よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
104 / 109
3.3虚なる魔法

時間

しおりを挟む
「難しいことをしようとするなら補助はかえって邪魔になりかねないってこと! そんなこんなで魔法ってのは単純なようで奥深いのよ」
 ムトは当たり前のことを新しい発見であるかのように僕に言う。だが、そんなことは僕にだってわかっている。もし魔法が単純なものだったとするなら、僕がこれほどまでに思い悩まされることもなかっただろう。
 しかし、現実は厳しい。僕はそんな一見単純そうに見える魔法をほとんど使えない。
 僕は肩を大きく落とし、彼女に問いかける。

「まあそれはおいておこう……だけどだったらどうして僕はさっき魔法が使えたんだ?」

 これは僕が持つ中でも最大級の疑問だろう。先程の彼女の説明を聞いた上でなら何となく分かる。大まかに説明するのであれば、僕は言語という補助がある上で魔法を発動する才能がない、ということなのだろう。
 つまり、先程のように言語を使用した魔力発動は基本的に発動しないはず。
 頭の上にはてなを浮かべる彼女に、このことを説明するのに大分時間がかかってしまった。――彼女は確かに凄腕の魔法士なのだろうが、要領は良くないのかもしれない。
 だが僕の説明を聞いた上で、彼女は再びがっかりしたのだろう肩が数ミリ下がっている。

「そこから!?」

 そこまで驚かれたのには僕も驚いた。驚きが隠せなかった。

「悪いが、何も知らないと思ってもらったほうがいいぞ」
 僕は投げやりにそういう。
 彼女は僕の恥の暴露にも似た告白を聞いて、少しだけよろめいた。
「……まあ仕方ないか。ともかく、もう細かい話をしても仕方ないということはよくわかったわ」
「仕方なくはないだろう……」
「仕方ないわよ。あなたは座学に向いてないもの」
 そう言われてしまうと否定できないわけだが、それにしても言いようってものがあるだろう。僕にもプライドというものがあるわけで、少しだけ不満を感じたのは言うまでもない。
 そんなことをいくら僕が考えようとも、彼女と以心伝心しているわけでもなく、僕の本心が伝わるわけでもない。なんというか、憂鬱だ。

「そんな悲観することないわよ。座学が苦手な人間なんて掃いて捨てるほどいるし、それならそれでよかったといってもいい」
「何がよかったんだ?」
「真なる魔法は習うよりも慣れろよ」

 彼女は落ち込んだ僕を慰めるように、再び肩を二度たたいた。その動作にはきっと意味などないだろうが、彼女の癖みたいなものなのだろう。もうすでに何度かたたかれていることからもよくわかる。
 それにしてもおかしなものである。
「だったら、どうして魔法の説明に何の意味があったんだ?」
「意味のないことなんてしないわよ! 大体どのようなものかを知ってもらうことが重要なの」
 ニヒルもそんなことを言っていたような気もするけど、いや言ってたっけ?

「で、どうするんだ?」
 
 長々しくもわけのわからない話を聞かされた後に、実戦のほうが役に立つなんて言われてしまっては期待せざるを得ない。むしろ、期待するなという方が酷だろう。
 僕は口では冷静に尋ねながらも、内心はかなり期待していた。
 だからこそ、ムトが言葉を渋っているのがなぜなのか、気になって気になって仕方がない。彼女の実戦とはそれほどの地獄なのだろうか……ともかく、彼女の口だっていつまでも閉じているわけではない。だけど、彼女の口は思ったよりも早く開いた。
「なにを?」
 その言葉から察するに、彼女は言い辛いことを話せないのではなくて、何を尋ねられているのかが分かっていないということだ。
「いや、普通に『慣れろ』のことだけど」
「……はあ、あなたは本当にすごい才能の持ち主だな。そう易々と人に頼みごとができるとは……でも、修業とは劇とは違う。どんなにしょうもない日常だって飛ばすことはできないそれはわかるよね?」
 彼女のは何を言っているんだ? 日常? 何が言いたい?
「はあ……」
 僕が何も答えられずにいると、ムトは大きくため息をついた

「だからね……時間を考えろって言ってるの!」

 一瞬時が止まった。時間? まあ、彼女の言う時間といま止まった時はまるで別のものだということは僕でもわかる。まあ、時が止まるなんてことはありえないからな。
 つまり、彼女のいう時間というのは、そのまま一日における夜とか、朝とかそういったことを指しているのだろう。なるほど、もうあたりはわずかにだが暗くなっている。時間的に考えてもこれ以上ここにいるのはナンセンスだろう。
 誰だって死んでしまっては、それまでのことは無意味になるのだから。別に神がいないだとか言うつもりはないし、実際に自らを悪魔だという存在を知っている。なにより、僕は一度死んだ身であるから、死に意味を見出すことにおいては右に出る者も少ないだろう。
 でも、だからこそ、死に意味などないと感じてしまう。死とはすべてをリセットしてしまう出来事でしかないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...