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私の人生地味じゃない!
それぞれの日常
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俺はレオン。近衛騎士団で見習いをしている。
突然の申し出にも関わらず、団長のガイウス様のお陰で今回長めの休暇がもらえた。アリィの無事を確認できて安心したし、家でゆっくり過ごせたから体力も気力も満たされた。
背も伸びて声変わりした自覚はあったけれど、久々に会えたアリィにまさか『誰?』という顔をされるとは思ってもみなかった。正直アレはかなりキツかった。
最初は俺の事がわからなかったアリィ。
今朝は笑って見送ってくれた。
元気になって本当に良かったと思う。
俺の方は休暇の度に意識の戻らないアリィに付き添っていたから、成長した彼女にそれほど違和感は無かった。
けれど、実際に目を開けた彼女の姿を見た途端、心の奥が震えた。倒れる前よりさらに綺麗になったアリィは、華奢で涙もろくなっていた。そんな彼女を見ていると、自分の方が年上になったような錯覚を覚える。
まあ、12歳で眠りについたアリィからすれば、確かに15の俺の方が精神的にはお兄さんなんだけど。今の俺でも彼女を慰め、支えてあげることができる――そんな他愛もない事が、すごく嬉しく感じられた。
「何だ? レオン。帰ってくるなり鎧磨きながらニヤニヤして。好きな子の事でも考えていたのか?」
「あー、ザックか。まあな」
近衛騎士の見習いは、実際には騎士の身の回りの世話や雑用係だ。今も使用後の防具の点検と鎧磨きをしている。ザックは2つ上だが俺と同じく見習いで、日頃から何かと世話を焼いてくれる。
16歳から騎士団には入れるが、16でいきなり騎士になるには、余程の腕と才覚がなければ無理だという。聞いた中ですんなり騎士になれたのは、兄のヴォルフだけ。通常は見習いからスタートし、叙任されて正騎士、抜擢されて副団長、引継ぎか功績を上げたら団長、という風に昇格していくらしい。
「まあなって……お前、相手いんのかよ! 姉の見舞いで休むって言ったの、嘘だったのか? それ、バレたらまずいし城の女性達が聞いたら卒倒するぞ!」
「女性達って、そんなまさか。義兄のヴォルフじゃあるまいし……。ちゃんと見舞いに帰ったよ。それより、お前も女官のシンシアちゃんと良い感じになりそうだって、この前言ってなかったか?」
「それはもう、言わないでくれ」
ザックが頭を抱えている。
彼はいい奴だし、近衛にいるくらいだから背も高く見栄えも良いのだが。
「なんだ。それは残念だったな」
「全然不自由してないお前に言われたかねーよ」
「別に、まだ好きだとは言っていない」
俺は手を止め、彼女を想った。
強くなって自信をつけたなら……その時好きだと告げるつもりだ。
「何なんだ? その遠い目は。お前を断る奴なんていねーだろ。悔しいけど見た目は良いし、見習いなのにそこそこ腕は立つし。頭も良くて、しかも公爵家。拒否ったらそいつ相手がいるか、たぶん女じゃねーわ」
「そんなわけないだろう? 公爵家といっても、俺は養子だし。元々手の届く相手じゃないから、相当努力しないと難しいな」
「ま、俺も子爵家の三男だから同じようなもんなんだけど。でも、男爵家で団長になったガイウス様の例もあるから、希望は捨ててないけどな」
「団長は無理だとしても、早く正騎士にはなりたいな」
そして、実力をつけて早くアリィを守りたい。
「だよな。見習いだと相手にもされねーし。それはそうと、終わったら厩舎で馬の世話だってよ」
「わかった。すぐ行く」
「あ、それとさー」
「まだ何かあるのか?」
「イヤ、こんなんお前の耳に入れていいかどうかわからないけど……」
「うん?」
先を促す。
「最近、レイモンド様の女遊びが減ったと思ったらさー」
どうして急にレイモンド様の名前が出てくるんだ?
「さっきリオネル王子を追い出して、お前の兄ちゃんを部屋に呼び出していたらしい。かなり良い感じだったみたいだぞ?」
「ぶはっ、何だそれ。どうせ仕事の話だろ。兄はレイモンド様の元部下だったし」
俺としてはアリィにベタベタしている義兄が、本当に誰かとくっついてくれた方が嬉しいのだけれど。
「何だよ、教えてやったのに。さっきシンシアが見たって!」
「ああ、それな。お前には黙っておこうと思ってたんだけど。シンシアちゃん、おとなしそうに見えて最初からレイモンド様狙いだったらしいぞ」
「なにー!! どうりで俺がいくら頑張ってもダメだったんだ。それならそうと、早く言ってくれよなー。なんなんだよ、もう」
ブツブツ言いながら、ザックは行ってしまった。
おおかたレイモンド様に全く相手にされなかった女官のシンシアが、悔し紛れに悪い噂を流そうとしたのだろう。兄に知られる前で良かった。レイモンド様と自分が変な噂になっていると知ったら、激怒するに違いない。
兄が呼び出された理由を、もう少し深く考えていれば良かった。この話し合いの後、最愛の女性の運命が大きく変わっていくとは、この時の俺は微塵も思っていなかった。
*****
「うわー、忙し過ぎる~~!」
我が家の医師も太鼓判。
治ったとお墨付きをいただいたせいか、お母様のスパルタ教育が半端ない。
毎日朝も早くから、座学座学マナー音楽座学マナー保健座学。知識を詰め込み過ぎて頭がパンパン、ダンスレッスンで足もパンパン。楽器の練習で口もおかしな感じだし、保健体育に至っては学ぶことが具体的過ぎて、頭が爆発寸前でついていけない。
楽器は結局、フルートを選ぶことにした。
ハープとどちらがお嬢様っぽく見えるかで悩んだけれど、コンパクトで持ち運びに他人の手を煩わせずに済むから便利だし。それに楽器自体が輝いてすごくキレイだったから。小さい割には金とか銀とかふんだんに使っていて豪華。もちろん、公爵家が用意してくれたものだけど。
地味な分、楽器くらいはキラキラしてなくちゃね! そう思いかけたけど、そういえば成長してからはそんなに地味では無くなったな~と思い返す。
前世では、音楽の成績も悪くなかったから、楽勝!!
でもその考えは甘かった……
まず、音がなかなか出せない。
口を引っ張って息を一点に集中させて音を出すんだけど、これがなかなか難しい。音程も息の速さや量で調節するから、意外と腹筋使うし。横笛だから両手も上げっぱなしで、慣れていないせいなのか変な所に力が入って肩が凝る。
優雅でお嬢様っぽい!
そう思って見た目で選んで大失敗。
全国の吹奏楽部やフルート奏者の皆様、舐めてましたすみません。でも、せっかく楽器を買ってもらったし、音楽の家庭教師までつけてもらっているから、途中で投げ出せない。何たって私の部屋は防音完備だし。
お母様はチェンバロ――ピアノみたいなものが弾けるから、いつか一緒に演奏できたらいいな。
手こずってはいるものの、ハマっているので熱く語ってしまった。そんなんで、夜も練習に明け暮れているから、成人となる誕生日まではすごく忙しくて時間がない。
中学や高校の定期テスト前よりもっと時間がない。
絶叫したからって状況が変わるわけじゃないけれど、魂の叫びを聞いて欲しい。
「忙し過ぎる~~!!」
侍女の太鼓持ちーズの皆様も母に言い含められているせいか、今回ばかりは甘やかしてくれない。涙ながらに
「お嬢様のためなんです~~」って言われちゃったから、今は頑張るしかない。
騒いだからか、彼女がやって来た。
「あら、アリィちゃんこんな所にいたの? マナーの先生がお呼びよ~」
出たな、ラスボス。
もといお母様が来てしまった。
ええ、わかっております。
公爵家の娘ですもの。
言い訳してはいけません。
使命は立派に果たします。
「そうねぇ。勉強頑張ってるし楽器も上達してきたから、今週の課題をこなしたら一日お休みしても良いわよ?」
お母様、もしかして優しい?
『アメとムチ』感満載だけど、1日でも休めるならすごく嬉しい。
「せっかくだからマナーの授業のおさらいも兼ねて、皆様をお招きして簡単なパーティーでもしてみたら?」
お母様、『お休み』の意味わかっていないでしょ?
でも、この前会ったばかりだけれどみんなに会えたらすごく嬉しい。
アイリス様、来て下さるかしら?
母の策略に簡単に乗っかる私ってお手軽。
そう感じながらところどころ痛む身体を前に出し、午後の授業へ向かった。
突然の申し出にも関わらず、団長のガイウス様のお陰で今回長めの休暇がもらえた。アリィの無事を確認できて安心したし、家でゆっくり過ごせたから体力も気力も満たされた。
背も伸びて声変わりした自覚はあったけれど、久々に会えたアリィにまさか『誰?』という顔をされるとは思ってもみなかった。正直アレはかなりキツかった。
最初は俺の事がわからなかったアリィ。
今朝は笑って見送ってくれた。
元気になって本当に良かったと思う。
俺の方は休暇の度に意識の戻らないアリィに付き添っていたから、成長した彼女にそれほど違和感は無かった。
けれど、実際に目を開けた彼女の姿を見た途端、心の奥が震えた。倒れる前よりさらに綺麗になったアリィは、華奢で涙もろくなっていた。そんな彼女を見ていると、自分の方が年上になったような錯覚を覚える。
まあ、12歳で眠りについたアリィからすれば、確かに15の俺の方が精神的にはお兄さんなんだけど。今の俺でも彼女を慰め、支えてあげることができる――そんな他愛もない事が、すごく嬉しく感じられた。
「何だ? レオン。帰ってくるなり鎧磨きながらニヤニヤして。好きな子の事でも考えていたのか?」
「あー、ザックか。まあな」
近衛騎士の見習いは、実際には騎士の身の回りの世話や雑用係だ。今も使用後の防具の点検と鎧磨きをしている。ザックは2つ上だが俺と同じく見習いで、日頃から何かと世話を焼いてくれる。
16歳から騎士団には入れるが、16でいきなり騎士になるには、余程の腕と才覚がなければ無理だという。聞いた中ですんなり騎士になれたのは、兄のヴォルフだけ。通常は見習いからスタートし、叙任されて正騎士、抜擢されて副団長、引継ぎか功績を上げたら団長、という風に昇格していくらしい。
「まあなって……お前、相手いんのかよ! 姉の見舞いで休むって言ったの、嘘だったのか? それ、バレたらまずいし城の女性達が聞いたら卒倒するぞ!」
「女性達って、そんなまさか。義兄のヴォルフじゃあるまいし……。ちゃんと見舞いに帰ったよ。それより、お前も女官のシンシアちゃんと良い感じになりそうだって、この前言ってなかったか?」
「それはもう、言わないでくれ」
ザックが頭を抱えている。
彼はいい奴だし、近衛にいるくらいだから背も高く見栄えも良いのだが。
「なんだ。それは残念だったな」
「全然不自由してないお前に言われたかねーよ」
「別に、まだ好きだとは言っていない」
俺は手を止め、彼女を想った。
強くなって自信をつけたなら……その時好きだと告げるつもりだ。
「何なんだ? その遠い目は。お前を断る奴なんていねーだろ。悔しいけど見た目は良いし、見習いなのにそこそこ腕は立つし。頭も良くて、しかも公爵家。拒否ったらそいつ相手がいるか、たぶん女じゃねーわ」
「そんなわけないだろう? 公爵家といっても、俺は養子だし。元々手の届く相手じゃないから、相当努力しないと難しいな」
「ま、俺も子爵家の三男だから同じようなもんなんだけど。でも、男爵家で団長になったガイウス様の例もあるから、希望は捨ててないけどな」
「団長は無理だとしても、早く正騎士にはなりたいな」
そして、実力をつけて早くアリィを守りたい。
「だよな。見習いだと相手にもされねーし。それはそうと、終わったら厩舎で馬の世話だってよ」
「わかった。すぐ行く」
「あ、それとさー」
「まだ何かあるのか?」
「イヤ、こんなんお前の耳に入れていいかどうかわからないけど……」
「うん?」
先を促す。
「最近、レイモンド様の女遊びが減ったと思ったらさー」
どうして急にレイモンド様の名前が出てくるんだ?
「さっきリオネル王子を追い出して、お前の兄ちゃんを部屋に呼び出していたらしい。かなり良い感じだったみたいだぞ?」
「ぶはっ、何だそれ。どうせ仕事の話だろ。兄はレイモンド様の元部下だったし」
俺としてはアリィにベタベタしている義兄が、本当に誰かとくっついてくれた方が嬉しいのだけれど。
「何だよ、教えてやったのに。さっきシンシアが見たって!」
「ああ、それな。お前には黙っておこうと思ってたんだけど。シンシアちゃん、おとなしそうに見えて最初からレイモンド様狙いだったらしいぞ」
「なにー!! どうりで俺がいくら頑張ってもダメだったんだ。それならそうと、早く言ってくれよなー。なんなんだよ、もう」
ブツブツ言いながら、ザックは行ってしまった。
おおかたレイモンド様に全く相手にされなかった女官のシンシアが、悔し紛れに悪い噂を流そうとしたのだろう。兄に知られる前で良かった。レイモンド様と自分が変な噂になっていると知ったら、激怒するに違いない。
兄が呼び出された理由を、もう少し深く考えていれば良かった。この話し合いの後、最愛の女性の運命が大きく変わっていくとは、この時の俺は微塵も思っていなかった。
*****
「うわー、忙し過ぎる~~!」
我が家の医師も太鼓判。
治ったとお墨付きをいただいたせいか、お母様のスパルタ教育が半端ない。
毎日朝も早くから、座学座学マナー音楽座学マナー保健座学。知識を詰め込み過ぎて頭がパンパン、ダンスレッスンで足もパンパン。楽器の練習で口もおかしな感じだし、保健体育に至っては学ぶことが具体的過ぎて、頭が爆発寸前でついていけない。
楽器は結局、フルートを選ぶことにした。
ハープとどちらがお嬢様っぽく見えるかで悩んだけれど、コンパクトで持ち運びに他人の手を煩わせずに済むから便利だし。それに楽器自体が輝いてすごくキレイだったから。小さい割には金とか銀とかふんだんに使っていて豪華。もちろん、公爵家が用意してくれたものだけど。
地味な分、楽器くらいはキラキラしてなくちゃね! そう思いかけたけど、そういえば成長してからはそんなに地味では無くなったな~と思い返す。
前世では、音楽の成績も悪くなかったから、楽勝!!
でもその考えは甘かった……
まず、音がなかなか出せない。
口を引っ張って息を一点に集中させて音を出すんだけど、これがなかなか難しい。音程も息の速さや量で調節するから、意外と腹筋使うし。横笛だから両手も上げっぱなしで、慣れていないせいなのか変な所に力が入って肩が凝る。
優雅でお嬢様っぽい!
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全国の吹奏楽部やフルート奏者の皆様、舐めてましたすみません。でも、せっかく楽器を買ってもらったし、音楽の家庭教師までつけてもらっているから、途中で投げ出せない。何たって私の部屋は防音完備だし。
お母様はチェンバロ――ピアノみたいなものが弾けるから、いつか一緒に演奏できたらいいな。
手こずってはいるものの、ハマっているので熱く語ってしまった。そんなんで、夜も練習に明け暮れているから、成人となる誕生日まではすごく忙しくて時間がない。
中学や高校の定期テスト前よりもっと時間がない。
絶叫したからって状況が変わるわけじゃないけれど、魂の叫びを聞いて欲しい。
「忙し過ぎる~~!!」
侍女の太鼓持ちーズの皆様も母に言い含められているせいか、今回ばかりは甘やかしてくれない。涙ながらに
「お嬢様のためなんです~~」って言われちゃったから、今は頑張るしかない。
騒いだからか、彼女がやって来た。
「あら、アリィちゃんこんな所にいたの? マナーの先生がお呼びよ~」
出たな、ラスボス。
もといお母様が来てしまった。
ええ、わかっております。
公爵家の娘ですもの。
言い訳してはいけません。
使命は立派に果たします。
「そうねぇ。勉強頑張ってるし楽器も上達してきたから、今週の課題をこなしたら一日お休みしても良いわよ?」
お母様、もしかして優しい?
『アメとムチ』感満載だけど、1日でも休めるならすごく嬉しい。
「せっかくだからマナーの授業のおさらいも兼ねて、皆様をお招きして簡単なパーティーでもしてみたら?」
お母様、『お休み』の意味わかっていないでしょ?
でも、この前会ったばかりだけれどみんなに会えたらすごく嬉しい。
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