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地味顔に転生しました
事件の始まり
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アイリス様からショッピングのお誘いがあった。
でもこの世界に『福袋』という概念はないハズだから「近日中に是非」と、返事をしておいた。
新年初日はみんないつの間にか寝てしまった。
私も一旦夜中に起きたものの、結局朝寝坊してしまった。
朝起きた時に1人見慣れない顔の女性がいたので、みんなで「「「誰?」」」と顔を見合わせた。だけどその正体はお化粧を落としたイボンヌ様で、素顔は17歳という年相応に可愛らしかった。
「そっちの方がいいのに~」と思ったのは、きっと私だけではないはずだ。
すごく楽しい時間をみんなと過ごせたので『今年も絶対良い年になる』と、私は確信していた。
お父様やお兄様をはじめとする大人の男性陣は年明けすぐ、慌ただしく登城したとのこと。けれど3日後の今もまだ家には帰って来ない。
「王城内どんだけブラックなんだ?」
以前、お城の仕事は暇なのね~と考えていたことも忘れて愚痴ってみた。
「嫌だわ、アリィったら。お父様がお留守の方が自由に過ごせるでしょ?」
いえいえお母様。
あなたお父様がいらしても十分自由ですが。
確か大恋愛の末の結婚でしたよね?
良いんですか? そんなんで。
新年早々娘の結婚願望を壊すの止めて下さいな。
結局、新年はお母様やレオンや屋敷に残っている使用人(という言葉はあまり好きではないんだけど)達とお祝いをしてゆっくり過ごした。
そんな矢先にアイリス様からまたまた買い物のお誘い。知らないだけでこの世界にも実はあるのか、福袋? 気になった私はついOKしてしまった。
腐っても地味でも公爵令嬢なので、お母様に許可をいただき一応侍女と護衛と「一緒に行きたい!」というレオンを連れて行く事にした。
「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」
私ってなんて理解のあるいいお姉さんなんだろう!
わかってるわよ、レオン。
アイリス様、清楚な美少女で可愛いもんね。
可愛い弟のために、一肌脱いであげるから!
「ばか、アリィ、違うよ」
「照れなくてもいいのに~~」
軽口を叩きながら馬車に乗り込む。
一応、街中用にと私もレオンもシンプルな服を着てきた。
商家のお嬢様とお坊ちゃんに見えないこともない。
街の入り口で馬車を止め、舗装された通路を指定されたお店の方にみんなで歩いていく。今日の案内はベテランのエルゼさん。リリーちゃんは余計に迷子になりそうだから屋敷に置いてきちゃった。
年の初めは家族と過ごすのが一般的なこの国の風習のせいか、予想したよりも開いているお店はかなり少ない。
なのに、なんで今日なのかしら?
もしかしてやっぱり福袋!?
期待に胸が膨らむ。
「『光と影』? そんな所にそんな名前のお店があったかしらねぇ?」と、街をよく知るはずのエルゼさんが言うので一瞬不安になった。到着したのは新しいお店。笑顔で手を振るアイリス様が護衛と一緒に待っていた。
「ほらレオン! やっぱりアイリス様って可愛いわね!」
「知るかよ」
「あら、レオン。付いて来たがったくせに意外に冷たいのね」
ふふ。レオンったら。でもわかっているわよ。
彼女の前でカッコつけたいのよね?
理解あるお姉さんはそれ以上ツッコミません。
「アレキサンドラ様、レオン様ごきげんよう。レオン様、わたくしお姉様と一緒にお買い物をしたくて強引にお誘いしたの。ゴメンなさいね」
そう謝られたけれど、うちの弟は残念ながらシスコンではないの。今日もきっとアイリス様目当て。私も女友達とのショッピングが夢だったし。
「とんでもない! こちらこそお誘いいただいて光栄ですわ。楽しみですわ。ね、レオン」
ニコニコしながら代わりに答えておいた。
弟は肩を竦めただけで「さっさと行くぞ」とお店に入ってしまった。美人に話しかけられるとすぐに照れるところがまだまだ子どもだ。
入ったお店は女性のドレスと小物の専門店。
店内をキョロキョロ見てある物を探すけれど、当然見当たらない。ダメ押しでアイリス様に聞いてみた。
「あの、福袋は……」
「服、ぶくろ? 存じませんが」
そばにいた店員達も首を横に振る。
ああ、やっぱり無かったか。ちょっと残念。
私はガックリと肩を落とした。
店内はパステルカラーのバルーンやリボンの装飾をほどこし、繊細なレースや丁寧な作りのドレスや小物が所狭しと並んでいる。全体的に明るく可愛らしい印象のお店で、デパートの子供服売り場なんかによくありそう。女の子だし、可愛いものってやっぱり憧れるわよね! 福袋を諦めた私は気を取り直してよく見ることにした。
可愛らしい店の雰囲気ににそぐわないのは、アイリス様の所とうちのゴツい護衛達。完全に無表情なので「イボンヌ様御用達のセクシーな夜着のお店でなくて良かったかも」と言うと、アイリス様も「ふふふ」と笑って下さった。
あぁ、前世ではこんな買い物に憧れていたの。
買い物の後は、当然カフェでスイーツよね?
一方、店内にひどく似合うのは弟のレオン。
口調は俺様だけど、もともと天使の容貌なので私よりも余程ドレスが似合いそう。
「ウィッグ付けて着てくれないかな~、ドレス」
私の希望は当然スルーされた。
現在レオンは女性用の小物に夢中。
誰かにあげるのかしら?
まさか自分の趣味、ではないわよね?
お姉さん信じてるからね!
「こちらのドレス、アリィ様に似合いそう」
アイリス様がおっしゃって差し出してきたのは、淡い黄色のシフォンのドレス。
私の栗色の髪と黄色なら、確かに相性が良いかもしれない。身につけてみて、気に入ったら自分サイズでオーダーすれば良いそうな。リボンやレースなど、好みのオプションをつけることも可能だそう。
「仕立てるのが当たり前のアリィ様にオススメするのは心苦しいのですが。この店のデザインが今風で素敵だと思うんです」
ドレスなら家にいっぱいあるし、もったいないから本当はいらないけれど。でもどれが良いかと一緒に選ぶのが、女友達との買い物の醍醐味に違いない! 買う買わないに関わらず、お互いに試着して「可愛い~~」とか「似合う~」とか言ってみたり。いけない、キャッキャウフフをしなければ!
前世では既製品が当たり前だったから、もちろんまったく気にならない。
「アイリス様がせっかく見立てて下さったのだもの。楽しみですわ」
取り敢えず試しに着てみることにした。
アイリス様には目の色を引き立てるラベンダー色のスリムなドレスをオススメした。美人なので、何を着ても確実に似合うに違いない。
レオンは相変わらず小物に夢中。
ゴメンね、連れてきて。
もしかして、イケナイ扉を開いちゃった?
「ちょっとだけ着てくるから、寂しがらずに待っててね」とお姉さんぶると、「子供扱いするな!」と、怒られてしまった。
「いつ見ても仲がよろしいのですね」
「えぇ、自慢の弟ですから」
言ったそばからレオンに睨まれてしまった。
なんでぇ~?
でも大丈夫、アイリス様にしっかりとレオンの良いところアピールしておくからね!
私達は試着用の別室に移動。
もちろん男子禁制だから、護衛達とレオンはここから先には入れない。
エルゼさんは侍女なのでOK。
アイリス様の侍女が見当たらないけれど……
似合うに決まっているドレスで軽く身体に当てるだけだから必要ないのかな? 彼女は常連っぽいので、店員さんに手伝ってもらえるのかもしれない。
店員に案内されて長椅子と豪華な調度品のある別室……をなぜか通り過ぎた。
目立たない扉を開けて案内されたその先は――
その先は、なぜか外の暗い路地だった。
でもこの世界に『福袋』という概念はないハズだから「近日中に是非」と、返事をしておいた。
新年初日はみんないつの間にか寝てしまった。
私も一旦夜中に起きたものの、結局朝寝坊してしまった。
朝起きた時に1人見慣れない顔の女性がいたので、みんなで「「「誰?」」」と顔を見合わせた。だけどその正体はお化粧を落としたイボンヌ様で、素顔は17歳という年相応に可愛らしかった。
「そっちの方がいいのに~」と思ったのは、きっと私だけではないはずだ。
すごく楽しい時間をみんなと過ごせたので『今年も絶対良い年になる』と、私は確信していた。
お父様やお兄様をはじめとする大人の男性陣は年明けすぐ、慌ただしく登城したとのこと。けれど3日後の今もまだ家には帰って来ない。
「王城内どんだけブラックなんだ?」
以前、お城の仕事は暇なのね~と考えていたことも忘れて愚痴ってみた。
「嫌だわ、アリィったら。お父様がお留守の方が自由に過ごせるでしょ?」
いえいえお母様。
あなたお父様がいらしても十分自由ですが。
確か大恋愛の末の結婚でしたよね?
良いんですか? そんなんで。
新年早々娘の結婚願望を壊すの止めて下さいな。
結局、新年はお母様やレオンや屋敷に残っている使用人(という言葉はあまり好きではないんだけど)達とお祝いをしてゆっくり過ごした。
そんな矢先にアイリス様からまたまた買い物のお誘い。知らないだけでこの世界にも実はあるのか、福袋? 気になった私はついOKしてしまった。
腐っても地味でも公爵令嬢なので、お母様に許可をいただき一応侍女と護衛と「一緒に行きたい!」というレオンを連れて行く事にした。
「レオン、年上が好きなら相談してね。お姉さん応援するからね!」
私ってなんて理解のあるいいお姉さんなんだろう!
わかってるわよ、レオン。
アイリス様、清楚な美少女で可愛いもんね。
可愛い弟のために、一肌脱いであげるから!
「ばか、アリィ、違うよ」
「照れなくてもいいのに~~」
軽口を叩きながら馬車に乗り込む。
一応、街中用にと私もレオンもシンプルな服を着てきた。
商家のお嬢様とお坊ちゃんに見えないこともない。
街の入り口で馬車を止め、舗装された通路を指定されたお店の方にみんなで歩いていく。今日の案内はベテランのエルゼさん。リリーちゃんは余計に迷子になりそうだから屋敷に置いてきちゃった。
年の初めは家族と過ごすのが一般的なこの国の風習のせいか、予想したよりも開いているお店はかなり少ない。
なのに、なんで今日なのかしら?
もしかしてやっぱり福袋!?
期待に胸が膨らむ。
「『光と影』? そんな所にそんな名前のお店があったかしらねぇ?」と、街をよく知るはずのエルゼさんが言うので一瞬不安になった。到着したのは新しいお店。笑顔で手を振るアイリス様が護衛と一緒に待っていた。
「ほらレオン! やっぱりアイリス様って可愛いわね!」
「知るかよ」
「あら、レオン。付いて来たがったくせに意外に冷たいのね」
ふふ。レオンったら。でもわかっているわよ。
彼女の前でカッコつけたいのよね?
理解あるお姉さんはそれ以上ツッコミません。
「アレキサンドラ様、レオン様ごきげんよう。レオン様、わたくしお姉様と一緒にお買い物をしたくて強引にお誘いしたの。ゴメンなさいね」
そう謝られたけれど、うちの弟は残念ながらシスコンではないの。今日もきっとアイリス様目当て。私も女友達とのショッピングが夢だったし。
「とんでもない! こちらこそお誘いいただいて光栄ですわ。楽しみですわ。ね、レオン」
ニコニコしながら代わりに答えておいた。
弟は肩を竦めただけで「さっさと行くぞ」とお店に入ってしまった。美人に話しかけられるとすぐに照れるところがまだまだ子どもだ。
入ったお店は女性のドレスと小物の専門店。
店内をキョロキョロ見てある物を探すけれど、当然見当たらない。ダメ押しでアイリス様に聞いてみた。
「あの、福袋は……」
「服、ぶくろ? 存じませんが」
そばにいた店員達も首を横に振る。
ああ、やっぱり無かったか。ちょっと残念。
私はガックリと肩を落とした。
店内はパステルカラーのバルーンやリボンの装飾をほどこし、繊細なレースや丁寧な作りのドレスや小物が所狭しと並んでいる。全体的に明るく可愛らしい印象のお店で、デパートの子供服売り場なんかによくありそう。女の子だし、可愛いものってやっぱり憧れるわよね! 福袋を諦めた私は気を取り直してよく見ることにした。
可愛らしい店の雰囲気ににそぐわないのは、アイリス様の所とうちのゴツい護衛達。完全に無表情なので「イボンヌ様御用達のセクシーな夜着のお店でなくて良かったかも」と言うと、アイリス様も「ふふふ」と笑って下さった。
あぁ、前世ではこんな買い物に憧れていたの。
買い物の後は、当然カフェでスイーツよね?
一方、店内にひどく似合うのは弟のレオン。
口調は俺様だけど、もともと天使の容貌なので私よりも余程ドレスが似合いそう。
「ウィッグ付けて着てくれないかな~、ドレス」
私の希望は当然スルーされた。
現在レオンは女性用の小物に夢中。
誰かにあげるのかしら?
まさか自分の趣味、ではないわよね?
お姉さん信じてるからね!
「こちらのドレス、アリィ様に似合いそう」
アイリス様がおっしゃって差し出してきたのは、淡い黄色のシフォンのドレス。
私の栗色の髪と黄色なら、確かに相性が良いかもしれない。身につけてみて、気に入ったら自分サイズでオーダーすれば良いそうな。リボンやレースなど、好みのオプションをつけることも可能だそう。
「仕立てるのが当たり前のアリィ様にオススメするのは心苦しいのですが。この店のデザインが今風で素敵だと思うんです」
ドレスなら家にいっぱいあるし、もったいないから本当はいらないけれど。でもどれが良いかと一緒に選ぶのが、女友達との買い物の醍醐味に違いない! 買う買わないに関わらず、お互いに試着して「可愛い~~」とか「似合う~」とか言ってみたり。いけない、キャッキャウフフをしなければ!
前世では既製品が当たり前だったから、もちろんまったく気にならない。
「アイリス様がせっかく見立てて下さったのだもの。楽しみですわ」
取り敢えず試しに着てみることにした。
アイリス様には目の色を引き立てるラベンダー色のスリムなドレスをオススメした。美人なので、何を着ても確実に似合うに違いない。
レオンは相変わらず小物に夢中。
ゴメンね、連れてきて。
もしかして、イケナイ扉を開いちゃった?
「ちょっとだけ着てくるから、寂しがらずに待っててね」とお姉さんぶると、「子供扱いするな!」と、怒られてしまった。
「いつ見ても仲がよろしいのですね」
「えぇ、自慢の弟ですから」
言ったそばからレオンに睨まれてしまった。
なんでぇ~?
でも大丈夫、アイリス様にしっかりとレオンの良いところアピールしておくからね!
私達は試着用の別室に移動。
もちろん男子禁制だから、護衛達とレオンはここから先には入れない。
エルゼさんは侍女なのでOK。
アイリス様の侍女が見当たらないけれど……
似合うに決まっているドレスで軽く身体に当てるだけだから必要ないのかな? 彼女は常連っぽいので、店員さんに手伝ってもらえるのかもしれない。
店員に案内されて長椅子と豪華な調度品のある別室……をなぜか通り過ぎた。
目立たない扉を開けて案内されたその先は――
その先は、なぜか外の暗い路地だった。
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