【完結】それは、覚めて欲しくない夢だった

ぴえろん

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6 美しい夜

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「おかえりなさい、咲良。」

家に帰ると、お母さんが夕飯の支度をしながら出迎えてくれた。

美味しそうな匂いにつられて、さっきファミレスに寄ったにもかかわらずお腹が鳴った。


「もうご飯出来るよ!その前にお風呂入っちゃいなさい。」

「はーい!」


制服を脱ぎ捨てお風呂に入り、夕食を食べたあと。
ベッドの中で明日もこの世界にいるか不安に思った。

眠って起きたら、元の世界に戻っていたりしないだろうか。

私はずっとここにいたいのに。


いっそこのまま一晩中起きていようと思った私は、ベッドから飛び出しこっそり家を出た。

なんとか朝が来るまで眠気に耐えよう。


そう思いながら散歩も兼ねて外を歩く。

歩きながら、そういえばこの辺りに川沿いがありそこは桜の並木道になっていたことを思い出した。


校門の桜も満開だったし、きっとあそこも綺麗に咲いているはずだ。

そう思った私は、並木道を目指して歩き出した。



家から10分ほど歩いた時、ようやく並木道が見えてきた。
思わず立ち止まる。



予想通り満開の桜が両側に規則正しく並んでおり、桜の花を風に揺らしていた。

その度に花びらが舞い、月明かりがやさしく照らしていた。


「…綺麗。」

小さな声でぽつりと呟いた。

本当に綺麗だ。
まるで、別の世界に来てしまったのでは無いかと錯覚してしまうほど。


桜の並木道を歩いて時折桜を眺めていると、後ろから足音が聞こえた。

思わず振り返り警戒する。

「咲良、こんな夜中にどうして出歩いているの?」

しかし、そこにいたのは雪乃だった。


「…なんだか、眠れなくて。」

雪乃だと分かりほっと胸をなでおろす。

そんな私の横に雪乃が寄り添うように並んだ。

「じゃあ、一緒に歩こう。」


2人で桜の並木道を歩いた。

雪乃と二人で歩いていると、歩きながら雪乃との春の思い出が頭を掠めた。

初めて友達になったのは、入学式の時。
あの時も桜が咲いていて、綺麗だった。

雪乃の横顔を眺める。

雪乃は、整った顔をしている。
だから、高校を卒業したらすぐに結婚して幸せになる人だとそう思っていたのに、あんな事になってしまうなんて。


いや、あれは悪い夢で、こっちが現実だ。
雪乃は生きている。今こうして。

そう思った時、ふいに言葉が口をついて出た。

「ずっと、ここにいたいな。」

そう言ってしまってから口を抑える。

こんなことを言ったら、雪乃にまた変だと思われるだろうか。 

雪乃が私を見た。


「…それは、できないよ。」

「えっ?」

予想外の言葉だった。

頭が真っ白になる。

「あ、ああ。そうだよね。お互い明日も学校あるしもう帰らないと…」

慌ててそう言うと、雪乃は静かに頭を振った。

「咲良、そうじゃないでしょう。」

「.......。」

「本当は、分かってるんでしょう?」

雪乃の意味深な言葉に、言葉を失ってしまう。

どういう意味なの、雪乃。

ここはやっぱり現実じゃないと言いたいの?

目の前にいる雪乃も、花を散らす夜桜も。
何もかも泣いてしまいそうなほど綺麗で儚いのに。



それなのに、儚いんじゃなくて、本当は無いのだと言いたいの?


「咲良。」

いつの間にか目から大量に涙がこぼれていた私の手を雪乃が握った。


「そんなに泣かないで、咲良。」

「だ、だって雪乃が…!」

変な事を言うから、そう言いたのに泣いているせいで言葉が途切れる。

「雪乃… 、この世界は夢なの?もう消えちゃうの?」
 
私は泣きじゃくりながらそう聞いたが、雪乃は悲しそうに微笑むだけだった。

「嫌だよ、私。夢でもいいからずっとここにいるよ。」

「咲良、だめだよ。それでも前に進まなきゃ。」 

「どうして?」 

雪乃の言葉に思わずそう聞いてしまう。

雪乃はそっと、私の頭を撫でた。

「ね、私達だって今までずっと幸せなわけじゃなかったでしょ?
友達と喧嘩したり、勉強して結果が出なかったり、失恋したり。」

「そうだけど。でも、そんなの今思えば幸せだったよ!」


雪乃が私の言葉を聞いて優しく笑った。

「それは、時間が経った今だからそう思うんでしょ?

だから、これからだってそうだよ。」


雪乃が私を優しく抱き締めた。


「今、必死にもがいて生きていることも、きっと時間が経てば幸せだったと思える日がくるよ。」


雪乃の顔を見つめる。
ずっと見ていたいほど綺麗だ。

だけど。

雪乃から身体を離した私は、1歩前へ進み出た。


「あーあ。もう少し居たかったな。明日も学校があるのに。」

「咲良…。」


「分かってるよ。」

お互い黙ってしまい、沈黙が流れる。

夜桜だけが、そんな私たちを静かに見守っていた。


「雪乃。貴女は本当の雪乃なの?それとも私の頭の中で作り出した雪乃なの?」

そう聞くと、雪乃はしばらく俯いた後顔を上げて少し意地悪く笑った。

「咲良の信じたい方でいいんじゃない?」

だから私も、雪乃に笑ってみせた。


「それもそうだね。」

桜を見上げる。

この夜桜も、暗い中でこんなにはっきり綺麗に見えるのは、やっぱり私がそうであって欲しいと願うからだろうか。


「じゃあね、咲良。」


「うん。さよなら、雪乃.......。」

雪乃は後ろで私の事を見送っている。

私は迷うことなく桜の並木道を1人で歩いていった。


これが夢か、それとも現実か、未だに自分の中ではっきり決められないけれど。

でも、この道を進めば目が覚めるのだと直感的に思った。


光が見えはじめた。

あれが、この美しい夜の出口なのだろうか。

後ろ髪を引かれながらも、わたしはその光の中に飛び込むことにした。


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