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第一章 推しがクラスにやってきた
頑張れ、私2
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学園長は気にするでもなく、にこにこしながら立ち去った。
私は案内を再開しようと振り返る。すると、彼らより頭一つ分背の低いオルトが、当然のように中心にいた。屈託なく笑いかけるから、推し達の口元も緩んでいるようだ。
――レアな笑顔が尊い! オルト、さすがはヒーローね。敵の懐に飛び込むのが上手いわ。たまには良いことするじゃない。
感動を噛みしめた私。
クラスに一旦戻った後は、彼らが滞在する予定の寮に向かう。
二階建ての寮は豪華な内装の二人部屋で、部屋の左右の壁に沿うようにベッドと机、衣装棚が一つずつある。女子寮も同じような造りだが、残念ながら男子と女子は別(当たり前ともいう)。そのため、案内を終えた私は、寮の説明をオルトに引き継ぐことにした。
「私からは以上です。あとは寮なので、オルト君と代わりますね」
留学生達に愛想良く告げた後、私はオルトの腕を引き、小声で耳打ちする。
「いい、オルト。丁寧に案内して差し上げてね」
「うん。わかった」
彼は目を細めて、へにゃっと笑う。
オルトのファンは、子犬っぽいこの笑顔に弱いらしい。
私? 推しが好きな私は、もちろん平気だ。
「レヴィー様に、慣れ慣れしい態度はダメよ」
「様って?」
「いえ、こっちの話。上手にできたら、プリンが出た時あげるから」
「本当!」
オルトはプリンが大好き。
何個食べても飽きないらしく、昼食にプリンが出る日は朝からそわそわしている。そんな態度も好感が持てると評判だったけど……そうかなあ?
ま、プリン一つで言うこと聞くなら、確かに可愛いかもしれない。
「ふぇっ!?」
歩き出そうとした瞬間、いつの間にか近づいていたディオニスが、私の手を握った。傍らにはレヴィーが立ち、美麗な二人が至近距離で私を見つめる。
「ありがとう、可愛いレディー。君の説明はわかりやすかったよ」
そのまま私の手を、口元に……
待って! いくら推しとはいえ、そこまで望んでないから。
私は慌てて手を引っこ抜くと、首を横に振る。
「いえ、学園の生徒として当然のことをしたまでです。こちらこそ、長時間お付き合いいただき、ありがとうございました」
小声で控えめに言ってみる。
「長時間」と口にしたけど、私にとっては一瞬だった。本当は、一生お付き合い願いたいけれど……
あくまでも推しなので、くっつきたいとか私だけを見てほしいなんて、そんな大それた野望は抱いていない。ただ、すぐ側で彼らの夢を応援したいだけ。
公爵子息のディオニスが、おや? というように片眉を上げた。従者のレヴィーは相変わらずの無表情。男爵家のクロムが眼鏡の縁を触り、侯爵子息のジェラールが腕を組んだ状態で肩を竦める。
アニメで見慣れた彼らの仕草に、私の胸はときめく。
名残惜しいけど一礼して、私はくるりと背を向ける。足音が軽くパタパタと聞こえるよう、万全の注意を払った。
アニメでのヒロインの第一印象は、『可愛いく優しい』。トイレの話を除けば上手くできたと思う。それなりに振る舞うのは、結構大変だった。
翌日から、推しと同じ教室で授業がスタート。空気も澄んで、美味しい気がする。
休み時間は女生徒の大半が身分の高いディオニスを囲むため、従者のレヴィーはほぼノーマーク。バカね、彼は……っと、いけない。あまりにじっくり見過ぎたため、目が合い顔をしかめられてしまった。私は急いで視線を逸らす。無愛想なレヴィーに警戒され、嫌われたら困る。
「君達、本当に可愛いね。留学してきて良かったな」
「まあ」
「艶があって綺麗な髪だね。素敵だ」
「きゃあっ」
褒められた女子は嬉しそう。ディオニスの軽口に、興奮したような黄色い声を上げている。
でも、彼の言葉を真に受けてはいけない。賢い彼は学園の情報を得るため、自分達にとって有益な者を探しているのだ。
頬を染める彼女達を、母のような目で見守る。だって、推しはみんなのもので、独り占めはよくないでしょう? お近づきになって仲間になりたいとはいえ、ファンとしての節度はわきまえているつもりだ。
だから、彼女達に忠告する気は全くなく、彼らの野望を止めるつもりもない。むしろ敵の四人が大陸全土を統一してくれた方が、世の中上手くいくと信じている。
そのため私は、自分の席から彼らをなんとなく眺めていた。すると――
「おっと、ごめんよ。でも、通り道にいる方が悪いよな」
「女子を侍らせて、いい気なもんだ。ご主人様に注意を……って、無理か。構われなくて寂しいか?」
一部の男子生徒が、従者のレヴィーに体当たり。この嫌がらせ、中等部でも見た気がする。過去に嫌がらせを受けていたオルトは、休み時間になるなり、ボールで遊ぶと外に出た。
――ヒーローは、小学生より健康的だ。
公爵家のディオニスではなく、その従者にねちねち文句を言う男子達。とうとうそのうちの一人が、レヴィーの肩を乱暴に掴む。
頭にきた私は、我慢できずに立ち上がった。
「ちょっと、あんた達!」
途端にその場が静まり返る。
いけない。怒って猫被るの、すっかり忘れてたわ。
私は案内を再開しようと振り返る。すると、彼らより頭一つ分背の低いオルトが、当然のように中心にいた。屈託なく笑いかけるから、推し達の口元も緩んでいるようだ。
――レアな笑顔が尊い! オルト、さすがはヒーローね。敵の懐に飛び込むのが上手いわ。たまには良いことするじゃない。
感動を噛みしめた私。
クラスに一旦戻った後は、彼らが滞在する予定の寮に向かう。
二階建ての寮は豪華な内装の二人部屋で、部屋の左右の壁に沿うようにベッドと机、衣装棚が一つずつある。女子寮も同じような造りだが、残念ながら男子と女子は別(当たり前ともいう)。そのため、案内を終えた私は、寮の説明をオルトに引き継ぐことにした。
「私からは以上です。あとは寮なので、オルト君と代わりますね」
留学生達に愛想良く告げた後、私はオルトの腕を引き、小声で耳打ちする。
「いい、オルト。丁寧に案内して差し上げてね」
「うん。わかった」
彼は目を細めて、へにゃっと笑う。
オルトのファンは、子犬っぽいこの笑顔に弱いらしい。
私? 推しが好きな私は、もちろん平気だ。
「レヴィー様に、慣れ慣れしい態度はダメよ」
「様って?」
「いえ、こっちの話。上手にできたら、プリンが出た時あげるから」
「本当!」
オルトはプリンが大好き。
何個食べても飽きないらしく、昼食にプリンが出る日は朝からそわそわしている。そんな態度も好感が持てると評判だったけど……そうかなあ?
ま、プリン一つで言うこと聞くなら、確かに可愛いかもしれない。
「ふぇっ!?」
歩き出そうとした瞬間、いつの間にか近づいていたディオニスが、私の手を握った。傍らにはレヴィーが立ち、美麗な二人が至近距離で私を見つめる。
「ありがとう、可愛いレディー。君の説明はわかりやすかったよ」
そのまま私の手を、口元に……
待って! いくら推しとはいえ、そこまで望んでないから。
私は慌てて手を引っこ抜くと、首を横に振る。
「いえ、学園の生徒として当然のことをしたまでです。こちらこそ、長時間お付き合いいただき、ありがとうございました」
小声で控えめに言ってみる。
「長時間」と口にしたけど、私にとっては一瞬だった。本当は、一生お付き合い願いたいけれど……
あくまでも推しなので、くっつきたいとか私だけを見てほしいなんて、そんな大それた野望は抱いていない。ただ、すぐ側で彼らの夢を応援したいだけ。
公爵子息のディオニスが、おや? というように片眉を上げた。従者のレヴィーは相変わらずの無表情。男爵家のクロムが眼鏡の縁を触り、侯爵子息のジェラールが腕を組んだ状態で肩を竦める。
アニメで見慣れた彼らの仕草に、私の胸はときめく。
名残惜しいけど一礼して、私はくるりと背を向ける。足音が軽くパタパタと聞こえるよう、万全の注意を払った。
アニメでのヒロインの第一印象は、『可愛いく優しい』。トイレの話を除けば上手くできたと思う。それなりに振る舞うのは、結構大変だった。
翌日から、推しと同じ教室で授業がスタート。空気も澄んで、美味しい気がする。
休み時間は女生徒の大半が身分の高いディオニスを囲むため、従者のレヴィーはほぼノーマーク。バカね、彼は……っと、いけない。あまりにじっくり見過ぎたため、目が合い顔をしかめられてしまった。私は急いで視線を逸らす。無愛想なレヴィーに警戒され、嫌われたら困る。
「君達、本当に可愛いね。留学してきて良かったな」
「まあ」
「艶があって綺麗な髪だね。素敵だ」
「きゃあっ」
褒められた女子は嬉しそう。ディオニスの軽口に、興奮したような黄色い声を上げている。
でも、彼の言葉を真に受けてはいけない。賢い彼は学園の情報を得るため、自分達にとって有益な者を探しているのだ。
頬を染める彼女達を、母のような目で見守る。だって、推しはみんなのもので、独り占めはよくないでしょう? お近づきになって仲間になりたいとはいえ、ファンとしての節度はわきまえているつもりだ。
だから、彼女達に忠告する気は全くなく、彼らの野望を止めるつもりもない。むしろ敵の四人が大陸全土を統一してくれた方が、世の中上手くいくと信じている。
そのため私は、自分の席から彼らをなんとなく眺めていた。すると――
「おっと、ごめんよ。でも、通り道にいる方が悪いよな」
「女子を侍らせて、いい気なもんだ。ご主人様に注意を……って、無理か。構われなくて寂しいか?」
一部の男子生徒が、従者のレヴィーに体当たり。この嫌がらせ、中等部でも見た気がする。過去に嫌がらせを受けていたオルトは、休み時間になるなり、ボールで遊ぶと外に出た。
――ヒーローは、小学生より健康的だ。
公爵家のディオニスではなく、その従者にねちねち文句を言う男子達。とうとうそのうちの一人が、レヴィーの肩を乱暴に掴む。
頭にきた私は、我慢できずに立ち上がった。
「ちょっと、あんた達!」
途端にその場が静まり返る。
いけない。怒って猫被るの、すっかり忘れてたわ。
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