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第二章 ラノベ化しません

ヒロインよりも 3

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 大人のロディは困った顔でもさまになる。前髪をかき上げる仕草は、色気さえ漂うような……
 いや、変な考えを起こしちゃダメでしょう。
 ラノベのシルヴィエラはダメ、絶対!
 
 だけどそれって、どういう意味だろう?
 気を遣わないからこそ、ここで働きたいと願い出たのに。

「女官がそんなに嫌?」
「嫌というよりいきなり女官では、ひんしゅくを買うと申しますか……」

 修道院にいた私でさえ「王族は全員美形だ」という噂を知っていた。独身の王子達のそばにいたい女性を全員雇っていたら、ここは女官だらけになってしまう。王城で女官となるには、厳しい採用試験に合格しなければならないと聞く。知識も技能も経験もなく、まして中途採用の私は下働きの方が気が楽だ。ローランド王子の提案に乗っかれば、確実に敵を作る。

 前世に置き換えると、社長の知り合いだから入社試験はパス。新人で何もできないけど、主任からスタートでいいよね? といったところだろうか。
 まあ、実際には就職したことがないので、よくわからないけれど。

「僕では君の助けにならない?」
「いいえ、十分助けていただいておりますわ。貴方はただ、いてくださるだけでいいんです」

 王城に……だって王子だから。
 採用はありがたいけど、下手に手を回されたら、職場の人間関係が気まずくなると思う。

 王子が口元を手でおおい、急に黙り込む。なぜか耳が赤いけど、照れているのだとしたら、今のどこにその要素があったのだろう? 助けていただいたと言われて、嬉しかったのかな?
 じっと見つめていたところ、彼は私の手を握り、甲に口づけた。

「わかったよ、それなら『女官見習い』でいい。女官長には話を通しておこう」

 契約するたびこれだとしたら、女官希望者が殺到するのも納得できる。昔のロディを知る私からすれば、くすぐったいだけだけど。下働きにはなれなかったが、正式な女官ではない。見習いって、なんかいい響きだ! もちろんコネ採用であることは、内緒にするつもり。



 そして今、私はさっぱりして気分がいい。
 ローランド王子は「着替えたい」という私の話を覚えていて、早速叶えてくれたのだ。用意された湯につかり、身体の汚れを落とした私は、女官の制服にそでを通している。それは、紺色の生地にえりと袖口だけが白い服で、さらに白の帽子をかぶる。エプロンはなかったため省略し、珍しい銀色の髪は一つに編んで帽子の中に押し込めた。ヒロインを降りたい私としては、目立つわけにはいかない。

 ちなみに、はじめに渡されたのは、見たこともないほど豪華な淡い桃色のドレスだった。サイズはまあまあだけど、誰のものかもわからない。そのため、謹んでお断りさせていただいた。代わりにこうして、女官の制服を用意してもらったというわけだ。
 けれど、ここにいる女官達も明日からは私の上司となる。自分から「見習いになりたい」と申告しておきながら、偉そうな態度はいただけない。そう思って手伝いを断り、自分一人で着替えている。
 
 鏡で全身を確かめていたところ、ノックの後でローランド王子が入室してきた。彼は濃い青に金色の刺繍ししゅうほどこされた立派な上着をまとい、シャツとトラウザーズは白、ブーツは黒でクラバットを大きな宝石で留めている。王子は私を見て驚くと、側にいた年配の女官に問いかけるような視線を向けた。女官は肩をすくめ、悲しそうに首を横に振る。
 
 ――あれ、なんかダメだった?

「シルフィ。どんな恰好でも似合うけど、さすがにこれは……」

 王子はまたもや困った表情だ。
 女官は明日からなのにって、言いたいのかな?

「時間がない。そのままでいいから、こちらへ」

 そう言われて、王子について行く。女官長に挨拶に行くのかと思いきや、通されたのはとんでもない場所だった。ここって――

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