【完結】悪役令嬢に仕立てあげられそうですが、私は絵を描きたいだけなんです。

ぴえろん

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とある堕天使の話

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僕が初めて魂の看守を任されたのは、今からおおよそ1000年前。

人間たちの年号でいえば、約11世紀。ヨーロッパやイギリスなら中世の時代を迎えている頃。


全知全能の神から承った、偉大な仕事だった。

看守の仕事は、主に魂を悪魔に盗られたりしない様、見守る事。

最初は手厚く丁寧に人々を見守っていたが、人は次第に繁殖していき、数はどんどん増えていった。

天使は生き物と違って繁殖したりしないから、魂の看守たちの仕事は増えるばかり。

その中で、日本という国は看守の僕らからすると楽な部類に入る国だった。


その一番の理由は、悪魔崇拝と言う概念が無いから。

だからすっかり、僕は日本に意識があまり向かなくなっていった。



それから900年近く経ち、ついに僕の運命を変える日が訪れた。

ちょうど日本を見回っていた僕は、本当に偶然その場に居合わせた。

車と女の子の衝突事故。

結末は、とっくに分かり切っている事だった。

女の子は頭から多量の血を流し横たわっていた。


ああ、あれはもうだめだ。助からない。直に息を引き取るだろうから、その時に魂を回収しよう。

僕はすっかり油断していた。

死ぬ寸前の魂に、誘惑をしてくる悪魔がいるなんて思わなかったから。


それもこの、悪魔崇拝の概念があまり無い日本で。


悪魔が現れた時、僕は一瞬呆気に取られてしまった。

なぜ、どうしてこんなところに悪魔が?

そんな事を考えた次の瞬間には、もう女の子の身体からは魂が抜けてもぬけの殻になっていた。

急いで悪魔を追ったが、見失い、僕は情けない姿で神の元に戻った。



そして、叱責された。


「魂の看守であるお前がいるというのに、死ぬ寸前の魂を悪魔に奪われる等言語道断。





サリエル、お前はもう今日から天使ではない。あの人間の魂を救済するまで、天界に戻ることは許されない。」




当然だ。僕の怠惰が、こんな事態を招いてしまったのだから。


天界を追い出された僕は、女の子の魂を必死に探した。

だけど、世界中のどこを探しても、彼女は見つからなかった。

途方に暮れた僕は、ここまで見つからないのは、彼女の願いが原因ではないかと考えるようになった。


そこで僕は探すのではなく、まず彼女の人間性を調べる事にした。


彼女の部屋、家族構成、学校での生活、友達との関係性。

全てを把握するべく、人として人間界に潜り込み、色んな場所で彼女の話を聞いた。


その中で分かったことは、彼女はとにかく普通の人間だった。

友達とも当たり障りのない関係性を築き、学校でも目立つような存在ではない。

家族との仲も普通。彼女は三人兄弟で、兄弟とも親とも、友達と同じように当たり障りのない関係だった。


逆に言えばそれは、誰とも特別な関係にはなかったと言う事。

いても居なくても、あまり影響の無い存在。

彼女は誰かに特別愛されることも、親しまれることなく。

誰からも特別視されない、まさに空気のような存在で、平凡に生きてきたようだ。


そんな彼女にとっての心の支えが、「聖女と王子様の幸せな結婚」という少女漫画。


恐らく彼女は、ヒロインと自分を重ね合わせて漫画を読むことで、満たされない心の隙間を埋めていたのかもしれない。


不幸な境遇に会いながらも、聖女という特別な存在で、王子様から愛されるヒロインを。


彼女の部屋で、その漫画を見つけた時、有り得ないとは思いつつ、考えた。


彼女が悪魔に願った事は、もしかしたら・・・。


そこで僕は、視点を変えて彼女を探すことにした。

この世界中を探してもいないのだから。この世界ではない場所を。


手当たり次第に探して、彼女の事故から数か月後。

ようやく、あの女の子を見つけた。

すっかり変わり果てた姿だった。


若々しい10台前半の少女だった彼女は、年老いた老婆の姿でベットに横たわり、死期を迎える所だった。

まだ、こっちでは数か月しか経っていないのに、この世界では彼女の死期が来てしまうほど時間が流れたようだ。

悪魔が作った世界なので、時間の法則は滅茶苦茶なようだ。


「間に合って良かった。」

僕の声に反応し、焦点の合わない瞳で彼女は僕の方を見た。


「さあ、現実世界へ戻ろう。君はまた、生まれ変わってやり直すんだ。」


彼女の魂を大切に抱え、僕は悪魔の作った世界から現実世界へ彼女の魂を持ち帰った。


そして彼女は無事、20年後に「美優」として生まれ変わり、神の言う通り彼女の魂を悪魔から取り戻した僕は再び天使へ戻った。


それからまた20年の月日が流れ、彼女は大人になった。

天使に戻り、再び魂の看守を任された僕は、美優の事を見守る余裕は無かったが、それでも気には掛けていた。

時折、彼女の姿を確認し、無事なことが分かると安心していた。


もう二度と、悪魔に堕ちさせてはいけない。

そう、思っていたのに。


いつからだったか、美優の周りで一人の天使がうろつくようになった。

見たことのない顔だった。


誰かが新しく魂の看守を任されたのだろうか?


真っ白な翼に、金色の髪。

僕はすっかり見た目に騙されてしまっていた。
それが、本当はあの時の悪魔とも知らずに・・・・。



ある日、いつものように美優の姿を確認しに行った。

前に見た時、落ち込んでいるように見えたから、心配で来たのだ。


ところが美優はその日、自宅のアパートにはいなかった。


変だ、仕事はもう終わっている時間のはずなのに。

まさか、また残業させられているのか?

慌てて美優の職場に飛んでいったが、職場にも彼女の姿は無い。


どこに行った?最近できた彼氏のところか?


美優は最近、マッチングアプリで知り合った男と交際を開始していた。


僕は美優の彼氏を探すと、そいつは美優の職場から近い喫茶店で一人コーヒーを飲んでいた。


ここにもいないか・・・。

そう思って去ろうとした時、美優の彼氏の向かいの席に知らない男が腰を掛けた。

美優の彼氏の友人だろうか。

聞くつもりはなかったのだが、ちょうど会話が聞こえてきてしまった。

「今日、彼女と会うって言ってなかったか?」


「あ~。ついさっき別れてきた。」


「え!早くないか?」


「ああ、向こうから言われたから。まあでも、陰気な女だったしちょうど良かったわ。」


その会話は、僕にとって許せるものではなかった。


「ついでに、今までのデート代返してもらったから、この金で焼肉でも行こうぜ。」


「お前、めっちゃ最低な奴だな(笑)」



・・・・美優、どこにいるんだ!

慌ててその場を離れ、僕は美優を探し回った。

ようやく美優の後ろ姿を見つけたが、その時にはもうすでに遅かった。

崖の上に立つ美優に、頭上から最近美優の周りをうろついていた天使が何か話しかけていた。


あれは一体・・・。


僕が近づこうとしたら、美優はその少年とともに消えてしまった。


そこでようやく思い出した。

まるであの時と同じだ。


美優が生まれ変わる前に、交通事故に遭い、悪魔が瀕死の美優を連れ去ってしまった時と。



僕は急いであの漫画の世界に行った。

こちらの世界ではあれから40年ほどの時間が流れているのだが、時間の流れが速い悪魔の作った世界ではもう数百年ほどの時間が経っていた。


前に来た時とは大きな変貌を遂げている世界は、ある意味完成されていて、現実世界と同じように1つの世界として完全に成り立っていた。


あの悪魔に僕の存在を気付かれてはいけない。その為には・・・・。


ちょうど僕の目の前を、40代半ばくらいの男が通り過ぎて行った。

豪華な服に身を包み、騎士と共に歩くその姿は、この世界でまあまあな地位を築いているように見えた。


騎士が男に声を掛けた。

「フォールスト公爵様、本日はこちらの家の伯爵とお茶会でございます。」



なるほど、あの男は公爵家か。

現実世界と同じ法則なら、公爵とはかなり高い身分のはず。


僕はその日、天使をやめた。

これまで天使の立場で皆を平等に見守らなくてはいけなかったから、美優の傍にいることが出来なかった。

僕が美優の傍にずっといて守っていれば、こんな事態を防ぐことが出来たのに。

神に怒りさえ覚える。

今の僕が守りたいのは、もう人類全員じゃない。

たった一人の魂だけ。

それが天使の立場ではできないのなら、もうそんな立場はいらない。

背中の羽が、砂のように粉々になり、風に吹かれて消え去った。


これでいいんだ。

これからは、あの人の傍を歩くことさえできれば、それで事足りてしまうのだから。

それに、堕天使になった時にだけ使える能力がある。

翼なんかより、よっぽど役に立つ力。


赤い光を宿した瞳で、僕はフォールスト公爵に近づいて見つめた。


「これからは、僕が貴方の代わりにフォールスト公爵になろう。異論はないね?」


公爵は、光を失った瞳で僕を見ていった。


「承知いたしました。これからは、貴方が、レイン・フォールスト公爵です。」

赤い光を宿した瞳は、邪悪な力だ。

この瞳で相手の目を見れば、絶対的な服従が叶う。

そして、ここは所詮僕より格下の悪魔が作った世界。

基本的に僕の思い通りに世界を動かすことが出来た。

現実世界で言うところの、チートキャラに近いかもしれない。

その上、公爵という身分も手に入れたので、美優を探す準備は万全だった。




美優。

待っててね。僕が必ず、また君を見つけるよ。


僕は君の事を、40年近く見守ってきた。


これが、情なのか、それとも人間界でいうところの愛かはまだよく分からないけれど。

これだけは間違いない。

僕にとって君は、特別な存在だ。







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