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2.4 正体不明
死
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「おろかな人間よ……これで世界は終わりだ」
背中をのけぞらせながらも、悪魔は僕が思っていたよりも優しい声で僕につぶやいた。
「どういう意味だ」
僕が刺した女性からは確かに尋常ならざるほどの魔力反応が感じられるため、彼女こそが悪魔ベルゼブブで間違いないはずだ。魔力により巨大化した体、人間を焼き滅ぼすほどの魔法など悪魔の力なしではありえないからこそ、僕はそう確信したはずだ。
だが、どうしても黒いフードの淵から見えた彼女の優しい顔つきからは、悪魔という邪悪なものを連想することはできそうにもない。それどころか、彼女こそが普通の善良たる人間にほかならないのでないのかと錯覚するほどだ。これほどまでに自分の感覚を否定したいと思ったことはないだろう。あれほどまでに大きく感じた背中は今では黒いマントすら血で染まり小さなものへと変容する。
しかし、例え彼女が善人であろうが世界を支配などさせるわけにはいかない。
「いいや、愚かなのは私だったのかもしれないな……お前たちのようにこんな世界はなかったことにするべきだったのだろう」
「待てっ! どういう意味だ!?」
「仲間から聞いているのだろう……私達のことを? 私達が何をしたのか、何をしようとしていたのか。いい人間と悪い人間を区別しようとしていた…………区別なんて出来るはずもないのに……それでこの世界が守れると思っていた。いいえ、思い込んでいた。例え世界を滅ぼすことだとしても守りたいものがあっただけなのに」
「……おい!」
彼女は自分勝手中事だけ述べてそのまま地面に崩れ落ちた。僕は首の頸動脈に指を当てたがすでに脈は止まっている。彼女口からは呼吸すら消え失せ、背中からはおびただしい量の血が流れ堕ちた後があるが、それすら今では服についた血のみで止まっている。
「事切れましたか……」
静まり返った空気を緩和するためか、誰も口にできなかった言葉をルナは口にした。
「説明してくれないか……?」
僕はできるだけ冷静さを保ちながら聞いたつもりだが、おそらく声が震えていたのだろう。二人の気の使いようが今までの比ではない。
「ここに来る前も言ったけど、ベルゼブブとサタンは自分たちに従う善人だけの世界を作ろうとしたんや……それこそが正しいと思ってな。だからこそ人間に対しては対処したけど、世界に対してはなにもせんかった」
「だけど、それは違います。善人だけを救うことは出来ません。そもそもわるいことしている人が全て悪人というわけでもありませんし、誰も死にたくはないのです。どれほどの悪人であったとしても善人のふりをして生きながらえることでしょう……」
ルナは息絶えた女性に対して十字を切る。相手は悪魔であり、自分自身も悪魔を宿す人間であることなど忘れているのか、真剣に神に祈っているようだ。
「なにより、この世界はもうおしまいなのです。彼女たちは魔法を使いすぎた……こんなことにならなければ彼女達を殺す必要など……なかったのです」
「一体この世界で何があったの?」
「元素がつきかけてるんや、ルシファーの出現によってな……ルシファー……つまりはここに居ない人物によって引き起こされた大災害によってな……ルシファーから溢れた膨大な魔力によってあらゆる元素が変換されたことによって元素が魔法に変化して、その結果、元素が減ってしまった」
未来に来てからというもの何度も聞かされた長い説明に、僕は煩わしさすら感じさせられた。なにより、僕が殺してしまった彼女が本当に独裁や大量虐殺などしたとはまるで思えなかった。
堺とルナの説明では僕の心は納得しないだろう。
「だったら――」
「悪いのはルシファーっていいたいんやろうけど、そんな悪魔はもうこの世には存在してない。この世界で生まれた唯一の悪魔はこの世界である意味死んでしまった唯一の悪魔ってことや。」
僕の言葉を遮って堺が言った。その後も僕が自分の意見を言うために口を開くが、堺がそれをさせない。
「それに言ったやろう……ベルゼブブとサタンは大量虐殺をしたって、たとえどんな悪人であろうが人を大量に殺したことには変わりない。それだけは勘違いはするなよ」
堺は自分が隠していたこと、まだわからないこと、アスタロトという僕たちに協力している悪魔、ルシファーと呼ばれる悪魔……まだまだ、三人の口から聞かされていないこと、きっとこれからも聞かされることがないだろうこと、それぞれいろんなことが頭の中を巡ったあと、結局僕は彼らに対してなにか質問することが出来なかった。
「悪いですが説明している時間はありません……ルシファーを止めないと!」
突然、ルナは部屋の奥になるなにかの機械に向かって走り出す。――だがちょっと待て。
「ルシファーは死んだはずじゃ!?」
「誰もそんなこと言ってません、いいえ……正確に言えば体は死んでない。でもそれどころやないんで、ちょっと待っとって下さい」
結局僕の問に対する答えが誰かに答えられることなどなく、出来ることも何もなかった。
「お前に負担ばっか掛けて悪いし説明してる暇もないけど、彼女は今のお前にしか倒されへんかった。人を殺すことを押し付けたことは本当に申し訳ないとはおもとる。でも罪悪感は感じないし、許してほしいとも思わん」
堺はそれだけ言い残し、ルナのもとに駆け寄っていったと思えば、何かを話し合い僕たちが転送されてきたこの部屋から急いで出ていった。
背中をのけぞらせながらも、悪魔は僕が思っていたよりも優しい声で僕につぶやいた。
「どういう意味だ」
僕が刺した女性からは確かに尋常ならざるほどの魔力反応が感じられるため、彼女こそが悪魔ベルゼブブで間違いないはずだ。魔力により巨大化した体、人間を焼き滅ぼすほどの魔法など悪魔の力なしではありえないからこそ、僕はそう確信したはずだ。
だが、どうしても黒いフードの淵から見えた彼女の優しい顔つきからは、悪魔という邪悪なものを連想することはできそうにもない。それどころか、彼女こそが普通の善良たる人間にほかならないのでないのかと錯覚するほどだ。これほどまでに自分の感覚を否定したいと思ったことはないだろう。あれほどまでに大きく感じた背中は今では黒いマントすら血で染まり小さなものへと変容する。
しかし、例え彼女が善人であろうが世界を支配などさせるわけにはいかない。
「いいや、愚かなのは私だったのかもしれないな……お前たちのようにこんな世界はなかったことにするべきだったのだろう」
「待てっ! どういう意味だ!?」
「仲間から聞いているのだろう……私達のことを? 私達が何をしたのか、何をしようとしていたのか。いい人間と悪い人間を区別しようとしていた…………区別なんて出来るはずもないのに……それでこの世界が守れると思っていた。いいえ、思い込んでいた。例え世界を滅ぼすことだとしても守りたいものがあっただけなのに」
「……おい!」
彼女は自分勝手中事だけ述べてそのまま地面に崩れ落ちた。僕は首の頸動脈に指を当てたがすでに脈は止まっている。彼女口からは呼吸すら消え失せ、背中からはおびただしい量の血が流れ堕ちた後があるが、それすら今では服についた血のみで止まっている。
「事切れましたか……」
静まり返った空気を緩和するためか、誰も口にできなかった言葉をルナは口にした。
「説明してくれないか……?」
僕はできるだけ冷静さを保ちながら聞いたつもりだが、おそらく声が震えていたのだろう。二人の気の使いようが今までの比ではない。
「ここに来る前も言ったけど、ベルゼブブとサタンは自分たちに従う善人だけの世界を作ろうとしたんや……それこそが正しいと思ってな。だからこそ人間に対しては対処したけど、世界に対してはなにもせんかった」
「だけど、それは違います。善人だけを救うことは出来ません。そもそもわるいことしている人が全て悪人というわけでもありませんし、誰も死にたくはないのです。どれほどの悪人であったとしても善人のふりをして生きながらえることでしょう……」
ルナは息絶えた女性に対して十字を切る。相手は悪魔であり、自分自身も悪魔を宿す人間であることなど忘れているのか、真剣に神に祈っているようだ。
「なにより、この世界はもうおしまいなのです。彼女たちは魔法を使いすぎた……こんなことにならなければ彼女達を殺す必要など……なかったのです」
「一体この世界で何があったの?」
「元素がつきかけてるんや、ルシファーの出現によってな……ルシファー……つまりはここに居ない人物によって引き起こされた大災害によってな……ルシファーから溢れた膨大な魔力によってあらゆる元素が変換されたことによって元素が魔法に変化して、その結果、元素が減ってしまった」
未来に来てからというもの何度も聞かされた長い説明に、僕は煩わしさすら感じさせられた。なにより、僕が殺してしまった彼女が本当に独裁や大量虐殺などしたとはまるで思えなかった。
堺とルナの説明では僕の心は納得しないだろう。
「だったら――」
「悪いのはルシファーっていいたいんやろうけど、そんな悪魔はもうこの世には存在してない。この世界で生まれた唯一の悪魔はこの世界である意味死んでしまった唯一の悪魔ってことや。」
僕の言葉を遮って堺が言った。その後も僕が自分の意見を言うために口を開くが、堺がそれをさせない。
「それに言ったやろう……ベルゼブブとサタンは大量虐殺をしたって、たとえどんな悪人であろうが人を大量に殺したことには変わりない。それだけは勘違いはするなよ」
堺は自分が隠していたこと、まだわからないこと、アスタロトという僕たちに協力している悪魔、ルシファーと呼ばれる悪魔……まだまだ、三人の口から聞かされていないこと、きっとこれからも聞かされることがないだろうこと、それぞれいろんなことが頭の中を巡ったあと、結局僕は彼らに対してなにか質問することが出来なかった。
「悪いですが説明している時間はありません……ルシファーを止めないと!」
突然、ルナは部屋の奥になるなにかの機械に向かって走り出す。――だがちょっと待て。
「ルシファーは死んだはずじゃ!?」
「誰もそんなこと言ってません、いいえ……正確に言えば体は死んでない。でもそれどころやないんで、ちょっと待っとって下さい」
結局僕の問に対する答えが誰かに答えられることなどなく、出来ることも何もなかった。
「お前に負担ばっか掛けて悪いし説明してる暇もないけど、彼女は今のお前にしか倒されへんかった。人を殺すことを押し付けたことは本当に申し訳ないとはおもとる。でも罪悪感は感じないし、許してほしいとも思わん」
堺はそれだけ言い残し、ルナのもとに駆け寄っていったと思えば、何かを話し合い僕たちが転送されてきたこの部屋から急いで出ていった。
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