本気の悪役令嬢!

きゃる

文字の大きさ
53 / 58
新婚旅行編

海で遊ぼう!

しおりを挟む
 リュークは行ってしまった。
 私はただ、彼の無事を祈って帰りを待つだけ。
「心配するな」と言って笑ったリューク。
 その表情に昔のことを思い出し、少しだけ胸が痛んだ。
 私は、馬上の彼が小さくなって見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
 どうか気をつけて。
 決して無理はしないで。



 宿に戻ると、沈んでいた私を見兼ねたのか、マリエッタが提案してきた。

「さ、ブランカ様。邪魔者はいなくなったことだし、みんなで海に行きましょう!」

 マリエッタ、人の旦那を邪魔者ってそんな……
 でも、みんなと一緒の海には心を惹かれる。
 リュークと二人きりの時とは、また違って見えるかもしれない。彼はすぐに私を甘やかそうとするから……ってほら、出掛けたそばから私はもう彼のことを考えている。戻ってくるとわかっているのに不安になるなんて、『新婚旅行』が聞いて呆れるわね。
 さてと、気持ちを切り替えてみんなと楽しむことにしますか。

 体育会系のライオネルはもちろん反対しないだろうし、ユーリスはマリエッタの言うことなら大抵従う。まあ、あまりに変なことを言い出す場合は大慌てで止めるけれど。ジュリアンは肩をすくめているから、みんなが行くとなったら参加するだろう。

「マリエッタ、でも貴女水着は?」
「もちろん用意しましたよー。私だけでなくみんなも。ちょっと高かったけど、近くで買っちゃいました」

 そうか、ここは観光地。
 さすがに水着くらいは売っている。
 近くってことは新市街で買ったのね?
 だったら値段は高いけど、品質には問題ないはず。

「そう。じゃあ私の部屋で着替えて……って、みんなもここに泊まるの?」

 私は確認してみた。
 もしかしたら、別の旅籠に宿泊するのかもしれない。

「うん。でも、僕ら一部屋しか取れなかったんだ。ブランカはマリエッタをお願いできる?」

 ユーリスに頼まれた。
 観光シーズンなのに、急に来て部屋が取れただけでも大したものだ。

「ブランカ様、お願い!」
「もちろんいいわよ。それにしても一部屋だけとはいえ、よく確保できたわね?」

 リュークもいなくなったことだし、広い部屋に一人ではもったいないのでちょうどいい。それに、私が愛らしいマリエッタの頼みを断るわけがない。寮生活が長かったから、誰かと同室でも苦にならないしね。

「だって僕、一応王家の人間だよ? それにこういうところは大抵、賓客用に普段空けている部屋がある。まあ、運よく前の人が出て行った後だったから入れたんだけどね」

 そうだった。
 ジュリアンはカイルの従弟で王家の人間。
 特別な扱いには慣れている。
 それにしても、『海の街』恐るべし。
 最高級旅籠の賓客用の部屋までもがフル回転とは、何たる盛況ぶり。というより、手配もせずにいきなり来たみんなもすごい。

「もし部屋が空いていなかったら、どうするつもりだったの?」

 聞いてみると、ジュリアンが可愛らしく首を傾げて答えた。

「そんなの、ブランカの部屋にみんなで泊まるに決まっているよね? リュークもいなくなったことだし、せっかくのチャンスだったのに残念だな」

 空いてて良かった――
 マリエッタはともかく、他の三人と同じ部屋に泊まったとなったら、今度こそリュークに一生外出禁止にされてしまう。


 水着に着替えて上着を羽織れば準備は万端!
 海に行く前に受付に寄った。
 昨日のアシュリーが尋ねて来て、入れ違いになるといけない。「すぐ前の海にいるから知らせて欲しい」と旅籠の人に頼んでおいた。快く了承してくれたので、ひとまず安心だ。
 目の前の浜辺に移動する。
 みんなでぞろぞろ歩いていると、何だか修学旅行に来たみたい。さすがに囚人服のような袖の長い水着を着るのは恥ずかしかったので、私はリュークに封印されていた水色のフリルワンピースの水着を引っ張り出した。
 マリエッタが着ているのはピンク。
 彼女ももちろんワンピースだけれど、胸の所に赤と白のストライプの大きなリボンが付いていて、袖がフリルで飾られている。そんな可愛い水着を着ているマリエッタは、夢見るように愛らしい!
 
 ライオネルは赤と黒の海水パンツ……というか、キュロット。普通の人が着たら派手に見えるけれど、彼が着ると赤い髪に映えてすごく似合っている。もっとも彼の場合、つい上半身の筋肉に目がいってしまうけれど。
 ユーリスは膝から腰まである深緑色の長めのパンツスタイル。彼らしい大人しいデザインだけど、無駄のない引き締まった身体によく合う。本ばかり読んでる印象が強い彼だけど、きちんと鍛えているようだ。
 ジュリアンならワンピースも似合いそう! と、思ったらとんでもなかった。スカイブルーに白い線が入ったキュロットは、可愛らしいけどカッコいい。しかも、脱いだらすごいんです……じゃなくって、彼も鍛えていたようで、均整の取れた身体つきをしている。細マッチョって、こういうことを言うのだろうか?

 いけない、携帯アプリの『プリマリ』ですらせいぜい浴衣姿。水着イベントなんてなかったから、つい興奮して凝視してしまった。じろじろ見るから変なやつだと思われて、逃げられてしまったらどうしよう?

「もう、ブランカ様ったらぁ。どうしたんですか? じっと見て。恥ずかしいですよ~」

 私に抱きつきながら言うマリエッタ。

「ごめんなさい。あなたがあまりにも可愛いらしいから」

 私は率直な感想を述べた。
 太陽の下のマリエッタはまた格別だ。

「えへへー、ブランカ様に褒められちゃいました」
「ブランカ、僕は? リュークよりいいかもって思わない? いっそのこと、僕にかえない?」
「ジュリアンったら。もちろん素敵よ? でも、変な冗談はやめましょうね」
「ちぇー」

 ぷくぅと頬を膨らませるジュリアンはまだまだ可愛らしい。カッコよく成長した彼だけど、ゲーム通りの肉食系にならずに済んで、本当に良かったわ。

「こいつの場合冗談じゃないぞ。まあ、リュークが帰って来なかったら、俺が護衛して帰ってやるよ」

 ライオネルったら。
 そういう冗談も止めてほしい。
 リュークも途中にある山道は克服したはずだから、大丈夫。元々旅慣れているし一人だから、役目を終えて早く戻ってくるに違いない。

「ほら、海を前にしてお喋りだけではもったいないよ? せっかくだから、入ってみない?」

 さすがはユーリス。
 私やマリエッタ、ライオネルより一つ年下だけど、この中では一番冷静だ。

「来るときもビックリしたけど、海って本当に青いのね! まるで空を溶かしたような色だわ」

 マリエッタの感想は、意外に近い。
 正確には空ではなく、太陽の光の青だけど。
 でもせっかくの休暇だ。難しいことは考えずに、みんなと心ゆくまで楽しむことにしよう!



 足を水に浸して波打ち際で止まると、波が引いた時に足下が動いているような変な感じがする。この奇妙な感覚を、みんなに教えてあげた。一番喜んだのはライオネルだった。

「うわっ、気持ち悪~~! てか、くすぐったいな、これ」
「砂に埋もれてしまわないのかしら?」

 マリエッタが不思議そうに言う。
 大丈夫、そんなことにはならないから。
 もし可愛い貴女が砂に埋もれたとしても、助け出したい男性陣が列を作るに違いない。
 巻貝を気に入ったのはユーリス。
 耳に当てると「波の音が聞こえる」と教えてあげた。

「本当だ、ブランカって物知りだね!」

 褒められて悪い気はしない。
 まあ、全部が前世の知識だけれど。
 ジュリアンは色とりどりの貝に興味を示したようで、見つけては拾って眺めている。

「ねぇ見て! すごく綺麗だね。内側がブランカの髪と同じ紫色の貝もあるよ」

 波打ち際に佇む笑顔の美少年。
 ベストショットいただきました。
 携帯があれば連写していたのに。
 まあいいか。脳内にしっかり保存しておこう。

 カイルとリュークがいないのは残念だけれど、みんなと一緒の海はすごく楽しい。『新婚旅行』だと思って浮かれていたけれど『修学旅行』もいいもんだ。そういえば『王立カルディアーノ学園』にはなかった。もし意見を言う機会があれば、『修学旅行』を提案するのもいいかもしれない。

「海って言ったら、やっぱり泳がなきゃな」
「僕も泳ぎは得意だよ」

 ライオネルとジュリアンが話している。
 でも、あれ? 
 我が国には海がないのに何で?

「あなた達、もしかして泳げるの?」
「もちろん。軍人には泳ぎも必要だ」
「僕も。城で習うよ? カイルも泳げるはずだ」
「だって、海が無いのに……」

 私は質問してみた。

「そんなの、川や湖とおんなじだろ?」
「水が塩辛いけど、多分変わらないよね」

 ああ、そうか。
 四方を他国に囲まれている我が国に海は無いけれど、川や湖なら当たり前のようにある。それに、軍隊は国外にも出ないといけないから、万一の時のためにライオネルは泳ぎの練習をしているのだろう。

「そう。それなら一緒に泳ぎましょう」
「お? まさかブランカ、女性なのに泳げるのか?」
「無理しなくていいよ? ライオネルなら適当にあしらえるから」
「ふふ、楽しみだわ。リュークは泳ぐというより、魔法を使ってズルするし。この辺でもあまり泳げる人を見かけなかったから、嬉しいわ」

 そう。初日のナンパ男以外、この浜で出会う人はあまり泳ぐ気がないみたい。せいぜい手前で水遊びをする程度だった。俄然やる気がわいてきた。私は柔軟体操をすると、張り切って海の中に入っていった。
しおりを挟む
感想 205

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。