エキ・者・カタリ

すかーれっとしゅーと

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辛子明太子のようにホットな駅(1)

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九州・博多行きの新幹線。
夕陽に向かって走っていく車両は、オレンジ色に光って幻想的な景色を演出している。
連休最終日とあって、車内は混み合っていた。
そんな中、1人缶ビールをあおり、カツを食している男がいる。
殿本恵吾である。
ただいま名古屋に残している彼女に振られ、傷心中である。





★★★





名古屋駅で購入した味噌カツは、2串。これは少なかったかもしれない。
酒のつまみに、と思って買ってきたものの、博多到着まで3時間以上かかる。
席について、京都過ぎた辺りで食べ始めたものの、新神戸到着までには平らげていた。
缶ビールも1本では足りなかったかもしれない。
もう少し買えばよかった、そんな後悔の念が湧いてくる。


ブーブーブー


スマホが鳴る。名古屋を出発して2回目か。
画面を覗く。名古屋にいる元彼女・里美からだ。ごめんねの4文字。1回目と一緒だ。
ごめんね、か。意味がわからない。
男と花火大会に行ったことについてだろうか。
彼女は言及していないが、最悪、2人きりで行っている可能性もある。
ごめんね、と送ってくるということは、俺に悪いことをしているということなのだろう。
言及していないため、もしかしたら違うのかもしれない。信じたい。
だが、「ごめんね」としか送ってきていない。
信じたい、違うのかもと思いたいが、悪い想像が心の中を支配しそうだ。
博多に帰ったら「楽しかった?」とメールを入れようか、と思っていたけれど、無理かもしれない。
ドラマとかで女性に振られた主人公を見て、冷静になれよ、考えろよ、心弱いなとか思っていた。
歴代主人公様、ごめんよ、貶して。
俺はそこまで強くなかったことを今、知ったよ。偉そうなこと言ってほんとすみません。



そんなことをグルグル考えて、答えの出ない答えを求めて、缶を握りしめていた。
隣に座っている親子連れがチラッチラとこちらを伺っているが、気にする余裕がない。
これは、心機一転、仕事した方がいいのかもしれない。
そうしよう。





★★★





恵吾はカバンからノートパソコンを取り出した。
座席のテーブルにセット、左側のコンセントから電源を供給。
電波状態は問題ないらしい。
彼は全てを忘れるように一心不乱にキーボードを叩く。
カチャカチャと軽やかな音が流れる。
アルコールが入っているはずなのだが、関係ないらしい。
彼女について考えることを振り払う、その拒否行動が、アルコールを吹き飛ばしているのかもしれない。


その間にも3回目、4回目、5回目のメールが入っていた。
彼自身もバイブの音に気付いていたが、画面を見ようとまでは思わなかったらしい。
どうせ同じ「ごめんね」の文字だろう、と。

しかし、この5回目のメール。
実は里美が友人2人に注意されて、まともに送ったものである。
恵吾は気づかない。気づいていたら、小倉で出会うことができただろう。
里美もポンコツだったが、この時は恵吾もポンコツになっていた。





★★★





~まもなく、終点、博多です。鹿児島線、長崎線、佐世保方面は、お乗り換えです~
~地下鉄線をご利用の方は、改札口を出て、地下ホームへ、おいで下さい~
~お降りの時は、足元にご注意下さい。今日も新幹線をご利用いただき、ありがとうございました~



博多到着のアナウンスが流れる。
うん、仕事は捗ったね、これで明日以降は楽になるかな。
とりあえず、パソコンを収めよう。ん?メール着信のランプか。
何回か震えていたのはわかったけど、どうせ、里美からのメールだろう。
アイツ、花火大会の時間はさすがにメールして来なかったようだな。
もし、してきても見ないけど。花火の写真なんか送って来た時には、発狂しそうだからな。
そう思いながら、荷物をまとめて下車準備を始める。
終点であることと、休日ということが重なって、降りるひとで大混雑。
ホームに降り立った後も、エスカレーターを長い列に連なり移動する。
この頃の俺は、悲壮感に溢れた顔をしていたかもしれない。



新幹線中央改札を出る。筑紫口の前で一息をつく。熱男の看板が目につく。
今日はいろいろあった。里美に振られた。決定じゃないかもしれないが、ダメかもな・・・
まあ、最後の意地で花火大会が終わった直後にメールを送ってやろうじゃないか。
そう思い、スマホの画面を見る。未読メールが3つ。全部里美からだろうな。
仕方ない、読むか。そう思い、メール画面を開ける。
一番上の、最近送られてきたメールを開けてみた。




From:里美
Sub:ごめんね
ケイくん、花火大会行くとかって言う話、全部ウソなの
花火大会に行きたいとは思ってるよ
でも本当は、ケイくんと博多に行きたかっただけなんだ
男と一緒に行くというのもウソ
あのメールは仕事関係の連絡メールなの
ウソついた私が悪いし
許してもらえないだろうけど、ごめんなさい。

今、小倉にいるの。早苗ちゃんたちと一緒にいる。
許してくれて、ケイくんの家に行っていいって言ってくれるなら
今からでも行くから。
返事よろしくお願いします。

あと、ごめんねメールたくさん送ってごめんね
早苗ちゃんと亜美ちゃんにめちゃくちゃ怒られた
ちゃんとおくらなくちゃわからないよって
本当にごめんなさい






★★★





俺は頭をガンと殴られた気分だった。
正直、彼女のウソにむかついた。そしてそんな女だったのかとも思った。
が、それは一瞬だった。
そうか、彼女もいろいろ悩んでくれてたのだな、と。
確かに自分で策を練って自分で空回ってちゃ迷惑でしかない。
でも、まあ、彼女が離れていくことを考えれば、小さいことだ。
そう思い直し、里美にメールを送る。



返信が来た。送るとすぐに帰って来た。
すぐに向かう、そう書いてあった。
本当に小倉にいるのか、そんな心配をしていたが、添付されていた写真で吹き飛んだ。
赤とピンクの間の色の2本ラインのバス、そして青い英字で会社名が。
福岡県下で1番有名で、他ではほぼ見ないバスの写真が添えられていた。
間違いない、小倉に、というより、福岡県内に里美はいる!



気分は晴れ晴れとしている。彼女が博多に来る。俺の家に来る。
今夜は一緒なのだ。久しぶりに。
非常に嬉しい。もしかしたら夜の・・・は、考えないようにしよう。




★★★




博多駅筑紫口。
1人の男の心が燃えている。
好きな女を諦める、そのどん底からの自分の住む街に来てくれるという大復活劇。

近くで座っていた叔父さんが、その様子を見て、ニヤニヤしていた。


JR博多駅
言わずと知れた、東海道・山陽新幹線の執着駅である。
九州一の人口を誇る福岡市の中心駅。
鹿児島本線で熊本、鹿児島方面、快速で熊本県荒尾市まで通勤圏内。
特急みどりで鳥栖、佐賀経由、長崎、佐世保まで。特急ソニックで小倉経由の大分まで。
地下鉄では福岡空港、反対方向では途中からJRになって唐津方面へ。
九州北部方面は大体網羅している。
それに加えて、博多口付近にある、博多バスターミナル。
九州の主要都市を網羅。鉄道で行きにくい大分南部、宮崎方面をもカバーしている。
九州の中心、博多。中州の街に九州全土から働きに来ていると言われても、驚かないレベル。

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