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2.4 正体不明
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「無事に戻れたかな?」
頭から血を流しながら、友の安否を気遣ったのは、自らも自分の中に居た悪魔をおさえきれなかった男である堺だ。
「この世界の魔力が減ったってことはそういうことでしょう」
血まみれの堺を起き上がらせる為にほとんど傷をおっていないルナが手を差し伸べる。しかし、自分は大丈夫やからと、堺は差し出された手を柔らかく押しのけた。
「どうせ、もう悲しむことも苦しむこともなくなるんやから、最後に喜びを噛み締めさしてくれ」
そう言った堺の足元には、背中から白い羽の生えた異様な人間が転がっている。うつ伏せになっている為、その素顔を見ることは出来ないが、ところどころ赤く染まった純白の絹であしらったであろう高貴な服からは、点より舞い降りた天使を彷彿とさせる。
しかし、おそらくその天使の血であろう赤い液体が死を告げているようにも見え、堺の柄の悪さからも相まって天使が悪魔に敗北したという図に見えなくもない。
「最後じゃないですよ……例え原子が減り、不安定になった世界にも僅かな希望は有るでしょう? この私がいるんだから」
最後ではないとは口にしているが、彼女の表情を見るにあまり状況が芳しくはないという事は容易に読み取れるだろう。それは同じように状況を理解している堺にしてみれば火を見るより明らかであり、火のないところに煙はたたないという言葉がよく分かる気がした。
本当に絶望的な状況下であるから、堺にとってルナが絶望しているにも関わらず明るく振る舞っているように見えても仕方のないことだ。
「サルガタナス……まさかあんたが協力してくれると思わんかったわ」
堺はそんなことを考えてしまう自分にさえ失望を隠せず、苦し紛れに意外でもない、言わば当たり前だとわかっていることをあえて疑問として彼女にぶつけた。それは自分の不安を払拭したかったということも有るが、最後であるからこそ答え合わせをしておきたかったということもある。
「イグニスさんにはお世話になりましたから、今の私には関係ないとはいえど助けないわけにはいきませんから。それにしても私はルナさんとはまるで容姿が違うのによく気が付かれませんでしたね?」
彼女から聞きたかった答えが帰ってくるとともに、堺の気持ちはほんのちょっとだけいつもと同じように無に近づいた。しかし、最後まで淡々と話しをすることが嫌だったのだろうか、いつも親友達と話していた時と同じ気持ちで仕事相手としての仲間であったサルガタナスを茶化す。
「そりゃあんたがその記憶すら消してしまったから……って言ってもしゃあないか。それより、最後の仕事をしたあいつの記憶はちゃんと消してくれたんやろう?」
「いいえ、過去に戻ることは万能じゃないんです。私が記憶を消す必要などなく、記憶というデータを持っていくことは出来ません。持っていけるのは本当に小さい魂ぐらいのものです。もっとも全ての時代の記憶をしることが出来る悪魔なら別ですが」
サルガタナスはいつもと同じように、仕事相手のチャラい男をいなすようにいつまでも敬語で話し続けた。それは堺が自分にとってただの仕事相手だと思っていたからではない。ただ、自分が仲間だと思ってきた相手をアスタロト意外にしらず、最後の最後に本当の意味で仲間となったであろう対等な相手にどう接して良いのかわからなかったからだ。
彼女にとっては、自分を助けてくれたイグニスですら対等な相手としては見られなかったのだ。
「……まあええか、とにかく次はこんなことにならんとええけどな? まああんたがルナの記憶すら消してしもたからそんな心配する必要もないと思うけど」
主を失い、魔法や生命の源である原子すら失われた世界は次第に不安定さを増していく。視界が大きく歪んだり、青や白の光が堺たちの視界の隅で何度も閃光を放ったような気がした。
だからといって、それを気にしている余裕もない。最後が近い世界を救わなければならないからだ。そのために出来うる限りのことを生き残った仲間たちが準備をアジトでしている。自分たちも準備を手伝うために今いる部屋から出て、自分たちがこちらに侵入してきた部屋へと戻らなければならない。
話しながらも堺はサルガタナスの肩を借りながら、ゆっくりと扉の方へ歩いていく。
「それは違います、あの人はきっと心のそこでは覚えていますよ」
「そうやとええが、あいつは忘れたなかなか思い出さへんで……」
堺は自分が久々にあった遠い昔のことを思い出しながら微笑した。サルガタナスにとってその笑みがどういう意図なのか分からないが、彼がイグニスの幼馴染だったという話を思い出してピンときた。
「それはご自身の経験からですか?」
「まあな」
自身の予想があたり、堺につられてサルガタナスも小さく笑う。
今にも気を失いそうな堺が出来るだけ意識を失わないように、彼女はない話題を脳髄からひねり出し、有意義だと思ったものを口にした。
「にしてもどうしてアモンさんはあんなに嘘ばかりついたのでしょう」
「過去から来たってやつか?」
「それもですが、この時代のことも」
「俺らもそうやろ……あいつにはいっぱい嘘ついたわ」
自嘲気味にそういった堺の顔からは微塵も後悔など感じられない。それどころか、これで良かったのだと言わんばかりに満面の笑みすら浮かべている。
そんな彼の表情を若干気持ち悪く感じたのか、サルガタナスは引きつった顔を隠すことも出来ず、彼に肩を貸した状況であることに胸をなでおろした。今なら彼が自分の顔をみる事はできないからだ。
「まあ仕方の無いことだと思いますけど……やっぱりいい気持ちにはなれませんね。これで本当に世界が……彼が救われなえれば全部無意味ですからね」
長い廊下を戻りながら、おそらく宿主を失った悪魔がいるであろうはずの部屋のドアを急いで開けた。
頭から血を流しながら、友の安否を気遣ったのは、自らも自分の中に居た悪魔をおさえきれなかった男である堺だ。
「この世界の魔力が減ったってことはそういうことでしょう」
血まみれの堺を起き上がらせる為にほとんど傷をおっていないルナが手を差し伸べる。しかし、自分は大丈夫やからと、堺は差し出された手を柔らかく押しのけた。
「どうせ、もう悲しむことも苦しむこともなくなるんやから、最後に喜びを噛み締めさしてくれ」
そう言った堺の足元には、背中から白い羽の生えた異様な人間が転がっている。うつ伏せになっている為、その素顔を見ることは出来ないが、ところどころ赤く染まった純白の絹であしらったであろう高貴な服からは、点より舞い降りた天使を彷彿とさせる。
しかし、おそらくその天使の血であろう赤い液体が死を告げているようにも見え、堺の柄の悪さからも相まって天使が悪魔に敗北したという図に見えなくもない。
「最後じゃないですよ……例え原子が減り、不安定になった世界にも僅かな希望は有るでしょう? この私がいるんだから」
最後ではないとは口にしているが、彼女の表情を見るにあまり状況が芳しくはないという事は容易に読み取れるだろう。それは同じように状況を理解している堺にしてみれば火を見るより明らかであり、火のないところに煙はたたないという言葉がよく分かる気がした。
本当に絶望的な状況下であるから、堺にとってルナが絶望しているにも関わらず明るく振る舞っているように見えても仕方のないことだ。
「サルガタナス……まさかあんたが協力してくれると思わんかったわ」
堺はそんなことを考えてしまう自分にさえ失望を隠せず、苦し紛れに意外でもない、言わば当たり前だとわかっていることをあえて疑問として彼女にぶつけた。それは自分の不安を払拭したかったということも有るが、最後であるからこそ答え合わせをしておきたかったということもある。
「イグニスさんにはお世話になりましたから、今の私には関係ないとはいえど助けないわけにはいきませんから。それにしても私はルナさんとはまるで容姿が違うのによく気が付かれませんでしたね?」
彼女から聞きたかった答えが帰ってくるとともに、堺の気持ちはほんのちょっとだけいつもと同じように無に近づいた。しかし、最後まで淡々と話しをすることが嫌だったのだろうか、いつも親友達と話していた時と同じ気持ちで仕事相手としての仲間であったサルガタナスを茶化す。
「そりゃあんたがその記憶すら消してしまったから……って言ってもしゃあないか。それより、最後の仕事をしたあいつの記憶はちゃんと消してくれたんやろう?」
「いいえ、過去に戻ることは万能じゃないんです。私が記憶を消す必要などなく、記憶というデータを持っていくことは出来ません。持っていけるのは本当に小さい魂ぐらいのものです。もっとも全ての時代の記憶をしることが出来る悪魔なら別ですが」
サルガタナスはいつもと同じように、仕事相手のチャラい男をいなすようにいつまでも敬語で話し続けた。それは堺が自分にとってただの仕事相手だと思っていたからではない。ただ、自分が仲間だと思ってきた相手をアスタロト意外にしらず、最後の最後に本当の意味で仲間となったであろう対等な相手にどう接して良いのかわからなかったからだ。
彼女にとっては、自分を助けてくれたイグニスですら対等な相手としては見られなかったのだ。
「……まあええか、とにかく次はこんなことにならんとええけどな? まああんたがルナの記憶すら消してしもたからそんな心配する必要もないと思うけど」
主を失い、魔法や生命の源である原子すら失われた世界は次第に不安定さを増していく。視界が大きく歪んだり、青や白の光が堺たちの視界の隅で何度も閃光を放ったような気がした。
だからといって、それを気にしている余裕もない。最後が近い世界を救わなければならないからだ。そのために出来うる限りのことを生き残った仲間たちが準備をアジトでしている。自分たちも準備を手伝うために今いる部屋から出て、自分たちがこちらに侵入してきた部屋へと戻らなければならない。
話しながらも堺はサルガタナスの肩を借りながら、ゆっくりと扉の方へ歩いていく。
「それは違います、あの人はきっと心のそこでは覚えていますよ」
「そうやとええが、あいつは忘れたなかなか思い出さへんで……」
堺は自分が久々にあった遠い昔のことを思い出しながら微笑した。サルガタナスにとってその笑みがどういう意図なのか分からないが、彼がイグニスの幼馴染だったという話を思い出してピンときた。
「それはご自身の経験からですか?」
「まあな」
自身の予想があたり、堺につられてサルガタナスも小さく笑う。
今にも気を失いそうな堺が出来るだけ意識を失わないように、彼女はない話題を脳髄からひねり出し、有意義だと思ったものを口にした。
「にしてもどうしてアモンさんはあんなに嘘ばかりついたのでしょう」
「過去から来たってやつか?」
「それもですが、この時代のことも」
「俺らもそうやろ……あいつにはいっぱい嘘ついたわ」
自嘲気味にそういった堺の顔からは微塵も後悔など感じられない。それどころか、これで良かったのだと言わんばかりに満面の笑みすら浮かべている。
そんな彼の表情を若干気持ち悪く感じたのか、サルガタナスは引きつった顔を隠すことも出来ず、彼に肩を貸した状況であることに胸をなでおろした。今なら彼が自分の顔をみる事はできないからだ。
「まあ仕方の無いことだと思いますけど……やっぱりいい気持ちにはなれませんね。これで本当に世界が……彼が救われなえれば全部無意味ですからね」
長い廊下を戻りながら、おそらく宿主を失った悪魔がいるであろうはずの部屋のドアを急いで開けた。
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