死亡フラグだらけの悪役令嬢〜魔王の胃袋を掴めば回避できるって本当ですか?

きゃる

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第一章 魔界に来たようです

最強のもふもふが仲間になりました

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 慌てて頭を抱えるが、特に何も起こらない。
 このパターン、前にもあったような……。

「ガウガウ、グルル、グルルル」

 恐る恐る眺めると、銀色の狼は私に見向きもせず、床に落ちた肉をめている。いえ、床だけでは足りずにテーブルの上のスペアリブまで食べていた。なんと尻尾を振っている。

「ワフ、ワフワフ」

 もしかして、もふ魔と一緒で無害?
 単にお腹が空いていただけ?

 ソースまで綺麗に舐め取る姿を見て、スペアリブの香りに誘われたのだと気づく。
 そんなに名残惜しいなら、残りもあげましょう。

「待ってね。もっとたくさん出してあげるわ」

「ガウ?」

 私は鍋に残ったスペアリブを、ソースごと平らなお皿に移す。
 きちんとお座りして待つ姿が可愛くて、クスリと笑う。

「はい、どうぞ。今日はこれで全部よ」

 食べやすいよう床に置き、銀色の狼が美味しそうに頬張る姿を眺めた。途中、骨の砕ける音が聞こえたけれど、不思議と怖くない。

「オオォォーーーン」

 遠吠えが感想のようにも聞こえたけれど、よくわからない。尻尾を振っているところを見ると、口には合ったようね。
 少しくらいなら、いいかしら?

「ごめんね。もし良ければだけど……でさせてくれる?」

 なんとなく言葉をわかってくれる気がして、たずねてみた。
 返事はないが、嫌がる素振りは見られない。
 そこで私は、そろそろ近づき手を伸ばす。
 巨大な狼は一瞬じろりと見たものの、私が撫でやすいようにぺたんと床に伏せてくれた。

「ありがとう。とってもお利口りこうなのね」

 たまらず、つやのある毛並みに触れてみた。
 波打つ銀色は予想通り柔らかく、大きな身体は温かい。

「魔界のもふもふは、みんな優しいのかしら?」

 頭を撫でると、サファイアのような青い瞳を向けられた。牙が見えるけど怖くなく、鼻の頭に付いたソースがおかしい。

「ここ、付いているわよ」

 私が自分の鼻を指すと、銀色の狼は突き出た鼻についたソースを長い舌で舐め取った。もふ魔同様、話は通じるらしい。だったらこの狼もただの狼ではなく、下級魔族だと思われる。

 私にとって魔族は、上級より中級、中級より下級の方が親しみやすい。優しいし可愛いし、何よりもふもふだし……。

 また一つ楽しみを見つけた気がして、声をかけてみる。

「良かったら、また遊びに来てね。この時間は大抵、ここにいるから」

「ガウウ」

 銀色の狼は小さく吠えると、音もなく去って行った。



 あくる日の夜、私は皿洗いをしながら昨日の不思議な体験を、料理長に語った。

「銀色の狼? そりゃあ、フェンリル様だ」

「フェンリルって、北欧神話の?」

「ほくおうしんわ? なんだ、そりゃ」

 魔界に土地の垣根かきねはないみたい。
 それならいつか、日本の妖怪に会えるかもしれないと、頭の隅で考える。

「本名は知らないが、『様』を付けて呼ぶように」

 一つ目の料理長が、真面目な顔で忠告する。

「様って……。料理長は自分より下の位にも、『様』を付けるんですね」

「バカ言え! フェンリル様は上級魔族だぞ」

「えっ!?」

 もふっとしているし、言葉がようやく通じる程度なのに? 
 それなら魔界の身分は知性ではなく、身体の大きさで決まるのかな?

 ……ダメだ。サイクロプスも身体は大きいが、料理長は自分のことを中級魔族と言っていた。それに吸血鬼は、彼より小さくとも上級魔族だ。魔界の基準は、なんだかよくわからない。

「くれぐれも失礼のないようにな。それと、必要なら氷室から材料を出してもいい。足りないものがあれば行商人に言うから、記しておいてくれ」

「……はい」

 料理長の態度が、急に変わる。
 新たな食材を出してもいいとは、上級魔族様様だ。

 氷室とは、調理場の奥にある氷を入れた穴蔵で、長年貯蔵庫として使われている。埃っぽいが、食物の保存に重宝されていた。

 一応お許しが出たということで、これからは材料を自由に使ってみよう。

 貴重な魔骨鶏まこっけいの卵でプリンを作ろうか? 
 悪豚わるぶったのソテーも捨てがたいし、キッシュやパイにも挑戦してみたい。
 暴牛あばれうしの肉を細かく刻んだハンバーグもいいし、ラグーソース(肉を煮込んだソース)のパスタも気になる。

 いつものように片付けを終えた私は、結局ハンバーグを作ることにした。バーンズ用のパンを焼き、ハンバーガーにするのだ。

「多めに作れば、明日の朝食にもいけるかしら?」

 うきうきしながら調理していると、戸口に銀色の狼が現れた。狼は私の姿を認めると、まっすぐ中に入ってくる。

「ええっと、もうすぐよ……ですわ。フェンリル様」

 すると銀色狼は、低くうなる。

「グルルルルル…………」

「待ちきれないんですか? それとも実は、フェンリル様じゃない?」

 銀色の狼は、床に伏せた状態で首を左右に振っている。
 両方違うということか。
 それなら、何が不満なの?

 私はパンの焼ける香ばしい匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。
 その時ふと、思いつく。

「もしかして、フェンリル様と呼ばれるのが嫌なのですか?」

「ガウ」

 勘は当たっていたらしい。
 それなら名前を教えてくれればいいのに……って、無理か。

「お名前がわからないので、お呼びできません。勝手に付けていいなら……」

「ガウ」

「……え? いいの!?」

 ついつい敬語が外れたが、一生懸命考える。

「じゃあ、『もふ魔』……はもういるから、『巨大もふ魔』……はダサいし。フェンリル様がダメなら、『狼様』は?」

「グルルルル……」

「気に入らないみたい。確かに可愛くないものね。じゃあ、『ルー』っていうのはどう? フェンリルの『ルー』だから、いいと思……いますの」

「ガウガウ」

 ちょうどパンが焼けたので、了承したことにする。
 けれど、『フェンリル様』改め『ルー』は、焼きたてのパンには興味がないようだ。

「お目当てはハンバーグ? やっぱり肉食なのね」

 多めに焼いたハンバーグは、葡萄酒を使ったソースで煮込んである。バーガー用に平べったくしてあるけれど、お皿にたくさん盛ったら結構なボリュームだ。

「ルー、美味しい?」

「ガウ!」

 尻尾をペタンペタンと何度も床に付けるので、たぶん満足している。

 フェンリルは上級魔族でも吸血鬼とは違い、親しみやすい。もふもふさせてくれるし、一緒にいても気が楽だ。
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