地味に転生できました♪~少女は世界の危機を救う!

きゃる

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地味顔に転生しました

麗しの王子様

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「もう一度言ってくれるかな?」

 滅多に動揺しないその人は、あおの綺麗な目を細め小首をかしげて聞き返してきた。

「ですから、わたくしのワガママで殿下の貴重なお時間を割いていただくのはしのびないと申し上げましたの。他のご令嬢達にも悪いですもの」

 綺麗な顔を見つめながら、私は真面目な顔でもっともらしい理由を述べる。
 つーまーりー。
   婚約者でもないのに更に地味顔でモブの分際で今までつきまとっててごめんね?   あなたの隣は美人のライバル達に譲ってあたしゃ降りるわ、って宣言しました!


 ここは王城の海を臨むテラス。
 白い手すりの向こう側には輝く青い海が広がっている。
 王都の一番高台に、青い屋根と尖塔が特徴の壮麗なお城がある。北側は崖で海ビュー、正面南側からは眼下に貴族の邸宅や街を一望する事ができる。優美な造りのこの城は、ゲラン王国のシンボルだ。
 ずっと昔に宰相である父様に連れて来てもらって以来、私はお城とここから見える景色、そして同い年の優しい王子様の虜となった。王子様は小さな頃から海側が気に入っている私のために、今日も北側にお茶席を用意して下さった。薔薇の紅茶にいつもの焼き菓子を添えて。

「でも、アレクの方が今まで積極的だったよね?」

 クスッと笑った顔もサマになるこの方こそが、私と同い年のこの国の王子様。
 金髪碧眼、白磁の美貌で神童の名を欲しいままにしているリオネル・ゲランドール第一王子様だ。金糸の入った水色の上着とトラウザーズ、真っ白なクラバットも麗しいお顔によく似合い、目の保養となっている。
   対して私はピンクのフリフリドレス。後ろに付けた大きなリボンとフリルや裾のレースが特徴だけど、いかんせん地味顔なので完全に華美なドレスに負けている。

   まあね。おっしゃる通り父様の地位と幼なじみの立場を利用して、今まで散々つきまとってきましたよ? だってイケメン嫌いじゃないし。   
   優しい理想の王子様は、苦笑しながらも忙しい合間を縫って何だかんだと付き合ってくれたから。お城の中を探検したり、図書室で一緒に勉強したり……ま、まあ私は途中で寝ていた事もあったけど。そんな時でも彼は私を起こさずにずっと一緒にいてくれた。楽器の演奏やダンスの相手をしてくれた事だってあった。何でもできるリオネル様は何もできない私のためにいろいろ教えて下さった。
 だから私も『私って意外と美人で王子様に好かれているんじゃない?』と、絶賛カン違いをしてしまった。彼にしてみれば宰相の娘に対するただの親切心だったのに。まめに城に通って優しくされた事で、王子様にとって自分は無くてはならない特別存在だと思い込んでしまっていた。
 2ヶ月前にハッキリと前世を思い出すまではねー。

 本当は『アレク』って男の子みたいな呼び方をされてた時点で気付くべきだった。婚約者どころか女の子としても見られていないって事に。『アレキサンドラ』なんてご大層な名前、私に似合わず偉そうだっていうのはわかるんだけど。でも記憶にある限り、一度も呼んでもらっていないような……
 なのに私は悪役令嬢さながらに、王子様の婚約者面して近づく侯爵令嬢や伯爵令嬢達を年上だろうが年下だろうが威嚇いかくしまくっていた。
「礼儀がなってない」だとか「挨拶の仕方が違う」と言っては王子様の隣で威張ってふんぞり返っていた。王子に相応しいのは自分だと思い込んで、彼に近づかないよう周りを牽制けんせいしちゃってた。

 すっごくすっごく嫌な子でした。

 前世を思い出した今、脳内高校生の私がまだ10才の王子様にストーカーなんてねぇ。いくら彼が将来有望で大人びているとはいえ、これは間違いなく犯罪レベルでしょう!

「今までのわたくしの稚拙ちせつな行いにつきましては、申し開きもございません。リオネル様にこれ以上のご迷惑をおかけする前に、お別れに参りましたの」

 ドヤ顔で宣言する私に、突然何だと瞳を見開き絶句している王子様 。お茶のカップを持つ手も先程から止まっている。綺麗な子供はどんな表情でも絵になるなぁ。あと何年かしたら、絶対にカッコよく素敵な青年になるんだろう。
 確かに大好きだったけど。
 前世を思い出したせいで急に変な事を言い出して、申し訳ないけれど。

 でも私には夢がある。
   せっかく生まれ変わったんだから、今度は女子と仲良くしたい。ガールズトークで恋バナとかしてキャッキャウフフもしてみたい。休日にスイーツはしごしたり、一緒に買い物に行くのも実は楽しみ。
   せっかく地味顔に生まれて女子から敵視されなくなったんだもの。自分から揉め事に首を突っ込むつもりはない。親の権力を笠にきて、婚約者でもないのに婚約者面してこれ以上同性の恨みを買いたくない。嫉妬で囲まれたり嫌がらせをされるのは、前の人生だけでもうこりごり。

   王子様、カッコいいけどまだまだ子どもだし。
 小さいうちから下手に仲良くなって親に期待させても悪い。
 彼を狙う女の子達から嫌がらせをされるのもすんごく避けたい。
   今まで散々好き好きアピールしていたから、かなり今さらなんだけど。
   これまでの私の行動は、できれば無かった事にして欲しい。
『地味顔モブの気の迷い』で片付けてくれたら本当に嬉しい。
 


「今までありがとうございました。こちらにお邪魔する事は当分無いかと思います。これからは私を気にせず心安らかにお過ごし下さいね」

「だけど、アレク……」

   困ったように眉を寄せる王子様。
 そんな表情でさえとても綺麗。
 完璧な彼と適当な私とでは、完全に不釣り合い。

「ご親切は忘れません。今まで仲良くしていただき本当に感謝しております。では、所用がございますので私はこれで。失礼ながらお先に退席させていただきますわね?   リオネル様、ごきげんよう」

 呆気にとられポカンとした表情で固まる王子様。
 考えていたセリフを言い切った事に満足した私は、金髪の美少年をその場に残して意気揚々とテラスを後にした。

 

   
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