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2節[第一章]
第四十話『春の家紋』
しおりを挟むあちらの会話は聞こえないが、明らかに怯えている女の子達はノイン様に深々と頭を下げパーティー会場の隅の方へ逃げていった。
「ノイン?また女の子達を怖がらせたの?」
「またアイツらがレインの悪口言ってるから注意しとっただけや。」
少し不機嫌そうにノイン様はこちらに歩いてきた。エース様が少し嬉しそうにしていたのは気のせいだろうか…。
「レインの悪口は俺が絶対許さへん!アイツはそんなやつやないんやからな!」
そう言いながら笑顔を見せるノイン様は、この場にいる私にとって凄く心強かった。
「ノイン様、ありがとうございます!」
エース様の後ろに隠れていた私はノイン様の前に出て笑顔でお礼を言った。
私のために怒ってくれる人に感謝くらい伝えなくちゃね!
しばらくノイン様を見つめていると、少しずつ顔を赤らめそっぽを向いてしまった。
お礼言われるの慣れてないのかな?照れてる…。
「ノイン様?パーティーは楽しまれていますか?」
「そりゃ楽しんどるよ!レインの社交界デビューパーティーやからな!おめでとうレイン!」
「フフっありがとうございます!」
良かった、ノイン様もパーティーを楽しんでくれてるみたい。せっかく開いたんだから楽しんでもらわないと損だもんね!
しばらくノイン様と話していると、エース様とスベイス様がノイン様を呼びに来た。
なんでもウィンター家とハーベスト家の大切な相談事らしい。
私は行かなくていいのか聞いたら、パーティーの主役が抜けちゃダメでしょ?と言われ私はその場に残ることにした。
この日までのパーティーやなんやらで友達になった令嬢さんに囲まれながら色んな最近の女性の流行りを聞いていく。
このお店のケーキが可愛いとかこのドレスはこの店で買ったとかたまに自慢話をする子もいるけど…。
まぁ私はゲームオタクだったし、転生前から人と話すことに慣れていなかった事もあってこういう場はかなり疲れるのよね。
学校でのグループラインとか苦手だったし。
休憩すると言ってパーティー会場の隅の方へ逃げてくると、聞きなれた声が後ろから聞こえた。
「疲れとんね!レイン!」
「きゃあ!?ってフユーン様!?」
後ろに振り返ると笑顔で私を見つめるフィーダー家次男のフユーン様がいた。
フユーン様の後ろからフィーダー家長男フィーヤ様と三男ズハイ様の姿も見えた。
「驚かしたらダメだよフユーン。久しぶりだねレインさん。」
「おっお久しぶりです。」
「フィーヤ様!ズハイ様!」
2人がフユーン様を挟む形で並ぶとフィーダー家が揃ったイラストと瓜二つで初めてフィーダー家に招待された時を思い出した。
「社交界デビューおめでとうレインさん。月日は早いね~。」
「おめでとうございます!」
「お2人ともありがとうございます!私の社交デビューパーティーですけど、フランクなパーティーですから気軽に楽しんでくださいね!」
「もう十分楽しませて頂いてますよ。」
「ここの飯めちゃくちゃ上手いからびっくりしたわ!」
「それは良かったです!」
フユーン様は食べる事が大好きで美食家なのは知っていた。そのため食には一番気を使って悩んだのだ。喜んで貰えたのは本当に嬉しい。
しばらくフィーダー家の皆さんと話していると、エイム様がこちらに歩いてきた。
「あっ!エイム様!」
「楽しんでいるかいレイン?」
「はい!」
エイム様は笑顔で私の隣に並んだ。
「久しぶりだねエイム。」
「やぁフィーヤ、元気そうで何よりだ。」
2人が手を握りあい再会を喜んだ。エイム様はフィーダー家の長男であるフィーヤ様ともよくお話をする。
改めてエイム様はこの国の重要な人物であることが分かる。
「そういえば、君らの妹があっちで色んな男性とお話していたぞ?」
妹って…ヒロイン??
「アイツが?ったく、本当に厄介だな。」
ヒロインが男性と話してた?まさかエイムも…。
「エッエイム様!」
不安になって咄嗟に私はエイム様の服を掴んでいた。
もしヒロインと何かあったら、エイム様がヒロインの元に行ってしまったら…エイム様が死んだら…私は…。
恐怖から手が震える。エイム様は不思議そうに私の方へ振り向く。フィーヤ様達も私の事を気にして心配そうに見ている。
エイム様なら、聞いたら教えてくれるだろう。エイム様ならきっと…。
「どうした?」
「あっあの…」
なかなか言い出せない私にエイム様は優しく問いかけてくれる。震える手を強く握り心配させないよう勇気をくれている。
「そっその…フィーヤ様の妹さんとは…お話されたのですか?」
恐る恐るエイム様の顔を見ると、エイム様は満面の笑みで私を見ていた。
そして私を抱き寄せ嬉しそうにクスクスと笑いだした。急に抱き寄せられた私は動揺して見事に固まってしまった。
「ちょっちょっとエイム様!?」
「フフフッ、君が嫉妬してくれるとはな!嬉しい!とっても嬉しい!」
へっ?嫉妬??
「しかし安心しろレイン!私はあの女とは一言も喋っていないし近づいてすらいない!」
えっ?えぇ!?
「君のことを悪く言うやつには基本会わないし、何よりアイツは君と私のパーティーを台無しにした元凶だ!話す事などないからな!」
ヒッヒロインのことそこまで言っちゃうんだ…。でも、良かった、ヒロインとは何もなかったみたい。
「それなら…よかったです。」
抱きついていたエイム様が私の顔をジッと見つめながら少し笑って頭を撫でてきた。
「私の送ったティアラをちゃんと付けてくれているんだな。ありがとう嬉しいよ。」
「エイム様からの贈り物ですから当然ですよ!」
婚約者の贈り物を付けてこないなんて作法としてありえないからね!
「フフッ、そうか!」
満面の笑みで嬉しそうなエイム様は本当に心から幸せそうだった。
この笑顔が永遠であったらいいな…。
「お2人とも?イチャついている所悪いけど、僕らはそろそろ別の所に行ってくるよ。」
「あぁ、サマー家の方か?」
「そうそう、アイツにも挨拶しなきゃね。」
サマー家、夏を司る四代家紋の1つ。私達ウィンター家とは真逆に位置しているため、あまり会えない家紋だ。
それでも時々休みを使って遊びに来るレインの幼なじみがいる。
それがサマー家四男、リカルド・サマーだ。
彼はレインと同い年で、数ヶ月前に社交界デビュー記念パーティーを終えたところだ。
今回はサマー家もパーティーに招待している。主役の私が挨拶に行かないわけにはいかない。
「私もサマー家の方に挨拶に行くので良かったらご一緒してもよろしいですか?」
「あぁなら行こう!エイムも来る?」
「もちろん行く、ヤツの顔も久しぶりに見たいところだからな。」
ヤツ??サマー家の人間でエイム様と親しいのは…長男のアハト様?
でもアハト様ってゲームだと滅多に出ないレアキャラで、特殊な方法を使わないと現れないキャラクターだったような…?
とりあえず、行って確かめてみよう!
私はエイム様とフィーダー家の3人とでサマー家の元へ向かった。
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