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第一章 ラスボスは難しい
魔物があらわれた
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ラスボスたちに振り回されて、神殿内を走る日々。
召喚に成功したら、雑用が軽減されるかも……な~んてとんでもない! 以前にも増して、仕事は増えている。
「はああぁぁ~。ごめん、タレス。ちょっと匿って」
「ハルカ、大変そうだね」
友人のタレスが心配してくれた。
下男《げなん》の彼は、神殿の外の掃除や荷運び、薪割りといった力仕事を担当している。
顔の半分を前髪で隠すコミュ障気味のタレス。
根気強く話しかけたわたしには、心を開いてくれていた。
樽を運び終えたタレスを引っ張り、物置の陰に移動する。
「大変なんてもんじゃないよ~。あのね――」
推しは見るもの愛でるもの。
召喚した自分のせいではあるけれど、実際のお世話はかなりしんどい。
「顔はいいけど礼儀知らずでわがままで、女神様を『オバサン』呼ばわりするは、気に入らないとものを壊すは。顔がいいからって、なんでも許されると思ったら大間違――」
「ハルカ、顔がいいのはわかったから続きを早く」
仲良しの彼になら、本音を言える。
これまで先輩神官に対する愚痴も、たっぷり聞いてもらっていた。
「でも、ここだけの話ちょっとスッキリしちゃった」
「スッキリ?」
「そう。だって、一番美人の神官にも、なびかなかったんだもん」
わたしは食堂での様子を再現しようと、女性神官とラスボスの声を真似てみる。
『ねえ、あなた。角っぽい装飾品はいただけないけど、とってもキレイな顔ね』
『そう言うお前は、汚いな』
『な、なんですって! 汚い? この私が?』
優れた容姿を鼻にかけ、わたしをいじめる美人神官。
魔王の言葉で、顔色を変えていた。
『ちょっと。呪われた黒髪のあんたが召喚したせいで、美的感覚が狂っているじゃないっ』
『え? わたしのせい!?』
早速こちらに八つ当たりとは、理不尽だ。
この世界で黒い髪は珍しい。そのため「縁起が悪い」とか「呪われた」とよく言われていた。
『そうかな? 私から見ても、君は汚い。ハルカの方がキレイだ』
大天使も庇うにしたって限度がある。
日本人のわたしが、ヨーロッパ顔の美女に敵うわけがないのに。
『……は? 何言ってるの、逆でしょう』
『僕もハルカがいい~。お姉さん自信満々だけど、ここの人たちってブスが好きなの?』
いやいやいや、自分らが超絶イケメンだからって、ブスは言いすぎだ。
『まさか、あなたもそう思ってる?』
怒りに震える先輩美人神官は、龍神に矛先を向けた。
『……いや』
『そうよね。話のわかる人がいて良かったわ。ねえ、あなた。彼女に代わって私が使役してあげる』
龍神の目が即座に吊り上がる。
『俺を使役する、だと? はっきり言わねばわからぬか。心根の腐ったお前は、汚いではなく醜悪だ。ただちに去ね!』
『なんですって!!』
憤慨する美女神官。
ただわたしは、彼女よりラスボスを怒らせる方が怖い。
そのため、焦って立ち上がる。
『まあまあ。食事中なので、その辺にしといてください』
『何よ、調子に乗って! 様子を見に来てあげたのに、好意を無にするつも……もがっ』
これ以上ラスボスを刺激してはならない。わたしは彼女を引きずって、食堂から追い出した。
「……ってことがあったの。あっちの方が美人なのに、わたしが世話をしているからか、気を遣ってくれたみたい」
「ハルカは可愛いよ」
「ありがと。嘘でも嬉しい」
「嘘じゃないのに……」
わたしの横で、タレスがうつむく。
そうかと思うと、ハッとしたように顔を上げた。
「ハルカの命が減ったって噂は、本当?」
「ああ、それ? 実感ないけど、たぶんね」
わたしの余命はあと数年。
初日はずいぶん落ち込んだけど、『大神官に恩返しができて、世界が救えるなら』と、自分に言い聞かせることにした。
最近は忙しすぎたため、召喚にともなう代償をすっかり忘れていたみたい。
「ごめん」
「ん? タレスが謝ることないよ。自分で決めたことだもん」
知らない世界に迷い込んだわたしを保護してくれた神殿のため、危険な秘術に臨むと決めたのは自分自身だ。
「ところで、あの人たちって何者なの?」
「みんなには、偉大な魔法使いって言ってある。でもタレスには、本当のことを教えるね」
口を引き締め頷く彼に、わたしも思わず姿勢を正す。
「なんと、彼らは全員ラスボスです!」
「らすぼす?」
「あ、そうか。ええっと、ゲーム……じゃ、わからないね。物語なんかに出てくる最後のボスで、とっても強いの」
「最後のぼす?」
首をかしげる仕草が可愛い。
神殿で一番若いのは、十六歳のタレスだ。下男の彼は、「魔力が全くないため神官になれなかった」と、語ってくれたことがある。
――ま、わたしも似たり寄ったりだけど……。
だから余計、親しみを感じる。
変な感情はこれっぽっちもなく、彼といると落ち着く。
「それって……」
ガラーン、ガラーン、ガラーン
タレスの声は、大音量の鐘の音に遮られた。
「魔物が現れたぞ~。今度はレバック村だーっ」
「レバック村?」
「ここからそう遠くない村だよ。避難が間に合えばいいけど」
にわかに、神殿中が大騒ぎ。
「じゃあタレス、また後で」
「うん。ハルカも気をつけて」
近くに魔物が出現したなら、いよいよ出番だ。
ようやく人の役に立てると思えば、気持ちもはやる。
村に到着したものの、瓦礫と煙でよく見えない。
あちこちから火の手も上がっている。
「逃げろーっ」
「こっちはダメだ。粘液で先に進めない」
「キシャアァァァ、グギャギャギャギャ」
変な音。魔物が近くにいる?
「救助はまだか?」
「お願い、助けて」
「みなさん、こちらです! 急いで」
必死に声を張り上げると、わたしに気づいてくれた。
「ああ、助かった。って、神官様と……これだけ?」
「救助の兵はどこだ?」
村人は不服そうだが、ラスボスたちが本気を出せば、兵よりずっと頼りになるはずだ。
召喚に成功したら、雑用が軽減されるかも……な~んてとんでもない! 以前にも増して、仕事は増えている。
「はああぁぁ~。ごめん、タレス。ちょっと匿って」
「ハルカ、大変そうだね」
友人のタレスが心配してくれた。
下男《げなん》の彼は、神殿の外の掃除や荷運び、薪割りといった力仕事を担当している。
顔の半分を前髪で隠すコミュ障気味のタレス。
根気強く話しかけたわたしには、心を開いてくれていた。
樽を運び終えたタレスを引っ張り、物置の陰に移動する。
「大変なんてもんじゃないよ~。あのね――」
推しは見るもの愛でるもの。
召喚した自分のせいではあるけれど、実際のお世話はかなりしんどい。
「顔はいいけど礼儀知らずでわがままで、女神様を『オバサン』呼ばわりするは、気に入らないとものを壊すは。顔がいいからって、なんでも許されると思ったら大間違――」
「ハルカ、顔がいいのはわかったから続きを早く」
仲良しの彼になら、本音を言える。
これまで先輩神官に対する愚痴も、たっぷり聞いてもらっていた。
「でも、ここだけの話ちょっとスッキリしちゃった」
「スッキリ?」
「そう。だって、一番美人の神官にも、なびかなかったんだもん」
わたしは食堂での様子を再現しようと、女性神官とラスボスの声を真似てみる。
『ねえ、あなた。角っぽい装飾品はいただけないけど、とってもキレイな顔ね』
『そう言うお前は、汚いな』
『な、なんですって! 汚い? この私が?』
優れた容姿を鼻にかけ、わたしをいじめる美人神官。
魔王の言葉で、顔色を変えていた。
『ちょっと。呪われた黒髪のあんたが召喚したせいで、美的感覚が狂っているじゃないっ』
『え? わたしのせい!?』
早速こちらに八つ当たりとは、理不尽だ。
この世界で黒い髪は珍しい。そのため「縁起が悪い」とか「呪われた」とよく言われていた。
『そうかな? 私から見ても、君は汚い。ハルカの方がキレイだ』
大天使も庇うにしたって限度がある。
日本人のわたしが、ヨーロッパ顔の美女に敵うわけがないのに。
『……は? 何言ってるの、逆でしょう』
『僕もハルカがいい~。お姉さん自信満々だけど、ここの人たちってブスが好きなの?』
いやいやいや、自分らが超絶イケメンだからって、ブスは言いすぎだ。
『まさか、あなたもそう思ってる?』
怒りに震える先輩美人神官は、龍神に矛先を向けた。
『……いや』
『そうよね。話のわかる人がいて良かったわ。ねえ、あなた。彼女に代わって私が使役してあげる』
龍神の目が即座に吊り上がる。
『俺を使役する、だと? はっきり言わねばわからぬか。心根の腐ったお前は、汚いではなく醜悪だ。ただちに去ね!』
『なんですって!!』
憤慨する美女神官。
ただわたしは、彼女よりラスボスを怒らせる方が怖い。
そのため、焦って立ち上がる。
『まあまあ。食事中なので、その辺にしといてください』
『何よ、調子に乗って! 様子を見に来てあげたのに、好意を無にするつも……もがっ』
これ以上ラスボスを刺激してはならない。わたしは彼女を引きずって、食堂から追い出した。
「……ってことがあったの。あっちの方が美人なのに、わたしが世話をしているからか、気を遣ってくれたみたい」
「ハルカは可愛いよ」
「ありがと。嘘でも嬉しい」
「嘘じゃないのに……」
わたしの横で、タレスがうつむく。
そうかと思うと、ハッとしたように顔を上げた。
「ハルカの命が減ったって噂は、本当?」
「ああ、それ? 実感ないけど、たぶんね」
わたしの余命はあと数年。
初日はずいぶん落ち込んだけど、『大神官に恩返しができて、世界が救えるなら』と、自分に言い聞かせることにした。
最近は忙しすぎたため、召喚にともなう代償をすっかり忘れていたみたい。
「ごめん」
「ん? タレスが謝ることないよ。自分で決めたことだもん」
知らない世界に迷い込んだわたしを保護してくれた神殿のため、危険な秘術に臨むと決めたのは自分自身だ。
「ところで、あの人たちって何者なの?」
「みんなには、偉大な魔法使いって言ってある。でもタレスには、本当のことを教えるね」
口を引き締め頷く彼に、わたしも思わず姿勢を正す。
「なんと、彼らは全員ラスボスです!」
「らすぼす?」
「あ、そうか。ええっと、ゲーム……じゃ、わからないね。物語なんかに出てくる最後のボスで、とっても強いの」
「最後のぼす?」
首をかしげる仕草が可愛い。
神殿で一番若いのは、十六歳のタレスだ。下男の彼は、「魔力が全くないため神官になれなかった」と、語ってくれたことがある。
――ま、わたしも似たり寄ったりだけど……。
だから余計、親しみを感じる。
変な感情はこれっぽっちもなく、彼といると落ち着く。
「それって……」
ガラーン、ガラーン、ガラーン
タレスの声は、大音量の鐘の音に遮られた。
「魔物が現れたぞ~。今度はレバック村だーっ」
「レバック村?」
「ここからそう遠くない村だよ。避難が間に合えばいいけど」
にわかに、神殿中が大騒ぎ。
「じゃあタレス、また後で」
「うん。ハルカも気をつけて」
近くに魔物が出現したなら、いよいよ出番だ。
ようやく人の役に立てると思えば、気持ちもはやる。
村に到着したものの、瓦礫と煙でよく見えない。
あちこちから火の手も上がっている。
「逃げろーっ」
「こっちはダメだ。粘液で先に進めない」
「キシャアァァァ、グギャギャギャギャ」
変な音。魔物が近くにいる?
「救助はまだか?」
「お願い、助けて」
「みなさん、こちらです! 急いで」
必死に声を張り上げると、わたしに気づいてくれた。
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