悪女は愛より老後を望む

きゃる

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第一章 地味な私を放っといて

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 うちで暮らすことになったリーゼ。
 彼女は元々頭の良い子で、己の振る舞い方をきちんと心得ていた。相変わらず口は悪いけど、逃げ出そうとしたり、他人の迷惑になるようなことはしない。もちろん人の物を盗むようなこともなく、必要に応じておとなしくもできる。

 我が家での生活が合っていたのか、毎日楽しそうに過ごしているし、食事の時間は一番に飛んで来る。調子がいいだけでなく、下働きも進んで引き受けるため、あっという間に我が家の人気者に。黙っていれば天使みたいだね、と使用人達の間でも評判だ。

 ただ、リーゼはハンナとは馬が合わないらしく、顔を合わせばケンカばかりしている。年が近いから、お互いの嫌なところが目に付くのかしら?

「人のこと天使って、見る目ねーだろ」
「黙っていれば、ですよ? そのしゃべり方だと、伯爵家では勤まりません」
「偉そうに何だよ。お前だってまだまだじゃないか」
「失礼な! 私はれっきとしたミレディア様の侍女ですよー」
「その割には、お嬢にほとんどのことをさせてるし。お嬢の方が器用だろ」
「そ、そんなことはないです。リーゼこそ、きちんと従うのってお嬢様の言うことだけでしょう? 私が注意しても、ちっとも聞いてくれないんだから」
「当たり前のように命令するからだろ。ちゃんと理由を説明しろよ」

 またしてもハンナが押されている。このままではいけないと思い、私は二人の間に入ることにした。

「こら、リーゼ。言葉遣い! ハンナももうその辺で」
「まったくもう、お嬢様はこの子に甘いんだから。リーゼ、ミレディア様に偉そうにしたら、おしりぺんぺんですよ~」
「なら、お前からだな」

 まともな教育を受けていない割には、リーゼの頭の回転は速い。言い負かされるのはいつもハンナの方で、今日も困った顔をしている。ここは母(仮)として、私が厳しく注意しなければ。

「リーゼ、お前って言うのは失礼でしょう? 言葉遣いも直してきちんとハンナと呼ばなければ、おやつ抜きにするわよ」
「うげ」
「お嬢様、私が偉そうだっていうのを否定していない~」

 え、気になるのってそこ? 
 私にしてみればハンナもリーゼもどっちも可愛いから、公平に接しようと心がけているのだけれど。
 王都にあるベルツの屋敷では、私達三人の平和なやり取りが毎日のように続いている。ここでの生活が予想以上に長びいて、一週間を超えたから。

 それというのも、リーゼと出会った日に兄が私を裏切り、勝手な約束を取り付けてきたせいだ。どうりであっさり、リーゼを引き取りたいという私の希望を叶えてくれたわけよね? 

『話はわかった。リーゼの今後の生活は、私も責任を持ち保証しよう』

 事情を詳しく説明した私に、そう約束したヨルク。喜びのあまり抱き着いてもあげたのに、損した気分だ。尊敬の気持ちを返してほしい。何のために私が今まで、領地に引きこもっていたと思っているの?



 先日開催された舞踏会の翌日。
 どうしても外せない用事があると出かけて行った兄は、私に内緒で城を訪れていた。表向きは取引のため、実際は双子の王子に呼び出されて。クラウス様とアウロス様の二人が待ち構えていて、兄にこう尋ねたらしい。

『一度も舞踏会に姿を見せず、病弱だと噂の女性がどうしてああも見事に踊れるのか』

 正体がバレただけでなく私のワルツが上手過ぎて、疑問に思われてしまったみたい……

 王子の誕生会ということで、広間には大勢の女性がいた。招待された未婚女性だけでも相当な数に上る。私は名乗らなかったし、顔も見せてはいない。銀色の髪だけでも会場には何人もいたというのに。
 素性を調べようにも、ヨルクは私と一緒に帰ったはずだ。あの場所に、兄以外の知り合いはいない。それなのになぜ、王子達はダンスの相手が私だとわかったのだろう?

 踊っただけで興味を持つ、というのもに落ちない。私ほどではないにしろ、ダンスが巧みな女性は他にもいるでしょう? 綺麗で可愛い令嬢も、あの場にはたくさんいた。ダンスコンテストならいざ知らず、普通はそっちが気になるはずよね?
 それに、アウロス王子とは踊ってさえいないのだ。二、三言葉を交わしただけ。

 兄は、二人から同じように私のことを聞かれたと言っていた。なぜ領地に引っ込み、舞踏会に出てこないのか、ということを。

「それで? まさか、しゃべってしまったんじゃ……」
「ええっと、お前が人前に出たくないことと、結婚せず隠居したがっていることをお話した」
「はい?」

 それって全部じゃない。容姿のことに触れなかったのは幸いだけど、質問されたからってそこまでペラペラ語るもの? 双子の王子も単に私の事情を知りたいだけで、兄を城に呼びつけるのはどうかと思う。
 そのヨルク、私を連れて城に上がると勝手に約束してしまったらしい。王城でもベルツ産のワインを扱いたい、という話を真に受けて。

「ごめん、ミレディア。どうしても販路を拡大したかったんだ。それには王家御用達の看板が一番効く」
「だからって、そんな!」
「何もお前を取って食うわけではない……と思う。そんなことは私がさせない……ようにする。一度会えば向こうも気が済むだろうし」

 何とも頼りない。
 兄が私のことより家業を優先するとは! まあ長男だし、本来はそれが普通なんだけど……
 でもあんなに私が一番だと言っていたヨルクが、私をダシに商売を広げようとしているなんて、思ってもみなかった。裏切られたと感じてしまうのは、そのためだろう。

 王子達も王子達だわ。私が一緒でなければ商談に応じないというのは、意地悪なのではなくて? そもそも城の中のことは、文官達の仕事だ。決して卑下するわけではないけれど、うちのワインごときで王子が二人も出てくるのは、おかしな話よね?

「連れて来いと言いながら、連絡を待て? 随分勝手ね」
「いや、正確には『お二人の時間が空くまで私が待ちます』と申し上げた。せっかくの機会だ。どちらかお一人にでも気に入っていただければ、我が家の未来は明るい」
「はあ? それならヨルクが女装して行けばいいじゃない。きっと似合うわ」
「ミレディア~~」

 憤慨して兄に当たるけれど、本当はわかっていた。地味な装いをしていたのに楽しく踊ってしまったせいで、却って興味を引いたのだと。アウロス王子を振り切って逃げたことも、良くなかったようだ。美貌の王子達は、今まで女性に素っ気なくされたり袖にされたりしたことがないのでは? だから余計に気になって、どんな人物か見てやろうと思ったのだろう。

「地味にし過ぎて失敗するなんて。悪女の方が良かったかしら? でも、それだとうちの評判が……」

 完全に手詰まりだ。
 やっぱりあの時、ダンスに応じなければ良かったわ。
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