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プロローグ
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もう誕生日を盛大にお祝いしてもらいたい、なんて年齢ではないけれど。でもやっぱり、いつもと同じように過ぎて行くのはなんだか寂しい気がした。
仲の良い後輩と上司にはそれぞれプレゼントも貰ったし、『いつもと同じ』というのは語弊があるのかもしれない。でも・・・・・・隼人先輩に『おめでとう』の言葉を掛けて貰いたかったと思うのは贅沢なんだろうか・・・・・・。
頂いたお酒の重みに耐えながら電車に揺られていたら。何だか急に泣きたい気分になった。
彼――清水隼人先輩に恋をして数か月。未だ接点は書類を確認してもらう等の些細なことくらいしかない。どうにか接点を作ろうとしても、中々うまくいかない。『縁がない』なんて言われてしまい、そもそも『縁』てなんなんだろうと辞書を引いたのも最近のことだ。
電車の中だと、いつもこんな事を考えてしまう。
特に今日はいつも以上に苦しい気がしていた。空気が悪いからとかではなく、単に自分の体調が優れないからだと気付いたときには少しだけ遅かった。
ぐらり――と電車が揺れると、一緒にバランスを崩してしまう。すぐに来るであろう衝撃に耐えようと、力の入らない体に精一杯力を込めてみる――
「大丈夫ですか?」
すぐに地面にぶつかると思ったが、柔らかいなにかに受け止められた。
「あ、すみません。大丈夫です」
顔を上げると、私より少しだけ背の高い男子高校生。夏服であろう白いシャツに、黒髪で銀縁の細フレーム眼鏡。少女漫画に出てくる生徒会長みたいだな、と思った。
すぐに立ち上がった私に安堵したのか、彼は微笑むと、手に持っていた参考書に視線を戻した。
ページの所々に付箋がついている。真剣に読み込むその視線に、不覚にもドキドキしてしまった。
電車を降りて、なんとなくそのまま帰る気分にもなれなくて、公園のベンチでぼんやりする。先ほどまでの不快感も電車を降りたら全快していた。
頂いたお酒をこんな気持ちで飲む気にもなれなくて、コンビニで缶チューハイを買ってきた。
プルトップに力を込めると、ぷしゅっと小気味いい音が響く。誕生日になにやってるんだろう、自分・・・・・・。
見上げた夜空には、大きな丸い月が出ていた。もうすぐ満月かとぼんやりと月を見上げていた。
「あ、さっきの」
声のした方を見ると、先ほどの高校生が立っていた。
「お酒なんて飲んで、もう大丈夫なんですか?」
「あ、えっと、はい、もう大丈夫です」
びっくりしてしどろもどろに答える私に、彼はぷっと吹き出した。
「なんですか、それ」
笑うと幼い印象になる彼に、なんだか癒される気がした。
「さっきは有り難う。なんだか、一時的なものだったみたい」
「そうですか、重病とかでなくて良かったです」
にこにこと笑う彼に、こちらもつられて笑顔になってしまう。
「ところで、なんでこんなところで飲んでるんですか?」
「なんだか家に帰りたい気分でもなくて」
「そんな日もありますよね。僕なんてしょっちゅうですけど」
そうなんだ、と呟いて缶を煽る。
「あ、でもこんな遅くまで出歩いてて大丈夫?」
「こんなって、まだ20時前ですけど」
くすくすと笑う。このコは見た目に反してよく笑うコだと思った。見た目はクールな生徒会長っぽいのに。
「そっか。でも、高校生だよね? あんまり遅くなっちゃだめよ?」
「俺、そんなにやんちゃそうに見えますか?」
「全然! むしろ生徒会長とかやってそうだなって」
だから余計に、あんまり遅くまで外にいるのが不自然でならないと思った。しかも、公園で缶チューハイを飲むOLなんかと話してるのもそぐわない気がして。
「生徒会長なんてたまじゃないですよ。でも、そろそろ帰りますね」
「うん。なんだか色々と有り難うね?」
にこにこと笑って彼は立ち上がる。
「あ、そういえば。なんでそんなに大荷物なんですか?」
「え? そんなに荷物沢山持ってたかな?」
「沢山、というか、袋、重そうだなと思って」
体調悪そうだったのに、袋重そうだなって気になってたんです、と言う。
初対面の人に色々話すのも、と今更ながらに躊躇ったけど、こんな機会ももうないだろうと思った。
「私ね、今日誕生日なんだ」
「えっ。 えっと、だから公園でお酒なんか?」
「違うよ~。なんだか今日は飲みたい気分だったの」
誕生日に一人でお店に入る勇気もなかったけれど、家で一人酒、なんて気分でもなかった。まぁ、公園で缶チューハイ飲むのもたいがいだけど。
「あの、お誕生日、おめでとうございます。えっと・・・・・・」
「葉瑠」
「え?」
「小山葉瑠です」
「葉瑠さん、お誕生日おめでとうございます」
「有り難う」
その一言がなんだかすごく嬉しくて、涙ぐみそうになる。
「私も、あなたのお名前訊いても良い?」
「はい。松田大翔です」
「お祝いしてくれて有り難う、松田くん」
「あと数時間ですけど、素敵なお誕生日、過ごしてくださいね」
そういって、松田くんは、では、と立ち去ってしまった。
大したことではないのかもしれないけど、すごくいい気分で、2本目の缶チューハイへと手を伸ばした。
仲の良い後輩と上司にはそれぞれプレゼントも貰ったし、『いつもと同じ』というのは語弊があるのかもしれない。でも・・・・・・隼人先輩に『おめでとう』の言葉を掛けて貰いたかったと思うのは贅沢なんだろうか・・・・・・。
頂いたお酒の重みに耐えながら電車に揺られていたら。何だか急に泣きたい気分になった。
彼――清水隼人先輩に恋をして数か月。未だ接点は書類を確認してもらう等の些細なことくらいしかない。どうにか接点を作ろうとしても、中々うまくいかない。『縁がない』なんて言われてしまい、そもそも『縁』てなんなんだろうと辞書を引いたのも最近のことだ。
電車の中だと、いつもこんな事を考えてしまう。
特に今日はいつも以上に苦しい気がしていた。空気が悪いからとかではなく、単に自分の体調が優れないからだと気付いたときには少しだけ遅かった。
ぐらり――と電車が揺れると、一緒にバランスを崩してしまう。すぐに来るであろう衝撃に耐えようと、力の入らない体に精一杯力を込めてみる――
「大丈夫ですか?」
すぐに地面にぶつかると思ったが、柔らかいなにかに受け止められた。
「あ、すみません。大丈夫です」
顔を上げると、私より少しだけ背の高い男子高校生。夏服であろう白いシャツに、黒髪で銀縁の細フレーム眼鏡。少女漫画に出てくる生徒会長みたいだな、と思った。
すぐに立ち上がった私に安堵したのか、彼は微笑むと、手に持っていた参考書に視線を戻した。
ページの所々に付箋がついている。真剣に読み込むその視線に、不覚にもドキドキしてしまった。
電車を降りて、なんとなくそのまま帰る気分にもなれなくて、公園のベンチでぼんやりする。先ほどまでの不快感も電車を降りたら全快していた。
頂いたお酒をこんな気持ちで飲む気にもなれなくて、コンビニで缶チューハイを買ってきた。
プルトップに力を込めると、ぷしゅっと小気味いい音が響く。誕生日になにやってるんだろう、自分・・・・・・。
見上げた夜空には、大きな丸い月が出ていた。もうすぐ満月かとぼんやりと月を見上げていた。
「あ、さっきの」
声のした方を見ると、先ほどの高校生が立っていた。
「お酒なんて飲んで、もう大丈夫なんですか?」
「あ、えっと、はい、もう大丈夫です」
びっくりしてしどろもどろに答える私に、彼はぷっと吹き出した。
「なんですか、それ」
笑うと幼い印象になる彼に、なんだか癒される気がした。
「さっきは有り難う。なんだか、一時的なものだったみたい」
「そうですか、重病とかでなくて良かったです」
にこにこと笑う彼に、こちらもつられて笑顔になってしまう。
「ところで、なんでこんなところで飲んでるんですか?」
「なんだか家に帰りたい気分でもなくて」
「そんな日もありますよね。僕なんてしょっちゅうですけど」
そうなんだ、と呟いて缶を煽る。
「あ、でもこんな遅くまで出歩いてて大丈夫?」
「こんなって、まだ20時前ですけど」
くすくすと笑う。このコは見た目に反してよく笑うコだと思った。見た目はクールな生徒会長っぽいのに。
「そっか。でも、高校生だよね? あんまり遅くなっちゃだめよ?」
「俺、そんなにやんちゃそうに見えますか?」
「全然! むしろ生徒会長とかやってそうだなって」
だから余計に、あんまり遅くまで外にいるのが不自然でならないと思った。しかも、公園で缶チューハイを飲むOLなんかと話してるのもそぐわない気がして。
「生徒会長なんてたまじゃないですよ。でも、そろそろ帰りますね」
「うん。なんだか色々と有り難うね?」
にこにこと笑って彼は立ち上がる。
「あ、そういえば。なんでそんなに大荷物なんですか?」
「え? そんなに荷物沢山持ってたかな?」
「沢山、というか、袋、重そうだなと思って」
体調悪そうだったのに、袋重そうだなって気になってたんです、と言う。
初対面の人に色々話すのも、と今更ながらに躊躇ったけど、こんな機会ももうないだろうと思った。
「私ね、今日誕生日なんだ」
「えっ。 えっと、だから公園でお酒なんか?」
「違うよ~。なんだか今日は飲みたい気分だったの」
誕生日に一人でお店に入る勇気もなかったけれど、家で一人酒、なんて気分でもなかった。まぁ、公園で缶チューハイ飲むのもたいがいだけど。
「あの、お誕生日、おめでとうございます。えっと・・・・・・」
「葉瑠」
「え?」
「小山葉瑠です」
「葉瑠さん、お誕生日おめでとうございます」
「有り難う」
その一言がなんだかすごく嬉しくて、涙ぐみそうになる。
「私も、あなたのお名前訊いても良い?」
「はい。松田大翔です」
「お祝いしてくれて有り難う、松田くん」
「あと数時間ですけど、素敵なお誕生日、過ごしてくださいね」
そういって、松田くんは、では、と立ち去ってしまった。
大したことではないのかもしれないけど、すごくいい気分で、2本目の缶チューハイへと手を伸ばした。
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