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平和を冠する駅名は多い(1)

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JR小倉駅。
出入口は北口にあたる「新幹線口」と南口にあたる「小倉城こくらじょう口」に分かれる。
新幹線口からは駅の北側にある病院や多目的展示場、フェリー乗り場につながる歩道橋が繋がる。
小倉城口には北九州各地に運んでくれる路線バスが集う。
バスロータリーから南に延びる片側3車線道路は、現・西小倉駅から移動した小倉駅ができた時に拡幅されたもの。
その後、北九州市が市内の道路名称を公募した際、その道路につけられた名称「平和通り」。
北九州市にはその他、「勝山通り」「山手通り」「小文字こもんじ通り」「ちゅうぎん通り」などあるけれども、全部が全部公募ではないらしい。



★★★



斉藤里美は、エスカレーターを下りる。
新幹線専用改札を出て周りを見渡すと、簡単に2人の友人を見つけることができた。
2人の友人は、彼女を認めるとゆっくり寄ってくる。
里美は2人に駆け寄り、互いに簡単な挨拶を交わす。そして謝罪する。

「突然の連絡、ごめんね」
「仕事終わってすぐ気づいたから、問題ないですよ」

2人の友人のうちの1人、山本早苗は笑顔を浮かべながら答えた。
もともと友人とご飯を食べに行く予定だったのだ。
それに里美が加わったことについては、予想外ではあったものの嬉しいことには変わりない。

「リミちゃん・・・なぜウグウグ・・・」

もう1人の友人、三宅亜美は里美に何か言いたそうに声を上げた。
しかし、それは叶わなかった。早苗に後ろから右手で口を塞がれていたからである。

「さなっち、何を」
「亜美」

早苗の手をほどいて批判的な目を向けて抗議をする亜美。その亜美を睨んで制する早苗。

「最近見つけた良い店があるので、そこに行きませんか」

亜美から目線を離し、里美に向き直りこれからの行動について提案をする早苗。
その言葉に頷く里美。目の周りは腫れて赤いものの笑顔である。

「そういえば、今回は亜美の奢りとなっています」
「奢ってくれるの?悪いよ」
「えーっ!リミちゃんのもー?」
「私だけ奢ってもらうのは里美に悪いでしょう」

そう言うと早苗は口角が上がる。一方、亜美は不服そうに声を上げた後項垂れる。
里美は悪いよとは言いながらもそれ以上は言わない。亜美の完全支払いが決定した瞬間だった。



早苗の行きたい店は平和通駅を少し歩いたところにあるらしく、小倉駅から歩くには少々距離がある。
亜美と早苗の2人ならば歩いても苦にならないだろう。今回は慣れていない里美がいる。
そんな理由で3人は北九州モノレールを使うことにした。
最初の駅、平和通駅まで片道100円。里美が切符を購入したことを確認した後、改札を通る。
2人は地元のICカードでピッピさせている。


「モノレールって初めてかも」
「アタシ達にとっては普通なんだけどなー」


里美がワクワクしている。その様子を見て2人は苦笑する。
確かにモノレールには乗るけれども、平和通まではたった2分から3分くらいしかかからないからだ。
そこまで歩くこともなく、ホームに車両が停まっていたので3人は乗り込む。
座席は車両の両壁に沿って存在しているので、3人並ぶように座ることができた。
しばらくして車両は走り出す。


~本日は北九州モノレールをご利用頂き、ありがとうございます。~
~次は平和通《へいわどおり》、平和通。魚町うおまち商店街前です。~


そんなアナウンスが鳴る。里美はといえば、窓の外に顔を向けて下を見て・・・恐怖していた。

「あれ?リミちゃんって高所恐怖症?」

亜美の言葉に里美は頷く。そして窓の外を見ることを諦めた。
車内に目線は戻ったものの、顔は強張っている。

「下を見ようとするからですよ」

早苗は里美が高所恐怖症だというところは知っていたので、微笑ましいものを見るような目で見ている。


~平和通、平和通、魚町商店街前です。降り口は左側です。開くドアにご注意下さい~


チンッと鳴ってアナウンスが流れる。プーと鳴ってドアが開く。
早苗は固まっていた里美の膝を叩いて目的の駅に着いたことを知らせる。
体をビクッとさせた里美は、顔を引きつらせながら、それも恥ずかしいと思ったのか苦笑する。
亜美はそんな彼女を見てこちらも苦笑。笑うのは失礼かなと思って自重しているようだ。
自動改札を抜けて、魚町商店街の方向に向かう。階段が少々長い。




★★★





北九州モノレール。正式には北九州高速鉄道と言う。
西鉄北方線の廃止と引き換えに作られた、小倉駅から小倉南区・企救丘《きくがおか》までを結ぶ第三セクターである。
モノレール自体は全国でどれだけあるかといえば、10社12路線。
有名なものをあげれば、東京の羽田空港線や多摩の都市モノレール、大阪モノレール、沖縄のゆいレールだろうか。
早苗や亜美は地元にあるものなので、珍しくも何ともないものだろうが、里美の住む東海地区には無い。
高架を走り、他の交通機関と違い壁がないので、窓からの眺めは非常に良い。
音は鉄道に比べて静か、とは言われるものの、もっと静かな新交通システムなるものがあるため、そこまで利点として挙げられることは少ない。

そして平和通駅。元々は小倉駅だった。
モノレール完成当時、高架橋が景観を害するということで、周辺商店街から反対運動があった。
そのため、小倉駅構内から延ばすことはできなかったらしい。
3人が歩かずモノレールを使った通り、小倉駅からそれなりに距離がある。
最初は徒歩連絡のため、利用者数が伸びずながらく赤字に苦しんでいた。
それも開業から13年後、小倉駅に乗り入れるように延線してからは単年黒字に転じたとか。
それに伴い、この駅の名称も小倉駅から平和通駅に変わった。下を通る道路からもらったのだろう。




★★★




「さなっち、まだなの?」

亜美が先頭を歩く早苗に言葉を投げた。
里美は無言、ニコニコしている。
心中は複雑のはずなのだが、友人に会えたことで落ち着いているらしい。
亜美自身は彼女から話を聞きたいが、早苗に止められているので我慢している。
平和通駅から歩き出して少し経っているため、そろそろじれてきたようだ。

「うーん、おかしいですねーここら辺りだと思ったのですが・・・」

早苗は首を傾げる。周りには食堂やバー、居酒屋。うどん屋もある。
そしてこの道を突き当たると、アーケードのある魚町商店街に出る。



「この道のどこかに・・・ああ、ありました」

彼女が指を指したところには黒い鉄門がある。店舗には見えない。入口なのか。
よく見ると、鉄門の上の方に看板が見える。喫茶店のようだ。

「ここですね、ようやく見つけました。行きましょう」

早苗は鉄門をくぐり、通路を進む。亜美と里美は表情を堅くしながらもついていく。
通路を抜けると、急に視界が広がる。白い砂利が敷き詰められ、両脇には笹が植わっている。
敷地の奥には店舗とは思えない、古めかしい日本家屋が存在していた。
亜美と里美はその光景に唖然としていた。


「いらっしゃいませー、あー早苗さん、来てくれたんだねー」

不意に3人に声をかける者がいた。
そこにはお盆を持った和服の女性が立っていた。
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