ヒロインだけど敵が好き♪

きゃる

文字の大きさ
6 / 16
第一章 推しがクラスにやってきた

頑張れ、私2

しおりを挟む
 学園長は気にするでもなく、にこにこしながら立ち去った。
 私は案内を再開しようと振り返る。すると、彼らより頭一つ分背の低いオルトが、当然のように中心にいた。屈託くったくなく笑いかけるから、推し達の口元もゆるんでいるようだ。

 ――レアな笑顔が尊い! オルト、さすがはヒーローね。敵のふところに飛び込むのが上手いわ。たまには良いことするじゃない。

 感動を噛みしめた私。
 クラスに一旦戻った後は、彼らが滞在する予定の寮に向かう。

 二階建ての寮は豪華な内装の二人部屋で、部屋の左右の壁に沿うようにベッドと机、衣装棚が一つずつある。女子寮も同じような造りだが、残念ながら男子と女子は別(当たり前ともいう)。そのため、案内を終えた私は、寮の説明をオルトに引き継ぐことにした。

「私からは以上です。あとは寮なので、オルト君と代わりますね」

 留学生達に愛想良く告げた後、私はオルトの腕を引き、小声で耳打ちする。

「いい、オルト。丁寧に案内して差し上げてね」
「うん。わかった」

 彼は目を細めて、へにゃっと笑う。
 オルトのファンは、子犬っぽいこの笑顔に弱いらしい。
 私? 推しが好きな私は、もちろん平気だ。

「レヴィー様に、慣れ慣れしい態度はダメよ」
って?」
「いえ、こっちの話。上手にできたら、プリンが出た時あげるから」
「本当!」

 オルトはプリンが大好き。
 何個食べても飽きないらしく、昼食にプリンが出る日は朝からそわそわしている。そんな態度も好感が持てると評判だったけど……そうかなあ? 

 ま、プリン一つで言うこと聞くなら、確かに可愛いかもしれない。

「ふぇっ!?」

 歩き出そうとした瞬間、いつの間にか近づいていたディオニスが、私の手を握った。かたわらにはレヴィーが立ち、美麗な二人が至近距離で私を見つめる。

「ありがとう、可愛いレディー。君の説明はわかりやすかったよ」

 そのまま私の手を、口元に……
 待って! いくら推しとはいえ、そこまで望んでないから。

 私は慌てて手を引っこ抜くと、首を横に振る。

「いえ、学園の生徒として当然のことをしたまでです。こちらこそ、長時間お付き合いいただき、ありがとうございました」

 小声で控えめに言ってみる。
「長時間」と口にしたけど、私にとっては一瞬だった。本当は、一生お付き合い願いたいけれど……

 あくまでも推しなので、くっつきたいとか私だけを見てほしいなんて、そんな大それた野望は抱いていない。ただ、すぐ側で彼らの夢を応援したいだけ。

 公爵子息のディオニスが、おや? というように片眉を上げた。従者のレヴィーは相変わらずの無表情。男爵家のクロムが眼鏡の縁を触り、侯爵子息のジェラールが腕を組んだ状態で肩をすくめる。

 アニメで見慣れた彼らの仕草に、私の胸はときめく。

 名残惜しいけど一礼して、私はくるりと背を向ける。足音が軽くパタパタと聞こえるよう、万全の注意を払った。
 アニメでのヒロインの第一印象は、『可愛いく優しい』。トイレの話を除けば上手くできたと思う。それなりに振る舞うのは、結構大変だった。



 翌日から、推しと同じ教室で授業がスタート。空気も澄んで、美味しい気がする。

 休み時間は女生徒の大半が身分の高いディオニスを囲むため、従者のレヴィーはほぼノーマーク。バカね、彼は……っと、いけない。あまりにじっくり見過ぎたため、目が合い顔をしかめられてしまった。私は急いで視線をらす。無愛想なレヴィーに警戒され、嫌われたら困る。

「君達、本当に可愛いね。留学してきて良かったな」
「まあ」
つやがあって綺麗な髪だね。素敵だ」
「きゃあっ」

 褒められた女子は嬉しそう。ディオニスの軽口に、興奮したような黄色い声を上げている。
 でも、彼の言葉を真に受けてはいけない。賢い彼は学園の情報を得るため、自分達にとって有益な者を探しているのだ。

 頬を染める彼女達を、母のような目で見守る。だって、推しはみんなのもので、独り占めはよくないでしょう? お近づきになって仲間になりたいとはいえ、ファンとしての節度はわきまえているつもりだ。

 だから、彼女達に忠告する気は全くなく、彼らの野望を止めるつもりもない。むしろ敵の四人が大陸全土を統一してくれた方が、世の中上手くいくと信じている。
 そのため私は、自分の席から彼らをなんとなく眺めていた。すると――

「おっと、ごめんよ。でも、通り道にいる方が悪いよな」
「女子を侍らせて、いい気なもんだ。ご主人様に注意を……って、無理か。構われなくて寂しいか?」

 一部の男子生徒が、従者のレヴィーに体当たり。この嫌がらせ、中等部でも見た気がする。過去に嫌がらせを受けていたオルトは、休み時間になるなり、ボールで遊ぶと外に出た。
 ――ヒーローは、小学生より健康的だ。

 公爵家のディオニスではなく、その従者にねちねち文句を言う男子達。とうとうそのうちの一人が、レヴィーの肩を乱暴につかむ。
 頭にきた私は、我慢できずに立ち上がった。

「ちょっと、あんた達!」

 途端にその場が静まり返る。
 いけない。怒って猫被るの、すっかり忘れてたわ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...