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2節[第一章]
第三十六話『馬車の一時』
しおりを挟む馬車はパーティー会場へゆっくりと進んでいる。
エイム様はもう着いたかな?
今日のパーティーでは、エイム様がエスコートしてくれる事になっている。
ティアラ片手に「君のエスコートをさせてくれ!」と言われた時は流石に驚いた。
この日が最も重要なのは、もちろん悪役令嬢登場の日だからでもあるけど。それ以上に大切な理由がひとつ、それは…
「レインはエイムから送られたティアラがお気に入りみたいやね!」
「えっ?」
「さっきから無意識にティアラ触ってはニコニコしとよ?」
嘘っ!?かっ完全に無意識だった!
「ごっごめんなさい!あまり触らない方がいいですよね!?」
私は急いで触っていた手を下ろす。恥ずかしさで顔が赤くなっているのは気のせいだ。
すると、隣にいるフィブア様が私の頭を撫でた。とても優しい手つきで思わず安心する。
「レインがそんだけ気に入ってくれたんやったら、エイムも喜ぶやろな!」(ニコッ
その笑顔に偽りなど全くなくて…心からそう思ってくれているのがとてもとても嬉しくて…。
「…そうかな?そうだったらいいけど///…。」
エイム様が喜んでくれる姿を想像すると、自然と頬が緩んでいく。あの人が私に笑顔を見せてくれているのは、きっと奇跡の何ものでもないだろう。
だからこそ、そんな素晴らしい人を悪役令嬢の私の人生に巻き込むわけにはいかない。
今回のパーティーで、エイム様にちゃんと婚約破棄してもいいということを伝えなきゃ。
彼が私といてくれるのは、あくまで婚約者だからだろう。
私のことを好いてくれているなんて、万に一つもありえないから。
私は彼らが幸せになる姿をただ見守る人でありたい。
それが私、ゲームオタクの園田萌として望んでいる結末だからね。
ストーリーとは違う展開が沢山あったからだろうとは思うけれど、エイム様の私への態度が明らかに通常とは違うのは見ていてわかる。
ヒロインに言うはずのセリフを言ったり、ドレスを送って貰ったり。
たまに愛を伝えてくる時は、宛らにドキッとするけれど…。
「しかし、レインももう社交デビューか~。いつの間にかもう立派な令嬢になってたやなんてね~。」
向かいに座っていたスベイス様が私を愛おしげに見つめながら、話し始めた。フィブア様とヤヌア様も頷いきながら話している。
「大事な妹を預けるにふさわしい人なんか俺ら以外おらへんやろうなって思っとったんやけどな…。」
「まぁレインが選んだ人なら、俺はそれでいいと思っとるよ。」
「それでもやっぱり寂しいのは事実やけどね…。」
「フフっ、スベイス兄さんじゃなきゃそんなセリフ思ってても言えへんよ?」
「えっ?なっなんで?」
「妹の前で寂しいとか素直に言えへんやろ普通!自覚ないんか!」
「そりゃ大切な妹が傍にいなくなるのは普通に寂しいやん?」
「さすがスベイス兄さん。驚くほどの無自覚シスコンやね。」
「シスコン??」
あれっ!?無自覚だったの!?
というか三人ともさっきからまるで私がどこかに行くような話してるけど…。
「私はお兄様達が大好きですし、今はどこへも行きませんよ?」
「それは嬉しいけど…レインはエイムと結婚するやろ?」
えっ??
「私、エイム様とは結婚しませんよ?」
「「「えっ??」」」
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