお願いします!ありがとうございます!
「——点Pの過去はいいから、答えの求め方教えてもらえるかなァ?!」
僕は生徒会室で美咲ちゃんに数学を教わっていた。教わっていたはずだ。それがいつ点Pの恋物語になった……。
後輩に勉強を教わるなんて、と思う向きもあるかもしれない。だが、美咲ちゃんはマジもんの天才なのだ。本人が言うには高3までの数学など余裕らしい。
簡単過ぎて謎のストーリーを設定してしまう程だ。
「僕が求めているのは、点Pの座標であって、点P物語ではないんだけど」
「はぁ……。でも、そこからお話ししないと答えでないですよ?」
「点P物語がただ一つの解き方だった?!」
美咲ちゃんがつらつらと点Pの心情の変化を語っている横で、桃山が呟く。
「慎ちゃんにそんなに求められるなんて……点Pの座標が羨ましい」
数学の解に嫉妬するやつ初めて見たよ。僕は危険を感じたので、桃山の呟きは聞かなかったことにした。
「そこで、ですね。点Pは言ったんですよ。『3時に築地で乱交だ』って」
美咲ちゃんが止まらない。というか、3時に築地で乱交ってどういう状況だよ。
その時、薫先輩が重い口を開いた。聞くに耐えなかったのかもしれない。厳しい口調で美咲ちゃんを咎める。
「美咲。それはちょっと違うんじゃないか?」
「そうだそうだ! 言っちゃってくださいよ薫先輩っ!」と僕は薫先輩を煽る。
薫先輩は神妙に一つ頷くと、美咲ちゃんに膝を向けて、真っ直ぐと彼女を見据えた。後輩に真正面から向き合って指導する。上級生の鏡である。僕は薫先輩のこういう熱いところが好きだ。
「美咲」と薫先輩が言う。美咲ちゃんは少し俯きがちに薫先輩に目を向けた。ちょっと可哀想だが、たまにはガツンと言われた方が美咲ちゃんのためである。
「美咲。お前はちゃんと点Pの性癖まで設定したのか? ディテールまで拘らなければ物語に深みはでんぞ! ここは一つ、点PをドMという設定にしよう。点Mだ」
「違います、薫先輩。僕が言いたいのはそういうことじゃありません」
何言ってんの、この先輩?! 点Mてなんだよ! 全然上級生の鏡じゃねーわ! 変態だわ!
美咲ちゃんは「なるほど」と顎に指を添え、ノートに何かをメモした。
お前はお前で、学び取ってんじゃねーよ。「勉強になります」じゃないんだよ。感心する要素皆無だろうが。
その時、唐突にノックもなく生徒会室のドアが勢いよく開いた。
ゆっくりと会長が入室して来たと思えば唐突に止まってポージングを決めた。
それからまた2、3歩、歩いてポージング。また2、3歩、歩いてポージング。
相変わらずウザさと可愛さが拮抗していて反応しづれぇ。
誰もツッコまないので、仕方なく僕が言う。
「…………会長。なんですか、その衣装」
紺色の帽子とネクタイ。腕章付きの青いシャツ。短くタイトな紺色のスカート。手に握られた黄緑色の水鉄砲。
会長は何故か警官コスをしていた。
全体的にキッザ◯アの子供のような可愛らしいコスプレだが一部分だけ毛色のちがう箇所があった。
青シャツの第三ボタン辺りを大きく盛り上げる神秘の双丘——いや、もはや比喩も不要だ。この際だから言ってしまおう。要するに——
——おっぱい、でけぇ!
会長は童顔で小学生みたいな見た目のくせにおっぱいだけはグラビアモデルみたいに発育が良い! 素晴らしい! ブラボー!
僕が会長に無言で拍手を贈ると、何を勘違いしたのか、会長は僕にウィンクをして投げキッスを飛ばして来た。
あ、いや。それは結構です。
「今日は広報用の写真を撮るよっ!」と会長が元気よく言った。
「それで警官コスなんですか。なるほどォ」と美咲ちゃんが早速理解を示した。
いや、待って。流石に理解が早過ぎないか? 生徒会と警官、何の関係もないじゃん。何が『それで』なんだ? 何が『なるほど』なんだ? 絶対テキトーに相槌打ってるだろ、美咲ちゃん。
僕が内心で美咲ちゃんを馬鹿にしていると、美咲ちゃんが会長に代わって説明し出した。
「コミカルでファンシーな感じのイメージが望ましいから、演劇部で色々借りてきたんですね! みんなでコスプレして写真を撮ろう、と」
「いかにも」
完璧に理解しとるゥゥウ!
おかしくない?! そのレベルで意思疎通できてんの、おかしくない?!
脳内ツッコミに励んでいた僕を置いて、皆思い思いの衣装を手に取って、着替えに行った。
【10分後】
「じゃーん! どうかな? 慎ちゃん?」と桃山がくるりと回った。
桃山が選んだのは、純白のナース衣装だった。例によって、『そんなナースいません』というほどスカートの丈が短い。手には注射器を持ち、優しげに微笑む。
優しさを体現した桃山のタレ目が、ナースという職業にマッチしていて、よく似合っていた。
是非看病してもらいたい。
「ちょっと露出が多くないか?」と薫先輩が身体を捩って背面をチェックしていた。
薫先輩は切れ込みから覗く太ももが眩しい赤いチャイナドレスだ。ドレスの丈は足首辺りまで、と長いのだが、深い切れ込みが入っており、薫先輩のスラッとした足が映える。究極のチラリズムと言えよう。
基本的にキュート系が多い生徒会メンバーの中で唯一セクシー系の薫先輩だからこそ着こなせる衣装だ。
「ただいま戻りましたっ。ご主人様ァ」とメイド服に身を包んだ美咲ちゃんがスカートの裾を少し持ち上げて、にっこり笑った。
可愛い、の一言に尽きる。アキバのドスケベメイド服ではなく、クラシカルなロングスカートのメイド服だ。
色っぽさはやや他に譲るものの、美咲ちゃんの彫りの深い顔がリアルメイド感を醸し出し、よく似合っている。愛想が良いのもポイントが高い。こんなメイド僕も欲しい。
「慎ちゃん、何ぶつぶつ言ってるの? 慎ちゃんのも用意してあるよっ! 着替えてきてね」
会長に促されるまま、僕は演劇部の部室に向かった。
【10分後】
「……………………」
「うわぁあ~! 可愛い! 慎ちゃん」
「うん。よく似合っているな」
「慎ちゃんこっち向いて~!」
「パシャっ……パシャパシャっ」
焚かれたフラッシュに目を細めた。
生徒会メンバーが僕を褒める。次々と出てくる褒め言葉に、よくそんなにポンポン言葉が出てくるな、と半ば呆れていた。
というか、美咲ちゃん。無言で写真撮りまくるの止めようか。どこから出してきた、その一眼レフ。
褒めてくれるのは良いが、僕はこの衣装に疑問を感じざるを得なかった。
会長がうっとりとした顔で改めて言う。
「慎ちゃん、本当似合ってるよォ! そのデスギドラ!」
そう。デスギドラなのだ。
僕だけデスギドラなのだ。
デスギドラとは、ジゴラという怪獣映画に出てくる敵役の三つ首の恐竜のような怪獣だ。
会長が僕に見繕ったのは、そのデスギドラの着ぐるみであった。
「なんで僕だけコスプレではなく着ぐるみ?!」
僕に似合うのがデスギドラって普段僕のことどう思ってんだよ!
デスギドラが似合うって、僕はそれをどう受け止めたら良いの?!
訳が分からなくて、最早バカにされているような気さえする。
「ぇえ? ちょー可愛いじゃん! 慎ちゃんデスギドラ!」
会長の感性が分からん。
ギラギラの目にギラギラの鱗。そして胸のあたりからカポっと顔だけ出して、頭の上から3本の首が伸びている。若干頭が重い。
これに可愛い要素があるとは到底思えない。間抜けなだけだ。
とは言え、僕の抗議が通る訳もなく、そのまま広報写真の撮影会は始まった。
しばらくは、皆でワイワイと写真撮影を楽しんだが、素人のコスプレに素人の撮影だ。30分もすれば、飽きが来た。
「ちょっと寸劇でもやってみない?」と会長が提案したのは、ちょうどそんな頃だった。
「いいですね! 寸劇!」
「面白そうだな」
「やりましょ、やりましょ♪」
嫌に乗り気だな。
僕は生徒会メンバーを順番に見やった。
警官。中国人。ナース。メイド。そしてデスギドラ。
これでどうやって物語を作るんだ?
あきらかにデスギドラ場違いだろ。
僕の心配を他所に会長が「はいはーい」と挙手し、設定を提案した。
「じゃあこうしようよ。美人刑事の西条 智美は、相棒のデスギドラと共に、犯罪組織『ナース メイド イン チャイナ』を追う!」
「相棒がデスギドラって世界観おかし過ぎでしょ!」
思わず手の甲をバシッとちびっ子刑事に当て、ツッコんでしまうデスギドラたる僕。
手の甲にむにっとおっぱいの弾力が返り、デスギドラは幸せに包まれた。
「待ってください! 会長!」と美咲ちゃんが異議を唱える。
そうだよね。流石におかしいよね、この設定は。
流石は美咲ちゃん。言う時は言う子なのだ、この子は。
美咲ちゃんは唾が飛ぶ勢いで語気鋭く言い放った。
「そのメイドは"made"、つまり作るって意味のメイドに聞こえるじゃないですか! 中国で作られた看護師って意味になっちゃいます! 私は"maid"の方です! 女中の方です!」
美咲ちゃんが、無駄に英語だけ発音良く発声して、抗議した。
え、抗議するとこ、そこ? なんでそんなことで若干怒ってんだよキミ。
今度は桃山が誰に許可を取るでもなく、勝手に設定の続きを語り出す。
「しかし、デスギドラは刑事でありながら、敵幹部のナース 桃山 遥香に恋をしてしまう。そして、なんやかんやあってクライマックス! 2人は甘い口付けをかわす」
桃山はデスギドラの三つ首の一つを抱き寄せ、本当にキスをした。デスギドラの首が曲がってはいけない方向に曲がっている。僕の目の前で、首の折れた右デスギドラと桃山のベロチューが敢行された。
いったい僕は何を見せられているのだろうか。ドン引きしていると、薫先輩が感嘆の声をあげた。
「そうか! 慎一とお手軽にキスできるようにこの衣装を選んだのか! 考えたな智美!」
薫先輩が解説しつつ会長を褒める。
本当にそんな理由で選んでいるとした、とんでもないアホである。絶対に違うと断言できないのが、この生徒会長の恐ろしいところだ。基本的に、底知れぬアホなのだ。
薫先輩と美咲ちゃんも左デスギドラと中デスギドラをそれぞれ1本ずつ抱き寄せ、ちゅーちゅーする。
大迫力の美少女のキス顔が目の前にある。
引き攣り顔で佇むデスギドラと、それを貪る中国人、ナース、そしてメイド。
どういう状況だコレ。
僕が途方にくれていると、会長刑事がガラガラと椅子を持ってきて、おもむろに僕の前に置いた。
そして、上履きのまま椅子に乗っかると、
「じゃあ私はこっちぃ~ 」
え。嘘。うそうそうそ?! まじ?!
僕はギューっと強く目を閉じて、生身のキスに備えた。
——が、キスは来なかった。
代わりにパイオツがきた。
会長のおっぱいに顔が挟まれ、そのまま頭をぎゅ~っと抱えられた。
めっちゃいい匂いがするぅ~。
柔らけぇ~。
僕はここぞとばかりにスーハー深呼吸を繰り返した。
僕の吐息が胸の谷間に当たってか、会長が「んっ」と小さくうめいた。
警察官コスプレの青いシャツの上からでも確かに感じるこの弾力、この温かみ。そして、微かに香る甘い柑橘系の匂い。
デスギドラの子ギドラがスタンドアップした。
「はぁ?! ちょ! 何やってんですか! 慎ちゃん先輩から離れてください!」と美咲ちゃんがデスギドラの頭を会長に放り投げた。おい、もっと大切に扱え。ベロチュー相手だろ。
「智美! お前! 抜け駆けは許さんぞ!」と薫先輩がデスギドラの頭に拳を叩き込んだ。暴力はやめてください。ベロチュー相手でしょ。
「会長! レッドカード! 退場です! 一発退場です! 次の試合も出場停止です!」と桃山がデスギドラの首を絞った。やめろ、首がねじりパンになってるから。べろちゅ——以下略。
そこからは速かった。特殊な訓練でも受けているのか、ベロチューズが手際良く会長を担ぐと、例の如く、ドナドナである。
「いやァァァアアアア! 助けてデスギドラぁぁぁあああああ!」
会長の断末魔が響く。
デスギドラに助けを求められても困る。
そうして、生徒会室に静寂が訪れた。
やっぱり僕は一人ぼっちになるんだな。
「…………帰るか」
例の如く、僕は帰路についた。
この日の僕の最大の失敗は、着替えるのを忘れて帰ってしまったことだろう。何か頭が重いな、とは思ったのだが、家に帰るまで気が付かなかった。
家では母と姉に、可愛い可愛いと写真を撮られまくり、おまけに翌日の学校新聞に『可愛すぎるデスギドラ現る』と、一面を飾る事態になってしまうのであった。
デスギドラの人気はヤバイ。
——————————
【あとがき】
いいぞ、もっとやれ!と思った方は是非感想、お気に入り登録をお願いします!ありがとうございます!
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“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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