よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
91 / 109
2.4 正体不明

意味

しおりを挟む
「無事に戻れたかな?」
 頭から血を流しながら、友の安否を気遣ったのは、自らも自分の中に居た悪魔をおさえきれなかった男である堺だ。
「この世界の魔力が減ったってことはそういうことでしょう」
 血まみれの堺を起き上がらせる為にほとんど傷をおっていないルナが手を差し伸べる。しかし、自分は大丈夫やからと、堺は差し出された手を柔らかく押しのけた。
「どうせ、もう悲しむことも苦しむこともなくなるんやから、最後に喜びを噛み締めさしてくれ」
 そう言った堺の足元には、背中から白い羽の生えた異様な人間が転がっている。うつ伏せになっている為、その素顔を見ることは出来ないが、ところどころ赤く染まった純白の絹であしらったであろう高貴な服からは、点より舞い降りた天使を彷彿とさせる。
 しかし、おそらくその天使の血であろう赤い液体が死を告げているようにも見え、堺の柄の悪さからも相まって天使が悪魔に敗北したという図に見えなくもない。

「最後じゃないですよ……例え原子が減り、不安定になった世界にも僅かな希望は有るでしょう? この私がいるんだから」
 最後ではないとは口にしているが、彼女の表情を見るにあまり状況が芳しくはないという事は容易に読み取れるだろう。それは同じように状況を理解している堺にしてみれば火を見るより明らかであり、火のないところに煙はたたないという言葉がよく分かる気がした。
 本当に絶望的な状況下であるから、堺にとってルナが絶望しているにも関わらず明るく振る舞っているように見えても仕方のないことだ。
「サルガタナス……まさかあんたが協力してくれると思わんかったわ」
 堺はそんなことを考えてしまう自分にさえ失望を隠せず、苦し紛れに意外でもない、言わば当たり前だとわかっていることをあえて疑問として彼女にぶつけた。それは自分の不安を払拭したかったということも有るが、最後であるからこそ答え合わせをしておきたかったということもある。

「イグニスさんにはお世話になりましたから、今の私には関係ないとはいえど助けないわけにはいきませんから。それにしても私はルナさんとはまるで容姿が違うのによく気が付かれませんでしたね?」
 彼女から聞きたかった答えが帰ってくるとともに、堺の気持ちはほんのちょっとだけいつもと同じように無に近づいた。しかし、最後まで淡々と話しをすることが嫌だったのだろうか、いつも親友達と話していた時と同じ気持ちで仕事相手としての仲間であったサルガタナスを茶化す。
「そりゃあんたがその記憶すら消してしまったから……って言ってもしゃあないか。それより、最後の仕事をしたあいつの記憶はちゃんと消してくれたんやろう?」
「いいえ、過去に戻ることは万能じゃないんです。私が記憶を消す必要などなく、記憶というデータを持っていくことは出来ません。持っていけるのは本当に小さい魂ぐらいのものです。もっとも全ての時代の記憶をしることが出来る悪魔なら別ですが」
 サルガタナスはいつもと同じように、仕事相手のチャラい男をいなすようにいつまでも敬語で話し続けた。それは堺が自分にとってただの仕事相手だと思っていたからではない。ただ、自分が仲間だと思ってきた相手をアスタロト意外にしらず、最後の最後に本当の意味で仲間となったであろう対等な相手にどう接して良いのかわからなかったからだ。
 彼女にとっては、自分を助けてくれたイグニスですら対等な相手としては見られなかったのだ。

「……まあええか、とにかく次はこんなことにならんとええけどな? まああんたがルナの記憶すら消してしもたからそんな心配する必要もないと思うけど」

 主を失い、魔法や生命の源である原子すら失われた世界は次第に不安定さを増していく。視界が大きく歪んだり、青や白の光が堺たちの視界の隅で何度も閃光を放ったような気がした。
 だからといって、それを気にしている余裕もない。最後が近い世界を救わなければならないからだ。そのために出来うる限りのことを生き残った仲間たちが準備をアジトでしている。自分たちも準備を手伝うために今いる部屋から出て、自分たちがこちらに侵入してきた部屋へと戻らなければならない。
 話しながらも堺はサルガタナスの肩を借りながら、ゆっくりと扉の方へ歩いていく。
「それは違います、あの人はきっと心のそこでは覚えていますよ」
「そうやとええが、あいつは忘れたなかなか思い出さへんで……」
 堺は自分が久々にあった遠い昔のことを思い出しながら微笑した。サルガタナスにとってその笑みがどういう意図なのか分からないが、彼がイグニスの幼馴染だったという話を思い出してピンときた。
「それはご自身の経験からですか?」
「まあな」
 自身の予想があたり、堺につられてサルガタナスも小さく笑う。
 今にも気を失いそうな堺が出来るだけ意識を失わないように、彼女はない話題を脳髄からひねり出し、有意義だと思ったものを口にした。
「にしてもどうしてアモンさんはあんなに嘘ばかりついたのでしょう」
「過去から来たってやつか?」
「それもですが、この時代のことも」
「俺らもそうやろ……あいつにはいっぱい嘘ついたわ」
 自嘲気味にそういった堺の顔からは微塵も後悔など感じられない。それどころか、これで良かったのだと言わんばかりに満面の笑みすら浮かべている。
 そんな彼の表情を若干気持ち悪く感じたのか、サルガタナスは引きつった顔を隠すことも出来ず、彼に肩を貸した状況であることに胸をなでおろした。今なら彼が自分の顔をみる事はできないからだ。
「まあ仕方の無いことだと思いますけど……やっぱりいい気持ちにはなれませんね。これで本当に世界が……彼が救われなえれば全部無意味ですからね」
 長い廊下を戻りながら、おそらく宿主を失った悪魔がいるであろうはずの部屋のドアを急いで開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...