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焼うどんの鼓動を感じる駅(2)

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JR小倉駅。

九州で初めて政令指定都市になった北九州市一、にぎわっている駅。
東海道・山陽新幹線における終点・博多駅の1つ前の駅で全ての新幹線が停まる駅でもある。
普通列車ならば本州から関門トンネルを抜けた最初の駅・門司もじ駅の1つ西に存在する。
関門海峡の向こう側にある下関駅との間を往復している、直流交流でも走れる特殊列車が乗り入れている。
博多駅や大分駅に向かう特急ソニック、博多や荒尾方面に行く快速、準快速がホームを行き来している。
そんな小倉駅から南に延びている北九州モノレール。
モノレールの高架下にある主要道の西側に沿うように続く商店街。
南は最初の駅、平和通駅、その次の駅、旦過たんが駅手前まで続く。





小倉駅から南西側の商店街にある店の前で1人の女性が立っていた。
緩くパーマの入った肩くらいの長さの髪に白い帽子をかぶっている。
レースをあしらった白いトップにグレーのガウチョパンツ。
肩からは小さな水色のカバンを提げている。見た目では全く重そうには感じない。

その女性の目の前にある看板には、「アロママッサージ」「足湯」などの料金が書いてある。
女性は誰かを待っているようだ。スマホを手に、しきりに店の入口を気にしている。






★★★






……さなっちまだー


アタシは、さなっちが出て来るのを待っている。
この後、さなっちと食事に行くからだ。

さっきまで、清二叔父さんーアタシの母さんの弟ーの経営しているこの店で足湯を楽しんでいた。
いつも通り、さなっちに相手してもらっていたけど、アタシが調子にのっちゃったんだよね。
さなっちの雰囲気が冷たくなって、アタシの懐が寂しくなることが決まってしまった。

さなっち、ごめん。

でもね、アタシ、怒ったさなっちも大好きなんだよ。ごめんね、でも反省してない。



「お待たせしました」


さなっちが店の入口から出てくる。本当に待ったんだから。
彼女の中で一番目につくのは頭の後ろで揺れるポニーテール。肩口より少し長い。

白いトップ、二の腕を隠すようなチューリップスリーブで少しかわいい。
ボトムスはストレッチパンツ、足首少し上から出ていて、靴はサンダルかなー
手には薄い茶色のバッグを持っている。メッシュ柄で涼しさを演出しているようだ。

今日はそんなファッションなのねー。アタシはひそかにさなっち鑑賞会を楽しむ。


「おーそーいーよー」


アタシは不服そうな感じでわざと叫ぶ。そしてさなっちのポニーの先をつかもうと手を伸ばす。
彼女は器用にアタシから避けて一瞬真顔になる。怒ったかな?
でも彼女は基本的に優しい。、怒って「制裁」されたとしてもアタシは喜んで受け入れる。
どちらにしても、かまってもらうということにかわりはないんだよね。
アタシにとってはどちらも嬉しいこと。さなっち愛は揺るがない。


「そういえば、事件です。こんなメールが入ってました」


そう言ってさなっちはにこりとした後、アタシにスマホの画面を見せてくる。メール画面だった。
そこには「斉藤里美」という名前。斉藤里美・・・?誰?


「亜美は何度か会って知っていると思いますが・・・」
彼女はこちらを見つめる。ん?アタシも知ってるの?うーん?


「亜美は確か・・・リミちゃんと呼んでた気がしますが、覚えてないのですか?」
「・・・リミちゃん?あーリミちゃん。思い出したから睨むのやめてー」


彼女は睨むと同時に両手を構えていた。こめかみグリグリは冗談でもやめてほしい。
アタシが思い出したことに満足して構えを解く。勘弁してよー
学生時代からされているけど、仕事始めて地味に力強くなってるんだからさー
本名を最初会ったとき以外で見たことなかったからわからなかっただけ。



さなっちとリミちゃんは大学で出会ったと聞いた。
アタシは大学に行かず地元で就職したので、リミちゃんとはさなっちの紹介で知り合った。
知り合ってから仲が良くなって、最近では半年前に2人きりで会ったこともある。
さなっちは仕事の都合がつかず不参加だった。泊まりの旅行も兼ねてたので、うらやましがられたけど。

つい最近もSNSで言葉を交わしている。メールでもSNSでも「リミちゃん」なので気づかなかったよ。
半年前に会ったことをさなっちは知ってるから、睨むのは当然だよねー許してー


「で、さなっち。リミちゃんがどんな風に事件なのー?」
そう、なぜ事件なんだろう。アタシはリミちゃんから何も聞いていない。


「今夜、こっちに来るみたいです。追加のメールでは、すでに新幹線に乗って向かっているとのことです」


え?あまりにもいきなり過ぎない?さなっちは「ありえない」という顔をしている。


「新幹線で向かっている、っていうことは何時に小倉駅に着くって?」
「メールですと、18時35分に小倉に着くと放送で聞いたとか書いてますね」


リミちゃん、都会に住んでいるはずなのに電車やバスの運行時刻には、からっきしダメなんだよね。
半年前にリミちゃんに会った時の事。アタシは彼女の地元に向かった。
せっかくだから、地元を案内してもらおうと思って彼女に頼んだんだけど、計画が無茶苦茶だった。
仕方ないので、アタシがネット検索を駆使して、電車の時刻を調べて予定を立て直したという、ね。

そんなことを思い出しながら、リミちゃんならそうなるよなーと少し遠い目。

新幹線に乗ってから到着時刻の確認。その後にこちらへ連絡。
行き当たりばったりだね。アタシの場合、そこまではできない。時刻は調べる、宿は取る。
こんなアタシでも女の子だから。野宿とかカプセルホテルとか難しいよねーそう思う。



そこまで考えて、アタシの中で疑問が生まれる。
今日は7月18日の海の日。ここ小倉では祇園太鼓が一段落して落ち着いている日。
確かリミちゃんは彼氏と会っているはずでは・・・
SNSではとても楽しみにしていたはず。なのになぜこの時間にこっちへ・・・


「ねえ、さなっち。リミちゃんは彼氏と一緒にこっちにくるの?」
「いいえ、そんなことは一言も書いていませんね」


さなっちもアタシが言いたいことと、疑問に思ったことがわかったみたい。


「彼氏とはどうなったのでしょうか」
「それについては直接聞いた方が早くない?」
「では、お待ちしています、のメール、送りますね」


そう言うとさなっちは、スマホを操作し始める。
リミちゃんに待ち合わせ場所も含めたメールを返したみたいだった。



話がまとまった後、アタシはスマホの時刻を確認する。もう少しで18時。
これは小倉駅で暇を潰せば、あっという間に彼女の到着時間になっちゃうね。


「とりあえず、小倉駅に行くー?」
「そうですね、駅に向かいますか」


しかし、リミちゃーん、いきなりすぎるよー
アタシ達の都合付かなくて宿確保できなかったらどうするつもりだったんだよー
アタシとさなっちは、そう思いながら小倉駅に向かうのだった。
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