本気の悪役令嬢!

きゃる

文字の大きさ
29 / 58
番外編

公爵家の双子~カルロ

しおりを挟む
 俺の名前はカルロ。
 バルディス公爵家三兄弟の真ん中。
 といっても弟のニコロは双子で同い年。
 残念ながら弟の方がおとなしい割に勉強は得意だ。まあ九歳離れた兄のリュークには、俺達二人がかりでも敵わないけれど。
 兄は父によく似た完璧人間。
 この国最難関の『王立カルディアーノ学園高等部』もあっさり飛び級で卒業した。公爵家の後継ぎで美形。成績優秀で運動も得意。そんな兄を女性達が放っておくはずはなく、父の所には当時山ほどの縁談が持ち込まれていたのだという。

 そんな兄にも弱点はある。
 それが幼なじみで現在の奥さんである『ブランカ』だ。



 俺達双子が生まれたのは、ブランカがちょうど病気の療養に行っていた頃。兄がまだ学園の中等部に入る前の事だ。完璧人間の兄は、赤ん坊である俺達の面倒も嫌がらずに見てくれていたそうだ。まあ、父に引っ張り回されてよく旅に出ていたから、当時既に家にいない方が多かったらしいけれど。

 中等部に入ってからも学園の休みには時々家に帰ってきていた。その頃に外でたくさん遊んでもらった記憶がある。水の魔法は便利だ。わざわざ遠くの川や湖なんかに行かなくても、自宅の庭で思い切り遊べる。
 そういえば当時の彼は、自分の部屋の机の引き出しから手紙のようなものを引っ張り出してはニヤニヤしていた。あの時はよくわからなかったけれど、あれはもしかして今の奥さんのブランカからの手紙だったのではないだろうか?

 クールな外見とは裏腹に兄は一途だった。
 弟のニコロには教えていないが、二人が留学中密かに婚約の申請をしていたのを知っている。大事な花瓶を割った後、母に怒られるのが怖くて逃げた先の父の書斎でその書類を見つけた。兄の名前ともう一人、相手の欄にブランカ=シェリル=バレリーと記入されていた。
 あの兄が婚約したいと思う程の相手だ。
 完璧女性かすこぶる強い女か、天使のように可愛いか。
 時々我が家を訪ねてくるカッコいいバレリーおじさんの娘、という事だったから俺は興味津々だった。



 俺が初めてブランカに会ったのは、高等部の兄が帰国途中に怪我をして、家で安静にしていた時。
 すごく綺麗な人だけど、思っていたのとは違った。
 完璧ではなく意外にドジだ。
 強いと思ったけれど、記憶を失くした兄に無視をされると陰でよく泣いていた。天使のように可愛い外見の『マリエッタ』という女の子も見舞いに来てくれた。あの子の方がよっぽど強くてたくましく、兄には合っているような気がした。ブランカは確かに美人だけれど、兄は彼女のどこを好きになったんだろう?
 
 ニコロはブランカにすぐ懐き、嬉しそうに自分の絵を見せていた。だけど俺は彼女を認めなかった。だって、兄がすぐに忘れてしまえる程度の存在なら、きっとたいした事はない。そう思って反抗していた。
 彼女がリュークの部屋に入ろうとする度に、兄に用事があるフリをして邪魔をした。なぜかメイドの真似事をする彼女をバカにして、わざと部屋を汚してみた。母とお茶を飲む彼女に構わず、近くのソファに寝っ転がった。もちろんこれは、後から母にこっぴどく怒られる事となった。

 兄がブランカの事を嫌がっていると信じていた俺は、そんな感じで思いつく限りの嫌がらせをした。
   婚約の書類はきっと間違いで、兄と一緒になりたいブランカが無理やり書かせたものに違いない。ケガに付け込んで今度こそ、と迫っているのかも。
 そんな彼女が兄の相手だなんて絶対に認めない!

 今考えれば子供っぽく、バレたらリュークに殺されかねない。けれど当時の俺は真剣だった。兄が彼女の事だけを思い出せないと言うから、二人の間を壊そうと必死に頑張っていた。
 


 ある日の朝。
 地下の貯蔵庫に向かうブランカの後をつけて中に入るのを確認し、外側からカギを閉めた。この扉は、鉄の取っ手を留め金に下ろすだけで簡単に施錠できる。内側にカギはないから、もちろんすぐに開ける予定だった。
 いつものちょっとした嫌がらせ。けれど俺を探しに来たニコロと一緒に戻る途中で、その事をすっかり忘れてしまった。父に出された課題がまだだったし、家庭教師も待たせている。大嫌いな勉強と格闘しているうちに、あっという間に時間が経っていた。

「今日はブランカちゃん来ないわね~」

 夕刻、そう言った母の言葉で彼女を閉じ込めていた事を思い出した。兄もホッとした顔をしているかと思いきや、どこか残念そうな表情をしている。

 俺は慌てて地下の貯蔵庫に向かった。
 見ると彼女はちょうど料理長に助け出された後だった。食材を取りに来た彼と何か話をしている。もしかして言いつけられた? ずっと一人で怖かったと訴えている? 
 犯人捜しをされてしまったら、すぐに俺だとわかってしまう。今までの嫌がらせが全てバレてしまって、両親からこっぴどく怒られ、罰を与えられてしまうだろう。当然、兄や使用人達の信用も無くし嫌われてしまう。
 彼女は怯えた表情の俺と目が合うと、ニッコリ微笑んだ。次いで予想もしなかった事を言い出した。

「あら、カルロ。今日は私が来ていないと思ってわざわざ探しに来てくれたの? それとも助けに来てくれたのかしら? 小さな騎士は頼もしいわね。どうもありがとう」

 そう言って頭を撫でてくれた。
 嘘だ! 
 ブランカとは今朝既に言葉を交わしている。
 それに、今会った事で俺が閉じ込めたのだと気づいたはず。なのに彼女は俺を責めない。全て無かった事にしようとしている!

「ああ、坊ちゃん。坊ちゃんからも言ってやって下さい。本当に使用人の真似事はほどほどにして下さいよ? 貴族のお嬢様が慣れない事をするから、中途半端な開け方で取っ手が下りてうっかり閉じ込められてしまうんです。たまたま私が来たからいいようなものの、貴女のせいで私達が責められる事になったらどうするんです?」

「本当に申し訳ありません。もうご迷惑をおかけしないように気を付けますので、見逃して下さい」

 ブランカは恐縮したように使用人に対して何度も頭を下げた。
 違う! 彼女は何も悪くない。それに、いくら腕が良いからと言って我が家の客人に対してその態度は何なんだ? 偉そうにしていいと思っているのか!

「まったくもう! 今後一切ここには近付かないで下さいよ」

「何をっ……もが」

「わかりました。あなたのおかげで本当に助かりました。ありがとうございました」

 ブランカは文句を言おうとする俺を抱え込み、もう一度料理長に頭を下げた。彼は言うだけ言うと気が済んだのか、食材を持ったままさっさと持ち場へ帰って行った。

「どうして……?」

「私がうっかり閉じ込められてしまったの。きっとリュークの事を考えてボーっとしていたのね。あなたはそんな私を助けに来てくれた。それでいいんじゃない?」

 彼女はそう言って笑った。
 たった一人で心細かっただろうに……
 彼女は俺を責めなかった。


 以前、兄から聞いた事がある。
 人間には二種類のタイプがいる――強い人と弱い人と。
『人は自分の強さを誇りがちだが、本当に強い者は表には出さない。真の強さとは力や肉体では無く、心の強さだ』

   その時は難しくってよくわからなかったので、適当に聞き流していた。でも今なら少しだけ、わかるような気がした。
 何度嫌がらせを受けてもブランカがここに通った理由。リュークに冷たくされて陰で泣きながら、それでも諦めなかった理由。彼女はただ優しいだけでなく、芯の強い女性だったのだ。

「ごめ……ごめんなさい……」

 俺は初めて心から悪いと思った。
 今までの事も全部含めて謝った。
 到底許してはもらえないだろうけれど。
 そんな俺に彼女はたった一言。

「あなたは良い子よ」

   それ以来、俺は悪さを止めた。リューク程では無くても、公爵家の名に恥じぬよう勉強だって頑張った。彼女は俺を比べない。一生懸命努力すれば、いつかきっと!



 二人の結婚式で俺は人知れず泣いていた。
 あのままリュークがブランカを思い出さなかったら、いつかは俺にもチャンスが巡って来たのだろうか? 
   晴れやかな日に満面の笑みを浮かべて片時も彼女を離さない兄を見ながら、そんな実現不可能な事を考えていた。

 彼女を閉じ込めたあの日に気が付いてしまった。なぜあんなに兄との仲を邪魔してしまったのか。なぜかたくなに彼女を認めようとしなかったのか。素直になれなかったけれど、俺はきっとこう言いたかったのだ。

 リュークが思い出さないのなら、彼を想う事なんて諦めてしまえばいい。兄にこだわらなくても、他にも君を想う人はいっぱいいるはずだから。陰で泣くくらいなら、そんなに辛いなら、止めてしまえばいいのに――

 
 
 結局、全てを思い出した兄とブランカは元に戻った。
 その後も少し危なかったみたいだけど、リュークは「いざとなったら家を頼む」と俺に言い残して彼女を追いかけて行った。兄も一途だったけれど彼女はもっと兄を想っていたようだ。怪我をさせた自分を責めて王都を離れたのだ、と後から聞いた。
 それからのリュークは、バカみたいにブランカを溺愛している。

 今日久々に会った兄は、やっぱり彼女を離さなかった。
「リューク、変わったよな……」
 双子の弟のニコロにはそう言ったけれど。

 完璧人間のリュークが奥さんのブランカにだけは頭が上がらない。彼女と目が合えば喜び、声を聞けば嬉しそう。

 そんな人間臭い兄を、俺は案外気に入っている。
しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。