よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
89 / 109
2.4 正体不明

しおりを挟む
「おろかな人間よ……これで世界は終わりだ」
 背中をのけぞらせながらも、悪魔は僕が思っていたよりも優しい声で僕につぶやいた。
「どういう意味だ」
 僕が刺した女性からは確かに尋常ならざるほどの魔力反応が感じられるため、彼女こそが悪魔ベルゼブブで間違いないはずだ。魔力により巨大化した体、人間を焼き滅ぼすほどの魔法など悪魔の力なしではありえないからこそ、僕はそう確信したはずだ。
 だが、どうしても黒いフードの淵から見えた彼女の優しい顔つきからは、悪魔という邪悪なものを連想することはできそうにもない。それどころか、彼女こそが普通の善良たる人間にほかならないのでないのかと錯覚するほどだ。これほどまでに自分の感覚を否定したいと思ったことはないだろう。あれほどまでに大きく感じた背中は今では黒いマントすら血で染まり小さなものへと変容する。
 しかし、例え彼女が善人であろうが世界を支配などさせるわけにはいかない。
「いいや、愚かなのは私だったのかもしれないな……お前たちのようにこんな世界はなかったことにするべきだったのだろう」
「待てっ! どういう意味だ!?」
「仲間から聞いているのだろう……私達のことを? 私達が何をしたのか、何をしようとしていたのか。いい人間と悪い人間を区別しようとしていた…………区別なんて出来るはずもないのに……それでこの世界が守れると思っていた。いいえ、思い込んでいた。例え世界を滅ぼすことだとしても守りたいものがあっただけなのに」
「……おい!」
 彼女は自分勝手中事だけ述べてそのまま地面に崩れ落ちた。僕は首の頸動脈に指を当てたがすでに脈は止まっている。彼女口からは呼吸すら消え失せ、背中からはおびただしい量の血が流れ堕ちた後があるが、それすら今では服についた血のみで止まっている。

「事切れましたか……」

 静まり返った空気を緩和するためか、誰も口にできなかった言葉をルナは口にした。
「説明してくれないか……?」
 僕はできるだけ冷静さを保ちながら聞いたつもりだが、おそらく声が震えていたのだろう。二人の気の使いようが今までの比ではない。
「ここに来る前も言ったけど、ベルゼブブとサタンは自分たちに従う善人だけの世界を作ろうとしたんや……それこそが正しいと思ってな。だからこそ人間に対しては対処したけど、世界に対してはなにもせんかった」
「だけど、それは違います。善人だけを救うことは出来ません。そもそもわるいことしている人が全て悪人というわけでもありませんし、誰も死にたくはないのです。どれほどの悪人であったとしても善人のふりをして生きながらえることでしょう……」
 ルナは息絶えた女性に対して十字を切る。相手は悪魔であり、自分自身も悪魔を宿す人間であることなど忘れているのか、真剣に神に祈っているようだ。
「なにより、この世界はもうおしまいなのです。彼女たちは魔法を使いすぎた……こんなことにならなければ彼女達を殺す必要など……なかったのです」
「一体この世界で何があったの?」
「元素がつきかけてるんや、ルシファーの出現によってな……ルシファー……つまりはここに居ない人物によって引き起こされた大災害によってな……ルシファーから溢れた膨大な魔力によってあらゆる元素が変換されたことによって元素が魔法に変化して、その結果、元素が減ってしまった」
 未来に来てからというもの何度も聞かされた長い説明に、僕は煩わしさすら感じさせられた。なにより、僕が殺してしまった彼女が本当に独裁や大量虐殺などしたとはまるで思えなかった。
 堺とルナの説明では僕の心は納得しないだろう。

「だったら――」
「悪いのはルシファーっていいたいんやろうけど、そんな悪魔はもうこの世には存在してない。この世界で生まれた唯一の悪魔はこの世界である意味死んでしまった唯一の悪魔ってことや。」
 僕の言葉を遮って堺が言った。その後も僕が自分の意見を言うために口を開くが、堺がそれをさせない。
「それに言ったやろう……ベルゼブブとサタンは大量虐殺をしたって、たとえどんな悪人であろうが人を大量に殺したことには変わりない。それだけは勘違いはするなよ」
 堺は自分が隠していたこと、まだわからないこと、アスタロトという僕たちに協力している悪魔、ルシファーと呼ばれる悪魔……まだまだ、三人の口から聞かされていないこと、きっとこれからも聞かされることがないだろうこと、それぞれいろんなことが頭の中を巡ったあと、結局僕は彼らに対してなにか質問することが出来なかった。

「悪いですが説明している時間はありません……ルシファーを止めないと!」
 突然、ルナは部屋の奥になるなにかの機械に向かって走り出す。――だがちょっと待て。
「ルシファーは死んだはずじゃ!?」
「誰もそんなこと言ってません、いいえ……正確に言えば体は死んでない。でもそれどころやないんで、ちょっと待っとって下さい」
 結局僕の問に対する答えが誰かに答えられることなどなく、出来ることも何もなかった。
「お前に負担ばっか掛けて悪いし説明してる暇もないけど、彼女は今のお前にしか倒されへんかった。人を殺すことを押し付けたことは本当に申し訳ないとはおもとる。でも罪悪感は感じないし、許してほしいとも思わん」
 堺はそれだけ言い残し、ルナのもとに駆け寄っていったと思えば、何かを話し合い僕たちが転送されてきたこの部屋から急いで出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...