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第一章 ラスボスは難しい
ラスボスを召喚しました
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あれは数年前のこと。
わたし――下っ端神官のハルカは、魔法陣の前でずっと迷っていた。
「どうしよう?」
ここは女神、エストレイヤを祀る神殿。
その中庭で、『召喚の儀』という、念じたものを具現化する秘術の真っ最中。
わたしは、想像しうる限りの最も強い存在を呼び出そう、と試みていた。
「手順は教えた通りじゃ」
「はい、大神官様」
金色の刺繍がたっぷり入った白いローブの大神官は、立派なあごひげが自慢の気のいいおじいちゃん。
ちなみにわたしは下っ端なので、着ているローブは模様のないただの白。神殿での地位が上がれば上がるほど、刺繍が豪華になっていくという仕組み。
ちなみに他の神官は……。
中庭を囲む回廊を見ると、先輩神官たちが意地悪そうな笑みを浮かべている。
「魔力が弱いんじゃあ、どうあがいたって無理だろ」
「神官だって証明するのに必死なのよ。笑っちゃ可哀想だわ」
――ま、いいけどね。
異邦人のわたしにとって、悪口は日常茶飯事だ。
唯一の友人、下男のタレスだけが、わたしのために祈ってくれている。
「大丈夫。きっと上手くいく」
自分を鼓舞して正面に目を戻すと、地面に描かれた魔法陣が輝きを増していた。
「時間がない。ハルカ、早く念じるのじゃ」
白いあごひげの大神官が、背後で慌てた声を出す。
「わかっています。ええっと……」
焦れば焦るほど、考えがまとまらない。
いまだに迷う理由は、思い浮かぶ相手が多すぎて、一つに絞れないせい。
大陸各地で凶暴化する魔物を倒すためには、一番強い存在を呼び出さなければならないのに――。
勇者? 魔術師? ドラゴン?
いやいや、そんなんじゃあ物足りない。
わたしの希望は、ゲームに出てくるラスボスたち。
だって自分は、この世界に迷い込む前のこともちゃ~んと覚えているから。
*****
ここに来る前のわたし、坂崎はるかはRPG(ロールプレイングゲーム)にどっぷり嵌まった高校一年生。まあ、不登校気味で学校にはほとんど行けてなかったけど。
そんなわたしに生きる元気をくれたのが、RPGの数々。
特に最後の敵をこよなく愛していた。
「ラスボスは心も体も強くて、みんな信念を持っているんだよね」
乙女ゲームの攻略対象が優しいのは、はっきり言って当たり前。
RPGのラスボスは、冷たいからこそカッコ良く、強いからこそ俺様系。わたしはそんな彼らにまつわるエピソードが、三度の飯より大好物。
ゲームのタイトルを思い浮かべただけでときめいて、ラスボスの悲しい過去を反芻すると涙腺が崩壊し、尊い姿を頭に描くと叫びそう。
要するにわたしの好きなラスボスは、全員強くてイケメン。
正直、誰を選んでも構わない。
構わないからこそ結論が出ず、悩みに悩んでいるのだ。
*****
「ハルカ、何をボーッとしておる? 急ぐのじゃ」
「はっ!? はいっ」
――自分よ、いったん落ち着こう。今は過去を振り返っている場合じゃない。
神殿にお世話になって約三年。
今こそ恩を返す時。
「どうしよう? 一番いいのは誰?」
「術が終わってしまう。早く念じるのじゃ」
「はいっ」
ぐずぐずしている暇はなく、両手を組んで目を閉じた。
最初に浮かんだ尊い姿を、小さく口にする。
「涼しげな目元の龍神、龍ケ崎 一連(りゅうがさき いちれん)様。一連様、一連様……って、隣にいらっしゃるのはウリエル様?」
雑念だらけの自分の中で、推しと推しが肩を組む。
「だったら、ウリエル様。優しい仕草と微笑む様子が素敵な大天使、お願いします。ウリエル様、ウリエル様……あのっ、どうしてライム様が出てくるの?」
頭の中で別の推しが飛び出して、いたずらっぽく笑う。
「じゃあ、人の悪意の集合体、ライムバルト様を呼び出します。少年のように可愛らしいライム様、ライム様……待って。アルト様は呼んでないっ」
尊大な仕草で、推しの魔王が仁王立ち。
――そうか! 魔物を相手にするなら、彼が一番適任かもしれない。
「魔王のアルトローグ様に決めました。アルト様、アルト様、……ああ、もうっ!」
こんな時に限って、脳内をラスボスたちが闊歩する。ファンとしては嬉しいけれど、神官としては由々しき事態だ。
慌てて頭を横に振り、再び祈る。
ところが――。
「いかん、もう間に合わん!」
「そんなっ」
大神官の叫びで目を開くと、魔法陣がひときわ明るく輝いた。
外周に沿って光の柱がそびえ立ち、シュゴーッという大きな音を立てて高速で回転している。
「おおーっ」
「うわー、何も見えないぞ」
先輩神官たちは、もちろんのこと。
間近にいた私は眩い光に目がくらみ、何がなんだかわからない。
慌てて下がると、辺り一帯が白に包まれた。
静寂の中、不安に思う。
――失敗? 成功? 結局どっち?
視界が晴れていくにつれ、魔法陣の上に何かが見えた。
「やった、成功したみたい!」
現れた推しは誰だろう?
ワクワクしながら注視する。
わたしの召喚に応えてくれた、崇高な存在とは――――…………?
「え? なんで? なんで推しのラスボスが、全員いるの~~!?!?!?」
わたし――下っ端神官のハルカは、魔法陣の前でずっと迷っていた。
「どうしよう?」
ここは女神、エストレイヤを祀る神殿。
その中庭で、『召喚の儀』という、念じたものを具現化する秘術の真っ最中。
わたしは、想像しうる限りの最も強い存在を呼び出そう、と試みていた。
「手順は教えた通りじゃ」
「はい、大神官様」
金色の刺繍がたっぷり入った白いローブの大神官は、立派なあごひげが自慢の気のいいおじいちゃん。
ちなみにわたしは下っ端なので、着ているローブは模様のないただの白。神殿での地位が上がれば上がるほど、刺繍が豪華になっていくという仕組み。
ちなみに他の神官は……。
中庭を囲む回廊を見ると、先輩神官たちが意地悪そうな笑みを浮かべている。
「魔力が弱いんじゃあ、どうあがいたって無理だろ」
「神官だって証明するのに必死なのよ。笑っちゃ可哀想だわ」
――ま、いいけどね。
異邦人のわたしにとって、悪口は日常茶飯事だ。
唯一の友人、下男のタレスだけが、わたしのために祈ってくれている。
「大丈夫。きっと上手くいく」
自分を鼓舞して正面に目を戻すと、地面に描かれた魔法陣が輝きを増していた。
「時間がない。ハルカ、早く念じるのじゃ」
白いあごひげの大神官が、背後で慌てた声を出す。
「わかっています。ええっと……」
焦れば焦るほど、考えがまとまらない。
いまだに迷う理由は、思い浮かぶ相手が多すぎて、一つに絞れないせい。
大陸各地で凶暴化する魔物を倒すためには、一番強い存在を呼び出さなければならないのに――。
勇者? 魔術師? ドラゴン?
いやいや、そんなんじゃあ物足りない。
わたしの希望は、ゲームに出てくるラスボスたち。
だって自分は、この世界に迷い込む前のこともちゃ~んと覚えているから。
*****
ここに来る前のわたし、坂崎はるかはRPG(ロールプレイングゲーム)にどっぷり嵌まった高校一年生。まあ、不登校気味で学校にはほとんど行けてなかったけど。
そんなわたしに生きる元気をくれたのが、RPGの数々。
特に最後の敵をこよなく愛していた。
「ラスボスは心も体も強くて、みんな信念を持っているんだよね」
乙女ゲームの攻略対象が優しいのは、はっきり言って当たり前。
RPGのラスボスは、冷たいからこそカッコ良く、強いからこそ俺様系。わたしはそんな彼らにまつわるエピソードが、三度の飯より大好物。
ゲームのタイトルを思い浮かべただけでときめいて、ラスボスの悲しい過去を反芻すると涙腺が崩壊し、尊い姿を頭に描くと叫びそう。
要するにわたしの好きなラスボスは、全員強くてイケメン。
正直、誰を選んでも構わない。
構わないからこそ結論が出ず、悩みに悩んでいるのだ。
*****
「ハルカ、何をボーッとしておる? 急ぐのじゃ」
「はっ!? はいっ」
――自分よ、いったん落ち着こう。今は過去を振り返っている場合じゃない。
神殿にお世話になって約三年。
今こそ恩を返す時。
「どうしよう? 一番いいのは誰?」
「術が終わってしまう。早く念じるのじゃ」
「はいっ」
ぐずぐずしている暇はなく、両手を組んで目を閉じた。
最初に浮かんだ尊い姿を、小さく口にする。
「涼しげな目元の龍神、龍ケ崎 一連(りゅうがさき いちれん)様。一連様、一連様……って、隣にいらっしゃるのはウリエル様?」
雑念だらけの自分の中で、推しと推しが肩を組む。
「だったら、ウリエル様。優しい仕草と微笑む様子が素敵な大天使、お願いします。ウリエル様、ウリエル様……あのっ、どうしてライム様が出てくるの?」
頭の中で別の推しが飛び出して、いたずらっぽく笑う。
「じゃあ、人の悪意の集合体、ライムバルト様を呼び出します。少年のように可愛らしいライム様、ライム様……待って。アルト様は呼んでないっ」
尊大な仕草で、推しの魔王が仁王立ち。
――そうか! 魔物を相手にするなら、彼が一番適任かもしれない。
「魔王のアルトローグ様に決めました。アルト様、アルト様、……ああ、もうっ!」
こんな時に限って、脳内をラスボスたちが闊歩する。ファンとしては嬉しいけれど、神官としては由々しき事態だ。
慌てて頭を横に振り、再び祈る。
ところが――。
「いかん、もう間に合わん!」
「そんなっ」
大神官の叫びで目を開くと、魔法陣がひときわ明るく輝いた。
外周に沿って光の柱がそびえ立ち、シュゴーッという大きな音を立てて高速で回転している。
「おおーっ」
「うわー、何も見えないぞ」
先輩神官たちは、もちろんのこと。
間近にいた私は眩い光に目がくらみ、何がなんだかわからない。
慌てて下がると、辺り一帯が白に包まれた。
静寂の中、不安に思う。
――失敗? 成功? 結局どっち?
視界が晴れていくにつれ、魔法陣の上に何かが見えた。
「やった、成功したみたい!」
現れた推しは誰だろう?
ワクワクしながら注視する。
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