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焼うどんの鼓動を感じる駅(3)

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「まもなく広島です。山陽線、呉線、可部線、芸備線はお乗り換えです」
「車内で出ました不要な物はゴミ箱にお捨て下さいますよう、車内美化にご協力をお願いします」



車内に案内放送が響く。
東海道・山陽新幹線下り のぞみ177号 博多行き 6号車13A席。
窓側に斉藤 里美が座っている。寝息が聞こえる。
紺色のトップスに白地の水色の花柄スカートの彼女は、窓に頭を当てるようにして眠りに入っている。
車内は連休最終日もあって混雑している。ほとんどの席が埋まっている。
広島駅到着直前のせいか、出口に向かうひとで列ができている。







★★★





斉藤里美、彼女は今、博多に向かっている。
博多には彼女の彼、殿本恵吾が住んでいる。
恵吾とは名古屋で会っていた。つい数時間前に。
しかし、その彼は隣にいない。名古屋で分かれてしまった。

ならば、なぜ、そうなってしまったのか。

待ち合わせをして、食事をして一緒に博多に行く。当初、彼女が目指した計画である。
花火大会は一緒に行けると嬉しいけど無理だろうな、というレベルである。
彼女としては、花火大会も一緒に行きたかったが、彼は仕事のためには帰らなければならない。
そこは彼女の中では理解しているところである。
その代わりに博多に一緒に行って、恵吾さえ良ければそのまま同棲しようとまで考えていた。
ただ、それを自分から言い出すのは恥ずかしい。
加えて恵吾が過去に「あまりベタベタされるのは嫌なんだよね、普通でお願い」と、彼女に言っていた。

彼女は嫌われたくないので、彼の前では冷静であろうとしていた。

そのため、博多への同行について自分から言い出すには勇気と流れが必要と考えていたのである。
里美は触れ合いたい感情を抑えようと努力していた。だが実際はほとんど隠せていない。
そんな彼女の様子を見て恵吾はニヤニヤしているのだが、彼女自身は気づいていなかったりする。
恵吾自身は頼られるのもベタベタされることも問題ない。むしろ歓迎している。
件の発言は友達や会社関係者がいたため、単なる強がりと照れから生まれたものだった。
後日、彼女に責められても何も文句を言えないだろう。

里美は恵吾と会う前、名古屋駅に早めに到着、博多行き新幹線指定席券2枚を購入していた。
恵吾が帰り始める時間より早いのは偶然。たまたまその便で席が取れた。
基本的に彼女は時間や時刻を調べないし、気にしない。
待ち合わせに遅れないのは、いつも使っている交通機関は1時間に何本も走っているので、来たものに乗るという習慣ができているだけである。
準備をして挑んだデート計画
待ち合わせのナナちゃん人形の足元で待つのはいつも通り。
その後、恵吾の選んだ店で食事をするのもいつも通り。
花火大会に一緒に行きたいと駄々をこねて滞在時間を伸ばしてもらおうという無理難題。
無理と言われた時の代替案で「寂しい」ことを理由に一緒に博多に連れてって、とねだる。
花火大会に行きたい、ということをより強調するために「男に誘われてるんだー」と小芝居。
実際、里美はバイト仲間の男性に誘われていたが、彼女にとっては眼中になかった。
ここまでは、周りから見ると回りくどいが、上手くはいっていた。

ここで彼女にとって予想外のことが起こる。

偶然にも花火大会に誘ってきたバイト仲間、緒方からのメールである。
仕事上の連絡を取り合うため、アドレスの交換は当然行われている。
実際は長期休みの確認メールであった。緒方はシフト関係を勤務先で任されている。
このメールを利用してしまおうと瞬時に思った彼女は「連絡があったから行くね」と言ってしまう。

「行くね」と店を出て行っても恵吾なら追いかけてくるものだ、と思っていたからだ。

それを期待して店を出た後、しばらく彼を観察していた彼女だったが、ここは予想が外れた。
恵吾が呆然として動かない。ショックが大きすぎたのだ。そのうち彼女も気づいた。

気づいたけど、予想外の出来事に彼女自身も混乱。

どの顔で「今までのはウソ」と言えばいいのか、思い悩み逃げ出す。
その混乱した頭が落ち着くまで時間が欲しいと思った里美。
しかし、時間が経つと恵吾は博多に帰ってしまう。
帰ってしまったら直接弁明、そして謝る機会を失う。
それを恐れた彼女は自分も博多に行けばいいんだと結論を出し、改札をくぐった。


目当ての新幹線が来るまで、少しの時間があった。
その間も里美は恵吾に対する罪悪感で思い悩んでいた。

新幹線に乗り、発車したあたりで冷静さを取り戻す。
取り戻せば取り戻すほど、恵吾に対しての罪悪感が広がっていく。

耐えられなくなった里美は小倉の友人に会って相談しようと思いつき、メールを送った。
これがここまでの顛末である。






★★★






ふう。
里美は溜息をついた。

新幹線は広島を出発している。博多まではあと3駅。約2時間。
先ほどまで眠っていた彼女は少し目が腫れていた。
そして思いついたようにメールの受信を確認する。
彼女は新幹線に乗ってから定期的に恵吾に向けてメールを送っている。

ごめんね、と。

しかし、返信はない。約10分置きに確認している。


「ケイくん、もう私のこと嫌いになったのかも・・・」


彼女は呟く。

別の男と花火大会に行ったら嫌いになるだろう。彼女はそう思っている。
そんなつもりではなかった。でも状況を見ると、別れを切り出されても文句を言えない、と。
それどころか恵吾は出張先でいいひとを見つけているのではないかと、疑心暗鬼に陥っていた。
だから追いかけてこなかったのではないか、と。マイナス思考全快である。


そんな中、スマホのバイブ音が鳴る。
メールが届いた。彼女は目を見開き、確認する。が、落ち込んでいるようだったが、持ち直した。
そのメールは小倉の友人のものだった。待っているよとの返事だった。
車内電光掲示には「新岩国駅通過」と出ている。
彼女は少し考える仕草をして、再び眠りについた。
先ほどよりは笑顔を浮かべて。友人に相談できると思い、楽になったようだ。






★★★






音楽が流れる。


「まもなく小倉です。鹿児島線、日豊にっぽう線、筑豊線、日田彦山ひたひこさん線はお乗り換えです」
「お降りのときは足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用下さいまして、ありがとうございます」


案内放送が流れる。
里美自身、初九州上陸である。
新幹線は関門海峡を通る際トンネルを通るため、いつ九州に入ったのか彼女は気づけなかった。
橋で渡るものと勘違いしていたらしい。若干不服そうである。
「九州ー入ったー」そう叫びたかったらしい。わかるが24歳の女性。周りに迷惑である。

もうすぐ小倉駅。

大学時代に出会った山本早苗とその友達の三宅亜美。
その二人が改札を出たところで待ってくれているようである。


「・・・ケイくん・・・」


なのに、彼のことで胸の中は一杯。友人たちは彼女の話を聞いてどう意見するだろうか。
あきれるか、もしくは真摯にアドバイスを引っ張り出してくるだろうか。



里美は小倉駅に降り立った。

バックで新幹線の発車音楽がかろやかに流れる。銀河の鉄道の音楽。
初の九州、バック音楽は明るく、門出を祝ってくれているようである。
彼女の心内は全く反対だが、お構いなし。彼女自身もそれどころではない。
心ここに有らずの様子で近くにあったエスカレーターに乗って下りていく。

改札出口に向かうと、見覚えのある人影を見つけたか、彼女は笑顔になった。
その目には涙を潤ませて。
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