聖少女(セイント・ガール)

野宮雪菜

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「聖少女」となれ(6)

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「ねえ、莉子ちゃん。そのブレスレット、すてきね」
「え?」
 大学の講義が終わった後、友人に言われ、莉子は左手首を見た。
「ああ、これ? 嫌な奴がはめていったの」
 素直に本当のことを言ったつもりだったが、友人は色めきたった。
「なにそれ、男の人!? もしかしたらその人、莉子ちゃんのこと好きなのかもしれないよ?」
「それはない」
 
 きっぱり言ったが、友人の耳には届かない。きゃっきゃと騒いでいる。
 ふと、莉子は思った。
(この子に引っ張ってもらおうか)
 ブレスレットに関して全く無関係な彼女なら、外してくれると思ったのだ。

「あのさ。これ取りたいんだけど、一緒に外してくれない?」
 莉子が言うと、友人は戸惑った。
「え……。いいの?」
「うん」
 
 2人でうんしょうんしょと引っ張ってみたが、ブレスレットはびくともしなかった。
「病院に行くしかないかもよ?」
 友人に言われ、莉子は頭を抱えた。
「そうね……。ありがとう」

 友人と別れ、莉子はブレスレットをなでた。
 ラファエルの言葉を信じるなら、無理矢理外そうとすれば手首が腐って落ちる。それだけはごめんだった。
 どうすればいいのか。

 家に帰ると、2人の部屋で陽菜がブレスレットと格闘していた。
「無駄だって」
 あきれたように言うと、
「わかってるけど」
 陽菜はため息まじりの返事をした。
 4人の天使がうらめしい。
「敵は4人の天使ってわけね」
「りこちゃん。天使は敵ってわけじゃ……。まあ、わかるけど」
 陽菜は控えめに言う。
「だいたい、人間の監視を人間にさせるなんて、天使の怠慢だとしか思えない」
 対して莉子は強気の口調だ。

 その時、ブレスレットが点滅した。
「え。何これ?」
「どこかに飛ばされるんじゃない?」
「冗談!」
 しかし冗談ではなく、2人は圧迫感を覚えながらある場所に来ていた。
 
 そこはマンションの一室らしく、女性がもうひとりの女性を刃物で切りつけようとしていた。
「この泥棒猫!」
 刃物を持った女性は、憎しみの光で目をギラギラさせている。
 対する女性は刃物を突きつけられているというのに、どこか余裕だ。
「スキがあるからでしょ? 彼はあなたのことを退屈だって言っていたわ」
「なんですって!」
 修羅場にでくわした。

「あわわわわ。ちょっと待って! やめましょうよ」
 あせる陽菜を莉子は制した。
「やめなさい。危ないわよ」
 また妹を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
 刃物を持った女性が血走った目でこちらを見た。そのすきに、もうひとりの女性が花瓶を持ち上げる。

「危ないっ!!」
 どちらの女性に言ったのか自分でもわからないまま、莉子は叫んだ。
 刃物の女性は、今まさに切りつけようとしていた相手が、花瓶を振り上げようとしているのに気づき、ぎょっとする。
 莉子と陽菜は、こういう時こそ雷光が出てきてくれないかとブレスレットをこすってみるが、何の反応もしない。

「そこまで」
 怜悧な声が響き、その場にいた4人は辺りを見回した。莉子は嫌な予感がした。
 果たして姿を現したのはミカエルだった。姉妹はうんざりとした顔をし、2人の女性は、いきなり現れた美青年に目を丸くする。
「人が人を傷つけようとするとは……。情けない。2人とも、もう一度人生をやり直してくるがよい」
 言うなりミカエルは、2人をその場から消し去った。莉子と陽菜は驚いて立ちすくんだ。

「あの人たちをどこへやったの!? ……まさか、殺したとか……」
 陽菜が震える声でミカエルを問い詰めた。しかし彼は、表情を少しも変えない。
「いいかげん、使命感というものを覚えたらどうだ。まあ数回しか仕事をしていない。それも無理だろう」
「なら、このブレスレットをどうにかしてよ」
 語気を強める莉子を、ミカエルはちらりと見た。
「それならば、もっと任務に励め」
 一言つぶやくと、彼は姿を消した。

「もう嫌! 病院へ行ってこのブレスレットを外してもらおうよ」
 陽菜が言った。
「そうね。ダメもとで」
 莉子がつぶやくと、陽菜は顔を輝かせた。
「とりあえず、行ってみようよ」
「そうね。ところで」
 莉子は視線をめぐらす。
「ここって、どこ?」
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