よみがえりの一族

真白 悟

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3.3虚なる魔法

もう一人の苦悩

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「はあ……まずい、まずいで……」
 俺はいま非常に頭の痛い状況におちいっている。このままでは、自分が今まで立ててきた計画のほとんどが無意味になりかねないほどの状況だ。
「お前が目を離し続けたからだぞ」
「そんなん言ったかってしょうがないやん。普通に考えてあいつが接触するとは思わんやろ?」
 悪魔の冷徹な一声に、反省せざる負えない状況下なのだが、俺は少しだけ言い訳をした。
 だって、本当に彼女が今現れるなんて考えてもなかった。

「だから俺は最初から、こんな計画無駄だって言ったんだ。そもそも、俺はあいつに金髪の白人だといったんだぞ? お前も俺も、黒髪だ。あいつが落ち着いていればばれていた可能性だって十分ある」
「いやいや、それはサルガタナスの力を借りるってことでお前も同意したやろ」
  本当に悪魔ってやつは、どいつもこいつも愚痴ばかりこぼしやがる……これじゃあ悪魔なんて呼ばれるのもだとうだな。

「失礼なことを考えているな。お前……俺はこれでも警察官として、もう二十年もやってきたんだぞ。もはや、悪魔というよりは、正義の味方と呼んでもらった方がいいはずだ。あの後だって王として生きていくのは苦痛だったんだぞ?」
「宿主を見殺しにするからや。そんなことより、本当にまずいんやって」
「わかっている。あの悪魔が言った未来が本当になりかねんからな」
 未来を読むことができる悪魔が予言した未来、それは非常に残酷な未来だ。数千年生まれることのなかった悪魔が、誕生する世界。そして、世界は滅びる時代。到底そんなものは認められない。それが親友たちの手で行われるというのならなおさらだ。

 俺は出来るだけ監視している二人から見えないように、廃屋の陰に隠れている。先ほどのアスタロトによる魔法のおかげで、俺らは怪しまれることもなく隠れることができたが、最強の魔法士が相手ならそれも長くは続かないだろう。
 最強の名は伊達じゃないということだ。
 まあ、実際のところ、ムトにばれたところで問題はない。
 問題があるとするなら、本物のシリアルキラーに見つかってしまうということだろう。やつは魔力を持つものを見境なく襲う。俺もイグニスもただでは済まないはずだ。

「どうでもいいが、これ以上ここにとどまるのは危険だぞ……またベアなんかに襲われたら、今度こそただでは済まないだろうからな」
「わかっとる! ちょっと黙ってくれ」

 実際問題、悪魔の言うことは正しい、残念なことに、俺こと、堺は以前にベアに出会い、必死の思いで逃げることに成功したのだが、その代償として動くことができなくて、悪魔である火坂と裏表を交換していた。
 今は何とか体を治すことができたわけだが、次もうまくいくとは限らない。今度こそ殺されてしまうかもしれないという不安がもちろんある。
 だが、今はそんなことを考えている余裕がない。
「そんなに、イグニスのことが気になるのか?」
「当たり前や……今回死んだら、たぶん次はない。なんてったって未来では人類が滅びとるからな」

 笑えない冗談だが、そういうことだ。
 俺らはよみがえりの一族だなんだといわれているが、実のところその生態については誰もよく知らない。歴史が長すぎて俺たちの時代には記録すら残っていなかったからだ。まあ、そんなことは俺の知ったことではないが、ともかく、次はないのかもしれない。
 だからこそ、命を大切にというわけだ。

「命のあるものはいつか死ぬ。悪魔だって、神にだって例外はない」
「神や悪魔に命なんてあるんか?」
「さあな、でも永遠ほどつまらないものはないと思うがな」
 悪魔はいつになくシリアスな面持ちだ。面なんて見えるわけじゃないが、何となく感覚でわかる。
 だが、それよりもイグニスだ。
 そう思って、俺はイグニスがいた方向へと目を向ける。――しかし、もう誰もいない。時間が時間だから仕方ないだろう。普通に考えて、目を離した俺が悪い。
 俺はいったい何をやっているんだ。

「あんまりこの力は使いたくないけど……しゃあない、ベリアル教えろ――イグニスの居場所を」
「いいのか……代償は大きいぞ?」
 悪魔は俺に忠告する。それは悪魔にとってもよ使いたくない力だからだ。その力というのは非常に厄介なもので、魔力の代償に魂が使われる。魔力を失ってしまった俺にとってはおあつらえ向きだが、それでもできれば使いたくない。
 虚なる魔法というのはそれほどまでに胡散臭い。
 魔法の代償として魂を消費するからこそ、悪魔は悪魔と呼ばれるのかもしれない。神が作り出した真なる魔法とは大きく異なっている。
 しかし、決意というのは一度固めたら、どうしようもなく曲げがたいものだ。
 俺は迷うことなくうなずき、同意した。悪魔は何か言おうとしたが、あきらめたのだろう、魔法を発動させる。

「ベリアル!」

 魔法に呪文なんてない。ただ気合を入れるためだけに、悪魔の名前を呼ぶのが俺の作法だ。

「やれやれ、どうせなら、もう一つの方の魔法を使いたかったものだ。神がソドムとゴモラをやいた時のようにな……」
「人を堕落させる魔法のことか? お前の正義心はいったいどこに消えたんや……」

 どうせそんな魔法二度と使う気もない癖に、どうせもう二度と使えないんだけどな。
 そんなことより、イグニスを追いかけないといけない。距離的にそこまで遠いというわけでもないが、相手はシリアルキラーだ。このまま長時間ほっておいたら大変なことになるかもしれない。直接二人の前に出ることは出来なくとも、その行動を見守ることは出来るだろう。
 シリアルキラーが現れたらすぐにでも対処できるようにしておかなければならない。

「不憫だな……裏方というのは実に不憫だ。お前いつか過労死するぞ」
「もう半分しとる。でもお前ほどでもないやろう」

 何とか二人に追いついたところで、ちょうど聖域の中に入るようだ。ここから先は、ただでさえ弱っている魔法士を感知する能力が、さらに低くなる。悪魔憑きの弱いところだ。
 俺もイグニスぐらい魔力の感受性があれば、苦労することもなかっただろう。
 しかし、ない物ねだりは出来ないし、今からはイグニス達を見失うこともできない。また悪魔の魔法を使うなんてことは避けたいからだ。
「なんだ。もうわかれるのか……」
 イグニスも家に入ったし、これ以上心配する必要もないだろう。あとはムトの方を監視するだけだ。

「これじゃあ、まるでストーカーだな」
「しょうがないやろ……こうでもしないと、危ないんやから」
「でも問題なさそうだな。あの女も家に帰っていく」

 俺は物陰にかくれながら、ムトの後を追っていく。彼女は街の外れのちいさな民家に住んでいて、特に何か面白いことがあるわけでもない。
 彼女が家に入っていくの見送ったあと、俺は彼女家が見えるビルの屋上に陣取った。イグニスは夜家を出ることはほとんどない。可能性があるとするなら、こいつの方だ。
 俺は徹夜を覚悟しつつも、地面に座り込んだ。
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