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2.4 正体不明
意味の無い未来旅行
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「おい」
僕は地べたに座り込むとともに、部屋から出ていった二人に聞こえないぐらいに小さな声で呼びかけた。それはずっと黙り込んでいたおしゃべりな悪魔に対して、元の時代に戻る前に聞いておきたいことがあったからだろう。実際のところ、自分でもよくわらから無い。
「なんだ? おいてけぼりをくらったみたいで寂しくなったのか?」
相も変わらず自分の近くから聞こえてくる声は、まるで自分が無意識に話しているようで気持ちが悪い感覚にとらわれるが、今悪魔が返事をくれたのはチャンスかも知れない。
「おいてけぼり過ぎて何が寂しいのかすら理解できないよ」
「そういうことか……だが、俺からお前に教えてやれることはあまりないぞ」
悪魔はいつにもなくめんどくさそうに言った。実際のところかなり面倒くさい話なのだろう、それは僕にもよくわかった。
「意外だな……どうせお前も答えてくれないんだろうと思ってたよ」
あまり長い話にはならないだろうが、一応僕は体制を崩し悪魔の話に聞き入る準備をした。
「それで何が聞きたいんだ?」
「どうして僕がベルゼブブを殺さなくちゃいけなかったんだ?」
僕の問に悪魔は「そんなことか……」とため息をつきながら話し始める。
「お前にしか殺せないからだ。とだけ言っておこうか、どうせお前の頭じゃ理解出来ないだろうし」
「どうしてだ?」
「お前の頭じゃ理解出来ないと言っただろう。理解できないことを教えても時間の無駄だろう? それにその話は本当に重要なことなのか? もっと重要な、最後に聞いておかなければならないことがあるだろう」
「いや、僕がお前に聞きたいのはどれもくだらないことばかりだ」
「だったら最もくだらないことだけ聞いて、全てどうでも良いって気持ちで帰ればいいだろう? どうせこの未来のことなんて忘れちまうんだから……何もかも意味なんかないんだよ、お前がこの未来に来た意味だって、大事なことを忘れてしまったことだって、彼奴等が嘘をついたことだって、これからお前がどうなるかなんて、この世界が滅びてしまうことですら、全部どうでも良いだろう? もうなくなるんだから」
「そうだな、悪魔が言ったことを全て覚えているわけじゃないが、どうせそれも全部忘れるんだろう? だったら、最後にお前の話を聞かせてくれないか? お前とはほとんど一蓮托生なのに何も知らない」
そんな僕の小さな願いもどうせ聞き入れてくれないだろう、僕が知っている悪魔は、今までもこれからも自分のことを話してくれるようなおしゃべりじゃない。他人のことでしかおしゃべり出来ない性根まで悪魔みたいなやつだ。――だから、きっと今回も茶化されるだろう。
僕の脳裏に走ったのはそんなデジャブにも似たような感覚だ。僕は一度たりとも悪魔の過去についてなんて聞いたことがないだろう、今回始めて聞いたはずだ。だがどうしてか、また教えてくれない気がする。
そんな僕の心情を知ってか、悪魔は先程よりも深く、そしてどこか嬉しげに強く息を吐き出した。
「――俺は人間だった。どんなやつだったかはとうの昔に忘れちまったけどな…………ただ覚えていることは、力がなくて誰も守れなかったということだけだ。あいつらが守ろうとした国を守れず、ただ型にはまったようなそんな人生だったと思う。俺が悪魔になったのは俺を型にはめたやつと、そんなやつを生み出したやつを消滅させるためだ。だからこそ言える……恨みや憎しみで人間は簡単に悪魔になれちまうし、簡単に世界を滅ぼすことだって出来る。特に馬鹿はそれを他人の為にやってしまうから救えない……そんな馬鹿だからこそ運命も、世界も、友さえも全てを失うことになる」
あまりにも予想外の出来事に僕はあっけらかんとしているのだろう。次にこの悪魔に対してどのような言葉を掛けて良いのかすら分からない。
「……そうか」
「だから、悪魔になることなんて意味がない……例え、世界の全てが敵に回ったとしても、お前は俺以外の悪魔に利用されず、反対に利用してやらなくてはいけない。そうでなければ俺の宿主としては不合格だ。俺から言ってやれることはこれぐらいだが、まあ馬鹿にはこれぐらいしか言ってやる必要もないだろう」
悪魔は話したいことを全て話したというように少しの時間沈黙をおいた。僕は、その説教じみた悪魔の言葉からは言いたいことが伝わってこなかったが、少しだけ悪魔のことがわかったような気がした。
僕にとって僕の中の悪魔は単なる敵ではなかったようだ。――言うなれば『一番頼りになる敵』だった。
「もうそろそろだ……」
少しだけ暗い気持ちが晴れた僕をほったらかして、悪魔がつぶやく。
「何がだ?」
突然破られた余韻に思わず問い返した。おそらく悪魔が言った言葉は僕に対して言った物ではなかったような気がしてならない。
だからこそかえって気になる言葉ではある。
「残念だが、ここでお別れってことだ。お前の役目はここで終わり、後数分もしないうちに目がさめる。ここで味わった苦しみは癒え、得難い経験も全て失われるだろう。だけど、それも一興だろう?」
「全然おもしろくない……これで今のお前ともお別れかと思うと清々するけどな」
一呼吸おいて、僕らしかなぬ大声を出す。
「それじゃあな!!」
結局、僕の目の前まで帰って来ることがなかった二人にも聞こえるように、出来る限り酸素を大きく吸って、出来るだけ空気を大きく振るわせようと努力した。
二人の耳に届いたかは分からないし、最後まで自分がこの時代に何しに来たのかも分からないが、それでも僕がこの世界に来てから失ったものに出会えてよかった。
僕は地べたに座り込むとともに、部屋から出ていった二人に聞こえないぐらいに小さな声で呼びかけた。それはずっと黙り込んでいたおしゃべりな悪魔に対して、元の時代に戻る前に聞いておきたいことがあったからだろう。実際のところ、自分でもよくわらから無い。
「なんだ? おいてけぼりをくらったみたいで寂しくなったのか?」
相も変わらず自分の近くから聞こえてくる声は、まるで自分が無意識に話しているようで気持ちが悪い感覚にとらわれるが、今悪魔が返事をくれたのはチャンスかも知れない。
「おいてけぼり過ぎて何が寂しいのかすら理解できないよ」
「そういうことか……だが、俺からお前に教えてやれることはあまりないぞ」
悪魔はいつにもなくめんどくさそうに言った。実際のところかなり面倒くさい話なのだろう、それは僕にもよくわかった。
「意外だな……どうせお前も答えてくれないんだろうと思ってたよ」
あまり長い話にはならないだろうが、一応僕は体制を崩し悪魔の話に聞き入る準備をした。
「それで何が聞きたいんだ?」
「どうして僕がベルゼブブを殺さなくちゃいけなかったんだ?」
僕の問に悪魔は「そんなことか……」とため息をつきながら話し始める。
「お前にしか殺せないからだ。とだけ言っておこうか、どうせお前の頭じゃ理解出来ないだろうし」
「どうしてだ?」
「お前の頭じゃ理解出来ないと言っただろう。理解できないことを教えても時間の無駄だろう? それにその話は本当に重要なことなのか? もっと重要な、最後に聞いておかなければならないことがあるだろう」
「いや、僕がお前に聞きたいのはどれもくだらないことばかりだ」
「だったら最もくだらないことだけ聞いて、全てどうでも良いって気持ちで帰ればいいだろう? どうせこの未来のことなんて忘れちまうんだから……何もかも意味なんかないんだよ、お前がこの未来に来た意味だって、大事なことを忘れてしまったことだって、彼奴等が嘘をついたことだって、これからお前がどうなるかなんて、この世界が滅びてしまうことですら、全部どうでも良いだろう? もうなくなるんだから」
「そうだな、悪魔が言ったことを全て覚えているわけじゃないが、どうせそれも全部忘れるんだろう? だったら、最後にお前の話を聞かせてくれないか? お前とはほとんど一蓮托生なのに何も知らない」
そんな僕の小さな願いもどうせ聞き入れてくれないだろう、僕が知っている悪魔は、今までもこれからも自分のことを話してくれるようなおしゃべりじゃない。他人のことでしかおしゃべり出来ない性根まで悪魔みたいなやつだ。――だから、きっと今回も茶化されるだろう。
僕の脳裏に走ったのはそんなデジャブにも似たような感覚だ。僕は一度たりとも悪魔の過去についてなんて聞いたことがないだろう、今回始めて聞いたはずだ。だがどうしてか、また教えてくれない気がする。
そんな僕の心情を知ってか、悪魔は先程よりも深く、そしてどこか嬉しげに強く息を吐き出した。
「――俺は人間だった。どんなやつだったかはとうの昔に忘れちまったけどな…………ただ覚えていることは、力がなくて誰も守れなかったということだけだ。あいつらが守ろうとした国を守れず、ただ型にはまったようなそんな人生だったと思う。俺が悪魔になったのは俺を型にはめたやつと、そんなやつを生み出したやつを消滅させるためだ。だからこそ言える……恨みや憎しみで人間は簡単に悪魔になれちまうし、簡単に世界を滅ぼすことだって出来る。特に馬鹿はそれを他人の為にやってしまうから救えない……そんな馬鹿だからこそ運命も、世界も、友さえも全てを失うことになる」
あまりにも予想外の出来事に僕はあっけらかんとしているのだろう。次にこの悪魔に対してどのような言葉を掛けて良いのかすら分からない。
「……そうか」
「だから、悪魔になることなんて意味がない……例え、世界の全てが敵に回ったとしても、お前は俺以外の悪魔に利用されず、反対に利用してやらなくてはいけない。そうでなければ俺の宿主としては不合格だ。俺から言ってやれることはこれぐらいだが、まあ馬鹿にはこれぐらいしか言ってやる必要もないだろう」
悪魔は話したいことを全て話したというように少しの時間沈黙をおいた。僕は、その説教じみた悪魔の言葉からは言いたいことが伝わってこなかったが、少しだけ悪魔のことがわかったような気がした。
僕にとって僕の中の悪魔は単なる敵ではなかったようだ。――言うなれば『一番頼りになる敵』だった。
「もうそろそろだ……」
少しだけ暗い気持ちが晴れた僕をほったらかして、悪魔がつぶやく。
「何がだ?」
突然破られた余韻に思わず問い返した。おそらく悪魔が言った言葉は僕に対して言った物ではなかったような気がしてならない。
だからこそかえって気になる言葉ではある。
「残念だが、ここでお別れってことだ。お前の役目はここで終わり、後数分もしないうちに目がさめる。ここで味わった苦しみは癒え、得難い経験も全て失われるだろう。だけど、それも一興だろう?」
「全然おもしろくない……これで今のお前ともお別れかと思うと清々するけどな」
一呼吸おいて、僕らしかなぬ大声を出す。
「それじゃあな!!」
結局、僕の目の前まで帰って来ることがなかった二人にも聞こえるように、出来る限り酸素を大きく吸って、出来るだけ空気を大きく振るわせようと努力した。
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