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第3章 冒険者2~3か月目
43話 魔術と詠唱【後編】
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「"癒しよ御手に"」
その言葉と共に、鼻の頭の傷が癒えていく。
おぉー……さっすが治癒の魔術。あっという間だ。
「はい、これで問題ありませんよヒロト。サディエル、消毒ありがとうございます」
「手持ちにあって良かったよ。さて、俺はもうお役御免で問題なしか?」
「そうですね、問題ありません。引き留めてしまって申し訳ありません」
「気にしない、気にしない。1時間ぐらいしたら夕飯出来上がってるから、2人とも遅れずこいよ」
「わかった! 遅れずに行く!」
そんじゃ、とサディエルは薪を持ち直して、本日の野営場所へと歩いて行く。
彼を見送ってから、オレは改めてリレルを見る。
「そっかー……誤射の問題だったのか、これ。あー、FPSゲームで急に目の前を通った味方をフレンドリーファイアして倒した記憶が蘇ってきた」
戦犯したことを思い出して、オレは頭を抱える。
ゲームで例えるとめっちゃ分かりやすくて泣けてくる……
あれ、普通逆だよね? ゲームの内容が異世界に合致が正解だよね。
うん、今更だな!
「弱い魔術での誤射ならば、まだ笑って済ませる事も出来ますけど、相手を殺す気で放った魔術や、アルムが放った矢など当たったら悲惨ですよ。こう、この辺りとかにスコーンと……」
そう言いながら、リレルは自身のこめかみを指さす。
こめかみに……アルムが放った矢が当たる……?
オレはその光景を想像してしまい、ひぃっ、と両手で自身の額を覆い隠す。
「あの、リレル……想像しただけで肝が冷えるんだけど!?」
「実際、そういう危険を承知でサディエルは前衛やっていらっしゃいますよ」
前衛って……単純に敵と戦えばいいだけじゃないのか!
真剣に戦ってたら後ろから味方に撃たれた(物理的に)とか、誤射ったごっめーん! じゃ、欠片もすまないんですけど!?
「ですから、どのような形でも声掛けが必要なんですよ。魔術であろうと、弓矢であろうと」
「……あっ、そっか。それで誤射を予防する」
「それもありますけど、後方にいる私たちが、今、どの位置で、どのような状況か分かりませんでしょ? 頭の後ろに目があるわけじゃありませんし」
むしろ、合ったら人外もしくは魔族ですわ。とリレルは右手を頬に当てながら、眉を下げつつ言う。
………えーっと、オレの世界の多くの物語で、何故か周囲の味方の状態を秒で把握する主人公様方。
どうやら、異世界の人たち視点でも『人外』認定のようです。
「さて、話を魔術に戻しましょう」
リレルの提案にオレは頷く。
そして、改めてリレルは本をオレに見せてくれる。
描かれているのは、先ほど説明を受けた4大元素魔術と思われるイラストと、その周囲に様々な……雷とか、氷とか、霧などだ。
「えっと……そうでした。下位の魔術についてお話をいたしましたね。となりますと、次は上位の魔術についてです」
「上位って確か、下位の4属性を複数合わせた魔術の総称、だったよね」
「その通りです。威力や効果量は問われず、あくまでも複数属性を組み合わせていることが条件となります」
複数属性だけが条件、か。
「なぁ、条件が複数属性ってだけなのに上位ってことは、やっぱり理由があるんだよな?」
「もちろんです。複数属性を組み合わせるということは、4属性の"性質"を正しく理解していなければなりません。それと同時に、組み合わせた"結果"に対する知識も」
性質と、結果に対する知識か。
えっと、これまでオレが見た上位に該当する魔術は……確か……
『よしっ、"水よ、風よ、巡りて凍れ!"』
『物理は効かないでしょうが、こちらならどうですか!? "風と水、そして炎よ! 雷鳴となりて轟け!"』
『これはお返しです! "火と風よ、舞い狂え"!』
アルムが使った、氷の魔術。
リレルが使った、雷の魔術と……火の魔術っぽいけど、風が合わさっているから業火かな? とにかく、この3つか。
そのうち、2属性で使われたのが氷と業火。3属性が雷。
「氷の魔術はとてもシンプルです」
「確かアルムが、水を集めて、その周囲で風を急速回転させて冷やしただけって言ってたけど」
「その通りです。ヒロト、水の凝固点はご存じですか」
「0度だよな水が凍るのって」
「はい。ですが、"単純に"風を急速回転させただけでは簡単に0度には辿り着きません」
単純に?
えーと、水の周りで風をぐるぐるさせて、温度を下げる……って、時間掛かりそう。
「ここで、魔術によるひと手間が必要となってくるのです。風を吹かせるだけでは、水の凝固点に到達は出来てもかなりの時間を要します。その時間を短縮する為には、どうすればよろしいでしょう」
「水と風だけで、だよな?」
「はい、水と風だけで、です」
水はどうしようもない気がするから、突破口は風になるわけか。
風……風か……風、つまりは空気……空気?
「分かった、気圧を何とかするんだ! 気圧の違いで水の凝固点を変えてしまえば……!」
「正解です。より早く氷を作りたいのであれば、水を集め、風を操り気圧の操作も同時に行う。これこそが上位に分類される魔術の"理由"です」
うわぁ、想像以上に……科学めいてる。
魔力の有無なだけで、言ってる内容が完全に科学目線……!
「で、この厄介そうな内容が、昔に比べれば魔力消費が圧倒的に少ないんだっけか」
「そうです。以前お話しました通り、かつては増殖させる"元"さえあれば、魔力及び生命力を代価にどれだけでも増やすことが出来ました。もっとも、その結果が極端な短命……というわけですが」
平均寿命が20~30歳だった時代か。
しかも、見た目が90歳レベルになっているという、並みの世紀末もびっくりな状況。
よく無事だったな、人類。まぁこういう場合は、魔術をあまり使わない、もしくは素質が無くて魔術取得を諦めた人たちがいたはずだから、そっちで何とか難を逃れたんだろうけど。
「それで思い出した。大昔の魔術って、代償さえ目をつむれば複製・増殖そのものは出来るんだよね? 今でもそれを使って、悪い事しようとしてる人とかいないわけ。なんでも増やしたい放題なわけだし、なんだったら自分以外の魔力を奪うとか」
オレの言葉を聞いて、リレルは難しい顔をする。
「……理論上は、他者から魔力を奪う事については可能と思われます。実際、それに似たモノを私も、ヒロトもよくご存じでしょう?」
「オレも!? え、いつ見ただろうそんなの」
「私たちと初めてお会いした時ですよ」
……あっ!?
「オレが召喚された魔法陣!」
そうだ、すっかり忘れてた!
そういえば、こっちに来た当初にアルムたちがそんなこと言ってた!
『長年ここを訪れた冒険者たちの魔力を、この陣が踏まれるごとに違和感を覚えさせない程度だけ吸い取っていた、ってことなら可能性はありそうだがな』
うん、そんなこと言いながら、アルムはあの魔法陣を何度か踏んでいたはずだ。
「あの魔法陣についてはいまだに良く分かりませんが……今は、そちらの話ではありませんね」
気を取り直して、リレルは言葉を続ける。
「古代に使われていた魔術、その多くは人間が基本的に保有出来ると言われている魔力容量を大幅に超えた消費量となります。その為、今の人間がその魔術を使うと……」
「使うと……?」
「消費される魔力量が多すぎる為、体の方が驚いて気絶してしまうんです。最悪そのまま死にます。当然です、より魔力消費が少ないもの、少ないものと研究開発されてきた魔術です。今の消費が仮に1だとすると、かつての魔術の消費は1000です」
使ったら即死って……
これまで見てきた簡単な魔術レベルでってことだよな。ちょっと水集めたら死ぬって。
「ただ、それを承知の上で何かを増殖させたい、他者の魔力を奪ってでも……それをヒロトは危惧されているのですよね?」
「うん、そう言う事。何かしら規制があると思っているけど」
「そうですね、ありますよ」
やっぱりあるんだ。そうだよな、色々きっちりしている世界なんだ。
そういう可能性は誰だって思いつくし、対策だって施しているだろう……その抜け道を使って何かする輩もいるだろうけど。
「ただ、これは規制というよりは結果的に規制になっている、が正しいですね」
「……というと?」
「魔力は1人1人僅かながらに異なるからです。他人の魔力を仮に奪えたとしても、それを自身の中に取り込もうものならば、魔力同士が反発を起こし、内部から……ボンッ! です」
うへぇ、あまり想像したくない擬音語が聞こえた気がする。
なんというか、血液みたいな内容だな。
ほら、輸血は同じ血液型同士でやらないとだめなのと同じ。同じ血液型同士じゃないと、血中の抗体が外部から攻撃されたと勘違いされて反発し、結果的に大量の赤血球とかが破壊されて大変なことになる、みたいな。
魔力=血液……何かがおかしいけど、例えるならこれが一番しっくりくるのが始末に負えない。
「内部に取り込まなかったとしても、奪った魔力を自在に操ること自体がそもそも不可能。その為、エルフェル・ブルグは古代の魔術については、事実上それらの事象そのものが規制になると結論づけております」
「何かしらで中和する手段でもなきゃ無理なわけ……あれ、じゃあ、あの魔法陣は?」
「そこが分からないのです。違和感を覚えない程度となると、指先を少し傷つけて血の1摘を垂らすよりも少量になります。たったそれだけを中和融合させて、となりますと……軽く見積もっても数千年単位でしか、あの魔法陣が動く魔力は溜まらないだろう……というのが、アルムの見解でした」
つまり、オレはその数千年の魔力を使って召喚されたってことなのかな。
帰る時も同様の魔力を必要とされる場合、帰るの諦めないといけない可能性が出てくるんじゃないか、これ。
いやいやいや、あくまで前向きに! あくまでも目標達成前提! 確定するまで諦めるなオレ!
「とりあえず、理論上はどう頑張っても人間の寿命内でどうこう出来る内容じゃないってことか」
「そういうことです」
そこまで聞いて、オレは大きくため息を吐く。
なんつーか、魔術って……奥が深い。
「あれ? ここまで話してもらったけど、オレが魔術を使うどうこうについては?」
「それはまた今度。今回はあくまでも魔術についての知識取得が目的でした……これを覚えていないと"不自然"なもので」
「不自然……?」
「この世界では、今話した内容は幼いころに学ぶ内容なのです。なので、それを知らないとなると、ヒロトが周囲から不可解な目で見られてしまいます」
なるほど……本当に、初志貫徹で"オレの為"なわけか。
「これからしばらく船旅になります。戦闘技術に関しては、武器を持ち換えたなど理由はいくらでも作れますが、魔術に関してはどうしても無理なのです」
「だから、使える使えないよりは、まずは"この世界の住人だったら知っていないとおかしい"ことを覚える、と」
「そういうことです、というわけで!」
パンとリレルは自分の顔の前で両手を合わせて、にっこりと微笑む。
「明日、今の内容をテストします。頑張って答えてくださいね」
「………え? うええええ、ちょ!? メモしてなかったんですけど!?」
「メモを取らないヒロトが悪いです」
「あああああああ!? というか、不意打ちみたいなテスト予告やめてくれー!!」
なお、翌日のテストだが……ファンタジー、じゃなくて科学寄りで必死に復習した結果、なんとか合格点を貰えました。
本日の教訓。人から教えを乞う時は、メモを取りましょう。
その言葉と共に、鼻の頭の傷が癒えていく。
おぉー……さっすが治癒の魔術。あっという間だ。
「はい、これで問題ありませんよヒロト。サディエル、消毒ありがとうございます」
「手持ちにあって良かったよ。さて、俺はもうお役御免で問題なしか?」
「そうですね、問題ありません。引き留めてしまって申し訳ありません」
「気にしない、気にしない。1時間ぐらいしたら夕飯出来上がってるから、2人とも遅れずこいよ」
「わかった! 遅れずに行く!」
そんじゃ、とサディエルは薪を持ち直して、本日の野営場所へと歩いて行く。
彼を見送ってから、オレは改めてリレルを見る。
「そっかー……誤射の問題だったのか、これ。あー、FPSゲームで急に目の前を通った味方をフレンドリーファイアして倒した記憶が蘇ってきた」
戦犯したことを思い出して、オレは頭を抱える。
ゲームで例えるとめっちゃ分かりやすくて泣けてくる……
あれ、普通逆だよね? ゲームの内容が異世界に合致が正解だよね。
うん、今更だな!
「弱い魔術での誤射ならば、まだ笑って済ませる事も出来ますけど、相手を殺す気で放った魔術や、アルムが放った矢など当たったら悲惨ですよ。こう、この辺りとかにスコーンと……」
そう言いながら、リレルは自身のこめかみを指さす。
こめかみに……アルムが放った矢が当たる……?
オレはその光景を想像してしまい、ひぃっ、と両手で自身の額を覆い隠す。
「あの、リレル……想像しただけで肝が冷えるんだけど!?」
「実際、そういう危険を承知でサディエルは前衛やっていらっしゃいますよ」
前衛って……単純に敵と戦えばいいだけじゃないのか!
真剣に戦ってたら後ろから味方に撃たれた(物理的に)とか、誤射ったごっめーん! じゃ、欠片もすまないんですけど!?
「ですから、どのような形でも声掛けが必要なんですよ。魔術であろうと、弓矢であろうと」
「……あっ、そっか。それで誤射を予防する」
「それもありますけど、後方にいる私たちが、今、どの位置で、どのような状況か分かりませんでしょ? 頭の後ろに目があるわけじゃありませんし」
むしろ、合ったら人外もしくは魔族ですわ。とリレルは右手を頬に当てながら、眉を下げつつ言う。
………えーっと、オレの世界の多くの物語で、何故か周囲の味方の状態を秒で把握する主人公様方。
どうやら、異世界の人たち視点でも『人外』認定のようです。
「さて、話を魔術に戻しましょう」
リレルの提案にオレは頷く。
そして、改めてリレルは本をオレに見せてくれる。
描かれているのは、先ほど説明を受けた4大元素魔術と思われるイラストと、その周囲に様々な……雷とか、氷とか、霧などだ。
「えっと……そうでした。下位の魔術についてお話をいたしましたね。となりますと、次は上位の魔術についてです」
「上位って確か、下位の4属性を複数合わせた魔術の総称、だったよね」
「その通りです。威力や効果量は問われず、あくまでも複数属性を組み合わせていることが条件となります」
複数属性だけが条件、か。
「なぁ、条件が複数属性ってだけなのに上位ってことは、やっぱり理由があるんだよな?」
「もちろんです。複数属性を組み合わせるということは、4属性の"性質"を正しく理解していなければなりません。それと同時に、組み合わせた"結果"に対する知識も」
性質と、結果に対する知識か。
えっと、これまでオレが見た上位に該当する魔術は……確か……
『よしっ、"水よ、風よ、巡りて凍れ!"』
『物理は効かないでしょうが、こちらならどうですか!? "風と水、そして炎よ! 雷鳴となりて轟け!"』
『これはお返しです! "火と風よ、舞い狂え"!』
アルムが使った、氷の魔術。
リレルが使った、雷の魔術と……火の魔術っぽいけど、風が合わさっているから業火かな? とにかく、この3つか。
そのうち、2属性で使われたのが氷と業火。3属性が雷。
「氷の魔術はとてもシンプルです」
「確かアルムが、水を集めて、その周囲で風を急速回転させて冷やしただけって言ってたけど」
「その通りです。ヒロト、水の凝固点はご存じですか」
「0度だよな水が凍るのって」
「はい。ですが、"単純に"風を急速回転させただけでは簡単に0度には辿り着きません」
単純に?
えーと、水の周りで風をぐるぐるさせて、温度を下げる……って、時間掛かりそう。
「ここで、魔術によるひと手間が必要となってくるのです。風を吹かせるだけでは、水の凝固点に到達は出来てもかなりの時間を要します。その時間を短縮する為には、どうすればよろしいでしょう」
「水と風だけで、だよな?」
「はい、水と風だけで、です」
水はどうしようもない気がするから、突破口は風になるわけか。
風……風か……風、つまりは空気……空気?
「分かった、気圧を何とかするんだ! 気圧の違いで水の凝固点を変えてしまえば……!」
「正解です。より早く氷を作りたいのであれば、水を集め、風を操り気圧の操作も同時に行う。これこそが上位に分類される魔術の"理由"です」
うわぁ、想像以上に……科学めいてる。
魔力の有無なだけで、言ってる内容が完全に科学目線……!
「で、この厄介そうな内容が、昔に比べれば魔力消費が圧倒的に少ないんだっけか」
「そうです。以前お話しました通り、かつては増殖させる"元"さえあれば、魔力及び生命力を代価にどれだけでも増やすことが出来ました。もっとも、その結果が極端な短命……というわけですが」
平均寿命が20~30歳だった時代か。
しかも、見た目が90歳レベルになっているという、並みの世紀末もびっくりな状況。
よく無事だったな、人類。まぁこういう場合は、魔術をあまり使わない、もしくは素質が無くて魔術取得を諦めた人たちがいたはずだから、そっちで何とか難を逃れたんだろうけど。
「それで思い出した。大昔の魔術って、代償さえ目をつむれば複製・増殖そのものは出来るんだよね? 今でもそれを使って、悪い事しようとしてる人とかいないわけ。なんでも増やしたい放題なわけだし、なんだったら自分以外の魔力を奪うとか」
オレの言葉を聞いて、リレルは難しい顔をする。
「……理論上は、他者から魔力を奪う事については可能と思われます。実際、それに似たモノを私も、ヒロトもよくご存じでしょう?」
「オレも!? え、いつ見ただろうそんなの」
「私たちと初めてお会いした時ですよ」
……あっ!?
「オレが召喚された魔法陣!」
そうだ、すっかり忘れてた!
そういえば、こっちに来た当初にアルムたちがそんなこと言ってた!
『長年ここを訪れた冒険者たちの魔力を、この陣が踏まれるごとに違和感を覚えさせない程度だけ吸い取っていた、ってことなら可能性はありそうだがな』
うん、そんなこと言いながら、アルムはあの魔法陣を何度か踏んでいたはずだ。
「あの魔法陣についてはいまだに良く分かりませんが……今は、そちらの話ではありませんね」
気を取り直して、リレルは言葉を続ける。
「古代に使われていた魔術、その多くは人間が基本的に保有出来ると言われている魔力容量を大幅に超えた消費量となります。その為、今の人間がその魔術を使うと……」
「使うと……?」
「消費される魔力量が多すぎる為、体の方が驚いて気絶してしまうんです。最悪そのまま死にます。当然です、より魔力消費が少ないもの、少ないものと研究開発されてきた魔術です。今の消費が仮に1だとすると、かつての魔術の消費は1000です」
使ったら即死って……
これまで見てきた簡単な魔術レベルでってことだよな。ちょっと水集めたら死ぬって。
「ただ、それを承知の上で何かを増殖させたい、他者の魔力を奪ってでも……それをヒロトは危惧されているのですよね?」
「うん、そう言う事。何かしら規制があると思っているけど」
「そうですね、ありますよ」
やっぱりあるんだ。そうだよな、色々きっちりしている世界なんだ。
そういう可能性は誰だって思いつくし、対策だって施しているだろう……その抜け道を使って何かする輩もいるだろうけど。
「ただ、これは規制というよりは結果的に規制になっている、が正しいですね」
「……というと?」
「魔力は1人1人僅かながらに異なるからです。他人の魔力を仮に奪えたとしても、それを自身の中に取り込もうものならば、魔力同士が反発を起こし、内部から……ボンッ! です」
うへぇ、あまり想像したくない擬音語が聞こえた気がする。
なんというか、血液みたいな内容だな。
ほら、輸血は同じ血液型同士でやらないとだめなのと同じ。同じ血液型同士じゃないと、血中の抗体が外部から攻撃されたと勘違いされて反発し、結果的に大量の赤血球とかが破壊されて大変なことになる、みたいな。
魔力=血液……何かがおかしいけど、例えるならこれが一番しっくりくるのが始末に負えない。
「内部に取り込まなかったとしても、奪った魔力を自在に操ること自体がそもそも不可能。その為、エルフェル・ブルグは古代の魔術については、事実上それらの事象そのものが規制になると結論づけております」
「何かしらで中和する手段でもなきゃ無理なわけ……あれ、じゃあ、あの魔法陣は?」
「そこが分からないのです。違和感を覚えない程度となると、指先を少し傷つけて血の1摘を垂らすよりも少量になります。たったそれだけを中和融合させて、となりますと……軽く見積もっても数千年単位でしか、あの魔法陣が動く魔力は溜まらないだろう……というのが、アルムの見解でした」
つまり、オレはその数千年の魔力を使って召喚されたってことなのかな。
帰る時も同様の魔力を必要とされる場合、帰るの諦めないといけない可能性が出てくるんじゃないか、これ。
いやいやいや、あくまで前向きに! あくまでも目標達成前提! 確定するまで諦めるなオレ!
「とりあえず、理論上はどう頑張っても人間の寿命内でどうこう出来る内容じゃないってことか」
「そういうことです」
そこまで聞いて、オレは大きくため息を吐く。
なんつーか、魔術って……奥が深い。
「あれ? ここまで話してもらったけど、オレが魔術を使うどうこうについては?」
「それはまた今度。今回はあくまでも魔術についての知識取得が目的でした……これを覚えていないと"不自然"なもので」
「不自然……?」
「この世界では、今話した内容は幼いころに学ぶ内容なのです。なので、それを知らないとなると、ヒロトが周囲から不可解な目で見られてしまいます」
なるほど……本当に、初志貫徹で"オレの為"なわけか。
「これからしばらく船旅になります。戦闘技術に関しては、武器を持ち換えたなど理由はいくらでも作れますが、魔術に関してはどうしても無理なのです」
「だから、使える使えないよりは、まずは"この世界の住人だったら知っていないとおかしい"ことを覚える、と」
「そういうことです、というわけで!」
パンとリレルは自分の顔の前で両手を合わせて、にっこりと微笑む。
「明日、今の内容をテストします。頑張って答えてくださいね」
「………え? うええええ、ちょ!? メモしてなかったんですけど!?」
「メモを取らないヒロトが悪いです」
「あああああああ!? というか、不意打ちみたいなテスト予告やめてくれー!!」
なお、翌日のテストだが……ファンタジー、じゃなくて科学寄りで必死に復習した結果、なんとか合格点を貰えました。
本日の教訓。人から教えを乞う時は、メモを取りましょう。
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