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2節[第二章]
第七十二話『まるで初心のよう』
しおりを挟む「しかし私たちは既に婚約者同士だからな…。今更恋人のように付き合ったというのは不自然だな…。」
突然何かに気づいたように悩み始めたエイム様は、そんな事をいいだした。
確かに今更恋人というわけにもいかないし、かといって今の婚約者のままというのも気まづくなるのは見えている。
正直今から私とエイム様が恋人のようにイチャついても周りからすれば違和感はないのだろうけど…。
「式を挙げるちゃんとした夫婦になるか?」
「えっ!?///」
「君が私の妻として正式になれば、君を自動的にそばに置いても普通になると思ったのだが…」
「そんな事しなくても、エイム様の隣に私はいるつもりですよ?」
エイム様から告白された今、私はもうゲームのストーリーや悪役令嬢という言葉に縛られず、エイム様の隣で生きると決めたのだ。
悪役令嬢“レイン・ウィンター”ではなく、この世界に転生した“園田萌として。
私が好きになった人とずっと幸せに生きていく。これが今の私の真っ直ぐな気持ち。この人の傍にいたい、この人の笑顔を見ていたい。
「私はエイム様の傍で生きていたいと思っています。どんな記憶に阻まれても、エイム様の傍にいたいです。」
今の私は自然と顔が綻んでしまっているのかもしれない。当事者のエイム様は顔を紅くしてそっぽを向いてしまった。照れているエイム様はボソボソと何かを言っているが、よく聞こえない。
「エイム様?」
「君は…恥ずかしいことをスラスラと…。」
「それは…エイム様が一番言ってはいけないのでは??」
「いや…男性が女性を口説く時、あれくらいの謳い文句は言うものだろ?」
「では、あの言葉はその謳い文句で本心ではなかったと?」
「ッッ!?…そんな事はない!!」
そっぽを向いていたエイム様が勢いよくこちらを向いた。焦ったように振り向いたエイム様は、後になって自分が恥ずかしい事を言ってしまった事に気づいたようだ。
見たことがないエイム様の姿を見ると、ここがゲームの世界であると忘れてしまいそうになる。それが堪らなく嬉しい。
「俺を揶揄わんといてくれよ…。君に揶揄われると、満更でもない自分がいるのが分かって余計に恥ずかしい…///。」
また俺に戻ってる…しかも関西弁だ…。
「フフっ、エイム様?関西弁になってますよ?」
「あっ…いや!別に動揺しているわけでは…!」
凄い、全部自分で暴露してる。相当焦ってるんだろうな…。あぁ、駄目なのにもっとからかいたい自分がいる…。
「普段大人なエイム様が、私に躍らされてる姿なんて、今の状況はかなりレアですね!ちょっと楽しい…。」
クスクスと笑っていると、隣にいたエイム様が私の上に覆い被さっていた。顔が急に近くなり、心拍数が上がる。
「あっ…あの///エイム…様?」
「あんまからかい過ぎてると、俺も我慢せぇへんで?」
「へぇっ!?///」
心臓の音が五月蝿すぎる、体が熱い。エイム様の顔が段々近づいてきておもわず目を瞑る。
その後きたのは柔らかい感触。額に感じたその感触は一体何なのか私には分からなかったが、余裕そうに笑うエイム様を見て、私の体はさらに熱くなった。
「君の許可なしに初めてを奪うわけにはいかないからな。今はここにしておく。」
額に向かって指をさしながらクスリと笑うエイム様は、先程まで動揺していた姿すらかき消してしまう程、妖艶だ。
私にはそんなもの前世から無縁だったので、見ただけで精神的な限界が来てしまった。幸いかそのまま私は気を失って眠りについてしまった。
眠りについている間、優しい暖かさを持っている手が私の手を握ってくれていたのを感じていた。あれはきっとエイム様の手だと私は思う。
その温もりは私の記憶などかき消してしまう程にグッスリとした眠りに誘ってくれる。朧気ではあるけれど、とても幸せな夢を見ていた気がする。
目が覚めると、部屋には私一人だった。辺りを見回していると、扉が開きシャツ姿のエイム様が二人分の紅茶を持ってきていた。
「おはよう、レイン。」
「おはようございます、エイム様!すみません…私、勝手に寝てしまって…!」
「疲れていたのに話に付き合わせてしまったのは私の方だからな。ほら、紅茶は私と同じ銘柄だが構わないか?」
「はっはい!ありがとうございます…!」
エイム様が淹れた紅茶を手に取り少し眺める。昨日の出来事がまだ夢のような気がしてならない。エイム様に全てを打ち明けて、互いの気持ちを知って本当の意味で互いに好きだと知る事が出来た。
かなり色んなことが一気に進んだ気もする。昨日エイム様にキスを落とされた額に再び熱が集まっている事に気づいた。
横目でエイム様の顔を見ると、笑顔で返され思わず紅茶を一口飲んだ。
「…美味しい。」
「それは良かった。」
モーニングティーとは思えないほど優しく爽やかな味と香りに驚いた。エイム様と同じものを飲んでいると気づいたのは寝惚けた頭が冴えてきてすぐだった。
「エイム様、今日はどうなさいますか?」
「そうだな…海は昨日遊んだから、買い物でもどうだ?この付近には珍しいアクセサリーを売っている店があるそうだ。」
珍しいアクセサリー??興味あるかも…それに、エイム様が提案してくれた所だから。
「行ってみたいです!」
「よし、決まりだな。早速準備しよう!レインも準備をしておいてくれ。」
「はい!」
こうして、私とエイム様のお出かけ2日目が始まった。
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