私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる

文字の大きさ
68 / 85
近くて遠い人

文化祭7

しおりを挟む
 幕が上がった。
 始めの方は王子役の紅と魔女役の委員長が主に話を進める。

 ――魔女は相談役として、王子に今まで尽くして来た。ところが王子は隣国から送られてきた一人の姫の絵姿を見て、突然恋に落ちてしまう。嫉妬に狂う魔女。けれど王子は気づかない。
 魔女役の委員長が相変わらず飛ばしているせいで、客席は笑いの渦だ。大げさな表現が舞台映えして面白い。魔女はセクシー路線でぐいぐい王子に迫っているけれど、紅は当然動じない。桃華の大きな絵姿を見て、ウットリして頬ずりしている。

 見ているだけで、胸が痛む。
 私は魔女に自分を重ねていたから。
 もう少しで想いが届きそうだったのに。
 期待したのに叶わなかった。
 ヒーローが心に想うのはヒロインだけ。
 どんなに想っても、魔女の想いが王子に届くことはない。

「ほら、次出るぞ」
「ああ。小物は任せて」

 大道具の悲しい所は、雰囲気に浸れないこと。暗転したらすぐにセットを変えなくてはいけないからだ。



 ――魔女は姫を亡き者にするため、魔法の力で隣国に赴く。そこにいたのは、絵姿よりも美しい可憐な一人の女性だった。ここに来て魔女は迷う。消すのは簡単だけど、そうすれば、大事なあの人が悲しんでしまう。
 魔女は姫を眠らせることにした。
 目覚めないよう魔法をかけて。
 可愛さ余って憎さ百倍。
 王子が姫の元へたどり着けないよう、魔女は姫の住まう城の外に竜を放つ。

「何でここで金斗雲が出て来るんだか」
「そうでもしないと空飛ぶ竜とは戦えないからだろう? 王子に羽が生えたらおかしいって脚本係が」
「金斗雲も十分おかしいと思うけどな」

 そう言った直ぐ後に、紅の乗る雲の形の道具をステージ上に引っ張って行く。出来栄えはまずまずだけど、竜と戦うにしてはちゃちな感じがする。まあ竜も、最初は竜役のみんなの動きがバラバラで芋虫みたいに見えていたんだけど。
 王子と竜の戦闘シーン。
 今では竜の動きも合っているので、結構迫力がある。剣を持つ紅の動きも鋭い。演舞の時から扱い慣れているからか、本当に斬り伏せているように見える。冒険ファンタジーとアクションに、会場中が息を飲んでいる。

「ほら、また暗転だ。いよいよ変更箇所だ。まあ俺達には関係ないな。出るぞ」
「わかった」

 監督に言われた通り、桃華の眠るための台と造花の薔薇を用意した。客席から見えやすいように、可動式の台はわざと斜めになっている。私に笑いかけた桃華が台の上に横になった。決して悪気はないようだ。彼女は彼女で、キスは演出だと割り切っているのだろう。それが余計に悔しい。ヒロインは何もしなくてもヒロインでいられる。世界は常に彼女の味方だ。

 背景は私が描いた薔薇の花。
 結構上手くできたと思うのに、二人のキスシーンに使われるとは思わなかった。辛い気持ちを抱えながら、私は淡々と役目をこなしていく。桃華の周りに赤やピンク、黄色の薔薇の造花を敷き詰める。こんな時だというのに目を閉じた彼女は愛らしい。紅が桃華にキスをしたがるのも、少しはわかるような気がする……認めないけど。
 歯を食いしばり、ステージ袖に下がる。
 あとはもう、見ていることしかできない。



 ――傷ついた王子は、ようやく姫の元にたどり着く。王子は、紅は桃華を目覚めさせるために甘い言葉を囁く。

『我が愛しの姫君よ、どうして目覚めない。私の想いを受け取れないとおっしゃるのか』

 桃華のすぐ近くに屈みこむ紅。
 私と一緒に何度も練習したセリフを、ヒロインの桃華に熱く語りかけている。

『疑うのか、この想いを。君のために空を駆け、竜まで退治してきたというのに。どうすればいい? どうすれば君は、私のものになる?』

 一度は私に向けて言われた言葉。
 だけど今の紅はもう、桃華しか見えていないようだ。

『姫よ、この熱い想いをどうか受け取ってほしい』

 キスシーンはいよいよこの次。
 叶うことなら全力で止めに入りたい。
 たとえ演技だとしても、本当は桃華とキスなんてしてほしくない!

『姫――』

 桃華に紅が覆い被さる。
 監督の指示通りの演技なのだろう。

「キャーッ」
「いや~、紅輝様ー!」
「うわ~~」

 客席から悲鳴や黄色い声が上がる。
 キスシーンが上手くいったようだ。
 舞台袖のここからでは、二人の様子はよく見えない。桃華の顔の周りに薔薇を盛り過ぎてしまったようだ。
 けれど、客席の声を聞く限り本当に口づけたみたいだ。わかっていたし覚悟をしていたはずなのに、途端に胸が苦しくなる。私は胸に手を当てると、ゆっくり息を吸い込んだ。

「すげーな。思った以上に長い」
「ま、あんだけ可愛きゃ仕方ないんじゃね?」

 周りの出演者や大道具係は驚いている。一方、監督と脚本係の子は満足そうだ。リハーサルではなかったことだし、本番一発勝負。それなのに紅も桃華も驚くほど自然に演じている。



 ――王子のキスで目覚めた姫はゆっくり身体を起こすと、彼に問いかける。

『私を起こした貴方は誰? どうしてここにいらっしゃるの?』

 桃華の演技は上手だ。
 首を傾げる姿も愛らしい。
 会場中が固唾かたずを飲んで王子の答えを待っている。

『どうして? 私にそれを問うのか。無論、君のため。一目見た時から、私は君に心を全て奪われた』
『まあ、嬉しい』

 堅く抱き合う紅と桃華。
 美男美女の寄り添う姿は絵のように綺麗だ。客席からもため息が聞こえてくる。
 何度も一緒に練習したのに、私の時とは全然違う!

 やっぱり、好きな人が他の人とキスする姿は見たくなかった。甘い声で私以外に愛を囁いて欲しくない。わがままだってわかっている。今更何だって思われるかもしれない。だけど、紅には私だけを見ていて欲しかった。私の願いは、そんなに贅沢なことなの?

 舞台の二人に背を向ける。
 これ以上見ていられないから。
 この後すぐにアクションが始まる予定。
 だけど、今の私は笑えない。
 男の子の姿のままでは、嫉妬することすら許されない。
 私はヒロインにはなれないから――
 隣に立っても、決してお似合いだとは言われない。

しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わんこ系婚約者の大誤算

甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。 そんなある日… 「婚約破棄して他の男と婚約!?」 そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。 その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。 小型犬から猛犬へ矯正完了!?

処理中です...