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第一章 ラスボスは難しい
龍神の恋物語
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「危ないので、我々の後ろに下がっていてください」
「我々って?」
「えっ?」
村人の言葉に違和感を覚えて振り向くと、ラスボスたちは離れたところに立っている。
慌てて呼びに行くけれど、彼らは面倒くさがっていた。
「えええ~、なんで僕が~」
「余に、小物を退治せよと申すのか?」
人の悪意ライムバルトと魔王アルトローグが、不平を口にする。
「ここにいらした日に、詳しく説明しましたよね? ご納得いただいたはずですが……」
「知らん」
――我が推しながら、その冷たい態度は何?
「わかったとは言ったけど、協力するとは言っていないよ」
大天使ウリエルまでもが否定的。
それなら龍神、龍ケ崎一連は?
「己で対処すればよい」
「だ・か・ら! それができないんだってば!!」
怒りのあまり敬語が吹っ飛んだ。
「……すみません。ですが、ことは一刻を争うんです。こうしている間にも、村が破壊されてしまう」
その時、かすかな声が聞こえた。
「うわあぁぁぁん、うわあぁぁぁん」
子供の泣き声!
まさか、家の中に取り残されているの?
「どなたか、わたしと一緒に来てください」
「だから、なぜ行かねばならんのだ」
こりゃ、ダメだ。
推しのみなさま非協力的。
――こんなはずじゃなかった。召喚された者は、召喚者の願い通りに動いてくれるんじゃなかったの?
「わかりました。じゃあ、わたし一人で助けに行きます!」
悔しさに歯を食いしばり、泣き声のする方へ駆けだした。
「わあぁぁぁん」
「ここだ!」
わたしは軒下にあった水瓶に、そのまま頭を突っ込んだ。まだ足りないと水を被り、燃える家の中へ。
「助けに来たよ。どこ?」
呼びかけながら探してみると、部屋の奥で女の子が泣いていた。
幸い、火はそこまで回っていない。
「おいで、ここから出ましょう」
「うえっ、うえっ、うえぇぇん」
「怖かったよね。もう大丈夫だから」
多少の火傷は気にならない。
わたしは急いでその子を抱っこし、出口に向かう。
ところが外に出た途端、魔物の姿が目に飛び込んだ。
「キシャアァァァ、ギョワアァァァ」
「ひっ」
思わず声を上げた。
八つの光る目玉に八本の長い足、毛むくじゃらの巨大な身体に尖った口元。
巨大な蜘蛛だ!
――勘弁して。蜘蛛は、寒気がするほど苦手なのに。
もちろん、そんな場合じゃないと知っている。
けど、足がすくんで動けない。
「びえぇぇぇ、びえぇぇぇん」
「ギギャ? グギャアアアアア」
女の子の声で、巨大な蜘蛛に気づかれた。
ガサガサ動く長い足を見たせいで、わたしの全身に鳥肌が立つ。
「なっ……。こっちを見てる?」
その瞬間、大きな蜘蛛が尖った口を開けた。
――やっぱり自分は役立たず。人一人、助けられないなんて。
覚悟を決めたわたしは、女の子を庇うように抱きしめて、その場でギュッと目を閉じた。
「氷槍」
ドガッ
「ゴギャアアアア、キイィィィィィ」
突如、断末魔の叫びが響く。
目を開くと、蜘蛛の頭からお腹の下にかけて、長い氷の槍が斜めに刺さっていた。
「……た、助かった?」
幼子を抱えたわたしは、情けなくもその場に崩れ落ちた。
「どうして無茶をするんだ!」
直後、誰かに怒鳴られた。
このCV(キャラクターボイス)は、龍ケ崎 一連様!
見上げた金の瞳は鋭くて、応える声が震えてしまう。
「どうしてって……守られるだけなんて嫌なの。何もできないと嘆くのも嫌!」
それがわたしの素直な気持ち。
子どもを助けたことに、後悔なんてない。
一連がなぜかハッとした。
その表情がゲームの彼と重なって、胸が締めつけられそうだ。
――龍神、龍ケ崎一連は、後ろの高い位置で一つにまとめた紺色の髪に金の瞳の美青年。龍の模様が入った青色の狩衣と水色の袴に身を包む。RPG【あやなしの國】に、ラスボスとして登場している。
最後の戦いの前。
自動で流れる回想シーンは、思い出すたび泣けてくる。
雨の恵みをもたらしたり、人々を守護したり。
龍神は、元々優しい性格だった。
その彼はある日、池に迷い込んだ村娘と出会う。
『娘、誰の許可を得て立ち入った?』
『すみません。道に迷ってしまいました。水音がしたので、喉の渇きを潤したくて……』
『そうか。では、好きなだけ飲むといい。帰りの道は自ずと開かれよう』
『道がひとりでに開くって……変な方。でもあの、ありがとうございます』
村娘の顔はぼやけていたが、たぶんかなりの美人さん。すぐにお礼を言うあたり、きっと性格もいい。
龍神は、そんな娘に好意を抱いたようだ。
『なんだ。そなた、また来たのか』
『ええ。いけませんか?』
『いや、いけなくはない』
『じゃあ、お言葉に甘えて。実は、ここに来れば公卿様にお目にかかれると思ったんです』
『公卿、か。異なことを』
『違うのですか?』
『まあ、そなたがそう呼びたければ、それでよい』
『ふふ、やっぱり変な方』
村娘も彼に心を寄せていて、龍神の住む池を頻繁に訪れるようになっていた。
二人はいつしか、恋人同士に。
しかしある時、龍神が深いため息をつく。
『離れがたいが、当分留守にする』
『はい。あの……また、お会いできるでしょうか?』
一連はハッとした後、にっこり微笑んだ。
『当然のことを申すでない。息災で過ごせよ』
『……はい。公卿様、どうかお元気で』
『なんだ? そのような顔をされると、出立したくなくなるではないか』
龍神は、娘を固く抱きしめた。
艶のある黒髪に頬ずりをして、しばしの別れを惜しむ。
それが、今生の別れとも知らずに――。
※公卿……くぎょう。貴族の中でも三位以上の偉い人々。
「我々って?」
「えっ?」
村人の言葉に違和感を覚えて振り向くと、ラスボスたちは離れたところに立っている。
慌てて呼びに行くけれど、彼らは面倒くさがっていた。
「えええ~、なんで僕が~」
「余に、小物を退治せよと申すのか?」
人の悪意ライムバルトと魔王アルトローグが、不平を口にする。
「ここにいらした日に、詳しく説明しましたよね? ご納得いただいたはずですが……」
「知らん」
――我が推しながら、その冷たい態度は何?
「わかったとは言ったけど、協力するとは言っていないよ」
大天使ウリエルまでもが否定的。
それなら龍神、龍ケ崎一連は?
「己で対処すればよい」
「だ・か・ら! それができないんだってば!!」
怒りのあまり敬語が吹っ飛んだ。
「……すみません。ですが、ことは一刻を争うんです。こうしている間にも、村が破壊されてしまう」
その時、かすかな声が聞こえた。
「うわあぁぁぁん、うわあぁぁぁん」
子供の泣き声!
まさか、家の中に取り残されているの?
「どなたか、わたしと一緒に来てください」
「だから、なぜ行かねばならんのだ」
こりゃ、ダメだ。
推しのみなさま非協力的。
――こんなはずじゃなかった。召喚された者は、召喚者の願い通りに動いてくれるんじゃなかったの?
「わかりました。じゃあ、わたし一人で助けに行きます!」
悔しさに歯を食いしばり、泣き声のする方へ駆けだした。
「わあぁぁぁん」
「ここだ!」
わたしは軒下にあった水瓶に、そのまま頭を突っ込んだ。まだ足りないと水を被り、燃える家の中へ。
「助けに来たよ。どこ?」
呼びかけながら探してみると、部屋の奥で女の子が泣いていた。
幸い、火はそこまで回っていない。
「おいで、ここから出ましょう」
「うえっ、うえっ、うえぇぇん」
「怖かったよね。もう大丈夫だから」
多少の火傷は気にならない。
わたしは急いでその子を抱っこし、出口に向かう。
ところが外に出た途端、魔物の姿が目に飛び込んだ。
「キシャアァァァ、ギョワアァァァ」
「ひっ」
思わず声を上げた。
八つの光る目玉に八本の長い足、毛むくじゃらの巨大な身体に尖った口元。
巨大な蜘蛛だ!
――勘弁して。蜘蛛は、寒気がするほど苦手なのに。
もちろん、そんな場合じゃないと知っている。
けど、足がすくんで動けない。
「びえぇぇぇ、びえぇぇぇん」
「ギギャ? グギャアアアアア」
女の子の声で、巨大な蜘蛛に気づかれた。
ガサガサ動く長い足を見たせいで、わたしの全身に鳥肌が立つ。
「なっ……。こっちを見てる?」
その瞬間、大きな蜘蛛が尖った口を開けた。
――やっぱり自分は役立たず。人一人、助けられないなんて。
覚悟を決めたわたしは、女の子を庇うように抱きしめて、その場でギュッと目を閉じた。
「氷槍」
ドガッ
「ゴギャアアアア、キイィィィィィ」
突如、断末魔の叫びが響く。
目を開くと、蜘蛛の頭からお腹の下にかけて、長い氷の槍が斜めに刺さっていた。
「……た、助かった?」
幼子を抱えたわたしは、情けなくもその場に崩れ落ちた。
「どうして無茶をするんだ!」
直後、誰かに怒鳴られた。
このCV(キャラクターボイス)は、龍ケ崎 一連様!
見上げた金の瞳は鋭くて、応える声が震えてしまう。
「どうしてって……守られるだけなんて嫌なの。何もできないと嘆くのも嫌!」
それがわたしの素直な気持ち。
子どもを助けたことに、後悔なんてない。
一連がなぜかハッとした。
その表情がゲームの彼と重なって、胸が締めつけられそうだ。
――龍神、龍ケ崎一連は、後ろの高い位置で一つにまとめた紺色の髪に金の瞳の美青年。龍の模様が入った青色の狩衣と水色の袴に身を包む。RPG【あやなしの國】に、ラスボスとして登場している。
最後の戦いの前。
自動で流れる回想シーンは、思い出すたび泣けてくる。
雨の恵みをもたらしたり、人々を守護したり。
龍神は、元々優しい性格だった。
その彼はある日、池に迷い込んだ村娘と出会う。
『娘、誰の許可を得て立ち入った?』
『すみません。道に迷ってしまいました。水音がしたので、喉の渇きを潤したくて……』
『そうか。では、好きなだけ飲むといい。帰りの道は自ずと開かれよう』
『道がひとりでに開くって……変な方。でもあの、ありがとうございます』
村娘の顔はぼやけていたが、たぶんかなりの美人さん。すぐにお礼を言うあたり、きっと性格もいい。
龍神は、そんな娘に好意を抱いたようだ。
『なんだ。そなた、また来たのか』
『ええ。いけませんか?』
『いや、いけなくはない』
『じゃあ、お言葉に甘えて。実は、ここに来れば公卿様にお目にかかれると思ったんです』
『公卿、か。異なことを』
『違うのですか?』
『まあ、そなたがそう呼びたければ、それでよい』
『ふふ、やっぱり変な方』
村娘も彼に心を寄せていて、龍神の住む池を頻繁に訪れるようになっていた。
二人はいつしか、恋人同士に。
しかしある時、龍神が深いため息をつく。
『離れがたいが、当分留守にする』
『はい。あの……また、お会いできるでしょうか?』
一連はハッとした後、にっこり微笑んだ。
『当然のことを申すでない。息災で過ごせよ』
『……はい。公卿様、どうかお元気で』
『なんだ? そのような顔をされると、出立したくなくなるではないか』
龍神は、娘を固く抱きしめた。
艶のある黒髪に頬ずりをして、しばしの別れを惜しむ。
それが、今生の別れとも知らずに――。
※公卿……くぎょう。貴族の中でも三位以上の偉い人々。
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