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平和を冠する駅名は多い(3)
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北九州市。
横浜市、名古屋市、京都市、大阪市に次ぐ、5番目に政令指定都市になった都市である。
今でこそ後進の政令市に抜かされ、人口も減少気味ではあるが、福岡県第2の都市。
そして、九州地方の中で第2の都市でもあるこの都市は、5つの都市の合併により生まれた。
小倉市、八幡市、戸畑市、門司市、若松市。そのまま区名になって、今も名称は残っている。
最近は「銃声の聞こえる街」「ポンの転がる街」など、不名誉な呼び方もあるとかないとか。
ちなみに「ポン」とは、お犬様の落とし物のことである。
★★★
JR小倉駅の南西側にある魚町商店街。
そこから、少し外れたところにある喫茶・美智屋。
その喫茶店の個室では、女性3人が食事を取っていた。
はずなのだが、話声がしたかと思えば、叫び声、そして鼻をすする音・・・
周りから見ていると、いったい何が起きているのか、と心配になりそうである。
「落ち着いた?」
緩いパーマの女性・亜美が、茶髪のセミロングの女性・里美に問いかける。
里美は先程まで、テーブルに伏せて鼻を啜っていた。目が赤くなっている。
今は心の整理がついたのか、顔を上げて静かに縦に首を振った。
里美の頭を撫で続けていたポニーテールの女性・早苗は、その様子を見て手を引っ込める。
「これから、何をしたいとか、思いつきましたか?」
早苗の問いに、里美は首を横に振る。
「とりあえず、彼にメールをするにしても、このままでは返ってこないと思うよ」
亜美の言葉に早苗も頷く。それを聞いて、里美は再びふさぎこもうとする。
「『ごめんね』だけでは、相手も『だからどうした、今更謝られても』って気になります」
早苗が里美の左側に移動して訴えかける。
「・・・そうなの・・・?」
里美はテーブルに伏せながら、顔だけ左に向けて早苗を見る。
「はい。なので、メールで今日の顛末をしっかり伝えましょう」
その言葉を受けて、里美は体を起こした。両手でスマホを持ち、画面を注視する。
その彼女の左に早苗、右に亜美が陣取り、2人も彼女のスマホを注視する。
そして3人でどんな文章を送ればいいのか、考える。
しばらくすると、里美が思いついたように文字を打ち始める。
打ち終わると、左右の友人の顔を見た。友人たちは、縦に首を振る。
チャラン、と音がして、里美は溜息をつく。
「よし!送信したね!じゃあ、食事を楽しもう!」
亜美がそう言って、メニューを取り出す。
「アタシが、好きな物、奢っちゃうんだから!」
「・・・ありがとう、亜美ちゃん・・・」
「亜美、元々アナタの奢りだから変わらないと思うのですが」
「あー!そうだった!」
「でも・・・ありがとね、亜美ちゃん」
3人の女性は、追加で注文をしていく。
今までとは違う、憑き物が取れたような雰囲気で食事会を楽しんだ。
全部奢ることが決定している亜美は、金額を気にしていたものの、途中からは吹っ切れたようだ。
友人との久しぶりの再会と、九州初上陸おめでとー会に変更していったらしい。
「ところで里美。1つ疑問点があるのですが」
「何かな、早苗ちゃん」
「あのですね、彼のところに行って、あわよくば同棲まで考えていた、って言ってましたよね?」
「うん、そのつもりだったよ」
「あの、荷物とか着替えとかはどうするつもりだったのですか?」
早苗の疑問点。博多の彼のところに行くとしては、里美の荷物が少ないこと。
ハンドバックはある。それに入るのはせいぜい、スマホの他、簡単なエチケットグッズくらいである。
しかし、宿泊、ましてやそのまま居座るのであれば、キャリーバッグでも無いとおかしいのでは、と。
「あーキャリーバッグに着替え、化粧品など入れて、ケイくんの家に送ったよ」
等の里美はそのように笑顔で答える。
それを聞いた早苗と亜美は、残念な娘を見るような目で彼女を見つめる。
「もし、同棲を許してもらえなかった場合は、どうするつもりだったの?」
「あ・・・。・・・送り返してもらっただろうから大丈夫」
亜美の問いには、少し間を空けて答えた里美。2人は確信する。彼女は考えてなかったな、と。
「今回みたいに、連絡が取れないときはどうするつもりだったのですか?」
早苗は、少し意地悪な質問をしてみた。
「ケイくんは優しいから、それでも送り返してくれるよ」
笑顔でそう答える里美に、早苗は無言で頭を撫でながら、溜息をつくのであった。
★★★
時刻は20時半。
楽しい食事会が終わり、外はすっかり夜。
亜美は空っぽになった財布とレシートを見て、呆然としている。
そんな彼女は放っておいて、早苗は小倉駅方面に向けて歩き出す。
歩き出したのだが、亜美はともかく、里美も立ち止まっていた。
「どうしたのですか」
私は、里美に声をかけました。
その声が聞こえているのか、いないのか、里美は真剣にスマホを見ています。
私は、彼女の肩口から覗き込みます。
彼女の方が私よりも低いので、簡単に覗くことができます。メール画面でした。
そうですか、彼氏さんから返事があったようですね。
「亜美」
私は、近くで呆然としているもう1人の友人に声をかけました。
友人も彼女の様子に気づき、耳打ちしてきます。
「・・・残念女子お泊り会は、ナシになりそうだね」
亜美は私から離れると、嬉しそうに彼女を見つめています。
残念女子という名称には、少し不服ですが・・・いい方向に行ってほしいですね。
2人で里美の様子を見守る。
彼女は一生懸命メールを打っているようだ。電話の方が早いのでは、とも思ってしまいます。
まだ、彼の方が電話ができない環境なのでしょうか。
「あーあ、アタシも彼がほしい!」
「里美を見てたらいろいろありそうですが、それでも欲しいですか?」
「里美よりは上手く、話術で操作できると思うよー」
うーん、確かに里美よりは、正直で裏表のない亜美は、変なことにはならないでしょうけど。
私は、まだ欲しいと思いません。店長との会話で満足・・・いえ、疲れるので、いらないです。
「どうなりました?」
メールを打ち終わったところを見計らって、里美に声をかけます。
「うん、メールがあったよ」
彼女は笑顔で答えてきました。私の横で、亜美もうんうんと頷いています。
「博多まで来いよって。嬉しい」
私のそばに寄ってきて、抱き着いてきました。シトラスの香りがほのかにします。
「よかったですね」
私も抱き返します。1人残された亜美だけが不服そうに見てきます。
そんな目線は放っておいて、里美の頭を撫でます。かわいいんですよね、里美も。
これ以上、亜美を放置すると、不機嫌になるので、これくらいにして。
「今から博多に向かうのでしょうか?」
「うん、博多駅周辺で待っててくれるって」
亜美にもみくちゃにされながら、里美が嬉しそうに答えてくれます。
それなら、早く小倉駅に行かないといけませんね。
小倉駅から新幹線で直で行ける博多駅。
時刻表を気にしない里美は、ただ、かわいいだけなのですが、今の場合は、最終が迫っています。
無事に送り届けないと。これ以上迷われると、もっとこじれます。
入場券を買う必要があるかもしれませんね。
「では、小倉駅に行きましょう、亜美、その辺でいいでしょう」
そう言って私は、里美から亜美を引きはがします。
放って置くと、どれだけ時間が経つかわかりませんので。
引きはがされた亜美は、スマホで調べものをしていました。
彼女のことです、すでに新幹線の時刻を調べているということに間違いありません。
私たちは、小倉駅に向かって歩いていきます。かわいいお嬢様を送り届けるために。
★★★
北九州モノレール沿いの大通り。
女性3人は、小倉駅に向かって歩いていく。
3人とも笑顔で、そして力強く。
そんな姿をも、小倉の街は見守っている。
横浜市、名古屋市、京都市、大阪市に次ぐ、5番目に政令指定都市になった都市である。
今でこそ後進の政令市に抜かされ、人口も減少気味ではあるが、福岡県第2の都市。
そして、九州地方の中で第2の都市でもあるこの都市は、5つの都市の合併により生まれた。
小倉市、八幡市、戸畑市、門司市、若松市。そのまま区名になって、今も名称は残っている。
最近は「銃声の聞こえる街」「ポンの転がる街」など、不名誉な呼び方もあるとかないとか。
ちなみに「ポン」とは、お犬様の落とし物のことである。
★★★
JR小倉駅の南西側にある魚町商店街。
そこから、少し外れたところにある喫茶・美智屋。
その喫茶店の個室では、女性3人が食事を取っていた。
はずなのだが、話声がしたかと思えば、叫び声、そして鼻をすする音・・・
周りから見ていると、いったい何が起きているのか、と心配になりそうである。
「落ち着いた?」
緩いパーマの女性・亜美が、茶髪のセミロングの女性・里美に問いかける。
里美は先程まで、テーブルに伏せて鼻を啜っていた。目が赤くなっている。
今は心の整理がついたのか、顔を上げて静かに縦に首を振った。
里美の頭を撫で続けていたポニーテールの女性・早苗は、その様子を見て手を引っ込める。
「これから、何をしたいとか、思いつきましたか?」
早苗の問いに、里美は首を横に振る。
「とりあえず、彼にメールをするにしても、このままでは返ってこないと思うよ」
亜美の言葉に早苗も頷く。それを聞いて、里美は再びふさぎこもうとする。
「『ごめんね』だけでは、相手も『だからどうした、今更謝られても』って気になります」
早苗が里美の左側に移動して訴えかける。
「・・・そうなの・・・?」
里美はテーブルに伏せながら、顔だけ左に向けて早苗を見る。
「はい。なので、メールで今日の顛末をしっかり伝えましょう」
その言葉を受けて、里美は体を起こした。両手でスマホを持ち、画面を注視する。
その彼女の左に早苗、右に亜美が陣取り、2人も彼女のスマホを注視する。
そして3人でどんな文章を送ればいいのか、考える。
しばらくすると、里美が思いついたように文字を打ち始める。
打ち終わると、左右の友人の顔を見た。友人たちは、縦に首を振る。
チャラン、と音がして、里美は溜息をつく。
「よし!送信したね!じゃあ、食事を楽しもう!」
亜美がそう言って、メニューを取り出す。
「アタシが、好きな物、奢っちゃうんだから!」
「・・・ありがとう、亜美ちゃん・・・」
「亜美、元々アナタの奢りだから変わらないと思うのですが」
「あー!そうだった!」
「でも・・・ありがとね、亜美ちゃん」
3人の女性は、追加で注文をしていく。
今までとは違う、憑き物が取れたような雰囲気で食事会を楽しんだ。
全部奢ることが決定している亜美は、金額を気にしていたものの、途中からは吹っ切れたようだ。
友人との久しぶりの再会と、九州初上陸おめでとー会に変更していったらしい。
「ところで里美。1つ疑問点があるのですが」
「何かな、早苗ちゃん」
「あのですね、彼のところに行って、あわよくば同棲まで考えていた、って言ってましたよね?」
「うん、そのつもりだったよ」
「あの、荷物とか着替えとかはどうするつもりだったのですか?」
早苗の疑問点。博多の彼のところに行くとしては、里美の荷物が少ないこと。
ハンドバックはある。それに入るのはせいぜい、スマホの他、簡単なエチケットグッズくらいである。
しかし、宿泊、ましてやそのまま居座るのであれば、キャリーバッグでも無いとおかしいのでは、と。
「あーキャリーバッグに着替え、化粧品など入れて、ケイくんの家に送ったよ」
等の里美はそのように笑顔で答える。
それを聞いた早苗と亜美は、残念な娘を見るような目で彼女を見つめる。
「もし、同棲を許してもらえなかった場合は、どうするつもりだったの?」
「あ・・・。・・・送り返してもらっただろうから大丈夫」
亜美の問いには、少し間を空けて答えた里美。2人は確信する。彼女は考えてなかったな、と。
「今回みたいに、連絡が取れないときはどうするつもりだったのですか?」
早苗は、少し意地悪な質問をしてみた。
「ケイくんは優しいから、それでも送り返してくれるよ」
笑顔でそう答える里美に、早苗は無言で頭を撫でながら、溜息をつくのであった。
★★★
時刻は20時半。
楽しい食事会が終わり、外はすっかり夜。
亜美は空っぽになった財布とレシートを見て、呆然としている。
そんな彼女は放っておいて、早苗は小倉駅方面に向けて歩き出す。
歩き出したのだが、亜美はともかく、里美も立ち止まっていた。
「どうしたのですか」
私は、里美に声をかけました。
その声が聞こえているのか、いないのか、里美は真剣にスマホを見ています。
私は、彼女の肩口から覗き込みます。
彼女の方が私よりも低いので、簡単に覗くことができます。メール画面でした。
そうですか、彼氏さんから返事があったようですね。
「亜美」
私は、近くで呆然としているもう1人の友人に声をかけました。
友人も彼女の様子に気づき、耳打ちしてきます。
「・・・残念女子お泊り会は、ナシになりそうだね」
亜美は私から離れると、嬉しそうに彼女を見つめています。
残念女子という名称には、少し不服ですが・・・いい方向に行ってほしいですね。
2人で里美の様子を見守る。
彼女は一生懸命メールを打っているようだ。電話の方が早いのでは、とも思ってしまいます。
まだ、彼の方が電話ができない環境なのでしょうか。
「あーあ、アタシも彼がほしい!」
「里美を見てたらいろいろありそうですが、それでも欲しいですか?」
「里美よりは上手く、話術で操作できると思うよー」
うーん、確かに里美よりは、正直で裏表のない亜美は、変なことにはならないでしょうけど。
私は、まだ欲しいと思いません。店長との会話で満足・・・いえ、疲れるので、いらないです。
「どうなりました?」
メールを打ち終わったところを見計らって、里美に声をかけます。
「うん、メールがあったよ」
彼女は笑顔で答えてきました。私の横で、亜美もうんうんと頷いています。
「博多まで来いよって。嬉しい」
私のそばに寄ってきて、抱き着いてきました。シトラスの香りがほのかにします。
「よかったですね」
私も抱き返します。1人残された亜美だけが不服そうに見てきます。
そんな目線は放っておいて、里美の頭を撫でます。かわいいんですよね、里美も。
これ以上、亜美を放置すると、不機嫌になるので、これくらいにして。
「今から博多に向かうのでしょうか?」
「うん、博多駅周辺で待っててくれるって」
亜美にもみくちゃにされながら、里美が嬉しそうに答えてくれます。
それなら、早く小倉駅に行かないといけませんね。
小倉駅から新幹線で直で行ける博多駅。
時刻表を気にしない里美は、ただ、かわいいだけなのですが、今の場合は、最終が迫っています。
無事に送り届けないと。これ以上迷われると、もっとこじれます。
入場券を買う必要があるかもしれませんね。
「では、小倉駅に行きましょう、亜美、その辺でいいでしょう」
そう言って私は、里美から亜美を引きはがします。
放って置くと、どれだけ時間が経つかわかりませんので。
引きはがされた亜美は、スマホで調べものをしていました。
彼女のことです、すでに新幹線の時刻を調べているということに間違いありません。
私たちは、小倉駅に向かって歩いていきます。かわいいお嬢様を送り届けるために。
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女性3人は、小倉駅に向かって歩いていく。
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