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3.4 本当の敵
行方不明
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長い時間夢を見ていた気がする。
あれはそう、昔の夢だ。幼馴染三人で魔法の勉強をしていた。とても仲良く、誰かに教えを乞うていた気がする。
だけど、それが誰かは思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなった。
「イグニスさん、どうしました?」
ニヒルが不安そうに僕を見つめている。
「いや、なんでもないよ」
彼女は僕よりもしっかりとしているので忘れてしまいがちだが、僕よりも年下だ。あまり余計な心配をかけるわけにはいかない。
特にただの夢なわけだし、特に相談する内容でもない。
「じゃあ、ご飯しっかり食べてくださいね!」
ニヒルが作る料理はいつも魅力的だ。
手作りの焼き立てパンに、スクランブルエッグ、新鮮なサラダと栄養バランスもばっちりだし、何より味がいい。
この世界に来てから、いろんな店で食べてきたが、やはりニヒルの手料理にはかなわない。
「ありがとう」
最近いいこともあまりなかったし、彼女の気遣いはとても助かる。
僕は彼女に感謝しつつ、朝食に舌鼓を打った。
ご飯を食べ終わると、今日も修行の予定だ。
ムトの修業は、僕の中で嫌なことの一つでもあるが、せっかく修行をつけてくれているんだ。もっと努力して強くならなくちゃ。
「――え!? ムトが行方不明?」
会社で長い間待たされて、ようやく耳に入った情報は吉報ではない。
いくらこの街が危険な街だとは言え、昨日会ったばかりの人が消えてしまうなど、そうそうないことだろう。
向こうの世界でもまれにしかなかった。
「はい、家にも行ってみたんですが、カギは開けっ放しで荷物もそのままで、出かけたような痕跡はあるんですが、昨日から家にも帰っていないみたいです」
ニヒルは心配そうにしている。
確かに、いかにもっていう状況ではあるが、それだけで行方不明になったと決めつけるのは早計ではないだろうか……。
たまたま家に帰らなかったってことはあり得るのだから。
「それで、どうして行方不明だと?」
遠回しに聞くのはあまり得意ではない。僕は出来るだけ直接的に尋ねた。
「これです」
そう言ってニヒルは僕に一冊のノートを手渡した。
ノートの表紙には『DIARY』と記載されている。いわゆる日記というやつじゃなかろうか、さすがに勝手にみるのは憚られるが、見てみないことにはわからない状況もあるだろう。
僕は彼女の手から、日記を受け取ると中を数ページほどパラパラめくった。
見るからに普通の日記だが、どこを見ろというのだろう。
「最後のページです」
ニヒルに言われるがまま、僕は日記の一番最後をめくる。
『誰かにつけられているようだ。それもかなり前から……私がここまで気が付かなかったことを考えるとかなりの手練れだろう。そして、今日気が付いたということは、つけている相手がつける必要がなくなったということに違いない。明日もし家に戻らなければ、私の身が危険だということをここに記す』
殴り書きのような汚い文字でこう書き込まれていた。
「ストーカーに付け回されていたと? だけど、ムトに勝てるようなストーカーなんていないだろうに」
僕の疑問に大して、ニヒルは申告そうに黙り込んだ。
なにかを考え込むように、それでいていとも簡単に言い放つ。
「だから問題なんです。なぜなら――」
「――ただのストーカーじゃないから!」
彼女が言い切るよりも前に僕は合点がいった。
ストーカーが一般人なら何の問題もない。だが、相当な手練れだというのなら重大な問題になる。特にムトをどうにかできるような人間だというなら、この会社にはそいつを捕まえられる人間なんていない。
最強を負かすことが出来る相手というのは、現実世界において最悪な相手までとは言わないが、条件を公平にした場会い分が悪い。
「だから、イグニスさんでもどうすることは出来ませんし、警察にもどうすることもできないでしょう。いいえ、警察に通報すること自体問題でしょう」
「犠牲者が増えるだけだからね」
だけど、このまま放置するわけにもいかない。犯罪を無視するわけにはいかないし、何よりムトは知り合いだ。ほっておくなんてもってのほかだ。
「あとは、どうするかですね……」
「とにかく手掛かりを見つけるしか……いや、一応ないこともないか」
僕は自分の中に眠る悪魔のことを思い出した。
彼なら、ムトを見つける方法を知っているかもしれない。かけにはなるが、別に失うものは何もないかけだ。乗る以外ないだろう。
「ちょっと待て、俺にただで働けというのか?」
僕たちの話を聞いていたようで、アモンが僕に問いかけた。
「体の中に住ませてやってるんだ。ちょっとぐらい返してくれてもいいだろう?」
「さんざんかえしてやっただろう? まだ返してほしいなんて、少し傲慢が過ぎるんじゃないか?」
確かに、ドラ○もんのごとく頼りすぎているが、別にいいじゃないか、減るもんじゃあるまいし。
「おいおい、悪魔を身近に感じすぎているんじゃないか? 俺たちはそんな親友みたいな仲じゃないだろう」
「似たようなものだと思うけどね」
長い間、同じ体で過ごしたんだ。ちょっとぐらいお互いのことを信頼しているのは事実だろう。
少なくとも、僕は彼のことを信頼している。
あれはそう、昔の夢だ。幼馴染三人で魔法の勉強をしていた。とても仲良く、誰かに教えを乞うていた気がする。
だけど、それが誰かは思い出せない。思い出そうとすると頭が痛くなった。
「イグニスさん、どうしました?」
ニヒルが不安そうに僕を見つめている。
「いや、なんでもないよ」
彼女は僕よりもしっかりとしているので忘れてしまいがちだが、僕よりも年下だ。あまり余計な心配をかけるわけにはいかない。
特にただの夢なわけだし、特に相談する内容でもない。
「じゃあ、ご飯しっかり食べてくださいね!」
ニヒルが作る料理はいつも魅力的だ。
手作りの焼き立てパンに、スクランブルエッグ、新鮮なサラダと栄養バランスもばっちりだし、何より味がいい。
この世界に来てから、いろんな店で食べてきたが、やはりニヒルの手料理にはかなわない。
「ありがとう」
最近いいこともあまりなかったし、彼女の気遣いはとても助かる。
僕は彼女に感謝しつつ、朝食に舌鼓を打った。
ご飯を食べ終わると、今日も修行の予定だ。
ムトの修業は、僕の中で嫌なことの一つでもあるが、せっかく修行をつけてくれているんだ。もっと努力して強くならなくちゃ。
「――え!? ムトが行方不明?」
会社で長い間待たされて、ようやく耳に入った情報は吉報ではない。
いくらこの街が危険な街だとは言え、昨日会ったばかりの人が消えてしまうなど、そうそうないことだろう。
向こうの世界でもまれにしかなかった。
「はい、家にも行ってみたんですが、カギは開けっ放しで荷物もそのままで、出かけたような痕跡はあるんですが、昨日から家にも帰っていないみたいです」
ニヒルは心配そうにしている。
確かに、いかにもっていう状況ではあるが、それだけで行方不明になったと決めつけるのは早計ではないだろうか……。
たまたま家に帰らなかったってことはあり得るのだから。
「それで、どうして行方不明だと?」
遠回しに聞くのはあまり得意ではない。僕は出来るだけ直接的に尋ねた。
「これです」
そう言ってニヒルは僕に一冊のノートを手渡した。
ノートの表紙には『DIARY』と記載されている。いわゆる日記というやつじゃなかろうか、さすがに勝手にみるのは憚られるが、見てみないことにはわからない状況もあるだろう。
僕は彼女の手から、日記を受け取ると中を数ページほどパラパラめくった。
見るからに普通の日記だが、どこを見ろというのだろう。
「最後のページです」
ニヒルに言われるがまま、僕は日記の一番最後をめくる。
『誰かにつけられているようだ。それもかなり前から……私がここまで気が付かなかったことを考えるとかなりの手練れだろう。そして、今日気が付いたということは、つけている相手がつける必要がなくなったということに違いない。明日もし家に戻らなければ、私の身が危険だということをここに記す』
殴り書きのような汚い文字でこう書き込まれていた。
「ストーカーに付け回されていたと? だけど、ムトに勝てるようなストーカーなんていないだろうに」
僕の疑問に大して、ニヒルは申告そうに黙り込んだ。
なにかを考え込むように、それでいていとも簡単に言い放つ。
「だから問題なんです。なぜなら――」
「――ただのストーカーじゃないから!」
彼女が言い切るよりも前に僕は合点がいった。
ストーカーが一般人なら何の問題もない。だが、相当な手練れだというのなら重大な問題になる。特にムトをどうにかできるような人間だというなら、この会社にはそいつを捕まえられる人間なんていない。
最強を負かすことが出来る相手というのは、現実世界において最悪な相手までとは言わないが、条件を公平にした場会い分が悪い。
「だから、イグニスさんでもどうすることは出来ませんし、警察にもどうすることもできないでしょう。いいえ、警察に通報すること自体問題でしょう」
「犠牲者が増えるだけだからね」
だけど、このまま放置するわけにもいかない。犯罪を無視するわけにはいかないし、何よりムトは知り合いだ。ほっておくなんてもってのほかだ。
「あとは、どうするかですね……」
「とにかく手掛かりを見つけるしか……いや、一応ないこともないか」
僕は自分の中に眠る悪魔のことを思い出した。
彼なら、ムトを見つける方法を知っているかもしれない。かけにはなるが、別に失うものは何もないかけだ。乗る以外ないだろう。
「ちょっと待て、俺にただで働けというのか?」
僕たちの話を聞いていたようで、アモンが僕に問いかけた。
「体の中に住ませてやってるんだ。ちょっとぐらい返してくれてもいいだろう?」
「さんざんかえしてやっただろう? まだ返してほしいなんて、少し傲慢が過ぎるんじゃないか?」
確かに、ドラ○もんのごとく頼りすぎているが、別にいいじゃないか、減るもんじゃあるまいし。
「おいおい、悪魔を身近に感じすぎているんじゃないか? 俺たちはそんな親友みたいな仲じゃないだろう」
「似たようなものだと思うけどね」
長い間、同じ体で過ごしたんだ。ちょっとぐらいお互いのことを信頼しているのは事実だろう。
少なくとも、僕は彼のことを信頼している。
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