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焼うどんの鼓動を感じる駅(1)
しおりを挟む「6000円になりまーす」
店のカウンターに立つ、黒い制服を着こんだ女性はレジを操作する。
ピッピッと軽やかな音が響く。それに合わせて後ろのポニーテールもピコピコ動く。
「ありがとうございましたーまたのお越しをお待ちしておりまーす」
それを聞いたお客の女性は、会釈して騒がしい商店街に飲み込まれていった。
★★★
ふう、とため息。私はお客様を見送った後、店の中に戻ります。
今日はお客さん多いなぁ、休日だからかなと、1人納得して頭を営業モードに戻します。
「山本さんは17時まで。あと1人予約があるのでそれが終わるとあがりで」
店に戻りレジカウンター横を通過すると、男性に声をかけられます。店長です。
「わかりました。いつもの三宅様ですね」
カウンター横にある姿見で自分自身のたたずまいを確認します。
制服、というより作業服といった方がいいのでしょうか。
上は黒いTシャツ、胸元に蛍光オレンジで店名のロゴが自己主張しています。
ボトムスはこちらも黒いストレッチパンツ。動きやすいようにという店長のアイデアと聞いてます。
ここは一般的なマッサージ店、カイロプラクティックと呼ばれている部類に入ります。
マッサージ店と呼ぶと度々店長から注意が入ります。
ウチは「ボディケア・トリートメント」の店だ、と。
やっていることは一緒だと思うのだけれども、違うらしいです。
アロマオイルでリンパを流して毒素を排除するんだとか難しいことを言ってきます。
私自身はよくわかっていないのです。
進路をセラピニストに定めた私は、この店に入る2年前にネットでいろいろ調べたはずなのですが。
店でお客様に提供するもの。
肩こり、腰痛から足つぼマッサージまで。これらはアロママッサージと呼ばれるもの。
マッサージ以外には足湯と酸素カプセルがありますが、これは機械操作と清掃が主な仕事となります。
機械操作はともかくマッサージは重労働で、入りたての、助手だった頃は指や肩、腰が痛くなりました。
同じように仕事でからだを痛めた先輩方を犠牲にして日々練習。辛いけど楽しかったです。
なんとか1年前から独り立ちして、からだにも適度に筋肉がついたのか慣れてきました。
ウチの店の従業員は売り上げ計算など会計事務の女性1人以外は男性。
足湯や酸素カプセルの機械操作しかできないと給料も少ないので、興味があって入ってきた女性も続きません。
それもあってか現場では紅一点。若い女性のマッサージ師は珍しいからなのか指名が多くなりました。
女性から見ると、女性にしてもらう方が安心するからなのかもしれません。
男性から見ると、若い女性の方が嬉しいからなのかもしれません。
常連様から言われたことなのですが、女性は力がないからコリが残ることが多いけど、アナタは違うから気持ちいいと。
「若い女性だから」と選ばれるよりも技を褒められたようで嬉しいですね。
おかげさまで休日は休む暇がありません。悪くはないのですが。
ある時、店長は私専用の店舗予約HPを作ろうか、と行ってきました。
やめてくださいね。と凄んでみると回避できました。ふう。
予約の5分前くらいに三宅様がお越しになりました。
彼女の服装を見回します。
レースをあしらった半袖の白いトップスにニットのガウチョパンツ。薄いグレーで涼し気です。
それに加えて最近流行っているらしい白いカンカン帽。かわいらしい。
160cmの私と同じくらい、髪形は肩口までで緩くパーマがかかっています。
顔は童顔。私と並ぶと確実に彼女の方が年下に見られます。忌々しいです。
体形も私と変わらない普通のやせ形なのに胸に余分な脂肪。世の中は理不尽です。
と、まあお客様なのに「忌々しい」「理不尽」という言葉は失礼でしょうか。失礼ですね。
なぜそんな感じに思うのかといえば、この三宅様、私の同級生なのです。
三宅様・・・いや、三宅亜美は高校時代からの付き合いです。
この店で働き始めたきっかけも彼女からの誘いでした。そこについては感謝しています。
私がこの店に勤め始めると1ヶ月に1度、休日によく来てくれるようになりました。
今日は私の仕事が終わった後、一緒に食事をする予定です。その関係でついでに来てくれたようです。
彼女はマッサージではなく足湯と空気カプセルの予約でしたので店舗内を誘導します。
店舗内はお客様が心身ともにリラックスできるように若干薄暗く、木目調の床と土壁風にしてあります。
奥の部屋で着替えてもらい、足湯の部屋に誘導します。
亜美の姿はグレーのTシャツと黒のハーフストレッチパンツ。
「では、こちらに足を入れて下さい」
彼女の脚をタオルで拭いて足湯の機械に足を入れるように促します。
「もーいいじゃん。店長も知らない仲でもないんだし、丁寧語を使わなくてもー」
私の仕事言葉を聞いて、彼女は不服そうに口を尖らします。
「いえ、私はいつもこんな言葉使いということ、知ってますよね?」
「知ってるけどさー何か他人行儀なんだよねーさなっち冷たい」
そう、私は友達に対しても言葉使いは変わりません。
知ってるはずなのに冷たいって言われても困ります。
私の名前は山本早苗です。
なので、さなっちと呼ばれます。そう呼ぶのはこの亜美だけなのですが。
亜美は常連なので、説明はほぼ不要です。それでも簡単な説明はします。
「冷たい」と言われて少しイラッとしたので「制裁」しますか。
こちらは仕事中なので無理言わないでほしいもの。
亜美が軽い性格なのはわかっていますが、空気を呼んでください。
「三宅様ー」
「・・・!」
いきなり苗字で、しかも様付で呼ばれた亜美はびっくりした表情しています。
「三宅様、タオルをおかけしますね」
少し大きめのタオルを亜美の膝の上にかけます。
かけることにより、脚を入れている湯船の口をタオルで覆う形になります。
「そしてこの管を鼻の付近に固定して下さい。この先から酸素がでてきます」
私は亜美の表情を気にすることなく、てきぱきと、初めてこの店に来たお客様への対応を始めます。
「約15分かかります。その間はこの雑誌でもお読み下さい」
亜美の表情は真っ青ですね。無表情というより、しまったという顔をしています。
わかればいいのですよ。でも、おもしろいから続けますか。
「しばらくすると汗をかくと思います。そのときはこちらのお水を摂取してもらえると」
「・・・はい・・・」
亜美は観念したみたいですね。じっとこちらを見ています。もうひと押しか。
「では、何か御用があればお呼び下さい。失礼します」
「・・・食事奢るから許してーさなっち、お願いー」
最後の説明を終えて無言で見つめていると、亜美は両手を合わせて拝むような動作をして私に言いました。
「その言葉、忘れないでくださいね、さあ、仕事終わったら楽しみです」
そんな言葉を残して部屋のカーテンを閉めます。基本的に部屋は個室なのです。
私は待機時間の間、亜美とどこの店に行こうかと心巡らせます。
この店がある強大な商店街の北には九州・小倉駅があります。
福岡県2番目の都市、北九州市、その中でも八幡の黒崎を抑えての北九州中心駅。
さらに九州の北入口とされる新幹線駅でもあり、周辺には様々な飲食店があります。
さすがに居酒屋やバーなどアルコールが絡むのはかわいそうですね。
軽くデザートが食べられそうなところにでもしますか。
★★★
待機している彼女の表情はにこやか。待機と言っても使用済のタオルの整理などの雑用をしている。
その様子と先ほどのやり取りを見て、山本はまた姪っ子を手玉に取ったか・・・
店長はいつものことか、とあきれながら通常業務に勤しんでいた。
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