よみがえりの一族

真白 悟

文字の大きさ
106 / 109
3.3虚なる魔法

もう一人の覚悟

しおりを挟む
 暫時の休息をと立ち上がり伸びでもしようかというタイミングで、監視していた家から出てくる人影が見えた。自分でも驚くぐらいの反応速度で、俺は再び元の場所にしゃがみ込む。
 あれから、あの女が家に入ってからかなり時間がたってはいたが、まだまだ街が起きるような時間じゃない。
 ほの暗くも、薄暗い、光というものが街頭ぐらいしかない、とまでは言えないものの、人通りはかなり少ないこんな時間に、出歩くのはかなり不用心だ。

「コンビニとかじゃないのか?」

 ベリアルが俺に問いかける。
 確かに、深夜にコンビニに行くというのはおかしなことではないが、そもそも、今となっては24時間開いているコンビニなどほとんどない。
 十年ほど前は街の至るところにあったが、悪魔が出現し始めてからは夜に出歩く人がほとんどいなくなったため、24時間やるメリットがなくなった。
 そんなことは、警察官として暮らしてきたベリアルの方が知っているはずだ。

「お前がそんな冗談言うとはな……」
「退屈なんだよ。男と二人というのはな」
「じゃあちょうどよかったやんけ。女の尻を追いかけるのはすきやろう?」

 悪魔の趣味嗜好ほどどうでもいいことはない。だが、そもそものところ、悪魔が人間の男だとか、女だとかを気にしているのかということは少しだけ気にはなる。
 まあ、どっちにしても家から出てきたあの女を追いかけるのは決まっていることだ。

「ああ、退屈だ。だが、お前に逆らってこの体を手に入れたとしても、大した意味がないということの方がつらい。お前はよく王になどなれたな」
「今はそんなこと関係ないやろ! 魔力をうまく使う才能はあったんや!!」
「そんなものは、悪魔憑きには何の意味もないがな」

 相変わらずの減らず口だ……悪魔はみんなこんな性格なんだろうか? もし違うなら、ほかのやつに変えてほしい。

「ふん、器を変えてくれるというのなら俺も本望だ。日本の平和を守るのに、これほど不適切な体はないからな」

 いくらなんでも、警察官を天職としすぎている。悪魔とは一体なんなんだろうと思ってしまうことはしょうがないことだろう。
 それはともかく、じっとしていても何も始まらない。
 そう思い、俺はゆっくりと女性を観察しては近づいていく。
 それを何度も繰り返すうちに、昔のことを思い出した。
 昔はよかった……なんてことはない。何度も何度も繰り返した隠密行動は、体に染みついてはいるもの、俺にとっては忘れたい記憶を一番呼び覚ます。暗殺……密告……裏切り、いくつもの死線を潜り抜けてきて得られたものなどほとんどない。
 天国などないあの時代、俺は一体どうするべきだったのだろうか、仲間を裏切らなければよかった? いや、そうすればその仲間に裏切られていた。友の後を追わなければよかった? だったら今の行動だって無意味だ。好きな人を殺した友を殺せばよかった? いいや、今俺がしていることは、友にとってとても残酷なことだ。

「俺があいつを殺すべきなんか……?」

 いつにもなく心が痛い。いつだって殺せるはずだった彼女を殺さなかったのは、俺が殺したなかったからだ。しかし、いざ親友と天秤にかけるとそれはいつにもなく重い。自分の思いに気がついていなかった俺をあざけるように、天秤はゆらりゆらりと静かに揺れる。
 どっちつかずな俺がとった行動は、今現在に至るまで俺を締め付け続けた。
 あの時、こうしていれば……なんていうのは、覚悟のないやつの思いだ。俺の心はそんなに軽くは出来ていない。

「答えは決まっているのだろう? 警察としては見過ごすことは出来ない……だが、警察にだからこそ見過ごすことができないこともある。よかったな……俺の器で!」
「そらそうや!」

 空を切り、夜を裂く。
 俺が握りしめる大剣は、現在においてもう一人の俺の相棒であり、昔の俺の化身だ。
 せっかく彼女から隠れて行動していたのも無駄に終わった。だが、今の一瞬なら彼女を殺せるかもしれない。コンマ一秒の油断が、俺に勝利をもたらすかもしれない。ほとんど無謀だが、それでも、未来は変わるかもしれない。
 たった一振りで何かを変える。俺が振りたかったのはそんな剣だった。

「あれ、堺君じゃない……」

 結局、俺の剣では何も変えられない。彼女にはまるで届かない。気持ちすらも。
 彼女は細身の剣一本で、俺の大剣を抑え込む。一歩たりとも動くこともなく、何の衝撃も受けることもなく、何も変えることもなくただ純粋に力で抑えた。

「やっぱり化けもんやな」
「はあ、久しぶりに会った幼馴染にたいそうな物言いだね」
「三十路にもなると、幼馴染なんて何の意味もないやろ……」

 話している間にも剣先に力をこめているが、彼女は微動だにしない。だからとって、彼女から魔法を使った痕跡すら見られないのは、結構堪えるってもんだ。――魔法の最高峰は、剣でも最高峰てか……冗談じゃないぞ。

「まあね……それでも、うれしいよ。ようやく私を切ってくれる気になったことはね」

 そう言った彼女の顔はまるで嬉しそうではない。
 俺だって、こんな状況で幼馴染との再会なんて祝おうもとも思えないし、笑えそうにもない。
 追い詰められてようやく動き始めた俺に彼女は首をかしげて言う。

「もっと早ければすべてうまくいったのにね」
「俺はいつまでたってもお前達に勝てる気がせん。なんでイグニスとムト……いや、ソルとルナは他人のために簡単に死ぬことが出来るんや!」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...