優しい希望

すかーれっとしゅーと

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第4話 女子高生的許嫁

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 3月28日日曜日。俺に「許嫁」がいることを知った。

 いることを知っただけなら、そこまで生活は変わらない。
「許嫁が存在する」と知ったその日に、本人が押しかけて来た。

 押しかけてくるならまだいい。
一定の距離を取っていろいろ考えて、対処することができる。

 さらに、一緒に住むと、そう宣言された。激動である。

 16歳の、未成年の、高校生。しかもかわいい。容姿については、文句はない。
今の時点で、彼女に対して恋愛感情があるのかは、わからない。
30代に足を掛けた者からしてみれば、高校生くらいの少女は恋愛対象というより、庇護対象。
こんな娘や妹が欲しいなぁ、そう思ってしまう。



 親の決めた許嫁が、突然訪れる。
恋愛ゲー、ギャルゲーで、よくあるパターンである。
しかし、現実にこの身に起こると、経済的、生理的、物理的に様々な齟齬が生じる。
悠々自適の1人暮らしが、もう1人の個を気にかける生活に変化する。
それだけを取っても、十分面倒である。

 賢い諸兄の方々からすると、断ればいいじゃないか、そう思うだろう。
押しかけてくる者って、ただただ、迷惑なだけだ、と。
しかし、その選択肢は、なぜか思い浮かばなかった。

なぜだろうか。

 自分を問答無用で好いてくれている、そんな状況のせいなのかもしれない。
なんだかんだ言っても、自分のことを好きでいてくれる存在は、貴重で嬉しいものだ。
性格については、これから解ってくることだろうが、容姿については、かなり良《い》い。
一緒に話をしていても、精神的苦痛はない。

 むしろ、なぜ俺は、このに好かれ続けているのだろう、そう疑問に思ってしまうほどだ。

 逆に、婚姻届を完成させて、既成事実をつくってしまえよ、そう思う方々もいるだろう。
本人も親も結婚について、反対していない。
親に至っては、なぜか娘を押し付けている感、すらある。
これに関しては、俺と彼女、両方の親の思惑や理由がありそうである。
だが、それが何であるのかは、現時点では全くわからない。

 幼妻おさなづまを娶って、同意を得ず、快楽を貪る。まるでゲームのように。
嫌だと悲鳴を上げられても、「俺が好きなんだろう?」と、押さえつけて身体関係を持つ。
そんな鬼畜、極悪非道とされることも、この現状ならば、できたのかもしれない。

 それでも俺は、彼女に襲い掛かることもなく、そんな関係になろうとも思わなかった。
彼女からの挑発に、現時点では相当、まいってはいるけれども。

 また、彼女の望んだ「結婚」に踏み込むこともなかった。
成人してもいない彼女が、考えなしに行動しているように見えてしまったからなのだろうか。
それとも、突発的に結婚して、近い将来、俺に対して幻滅されることが怖かったからなのだろうか。
俺としては、もう少し時間が欲しかったのかもしれない。
自分だけではなく、相手の人生をも左右する「結婚」という選択。

 いろいろ考えた結果、勢いだけでは、踏み込めなかった。

 俺は、思った以上に「常識人」だったのだろうか。
あるいは「ヘタレ」だったのだろうか。
もしくは、「未成年略取」の犯罪が怖かったからだろうか。
ただ、「少女の望むこと」に流されているだけなのだろうか。

 そのじつはわからない。

「相田希」という人間を知って、より良い「未来」を見極めるため。
そんな「模範解答」のような「理由」を言い訳にして、対処することにしたらしい。
「したらしい」
……自分自身のことのはずなのに、まるで他人事。
笑いが出てくる。「ヘタレ」説が高そうだな。



★★★



 冷静に自己分析をすると、そんな感じではあるのだが、時間は待ってくれない。
今日から、2人で生活していくことが、決まった。
ただ、現状、この家に有る物だけでは、足りないはずだ。
とりあえず、何が有って、何が足りないのかを、把握しておきたい。

「希さん、キャリーバッグの中には、何が入っているんだ?」
寝転がって、スカートの裾をつかんで、波のように動かして遊んでいる、彼女に聞いてみる。

「あ、その前に」
思いついたようにそう言うと、体を起こして座り込み、俺に向き直る。

「『のぞみさん』って呼び方、他人みたいですわ」
不服そうに呟く。俺の目を見つめてくる。

「『ノゾミ』って、呼び捨てで、お願いしたいですわ」
「え」
「他人みたいということもありますが、ユウ兄様には、『ノゾミ』と呼んで欲しいですわ」

あーなるほど。うーん、ならば。

「では、俺も『ユウ兄様にいさま』ではなく、『ユウ』と呼んでもらおうかな」
様付けは、あまり慣れてないんだよな・・・いい機会だから言ってみた。

「ユウ兄様は、ユウ兄様ですわ・・・呼び捨ては恥ずかしいですわ・・・」

 そう小さな声で呟いている。俺に顔が見えないよう、反対方向を向いている。
顔は真っ赤に染まっているようだ。かわいいので、少し意地悪してみよう。

「ノゾミー!……試しに俺のこと、呼んでくれるかな?」
「!」

 ビクンッと、彼女の体が弾んた。
いきなりの呼び捨てに対して、心の準備が追い付かなかったらしい。

「ほら、ほら、ノゾミー。呼んでみてくれよー」
「……ユ……ウ……?」

「あれー?聞こえないなー」
「ユウ……」
「もう1度!」

 そんなやり取りを続ける。面白いなー、かわいいなあ。癖になりそう。
何回も繰り返す。

「ユウー!……もう、知らないですわ!恥ずかしいですわ、意地悪!」

 彼女が怒ってしまった。そっぽを向く。
立ち上がって、俺から離れようとする。
しかし、残念ながらこの部屋は6畳の洋室。逃げ場がない。
そんな彼女を、ニヤニヤしながら見つめる。
おっと、本題を忘れそうになったので、話を元に戻す。

「……ノゾミ。家からは何を持って来たんだ?」
彼女にそう質問して、キッチン横の大きなキャリーバックを指さす。

「いろいろ入ってますわ。取り出した方が早いですわ」
そう言って、キャリーバッグを取りに行こうとする。

 俺は、彼女を制して、取りに行ってくる。
思ったよりも重い。いったい何が入っているんだろうか、この中に。
キャリーバッグを開ける。中には、ぎっしり隙間なく入っているのが見えた。

「あーっ!」
ノゾミが叫んだ。
「見ないでください、恥ずかしいですわ」

 そう言って、キャリーバッグと俺の間に体を滑り込ませる。
ノゾミさん、俺の胡坐の上に座っているのだが、そこは恥ずかしくないのか。
俺の脚の上に存在する、ぬくもりと2つの量感。
後ろから抱きしめたら、どんな反応を示すのか。やってみたい、でも、今回はやめておこう。

 急な彼女の行動にそんなことを考えていたが、肩口から観察していて納得した。
様々な色の下着が見えた。恥ずかしがるのは無理はないな。
ただ、今の時点では、収納するところがない。
結局、俺の目の前に晒す未来が待っていたのだが、なるべく見ないように努力する。

 キャリーバッグの中には、様々なものが入っていた。
下着の他、春から夏にかけての普段着、パジャマ、キャミソール、靴下などの衣服。
筆記用具、学校の教科書やノート、コミックやラノベの書籍類。
コスメ関係や洗髪関係のボトルや軟膏類、学生カバンやセカンドバッグ。
そして、ノートPC。

「よくこれだけの物が入ったなー」

 いろんな意味で関心していた。そして、外に出したものを観察する。
書籍類は、カラーボックスを整理したところに入るだろう。
コスメ関係のものは、浴室の洗面台にでも置けば、なんとかなりそうだ。
ノゾミに話すと、同意してくれた。

「クローゼットは要りそうだな……」

 ここに有るものは、春夏もの。1年で1番、衣服の嵩の張らない。
女の子だし、洋服は増えていくだろう。これは購入しなくては。

「えっ、悪いですわ、わざわざ買ってくださるなんて」
「まあ、遠慮するなよ。ある程度なら、出せるから」

 ノゾミがすまなそうな表情をするが、これは社会人としてのプライドである。
一緒に住むと決めた以上は、必要ならば、購入していくことに迷いはない。
……と、いうより、俺の服の方が少ないんだよな……。
引き出しのある棚を購入して、俺の衣服を移動させる方がいいのかもしれない。
あとは……勉強机か。今出しているテーブルでいいのだろうか。

「勉強するところだけど、このテーブルでも大丈夫?」
彼女に声をかける。

「もーんだーいないですわ。パソコンもそこに置くつもりですわ」
そう言いながら、ノートPCをセットしている。
丁度よかったので、無線LANのパスワードを教えておく。

「では、ここの引き出しに入っているものを出すから、下着とか入れていってー」
俺はそう指示だしながら、収納の引き出しから、自分の衣服を出していく。

「それから、あの付近にコミックとか置いていいから」

 ノゾミは俺の指示に従い、キャリーバッグから出したものを片付けていく。
小ぶりのブラジャーや、かわいいフリフリ付きのパンツなども、無事に引き出しに収納されていった。
その代わりに、俺の下着やTシャツが床に並んでいくのだが。
もう、1つの引き出しにまとまらないか?
なんとか押し込むことに成功した。



 全部の作業をやり終えて、部屋が片付いたときには、すっかり日が暮れていた。
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