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みそカツの香りのする駅(2)
しおりを挟む東海の中心都市・名古屋。
その更に中心の様々な人たちが行きかう駅、名古屋駅。
名古屋には他ではお目にかかることのできない食べ物がたくさんある。
味噌カツ、味噌カツ丼をはじめ、串カツ、煮込みうどんなど八丁味噌を使ったもの。
うどんを少し平打ちした、と言えば語弊がある気もする独特な麺類「きしめん」。
最近、全国のコンビニでも見るようになった小豆を入れたパン「小倉サンド」。
その他、全国でも食べることができるものの「名古屋名物」と認識されているひつまぶしやエビフライなど。
名古屋駅周辺にはそんな食べ物との出会いを一挙に引き受けてくれる場所がある。
エスカ。先ほど待ち合わせた桜通口の反対側、太閤通口そばにある名古屋有数の地下街。
俺は里美の手を引いて歩く。時々人とぶつかりそうになりながら。
花火大会の日ということもあり、浴衣姿の女性、たまに男性を見かける。
「どこに行くの・・・」
「帰ってきたら食べたかったところへ、ね」
彼女は不安そうに聞いてくる。俺はそっけなく答える。
その答えを聞いて彼女は憮然とした顔になった。
「今日も・・・すぐ帰るんでしょ・・・」
そう聞こえた気がした。引いている手が少し重く感じる。
「え?何か言った?」
「ん・・・何でもない・・・」
聞き返すと、そんな返しで。何か元気がないというか、表情が硬い。
顔を見る。見ているこちらに気づいた彼女は普通の顔に戻った。
地下街に向かうエスカレーターに乗る。彼女は隣に乗ってくる。
独りのときに使うエスカレーターは隣を空けて乗る。少し新鮮。
後ろを見ると特に急ぎの方はいないようだ。じっくり二人の時間を楽しむ。
壁には国民的アイドルグループの名古屋派生型のポスターが貼ってある。
どうやらこの地下街とコラボをしているらしい。
中で流れている音楽もそういえばそのアイドルたちの歌だ。
里美の手を引いて入った店。
何の変哲のない、珈琲店。オレンジの文字のあの全国有数なチェーン店であった。
「えー、ここ?」
彼女は不満顔だ。
久しぶりに帰って来たということもあり、ソウルフード的なものを食べるものだと思っていたようだ。
不満顔なのはわかる。友人とおしゃべりするためによく使っているであろうから。
ただ、俺にとっては久しぶりなのだ。
この珈琲店、如何せん出張先の近くには無いもので。
最近、テレビで特集番組を見てしまい、俺の中でスイッチが入ってしまった。すまん、サトミ。
ボックス席に通されて落ち着く二人。
注文を済ませ、彼女の顔を見る。見る。見る。じーっと眺める。
眺めるが、里美の表情が沈んでいる。笑顔がない。
いつもなら冷静に取り繕っている中でも笑顔はあるのだが、それが今は無い。
「何かあったのか?」
「ん・・・何でもないよ・・・」
彼女はそう答えるものの、目線を合わせない。
表情はなんとかそう思わせないように頑張っている様子。見え見えだな。
注文したものが届く。
俺はピザとコーヒー、サトミはサンドウィッチとカフェオレだった。
このピザが他では食べられないのよ、これのために今回はここにしたのだ。美味しい。
それは置いておいて、彼女の表情が気になる。聞きださないと。
「最近、どう?」
自分でもそれどうなのよ、という聞き方である。少し不安なのか俺は。
「どう・・・って言われても」
話が終わってしまった。もともとおしゃべりな方ではない彼女である。
しばらくお互い沈黙。あっ、コーヒーが空になってる。食も進んでいない。
相手の方もカフェオレが極端に減っている。本当に何かあったのか。
「何かあった?」
もう1度聞いてみる。
「ケイくんは今日、何時までいるの?」
質問に質問で返された。その声はか細い、そしてやっと絞り出したかのようで。
俺の名前は恵吾。なので「ケイくん」と呼ばれている。
「17時までだな。その時間に出ないと今日中に帰れない」
その質問に答える。明日からは普通に仕事なのだ。仕方ない。
「やっぱり。・・・花火大会、今年も一緒に見れない・・・」
彼女はつぶやいた。そして俯く。そしてそっぽを向く。
去年までは名古屋にいたけど、これも仕事で行けなかったんだよな。
彼女にはかなり辛い思いをさせているのかもしれない、少し反省する。
でも、仕事だ。勘弁してほしい。正直そう思っていた。
「今回は男の子に誘われてるんだ・・・行っちゃおうかな・・・」
そんな衝撃発言をさらっと呟く。頭をガーンと殴られた気分になった。
「・・・男?誰だよ?」
なるべく冷静に、と思っていても冷静になっていない自分がいる。
「・・・花火行けないひとには関係ない・・・」
「関係ないってなんだよ!」
ついに叫んでしまった。静かな空間の珈琲店に響く。周囲の目が一斉にこちらに注目してた。
「私が誰と花火見に行っても問題ないでしょう・・・」
彼女は冷静に言い放った。哀しそうな表情を一瞬だけしたものの、取り繕っている。
俺は何も言えずにいた。
ブーンブーン
机に置いてあった彼女のスマホが鳴る。画面には「緒方」の文字。
彼女は手に取り、画面を確認。
「・・・その友達から連絡来た。近くに来てるみたいだから行くね」
え?行くねって・・・おい・・・待てよ・・・
しかし、言葉にはならない。ショックがでかい。なぜこうなった?
里美は食事代を置いてイスから立ち上がった。
「ケイくんが大丈夫だったら断ってた。行ってくるね」
去り際にそんな言葉を残して店舗から出ていく。冷静を装いながらも哀しそうだ。
店舗から出た後、こちらの様子を伺っていたが、意を決したように歩いて行った。
俺は1人、イスに座って呆然としていた。
「緒方」って誰だよ、そんな疑問と里美のことで頭の中がグルグルしていた。
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