乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる

文字の大きさ
23 / 70
第二章 ムーンライト暗殺

推しのいないイベントで 2

しおりを挟む
 名前が似てると喜んで、幼い私は甘いお菓子を飽きがくるまで食べ続けた。そのせいで、今は少々苦手になっている。

「カトリーナは、ロックムをあまり好まなかったように思うけど?」
「ええっと、そうでもありませんわ。今はお腹がいっぱいなので、私の分もどうぞ召し上がってください」

 兄の言葉を否定しつつ、にっこり笑う。
 クロム様への想いは、今は封じ込めておかなくちゃ。

 配った紙袋を同時に開いたせいか、桃や柑橘かんきつ類の甘い香りが広がった。にこにこしているルシウスは、やはり甘いものが好きなのだろう。

「甘みが強いけど、美味しいね」
「私には、甘すぎる」
「そうですか? 俺はいけますよ」

 メインヒーローのルシウスは、お菓子を頬張る顔も麗しい。兄のハーヴィーは色っぽく唇をめるし、タールはお腹が空いていたのか、次々口に放り込む。あんなに食べても太らないのは、日頃から鍛えているおかげかしら?

「三人とも、さすがは人気ゲームの攻略対象ね」

 嬉しそうなクラリスと道行く人も立ちどまり、彼らに視線をそそいでいる。

「次は人形劇ね。ルシウス様もみなさまも、こちらへどうぞ」



 しばらく歩くと、アコーディオンによる軽快な音楽が風に乗って流れてきた。
 ゲームでは貴族が好む大劇場だが、ルシウス本人が大衆向けの娯楽を希望したのだ。

「へえ。結構にぎわっているんだね」

 広場に着くなり、ルシウスが感心したような声を出す。

 木造の馬車を改造した舞台の周りは、すでに多くの人でまっていた。大人も子供も期待に目を輝かせ、マリオネットの登場を今か今かと待っている。

「開演前で、見やすい位置はかなり混んでいます。今は見送って、次回の劇をご覧になりますか?」
「いや、後ろの方がありがたい。人形劇だけでなく、民の楽しむ様子も見ておきたいからね」

 ルシウスが国内外で慕われるのは、たぶんこういうところだ。
 彼は第一王子の地位に甘んじることなく見識を広げようとするし、身分を気にせず誰に対しても穏やかに接するため、我が城内にもファンが多い。

「それでしたら、こちらへどうぞ」

 私は一行を、一段高い木陰こかげに導いた。
 少し離れて斜めにはなるけれど、奥の舞台まではっきり見通せる穴場だ。

 いざ劇が始まると、回りを気にする余裕はない。
 あっという間に引き込まれ、とらわれの姫にハラハラし、勇者がドラゴンと戦うシーンでは、広場にいる人々と一緒になって応援した。

「ルシウス様、いかがでしたか?」
「操り人形の動きがなめらかで、まるで生きているようだった。話も面白いけど、情緒じょうちょたっぷりな音楽が華を添えているね」
「まあ、ありがとうございます」

 褒められたことが嬉しくて、満面の笑みを浮かべた。
 私をじっと見つめるルシウス。
 真剣な青い瞳が、記憶の中の彼と重なる。

 ――これが観劇デートなら、この後確かカトリーナが彼の言葉に応えるのよね。選択肢が出てきた気がするから、ここはルシウスの好感度が上がる場面?

「カトリーナ、僕は……」
「殿下!」
「姫様っ」

 ところが、ハーヴィーとタールの声にさえぎられた。
 ルシウスファンのクラリスは、苦虫をつぶしたような顔をしている。

「違うの。これは感想を聞いていただけで……」
「カトリーナ様!」

 そんな中、女性の大きな声が響いた。

「カトリーナ様、いらしていたんですね。前もって教えてくれれば、特等席を用意したのに」
「あら、広場は誰もが自由に鑑賞できるから、全部特等席じゃない」
「いいえ。実は、とっておきの席があるんです」

 彼女はこの人形劇の団長で、かなりのやり手。
 私が提案した広告集めにも自ら奔走ほんそうし、広告主を獲得した。

 幕間でコマーシャルを流すから、広場の人形劇は無償だ。
 操り人形達がお店を宣伝する様子が可愛くて、広告主にも好評だった。

 劇団長はにやりと笑い、私達全員を舞台裏に連れて行く。

「もしかして、ここのこと?」
「そうですよ。ここが一番、動きがわかる」

 劇団長の返事を聞いたハーヴィーが、あでやかに笑う。

「確かにね」
「裏側まで拝見できるとは、思ってもみませんでした」
「へえ~、中はこうなっているんですね」

 相槌あいづちを打つルシウスと、キョロキョロするタール。
 愛想のいい劇団長は、私達に劇団員を紹介してくれた。

「みんな、この方がカトリーナ様。あたし達の恩人だよ」
「おおーっ」
「そんな、違うわ!」

 私は慌てて首を横に振る。
 潰れかけた劇団を再興したのは、団長や団員達の熱意と努力だ。

「カトリーナ様には、ずっとお会いしたいと思っていました。先ほど姫の声を担当しました、ブルーノです」
「「……え?」」

 これには、一同揃って目を丸くする。

 ――はかな可憐かれんな姫の役が、図体のでかい[失礼]、毛むくじゃらのおじさん[さらに失礼]、だったなんて……。あれは裏声だったのね。全く気がつかなかった。

 己を取り戻したルシウスが、品良く笑う。

「演者に会えるなんて、光栄です。人形なのに人間らしく見えるのは、高度な技術と感情に訴えかける演技力のおかげなのですね」
「お? 若いの、よくわかっているじゃないか」

 ドスの効いた声で返されたから、ますますびっくりしてしまう。

『バラミラ』のメインヒーローは、老若男女を瞬時にとりこにするようだ。
 すっかり気を良くした劇団の面々によって、連れ去られてしまった。

 ――ルシウスを虜にしたのは、私じゃなくって人形劇。でもこの分なら、好感度はゼロではないわよね?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

処理中です...