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ベイルモンド砂漠編
アレーナ
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「他に隠していることは?私に話していないことがあるんじゃないの?」
少々落ち着いてきたアレーナだが、追及は止まらない。
「勿論ある。でも、全部説明する義理は無い。」
「ぬぬ…。4属性持ち…。」
バッサリ言うと、アレーナは腕を組んで考え始めた。かなり気温が高くなってきており、二人してギルドの待合室へ移動する。売店で薄いアルコール飲料を購入し、水代わりに飲みながら一息いれた。
「まあ、おいおい聞き出すわ。それより、あのギルドマスターが、私があなたを派閥メンバーとして紹介したかった一人でもあるの。」
「うん。」
「他に、あなたを紹介しなくちゃいけない人物が後三人いるわ。一人は、師匠であるナッサル様。一人は、師匠の弟子の中で最大派閥を仕切っているベンハミン。最後が、私の父よ。」
「父親にも紹介するのか。これ、何の意味があるか聞いてもいいだろうか?」
アレーナは素早く高速に首を振った。
「だめ。」
「あ、そう。」
「で、三人への紹介が終わったら、カーレッド記念探求院…研究所内への立ち入りだけじゃなく、蔵書の閲覧も出来るようあたしが手を回す。」
「そういう約束だったしな。」
ここで、アレーナが腕を組み直して改めてこちらを見てきた。
「それと…。」
嫌な予感がしたので、言葉を遮る。
「今から追加要求は無し。」
「違うわよ!ただ…、まあ、今はいいわ。明日、明後日で三人のところへ行くわよ。」
アレーナは、今日は解散と言って去っていった。
何ともけったいな女だな、と思った。尤も、面倒に巻き込まれない旅など、豆腐の入っていない味噌汁と一緒。20年前の自分ならイライラしていただろうが、現在の私にとっては今のところちょっとしたスパイスでしかない。
一人になったので、大図書館に向かう。ここに居る間に詰め込めるだけこちらの知識を詰め込む予定だ。ただ、期待したほどは情報が無かった。世界地図にはベイルモンド砂漠周辺しか載っておらず、この世界に大陸が幾つあるのかも分からない。
情報の少なさに、思わず担当してくれた司書に疑問を呈すると、彼は苦笑して呟いた。
「この大図書館も、昔は世界の英知が集まる場所だったんですけどね。現代の世界の中心は海の向こうだ。」
彼の悔しそうな表情に何故か申し訳なくなって、それ以上質問はせず、引き続き情報収集に努めた。
********
アレーナが5歳の時、父から「戦盤」というボードゲームを与えられた。父ムカルゼルには、娘が人の上に立って指揮する者になるように、という意図があったようだが、その時のアレーナには分からなかった。
「戦盤」は15の駒を操って、相手の駒を全て奪った方が勝ち。ルールは複雑で、結局アレーナには「戦盤」をまともに遊ぶことは出来なかった。だが、覚えたこともある。人を駒として見ることだ。世の中には、使える駒と使えない駒がある。そしてプレーヤーは自分だけ。そう思った。
14歳のとき、漸く自分が世界の中心ではないことに気づいた。周りの人間が自分に従うのは、自分がこの町の右大臣の娘だから。彼らは権威に頭を下げているのであり、自分に敬意を抱いている訳ではない。本当の意味で親しい人間が1人も居ない。
しかし、気づいたところで今更自分の尊大な性格が直るとは思えなかったし、直す気も無かった。今のあたしのまま、人の上に立ってやる。そう思った。
それから4年が経ち、更に別の事実に気づいた。父には「尊大さ」の他に、「賢さ」や人心を掌握する力がある。だが、自分が引き継いだのは最初の一つだけだったようだ。他は兄達が先に持っていってしまったのだろう。でも、代わりにあたしには土魔法の才がある。これを武器に父や兄とは違う方法で成り上がる。そう思った。
父の口添えで、砂漠の大魔法使いナッサル様の弟子になることが出来た。それ自体は喜ばしい出来事だが、ナッサル様の大勢の弟子の中で、自分は凡庸な魔法の才しか持っていないという事実も一緒についてきた。しかも、ナッサル様の元で弟子たちがやることといったら、地味な遺跡発掘や魔法研究ばかり。そいういものに必要な繊細さなど、あたしには無い。
研究などより討伐者として魔物を倒すほうがまだ楽しかった。ただ、魔物をいくら倒しても人の上には立てない。どうしていいか分からないまま、ズルズルと時間は過ぎる。
父の向ける諦観の視線に慣れた頃、兄から嫌な話を聞いた。父があたしを誰かに嫁がせることを考えているというのだ。毎日、男に頭を下げて暮らす?母のように?冗談じゃない。どうやって回避する?
何か成果を出さないと。家庭に収めるには勿体無い女だと知らしめないといけない。誰にでも分かりやすいはっきりとした成果…、発掘だ。遺跡発掘で大きな発見をするのが手っ取り早い。ナッサル様の他の弟子と協力しては、手柄を奪われる可能性がある。他の駒が必要ね。
悩むアレーナの前に現れたのは、ちょっと抜けた顔をした異国の魔法使い。常識は欠如しているが才能は本物だ。使える。派閥に入れて、遺跡発掘を手伝わせるのだ。
あたしは、平伏しない。必ず平伏させる側に立ってみせる。
少々落ち着いてきたアレーナだが、追及は止まらない。
「勿論ある。でも、全部説明する義理は無い。」
「ぬぬ…。4属性持ち…。」
バッサリ言うと、アレーナは腕を組んで考え始めた。かなり気温が高くなってきており、二人してギルドの待合室へ移動する。売店で薄いアルコール飲料を購入し、水代わりに飲みながら一息いれた。
「まあ、おいおい聞き出すわ。それより、あのギルドマスターが、私があなたを派閥メンバーとして紹介したかった一人でもあるの。」
「うん。」
「他に、あなたを紹介しなくちゃいけない人物が後三人いるわ。一人は、師匠であるナッサル様。一人は、師匠の弟子の中で最大派閥を仕切っているベンハミン。最後が、私の父よ。」
「父親にも紹介するのか。これ、何の意味があるか聞いてもいいだろうか?」
アレーナは素早く高速に首を振った。
「だめ。」
「あ、そう。」
「で、三人への紹介が終わったら、カーレッド記念探求院…研究所内への立ち入りだけじゃなく、蔵書の閲覧も出来るようあたしが手を回す。」
「そういう約束だったしな。」
ここで、アレーナが腕を組み直して改めてこちらを見てきた。
「それと…。」
嫌な予感がしたので、言葉を遮る。
「今から追加要求は無し。」
「違うわよ!ただ…、まあ、今はいいわ。明日、明後日で三人のところへ行くわよ。」
アレーナは、今日は解散と言って去っていった。
何ともけったいな女だな、と思った。尤も、面倒に巻き込まれない旅など、豆腐の入っていない味噌汁と一緒。20年前の自分ならイライラしていただろうが、現在の私にとっては今のところちょっとしたスパイスでしかない。
一人になったので、大図書館に向かう。ここに居る間に詰め込めるだけこちらの知識を詰め込む予定だ。ただ、期待したほどは情報が無かった。世界地図にはベイルモンド砂漠周辺しか載っておらず、この世界に大陸が幾つあるのかも分からない。
情報の少なさに、思わず担当してくれた司書に疑問を呈すると、彼は苦笑して呟いた。
「この大図書館も、昔は世界の英知が集まる場所だったんですけどね。現代の世界の中心は海の向こうだ。」
彼の悔しそうな表情に何故か申し訳なくなって、それ以上質問はせず、引き続き情報収集に努めた。
********
アレーナが5歳の時、父から「戦盤」というボードゲームを与えられた。父ムカルゼルには、娘が人の上に立って指揮する者になるように、という意図があったようだが、その時のアレーナには分からなかった。
「戦盤」は15の駒を操って、相手の駒を全て奪った方が勝ち。ルールは複雑で、結局アレーナには「戦盤」をまともに遊ぶことは出来なかった。だが、覚えたこともある。人を駒として見ることだ。世の中には、使える駒と使えない駒がある。そしてプレーヤーは自分だけ。そう思った。
14歳のとき、漸く自分が世界の中心ではないことに気づいた。周りの人間が自分に従うのは、自分がこの町の右大臣の娘だから。彼らは権威に頭を下げているのであり、自分に敬意を抱いている訳ではない。本当の意味で親しい人間が1人も居ない。
しかし、気づいたところで今更自分の尊大な性格が直るとは思えなかったし、直す気も無かった。今のあたしのまま、人の上に立ってやる。そう思った。
それから4年が経ち、更に別の事実に気づいた。父には「尊大さ」の他に、「賢さ」や人心を掌握する力がある。だが、自分が引き継いだのは最初の一つだけだったようだ。他は兄達が先に持っていってしまったのだろう。でも、代わりにあたしには土魔法の才がある。これを武器に父や兄とは違う方法で成り上がる。そう思った。
父の口添えで、砂漠の大魔法使いナッサル様の弟子になることが出来た。それ自体は喜ばしい出来事だが、ナッサル様の大勢の弟子の中で、自分は凡庸な魔法の才しか持っていないという事実も一緒についてきた。しかも、ナッサル様の元で弟子たちがやることといったら、地味な遺跡発掘や魔法研究ばかり。そいういものに必要な繊細さなど、あたしには無い。
研究などより討伐者として魔物を倒すほうがまだ楽しかった。ただ、魔物をいくら倒しても人の上には立てない。どうしていいか分からないまま、ズルズルと時間は過ぎる。
父の向ける諦観の視線に慣れた頃、兄から嫌な話を聞いた。父があたしを誰かに嫁がせることを考えているというのだ。毎日、男に頭を下げて暮らす?母のように?冗談じゃない。どうやって回避する?
何か成果を出さないと。家庭に収めるには勿体無い女だと知らしめないといけない。誰にでも分かりやすいはっきりとした成果…、発掘だ。遺跡発掘で大きな発見をするのが手っ取り早い。ナッサル様の他の弟子と協力しては、手柄を奪われる可能性がある。他の駒が必要ね。
悩むアレーナの前に現れたのは、ちょっと抜けた顔をした異国の魔法使い。常識は欠如しているが才能は本物だ。使える。派閥に入れて、遺跡発掘を手伝わせるのだ。
あたしは、平伏しない。必ず平伏させる側に立ってみせる。
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