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2節[第二章]
第六十三話『心からの安心』
しおりを挟む私はエイム様の部屋で目を覚ました。
エイム様が私が起きたことをほかの兄に通達してくれたらしく、来るまで時間があるから寝ていろと言われ、私は再びベッドに押し込まれた。
そんな過保護にしなくてもいいのにと思いつつ、いつの間にか私は目を閉じていた。
正直、今までの事がまだボンヤリとしていてハッキリ思い出せない。
再び目を覚ました時には、まだフィブア様達は来ておらず、傍には寝息を立てているエイム様がいた。
シャインさんにあった後から記憶が抜け落ちたかのようになくなっている。
エイム様に事情を聞きたいが看病してくれていた人を無理やり起こすのも気が引ける。
とりあえずメイドさんか従者の人に話を聞こうとベッドから立ち上がった。
すると、その振動のせいでエイム様が目を覚ました。
「レイン…。」
「あっすみませんエイム様!起こしてしまって…。」
「構わない、そろそろアイツらも来るだろう。君はベッドで待っていてくれ。」
「あっ…わかりました。」
エイム様の促しで再びベッドへ戻った。優しく頭を撫でたエイム様は「すぐ戻る」と笑顔で言い残し、部屋を後にした。
ぼんやりとした記憶の中で唯一覚えているのは、エイム様が私を支えてくれた事だった。
エイム様がいなければ今頃私は目覚めていなかったかもしれない。
昔も今も私を救ってくれるのはエイム様だ。
「あの笑顔が、私に向けた笑顔でよかった…。」
ヒロインではなく悪役令嬢だけど、それでも彼の笑顔が見れるだけで嬉しい。
どこまでいってもオタクはオタクなのよね!
私はエイム様の全てが大好きで、彼は私の1番の推しで、どこまでも愛しちゃう私の1番!!
たくさんの乙女ゲームをやったけど、結局エイム様以上に好きになったキャラクターはいなかった。
まぁ私の趣味どストライクのキャラクターだったからね!
優しくて真っ直ぐで仲間思いで、一途な愛を持つ主人公!
金髪の髪が目に入って輝くほど服は黒色を好み、どこまでも敵を射抜く紅い瞳。
パッケージでエイム様を目にした瞬間一目惚れだったな~。
現実にはいないほど理想的な私の恋人。
この人の隣に立てるヒロインに憧れたし、一途に愛した悪役令嬢のレインにも共感した。
みんなは純愛に満ちたヒロインルートが大好きだったけど、私は困難を乗り越えて結ばれる悪役令嬢ルートが大好きだった。
それは無意識に辛い記憶もいつかは幸せに結ばれて欲しいという、私の願いだったのかもしれない。
エイム様がいなくなってから鮮明に記憶が戻ってきた。
昔あった悲劇、肩身の狭かった生活、怯えていた日常。
思い返せば転生してからの方がいい暮らしをしている気がする。まぁ、私があの悲劇を忘れていたからだろうけど。
狂った愛ほど怖いものはないけれど、それ以上に困難を乗り越えて手に入れた愛ほど固いものはないのかもしれない。
私がみんなを死亡フラグから助けてきたこの日々も、何一つ無駄なものなんてなかったんだとわかって、嬉しさから涙が溢れた。
本来ならエイム様は命を落とし、フィブア様は昏睡状態、スベイス様とヤヌア様は実の妹の首を斬らなければいけないところだった。
それにシオン君やカミリアちゃんの運命だって大きく違っただろう。こう考えると、レインの関わっている人が沢山いることが改めて分かる。
「私って、ホントに頑張ってきたんだな…。」
まだまだやらなければと気を張りすぎていたのかもしれない。大体の死亡フラグは回避したし、ヒロインの動きも逐一気にしなければいけないわけではない。
「少しはこの世界でゆったり過ごすのもいいのかもしれないな~。」
「その時間に私は含めてくれているのか?」
「きゃあっ!?」
急に耳元にエイム様の声が聞こえてかなりビックリした。この人は相変わらず人を脅かすのが上手い。
「もう!急に驚かさないで下さい!」
「すまんすまん、君の緩みきった顔を見たらついな?」
ついってなんですかついって!
今までの記憶も相まって、余計エイム様と接しずらくなるのは目に見えていた。
でも、あまりにもエイム様が変わらないから萌のまま接しちゃいそうでちょっと複雑。
そういえば、エイム様が帰ってきたということは…
思考がまとまる前に扉が勢いよく開き誰かが私に向かって飛び込んできた。
その特徴的な髪色と首元に見えたチョーカーを見て、私は飛び込んできた人物の頭を優しく撫でた。
「心配かけてごめんね、シオン。」
呼ばれたシオン君はゆっくりと顔を上げ、先程まで堪えていたであろう涙を流し始めた。
シオン君が開けた扉の方から、微笑みながら瞳をうるませているフィブア様、号泣しながらこちらを見ているスベイス様、そして唇を固く結び涙を必死に堪えているヤヌア様の姿があった。
全員が私が目覚めたことを心から嬉しがっているのが分かる。
私は3人にあった時、なんと言うかもう決めていた。いや、この言葉以外言うことはないだろうと分かっていた。
フィブア様はいち早く分かってくれたのか、私の頭を軽く撫でてニッコリと微笑んだ。
「おかえり、レイン。」
「ただいま、フィブア兄様。」
互いに微笑み、家族がいつもするように会話を交わす。
それは無事に戻ってきた証と私が心からみんなを信頼した印だった。
全員が糸が切れたように泣きながら私の無事を嬉しがってくれた。
私は泣きそうなくらい嬉しかったけれど、私以上に泣いている人しかいなかったので、その場ではずっと笑っていた。
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