【完結】悪役令嬢に仕立てあげられそうですが、私は絵を描きたいだけなんです。

ぴえろん

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ローラの歌声が響くとき

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ローラは大きく息を吸った。

何度もこの場面を見てきた私には分かった。今からローラは歌うのだと。


ローラは口を開けて、まるで女神のような美しい音色で歌を歌った。

今まで聞いた中で一番綺麗な歌声だった。


誰もが聞き惚れてしまう様な、それこそ、心を奪われてしまうような。


ローラが歌い始めて間もなく、辺りが騒がしくなった。

何かが崩れるような、そんな音があちこちで聞こえ始めた。

それだけでなく、かすかに部屋全体が揺れている。

一体、何事?

下のパーティー会場で何か騒動でも起きたのだろうか。


すると、部屋の扉が勢い良く開いてレインが飛び込んできた。

二度と閉まりそうにないその扉を見る限り、どうやら力づくで蹴破ったらしい。

先ほどまでレインを取り押さえていた人たちが、全員倒れているのが開いた扉の隙間から見えた。

レインって案外強いのね。


「ユリア!!!」


呆気に取られている私に構わず、レインが私の腕を引っ張った。

その衝撃のおかげで、瞬時に我に返った。


「待って、レイン!まだローラと話し終わっていないの!」

まだ、肝心な事が何も聞けていない。

分からない事が増えただけだ。


しかしレインは首を縦には振ってくれなかった。


「ユリア、申し訳ないが一旦諦めてくれ。この城はもうだめなんだ。

魔物が大量になだれ込んできている。早くここから逃げないと!」


レインが私の腕を、今度こそ離さないとでもいうかのように強く握った。


「ローラ、君の仕業だよね?君は歌で、人だけでなく魔物も操れるのか。」



レインが鋭くローラをにらんだ。


ローラは、ふふっと楽しそうに笑った。


「そうよ。このためにパーティーを開いたんだから。」



ローラがもう一度歌声を出すと、異形の姿をした獣が2体、レインが蹴破った扉から入ってきた。


「本当の私の事を知りたいと言ったのに、もう行ってしまうなんて冷たいわ、お姉様。」


ローラが甘ったるい声を出して、したり顔で笑う。



「それにまだ、パーティーは始まったばかりですのに、いけませんわ。」


獣が唸り声を上げてこちらに襲い掛かってきた。


思わず目を瞑ってしまう。


しかし、次に目を開けた瞬間には、魔物は血まみれの無残な姿で床に転がっていた。


「レイン、ありがとう。」

血に濡れた剣を握りしめているレインにお礼を言う。


レインは、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

魔物といえど、生き物を殺すのは嫌なのかもしれない。

私だってそうだ。


どこからか悲鳴もかすかに聞こえてくる。

私だけでなく、このパーティーに来た招待客も魔物の餌食になっているのかもしれない。

パーティー会場ではぐれた妖精たちは無事だろうか。

さすがに人間と違って飛べるから、そう簡単に魔物に捕まったりはしないだろうけど。

それでも、心配だ。

早く、ローラを止めないと!


「ローラ、お願い!やめて!みんな死んでしまうわ!」


そう叫んだ私を、ローラは鼻で笑った。



「だから、言っているじゃない。

みんな死ぬのよ。この国は今日をもって滅ぶの。」


「そんな・・・!ローラの家族たちだってこの会場にいたのに・・・?」

私がそう言っても、ローラはただ笑うだけだった。


「あんな人たち、初めからどうでも良かったわ。」

そんな言葉を吐き捨てるように言った。

揺れが大きくなり、まともに立てない私をレインが抱きかかえ走った。


「話の通じる相手じゃない!とにかくここから出よう!」



レインは叫ぶローラにお構いなしで部屋の外に出た。

ローラは、追ってくる気配はなかった。


魔物に阻まれて、逃げられるわけないと踏んでいるのかもしれない。

実際、部屋の外にも魔物が大量にいた。

一体この短時間でどうやって湧いたのか、不思議に思うほどだ。


「元々この城に潜ませていたんだろうな。魔物の目撃情報が多かったのは、

ローラが引き寄せていたんだ、この場所に。」


レインの言葉を聞いて、改めて周囲を見渡す。

こんなにたくさんの魔物を・・・。


一体いつから準備していたの?

もしかして、最初からこれが狙いだったの?


レインが魔物を上手く交わしながら、私を抱いたまま廊下を走っている。


「レイン!私、自分で走るよ!」


しかしレインは首を振った。


「また一人でどこかに行かれたら困るからね。居心地悪くても我慢して?」


レインがそう言いながら私に微笑んだ。

どうしてあなたはここまで私を助けてくれるの?


その疑問を、声に出す代わりに、私はレインに強くしがみついた。


やっとたどり着いた、城の出口に繋がるパーティー会場は悲惨だった。

あんなに煌びやかで優雅な空間だったはずなのに。


壊された壁。崩れたケーキ。散らされた花びら。

あちこちで血を流して倒れている人たちが、会場を真っ赤に染めている。

そして、大暴れしている魔物から逃げ惑う人たちの、阿鼻叫喚で埋め尽くされていた。


「どうしよう!みんなを助けないと・・・!」

私の言葉を聞いて、レインが顔をしかめた。

「無理だ、ユリア。そんな事をして、もし君を失ってしまったら意味がない。」


「私は・・・」

私は大丈夫だから、とは言いたかったが言えなかった。

この魔物がたくさんいる中、レインが離れて自分が死なずにいる自信が持てなかった。

もう一度周囲を見渡す。

多くの人が逃げ惑っている。

その中に、金色に輝く髪色の男が瓦礫に挟まれているのが見えた。


「レイン!あれ、皇太子殿下じゃないかな?!」


私の声に、レインがそっちに目を向けた。


「ああ、そうかもね。さあ、このまま進むよ。」


「待って、レイン!テオを、皇太子殿下を見捨てるの!?」


私の言葉を聞いても、レインは大した反応を見せない。


「見捨てないなら何?まさか、あの男を助けろって?

君を裏切った男を助けるなんて、絶対に嫌だよ。」


むしろ、嫌がっているようだ。


「レインは公爵家でしょ!皇太子殿下を見かけたらせめて助けなきゃ・・!」



私がそう言っても、レインはテオを助ける気は無いようで、出口へ向かって歩みを進めていた。


「テオなら…!テオなら何か知っているかもしれないし!お願いレイン!」


泣きそうになりながら叫ぶと、レインはようやく踵を返した。


「全く、他でもないユリアの頼みじゃなければ、絶対にこんな事しないのに。」


レインはぶつくさ言いながら私を一旦降ろし、テオが挟まれている瓦礫をどかした。


「さあ、早く出なよ。男なら、ここから自力で出て。」


テオは弱々しくなりながらも、なんとか瓦礫から這い出てきた。


「すまない。ありがとう。」


テオがそうお礼を告げたが、レインはまるでテオに興味がないらしく、私を再び抱きかかえた。


「レイン、私じゃなくてテオを抱えた方が・・・」


「いや、ユリア以外抱えるつもりはないね。」


テオの方を見ると、なんとか歩けそうだが怪我のせいか早くは動けないようだ。



「テオの事は任せて!」


その声に振り返ると、パーティー会場ではぐれてしまっていた妖精の3人が飛んでいた。


「エリザ、ルクス、イグニス!良かった、無事だったのね・・・!」


ルクスとイグニスが人間形態になり、テオを支えた。


エリザが私の方へ寄り添った。


「みんなで逃げましょう。」


エリザがそう言って、私も強くうなずいた。


こうして、私たちはなんとか魔物が溢れる城から脱出したのだった。




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