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売れるような絵を描くとは言ったけど・・・。

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とびっきりの絵って何・・・?

何を描いたらそうなる?



一人ペンを握りしめたまま、紙には何も描けずにいる私はひたすらそんなことを考えていた。

あれからルクスとイグニスは街へ出て行ったし、エリザも用があるからとどこかへ飛んで行ってしまった。

残された私はただ一人、とびっきりの絵のアイディアが浮かばないまま森の中でぼーっとしている。



元々絵は趣味で描いていただけで、私はプロじゃない。

プロを目指そうとしたことはあるけど、夢のままで終わってしまっているし。


ここに来てから奇跡的に出会ったテオに絵を褒められたことはあるけれど。


皇太子殿下のテオはきっと、普段から高尚な絵画に囲まれているから、私のような素人が描く絵が珍しかっただけかもしれない。

テオは・・・もう私の事なんて忘れているかもしれないな。


そういえば、と、ふとあの夜会での出来事が思い起こされた。

あの夜会でテオは「俺にはやらなければならないことがある」から国を継ぐ気は無いって言っていたけど、そうまでしてやらないといけないことってなんだろうか。

国王になるのは面倒だからと他の理由も言ってはいたけど、それは単に建前で本当に大事なのはその「やらなければならないこと」なんじゃないだろうか。

それって一体なんだろう?

私は急にテオのやりたいことが何なのか気になり始めた。

テオにもわたしと同じように趣味があるとか?夢があるとか?


そこまで考えた時、頭をぶんぶんと振った。

いけない。一人で考えるとついつい思考が逸れてしまう。


とにかく描くのよ!
・・・でも何を?


思考がループしかけた時、後ろでガサゴソと物音が聞こえた。

こんな人気のない森で音がするなんて、一体何・・・?

恐る恐る振り返ってみる。


そこには、立派な装飾品を誂えた馬と、その馬にまたがる青年がいた。

ユリアより少し年上だろうか?




馬がこの辺りを歩いていた音を聞き逃すほど、ぼーっとしてしまったせいで、ここまで近づかせてしまってから気が付いた私は、驚いて何も言えなかった。


青年は馬の上から私を見降ろして言った。


「こんなところで何をしているの?」


「えっと・・・。」


いきなりそう聞かれ返答に困る。

お前こそここで何しているんだ、と言いたいが、身なりから察するに恐らくこの青年は貴族だ。

そんな青年にそんな口をきけば、こっちが悪いことになる。


何て答える?

この薄暗い森で、ここで暮らしています、なんて正直に言ったら怪しまれる気がする。


「み、道に迷ってしまって・・・。」


結局口から出てきたのはハッタリだった。


「そうなんだ、じゃあ僕が街まで案内するよ。」


「あ、ありがとうございます。」


ひくつきながらお礼を述べる。

案内などいらないし、むしろこの森から出たくないのだが、嘘をついてしまった手前、もう後には引けない。



「さあ、この馬に乗って。乗り方は分かる?」



「いや、わからないです・・・。」


「ここに足を掛けて、僕が手伝うから。」


言われるとおりに足を動かし、なんとか馬の背中にまたがった。

景色が高い。同じ景色でも、馬の背から見ると少し新鮮さを感じる。


そんな私の後ろに、男が身軽に馬に飛び乗った。


「わ、え!?」


揺れる馬にしがみつき、驚いた声を上げた。


「大丈夫?馬は歩くともっと揺れるけど。」


「・・・大丈夫です。」


馬の揺れより、距離の近さの方が気になる・・・!

馬の背は広くないので仕方ないが、知らない青年とここまで密着するのはさすがに緊張する。

しかも、青年はびっくりするほど顔が良い。

テオも美形だったけど、テオとはまた違ったカッコ良さだ。


思わず赤面してしまう私は、青年が今後ろにいてくれて心底良かったと思った。



青年が馬を走らせ、数分後には森の出口が近づいていた。


「そういえば君、名前は何て言うの?」


「ユリアです。」


「そう。ユリアね。可愛い名前だね。」


随分女慣れしてそうな口ぶりに、今言った言葉は女性にはよく言うセリフなんだろうな、となんとなく感じた。


「ユリアはさ、どこかの家のお嬢様だったりする?」


「えっ!?」


いきなりそう聞かれて戸惑う。

もしかして、フリージア家の娘だと気が付かれた・・・?


「あれ?本当にそうなの?」

その反応を見てようやく、なにか知っているわけではないのだと分かり安心した。


「違いますよ、ただの平民です。」


「そっか。驚くから本当にそうなのかと思ったよ。

ユリアは美人だから、お嬢様でもおかしくないなとは思ったけどね。」


不意に容姿を褒められたので再び赤面してしまった。

この男といるとなんだか調子が狂う。


早く街に着いて、この男と離れなければ。


馬に揺られながら、森を出るまでそんなことを考えていた。




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