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2節[第二章]
第六十八話『君との出会い』
しおりを挟む受け入れて貰えなかった。
彼女は私を突き放して逃げるように去ってしまった。
少し前までは彼女の方がこんな気持ちだったのかと思うと、とてつもなく胸が苦しくなった。
「好きな人から突き放されるのは、こんなに辛いものなんやな…。」
去っていった彼女を追う気持ちにはなれなかった。今もし自分が追ってしまえば、彼女に余計な罪悪感を与えてしまう。
私と一緒にいる時、彼女は時折悲しいような悔しいような顔をする。その理由はいつか聞かなければならないと思っている。
その日の夜、私はレインに会ってしっかりと話をしたいと思いレインを探したが、彼女は私の前に現れる事はなかった。
あんな事があった後だから、きっと彼女は会いたくないのかもしれないと思い、明日聞ける事を願って部屋に戻った。
眠れず部屋から月を眺めていると、レインが部屋に戻り眠りについたと連絡を受けた。戻ってこなかったらどうしようと思っていたので少し安心した。
今日の夜は雲のない綺麗な夜空が広がっている。綺麗な夜空はレインと初めて出会った時を思い出させる。
「あの日も無駄に綺麗な星空やったな…。」
8年前
「初めましてエイム様!私レイン・ウィンターです!よろしくお願いします!!」
元気よくお辞儀した女の子。
満面の笑みでこちらに笑いかける姿は、パーティーで言い寄ってくる女性と変わらない。
ただ鬱陶しいだけの存在だ。
だが社交辞令として、令嬢からの挨拶を無視する訳にも行かない。
「初めましてレインお嬢様、エイム・プレントと申します。」
俺はプレント家の四男。
お父様も兄さん達も俺に見向きもしない。
だから、ウィンター家が取り付けてきた勝手な婚約話も簡単に了承する。
俺は結婚なんてしたくないし、女性を好きになることもない。
このプレント家、いやお父様や兄さん達から自立して別の国を築く。
それが俺のめざしている生き方だからだ。
女性と結婚なんてしたら面倒なことになるに決まってる。ましてや四代家紋の女性となるとますます面倒だ。
あちらが持ちかけてきた婚約話を了承してしまったのだから、今更こちらから断る訳にはいかない。あちらから断るように仕向けなくてはならない。
「私は普段忙しいから、君と会うことは少なくなる。それを理解した上で頼む。」
「分かりましたわ!エイム様!」
冷たく当たったのに、彼女は泣くどころか笑顔を崩さない。噂でかなりワガママな悪役令嬢だと聞いていたのに、今見た限りでは普通の令嬢と変わらない。だがすぐにボロを出すだろうと考え極力関わらず彼女を放置した。
そして月日が経ったある日、ローラックが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「エイム様!レイン様が倒れられました!」
「はぁ!?」
しばらく見ない間に一体何をしたんだと思い彼女が運ばれた部屋へ向かった。
急いで扉を開けると、ベッドで苦しそうに眠っている彼女の姿があった。
医者に聞けば、過労で発熱し倒れたそうだ。
元から体が弱い彼女は、ダメだと言われていた家紋稽古を私に内緒で受けていた。
プレント家は剣の家紋なため、剣技に優れた者は当主に近づくとされていた。
まずこの国で女性が婚約すると、婚約した男性の家紋に合わせた稽古を受ける。
ある程度認めらる実力になった時、その家紋へ入る事が認められる。
しかし、レインは体が弱いため剣技の稽古をしないようにとウィンター家からプレント家へお願いをしていた。
もちろんお父様は興味が無いため適当に了承していた。まぁ、俺も無理をして面倒事にされては困ると彼女には剣技の稽古をしないように言っておいた。
そのはずだったのだが…。
「ローラック、しばらく誰も入れるな。俺と彼女二人っきりにしてくれ。」
「かしこまりました。」
ローラックは先程まで看病していたメイドや来ていた医者を部屋からだし、部屋には俺と寝ているレインだけになった。
苦しそうに眠る彼女の横にぬるくなったタオルが落ちていた。仕方なく拾い横に置いてある桶の冷たい水に浸す。
強く絞り彼女のおでこに乗せると、少し苦しんでいた表情が和らいだ気がした。
婚約者である自分が彼女を心配して看病しに来るのは、周りからすれば普通のことなのかもしれないが、俺からすれば女性が倒れたと聞いて駆けつけている今の状況ですら不思議だ。
いつもの俺ならこんな事、気にしないはずなのだが…一体どうして彼女にはこんな事をしてしまうのだろう。
初めてあった時の笑顔が忘れられないからだろうか、ウィンター家の令嬢だからだろうか。自分でも理由が分からない。
ローラックが言うには、剣技の稽古をしていたのは、俺と婚約者になったのだから体が弱いという理由くらいで怠る訳にはいかないと何度も剣技の師範に言ったらしい。
それは彼女の完全なワガママだ。
「ハハハッ…君は本当にワガママな令嬢のようだな…。」
ただ真面目で頑固なワガママ令嬢。それが彼女らしい。噂のワガママとはだいぶイメージが違うが、ワガママな事に変わりは無い。
こんな普通の女の子を俺がそばにいるせいで争いに巻き込むことなどあってはならない。
そう思うのは、年の差のせいかもしれないけれど、ひとりの愛するつもりもない女の子を厳しい環境に置き続けるのは良くないのではないかという良心に嘘は無い。
私はその日から彼女とより距離を置き、彼女から私と婚約破棄を言い出すように仕向けていった。
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